作品タイトル不明
840 梅進化計画
さて、厄介なことになってきたぞい。
天神・菅原道真公よりオーダーいただいた梅の木、世界樹化計画。
過去に桜の木が世界樹化したことがあり、それに対抗意識を燃やした学問神が贔屓の梅の木も負けちゃいかんとこっちに無茶振りしてきた。
しかし簡単に言ってくれるが、神様のオーダーは中々に難しい。
どのように難しいかというと、それを詳細に説明するため今回対抗馬となっている世界桜樹について語っていく。
そもそも世界桜樹が作られた発端はウチの妻プラティが『世界樹の葉が欲しい』とおねだりしたところから始まる。
意外とおねだりなんかしないウチの妻だから、たまに頼られたら夫の甲斐性を炸裂させたくなるわけですよ。
ということで世界樹の葉を安定ゲットするためには葉を茂らせる枝がいる、枝をはやすには幹がいる。
ということで世界樹を丸ごと生やそうとしたものの、エルフが抑えている世界樹本体を入手するには正攻法ではいかない。
そこで裏技を思いついた。
接ぎ木だ。
本体でなくても枝の木っ端は何かに紛れて入手できるので、それを他種の木に接いで育成させようと考えてみた。
農場にある様々な木で試した結果、唯一芳しい結果を示したのが桜の木であった。
桜の木に接がれた世界樹の枝は、段々と桜と融合していきついには桜の華やかさと世界樹の巨大さを併せ持った世界桜樹が生まれた。
以上、説明終わり。
こういう経緯で世界桜樹が生まれたわけだが、その段階で世界樹の枝に接がれる幹は一通りの試してみた。
もちろん梅の木も。
そして結果はダメだった。桜以外が世界樹の枝を受け入れることはけっしてなかったのだから。
そういう結果が出ている以上、梅の木と世界樹の融合は極めて難しいと言わざるを得ない。
可能性云々以前に、既に結論が出ているんだから。
それを覆すにはどうしたらいいか?
専門家と相談する必要があるか……。
* * *
専門家とは誰か?
そもそも何の専門家か?
もちろん梅の専門家だ。
ソイツは梅の木の樹霊……。
『聖者様のご用命とあれば惜しみませんバイ』
ウチの果樹園には、樹木に憑りつく特別な精霊……樹霊が住み着いている。
梅の木に憑りつく樹霊の名はオノコ・ウメ。
梅の実に目鼻がついたような外見で、空中にプカプカ浮きながら俺と対している。
『しかし難しい注文ですバイ。以前試した時はウメェくいかなかったですバイから、次も都合よく世界樹と融合できるとは思えませんバイ』
「そうだよなあ……」
やってみなければわからない! と威勢よく言えたらいいんだが、もう既にやってるんだよなあ。
そしてダメだった。
ここまで夢も希望もない状況もあるまい。
「しかし依頼主は相当な期待をかけておられる。梅がすべての樹花の頂点に立たなくては気が済まないようだ」
『そこまで気にかけていただいて光栄ですバイ! ならば何としてでも期待に応え、世界的な梅の木になってみせますバイ!! それがオノコの意地!!』
オノコ・ウメは名前の通り、とても男らしい。
「よし! ならばもう一回接ぎ木を試してみよう! 世界樹の枝の接ぎ木を!」
『うめぇ考えですバイ! 一回失敗したからってまた失敗とは限らんバイ!!』
俺もオノコ・ウメもテンション爆上がり。
その勢いのまま突き進めば目的も果たせるかと思いきや……。
「無理だった……!?」
『そんなうめぇ話はないバイ……!?』
当たって砕けろは大抵砕ける。
結局接ぎ木した世界樹の枝は定着せず、我々の目論見は失敗に終わった。
『うわああああああん! お兄ちゃぁあああんッ!!』
えッ? 誰?
突然の泣き声に驚くと、そこにはもう一体の梅の樹霊が!?
樹霊って一つの木の種類に一体ずつじゃなかったのか?
『ウメちゃん!』
「ウメちゃんとな!?」
『私の妹ですバイ!』
梅の樹霊の兄妹!?
樹霊に性別があるのかしらんが、オノコ・ウメは名前の通りにお兄ちゃんでいいはず!?
