軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

847 パリピ先生

こうして燻製に大ハマりしている最中も時間は進み、春の陽気もうららかとなっていった。

春は何より出会いの季節。

ウチで運営されている農場学校にも変化が訪れる。

新入生の入学だ。

我が農場では、前途ある若者を受け入れて様々に指導していくという試みが何年か前から実施されている。

『農場なんかで学べることがあるの?』などと思うなかれ。ここ異世界農場では外では学べないようなぶっ飛んだ知恵知識も習得可能なので各国の責任者さんたちがこぞって有能な若手を送り込みたがるのだ。

そうした事情の挙句の果てに学校として正式に運営されることになり、毎年新たな生徒を迎えることとなった。

昨年に入っていた生徒たちは二年生に。

そして新入生は一学年として学んでいくこととなる。

いずれはこの学校から巣立っていった生徒たちが優秀な人材となって世界各国を支えていくことだろうと……。

学校を主導する先生もウキウキだ。

『また楽しい一年になりそうですのう!』

ノーライフキングとして無限の生を享受しつつ、それを他者を教え導くために使おうとする先生。

そんな先生の生き甲斐が形となったのが農場学校と言うべきだ。

この農場学校もなかば先生の趣味という意味合いが何割かを占めていたり……。

今年も先生は、アンデッドながらも生き生きと生徒たちとの触れ合いを送るのだろうか。

そう思ったんだが……。

* * *

『……もうダメかもしれませんのう』

先生がそんなことを言ってきた。

黄昏気味の様子で。

「一体どうしたんです!?」

あんなに教育意欲に満ち溢れていた先生が!?

唐突に燃え尽き症候群みたいな感じになってしまって!

何か嫌なことでもありましたか!?

『自分がもう老人だと思い知りましてのう……! 若者は、もうワシの理解の遥か先を進んでいて、老いさらばえたワシの知識などもはや不要なのかもしれませぬ……!』

先生がすっかり後ろ向きに!?

一体何が起こったんだ!? 地上最恐ノーライフキングすら心折らせる出来事が、新入生との間に起こったと?

『新しい子たちと……ワシとではもう話が通じません……!』

「な、なんだってーッ!?」

『ノーライフキングとして万の魔術に通じ……神霊と会話することすらできるワシですが、今時の若者とはサッパリ話が通じぬ……! そんな体たらくで教師という大役が務まるわけもない……!』

若者と老人との間にありがちなジェネレーションギャップ……!?

『今どきの若者は……』とか言ったり『老害乙www』とか言ったり、とにかく世代の違いをやり玉に挙げて対立を深めてしまう現象が、この農場でも起こってしまったのか!?

しかしながら先生はとにかくおおらかな性格で、若者のイキッた態度にも寛容。

実際、農場学校の前身であった留学生を受け入れた際は、その手のトラブルは何も起きなかったではないか。

そんな先生がこんなに打ちのめされてしまうなんて……!?

今年の学生は一体どんな曲者なんだ!?

* * *

「農場パネェ! マジパネェ!」

「あげぽよって感じー? マジ神ー?」

「ぴえんが丘どすこいの助―」

「チョベリグ!!」

……。

何を言っているのかな?

すまん俺にもわけがわからん。

若者言葉、俺から見ても超越していた。

これが今年の新入生……!

先生ですら意思疎通を試みて心挫けてしまうレベルの難解さ……というか摩訶不思議さ。

「っていうかこんなあげぽよなスペースあんならマジ教えろし! マジ絶頂穴場おけまる水産しぃー!」

「あの……ちょっと?」

意を決して話しかけようとしたが最後まで決意が続かなかった。

萎えぽよ。

世代の断絶を感じる。

俺もまた時の移り変わりに取り残された旧世代ということなのか!?

『あれが最新の魔族たちが生み出した呪文ですかのう……。このワシがまったく理解できないとは……いや、不死王であればすべての魔術に通ずるなど傲慢でしかありませぬか』

そんなことなきにしもあらずんば虎児を得ず。

いやわけわからん。

そもそもあの和子者どもが話していることは呪文の類ではなくただの若者言葉。

俺の知ってるヤツだとチョベリバとかチョベリグとか。

しかし、若者の最先端は常に更新されていて今では『チョベリバ』とか言うだけで失笑扱い!

