軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

794 対空完璧人妻

「くっくっく……! エルロンごとき倒したところでいい気にならないことね。ヤツは私たちの中で最弱にすぎないのだから」

悪役そのものなことを言い出すうちの奥さん。

傍で聞いている俺こそが顔から炎上しそう。

「次なる対戦相手こそいかなるアナタでも簡単には勝てないわよ。さあ魔族将軍! アナタの恐ろしさを教えてあげなさい!」

「次鋒、魔族将軍いきます!」

何やら不穏な響きの言葉を放ちながら、次なる対戦者がリングに上がった。

リングネームは魔族将軍。

その正体は、今や地上全土を治めろ魔国の王妃アスタレスさんだ。

なんというビップ的立場が出場しておるのか?

大ごとすぎて俺の脳の処理能力が追い付かない。

アスタレスさんは、かつては魔王四天王の一人として戦場を駆け巡った猛者。

現役を去り、国母の立場になってもまだその体つきは第一線で戦ってきた者としてのしなやかさを残している。

特に女子プロ特有の、体のラインにピッタリフィットしたレオタードのようなコスチュームを着ていると、なおさらプロポーションの豊かさが顕著だ。

そんな母親のハッスルした服装を見て……。

「母上……………………………………!?」

魔王子ゴティアくんが煤けた表情になっていた。

父親である魔王さんと一緒に観戦席に座っているのだが、母親の女子プロ装束はやはり見たくなかったか?

魔王さんも、せめて現場に連れてくるのにためらいを覚えればよかったものを。

思春期の子どもは難しいんだよ!

ゴティアくんはまだ思春期とも言えない年頃だが……!?

そんな母親のセクシャルな出で立ちを目の当たりにしてしまったゴティアくんに……。

「どんまい、どんまいー」

ウチのジュニアが励ましのエールを送っていた。

彼も状況的にはゴティアくんとまったく同じ立場なのにな。うちの子はいかなる状況にもどっしりかまえている。

それはともかく、リング上では第二試合のゴングが鳴った。

カァン!

さて、互いに覆面で隠され素顔はわからないので公に理解されることはないが……。

元人間国の王女vs現魔王妃。

……というとんでもない一戦。

こんな頂上決戦、勝敗がハッキリしたら何かが決まるんじゃないか!?

「しかし結果はわかりきっていますね」

俺の隣に座るホルコスフォンが言う。

「豆パワーを極めたレタスレートは今や農場屈指の強者。彼女のパワーに正面切って対抗できる者は、それこそ十指に余る程度しかいません」

ま、まあたしかにいうとおりではあるが……!?

なんでホルコスフォンがそんなに自慢げなの?

「それに比してアスタレス氏は、かつて農場に攻め込みながらオークゴブリン軍団に完全敗北し、囚われになったと聞きました。しかもその当時のオークボ氏やゴブ吉氏は完全変異化する前の進化途上の形態であったとか。それらの状況を企画してもアスタレス氏にレタスレートへの勝ち目があるとは思えません」

「それはどうかな?」

もう一方の隣の席から反論の声!?

アスタレスさんのよき夫、魔王さんが愛妻を擁護する!?

「不利な状況を戦略や指揮能力で覆すのがよい将だ。かつてアスタレスが四天王にまで登り詰めたのはそうした能力に優れていたからこそ。一つ失敗だけで相手を見極めたつもりでいることこそ敗戦への一本道であろうぞ?」

「かつてアスタレス氏が負けたのは、ただの偶然だったとでも?」

「そこまでは言わんが、当時まだ農場という存在の恐ろしさがまったく未知であった頃の話だ。まったく情報が揃っていない中で責任を問うのも酷というもの。しかし今は違う。レタスレート王女の強化はもはや農場関係者には有名だし、我が妃アスタレスも事前情報に応じた戦略を立てている」

「備えは万全とでも?」

「それは見ていればわかることだ」

バチバチバチッ! と火花が起こる。

何で場外でも火花散らしてんの? サポーターたちの熱も上がっておるでえ。

そしてリング上でも対決ムードが高まっていた。

本命、マスクを被ったレタスレートとアスタレスさんの睨み合いが緊張極限に達している。

レタスレートはミス・マメカラスとして。

アスタレスさんは魔族将軍として。

それぞれのプライドを賭けた戦いが今始まる!