『お兄ちゃんは一生懸命やってるのにぃいいいいッ! 凄く頑張ってたのよ! それなのにねぇ世界樹が邪魔してぇえええええッッ!!』
『泣くなバイ、ウメちゃん! お兄ちゃんはまだまだ頑張れる! お前が応援してくれるなら私は世界樹よりも偉大で巨大な梅の木になってみせるバイ!!』
妹を慰めることに全力を注ぐオノコ・ウメ。
その姿に深い兄妹愛を感じる。
『その意気やよし!!』
「あッ!? 先生!?」
さらに乱入する登場人物。
ノーライフキングの先生だ。
『樹霊にも肉親愛は存在する! いわば果肉親愛! フルーツだけに!』
上手いこと言ったつもりですか先生!?
『その思いに心打たれたワシも協力しようではありませんかッ! 何も世界樹級の神木霊木を作り出すのに、世界樹に頼るだけが唯一無二の手段ではありますまい!』
「なんとッ!?」
『我が召喚術にて、世界樹に勝るとも劣らぬ神樹を召喚してみせようではありませんか! 驚き桃の木山椒の木!』
先生が呪文を唱えると一転俄かに掻き曇り、渦巻く暗雲から稲妻が流れ落ちる。
ピシャン! と。
青白い稲光と共に雷鳴轟く。
落雷がしたその場所に注目すると、地面に突き刺さるように立った一本の小枝が……?
「これが、もしや……!?」
『世界樹に匹敵する神木よ、来たれ……と念じて召喚したものです。いかなるモノかはわかりませんが、きっと役立つことでしょう!』
なんだかよくわからないってのが一番怖いんですけど。
しかし先生のご厚意だ。無下にするわけにもいかない、きっと小枝は、麗しい兄妹愛を持った梅の樹霊の助けとなってくれるだろう。
「というわけで行くぞ!」
『ドンと来いバイ!!』
早速召喚した小枝を梅の樹霊オノコ・ウメに接ぎ木!
するとどうだろう、まるでパズルが正しくハマるかのように二つはすんなり融合するではないかッ!!
そして境界などないかのように混然一体となり、一本の樹木となって生長する!
「これは……成功だ! 少なくとも融合は……!」
『あとはこの完成した融合梅の木が、世界樹級の神聖さや強大さを持っているかどうか……!?』
俺と先生、二人でもって固唾を飲み、進化せし梅の木を見守る。
その樹に宿ったオノコ・ウメは何と言うのか。
『……聖者様、先生……ありがとうですバイ。お二人のお陰で私は、さらなる段階に至ることができましたバイ!』
「おおッ!? やったのか!?」
『この維管束を駆け巡る聖なる気……! 確信をもって言えますバイ! 今の私は、世界樹にも匹敵する聖なる樹木として完成しましたバイ!!』
「ホントかぁーッ!!」
まさかマジで思い通りに事が運ぶとは!?
一体オノコ・ウメは、どんな伝説の樹木との融合を果たしたのだろうか!?
先生はもう、色んな異界から分別なく召喚しまくるので、何が来るか想像も及ばない!
『そう……、今より進化した私のことをこう呼んでほしいバイ……「知恵の梅の木」……と!』
――『知恵の梅の木』!?
『おお! 学問を司る道真公がいかにも喜びそうな名前ではないか!? よい進化を果たしたようじゃの!!』
と先生も我がことのように大喜び。
一旦は不可能かと思われた梅の木の進化が果たされ大団円かに見える。
ただ俺は……オノコ・ウメから告げられた『知恵の梅の木』というネーミングに釈然としないものを感じた。
それって『知恵の木』+『梅の木』ってこと?
つまりは融合前の、梅に接ぎ木した正体不明の召喚小枝が『知恵の木』ってことなんだよな?
俺の記憶に該当する『知恵の木』っていえば……。
……例の楽園に生えてる、知恵の実を成らす木のことでは?
知恵の実がなるから『知恵の木』なんだよね?
するってーと、『知恵の梅の木』になる梅の実は……。
イコール知恵の実でもあるってこと!?
例の人類最初の夫婦が口にしたせいで楽園追放されるハメになったあの!