スマホ全盛の時代にポケベル使い回すようなもの!

『若者の流行についていけないようでは、彼らに教える役目も務まりませんかのう。所詮ワシも、時の流れについていけない古道具と言ったところですか』

「いやいやいやいやいやいや……ッ!!」

そういう風に思うだけ大したものですよ!

世の中には時代の変化を理解できず『最近の若い者は』とか言って老害になってしまう人もいるんですから!

しかし先生は冷静に自己分析し、時の流れに取り残されてしまった自分を嘆いている。

まあ、少々悲観的なのは問題だが。

「大丈夫ですよ先生! 若者言葉が喋れないなら喋れるようになればいいんです! 練習して!!」

『練習ですか?』

不肖この俺がお付き合いいたしましょう!

俺にも若者であった時期がある!

その頃を思い出してナウなヤングにバカウケの言葉遣いを研究していこうじゃありませんか!

「俺にシマに仁義も切らずに踏み込んできたヤツ、一目でカタギじゃねえとわかるスジモンでしたんでナシつけてエンコの一つでケジメにしたろういう話ですわバカヤロウコノヤロウ」

……。

なんか違うな?

いかん俺に若者言葉を操るのはやっぱり無理なようだ。

今は俺も二児のパパだからない。

いつまでも子どものままではいられない。

「旦那様も先生も! 何を情けないことを言っているのかしら!?」

「うおッ? プラティ?」

そこに現れしはウチの奥さん。

プラティは我が子たちを引き連れながら堂々たる覇気でもって言う。

「そもそも学校でそんな浮ついた言葉遣いをすることこそがおかしいのよ! 学校とは知識を得るための場所だけでなく礼儀作法を身に着け、社会に出ても恥ずかしくない立派な大人になるための場所でもあるのよ!!」

おお。

プラティがまともなことを言っている怖い。

「なればこそ修学中は、言葉遣いまで厳しい指導を入れて、乱れた言葉は一切使わぬように躾けるべきだわ!! 品行方正、温厚篤実、慇懃無礼! 農場学校を卒業した生徒は能力だけでなく人柄も最高でなければならないとアタシは思うのよ!!」

「よくぞ申されましたプラティ様」

「ひぇッ!?」

いつの間にやらプラティの背後に忍び寄る影。

それは人魚教師のカープさん。

ゴブ吉との新婚でネジが外れたかと思ったが、時折正気に戻ってくれる。

「プラティ様……ようやくその事実にお気づきになられたのですね? アナタのマーメイドウィッチアカデミア入学時、我々も同じように思い姫様に礼儀作法を……と授業いたしましたのが通じず、中退までされてしまったのをどんなに残念だったか。しかし礼儀作法の重要さを御理解された今からでも遅くありません。早速プラティ様も履修を!!」

「嫌ぁああああああッッ!? 大人になってまで学ばせられるのは嫌ぁああああああッッ!?」

結局教育って、いつか必ず自分に跳ね返ってくるものなんだなあと逃げ去るプラティを見て思った。

先生の悩みには何の進展ももたらさなかったが。

このまま手をこまねき、先生と生徒たちのジェネレーションの隔たりを埋めることはできないのか?

と思って幾日か過ぎた頃……。

* * *

「あ、先生、おはぽよ~」

『うむ、おはぽよドキュンの助じゃのう。皆今日もアゲアゲで勉学にズキュンドキュン走り出そうではないか』

「オケ丸水産~」

『さて本日から、とりま魔術魔法の実践授業へと入るぞ。情報コミコミできゃぱいことになるかもしれん。ぽやぽやしておるとぴえんぱおんになってしまうゆえに一際頑張らねばならんぞ』

「マ?」

『マじゃのう』

いつの間にかしっかりパリピ言葉をマスターしていた。

結局のところ生徒ウケもいいし、本年も先生は皆から慕われる教師としてガンガン指導していくことだろうな。