ゴング、カァン!

「コイツも一瞬で捻り潰してやるわぁああああああッ!!」

すぐさま相手に向かって駆け寄る。

レタスレートは一気に勝負を決めに行くつもりだ。

「パターンはわかっている、組み合えばとにかく私が勝つ! 四十八の必豆技で全関節を裏向きにしたらぁーッ!!」

「喰らえ必殺、魔法衝撃波!」

「ぐらぬえッ!?」

なんと!?

アスタレスさんが両手を超高速で振る時、その速度から圧縮された空気が塊となって飛んでいった。

それは衝撃波!?

音速を超えた時に発生する姿なき空気の弾丸。それがレタスレートにヒットして彼女をのけぞらせた!?

「現役時代の私の得意技の一つだ! 魔力もこもっていてただの衝撃波より威力が高い! いかに筋力を高めようと完全な無効化は不可能だ!」

「ぐおおおお……!? 私を押し返すとはやるわね……!?」

少なくともアレのクリーンヒットを受けて勢いを殺せず二、三歩後退してしまうレタスレート。

かといって致命的なダメージを受けているかと言えばそんなこともなかった。

顔面に食らって鼻血すら出していない。

たとえて言うならドッジボールを顔面に食らったようなものだろうか。

あれでレタスレートを倒すにはそれこそ何千発と打ち込まなければならぬだろう。

「今のが切り札というなら勝負は決したわね……! この私の豆パワーに屈しなさい!」

そう言って再び突進するレタスレート。

そこへ……!

「魔法衝撃波!」

「ぐべえッ!?」

再び衝撃波を放って相手を押し戻す。

やはり大したダメージにはならなくても、体勢を崩す役割程度は果たせているらしい。

しかもアスタレスさんの放つ衝撃波は、威力が低い分小回りが利く。

「魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波! 魔法衝撃波!」

「ぐおおおおおおおッッ!?」

あれだけ連射されたら金づちで打たれるように押され、一向アスタレスさんに近づけない!

……まさか。

それが狙いか!?

「王女、お前の怪力は基本相手に触れなければまったく効果を発揮できない。だから接近さえ許さなければお前に勝機はないということだ。我が魔法衝撃波の高速連射で、お前は近づくこともできない。勝負あったな」

これはレタスレートの特性と弱点を見事に突いた、完璧な作戦だッ!?

アスタレスさんの魔法衝撃波ではレタスレートを一撃必殺はできないが、一発食らえば微々たる程でもダメージは発生するし、それを何発何十発と受け続ければダメージも蓄積する!

そのダメージ差で時間切れまで持ち込んで判定勝ちしようというのか!?

……プロレスって判定勝ちってあるの?

……まあいいか。

とにかくアスタレスさんの戦法は堅実かつ強力で、今のところレタスレートをもってしても付け入る隙がないということだ。

これはピンチだぞ、どうするレタスレート!?

「ふん、飛び道具とは卑怯なり……! でもどうすればいいかなんてすぐわかるわ!」

おお、不敵なレタスレート!

「飛び道具はね……! よければいいのよ!」

そして相手が衝撃波を放ってくるタイミングを合わせてジャンプ!?

飛び越えてきた!

相手の攻撃を回避しつつ急襲を加える攻防一体の動き!

これで一気に距離を詰め、形成逆転かと思いきや……!?

「サマーソルトキック!!」

「はうわあああああああーーーッ!?」

なんと今度はアスタレスさん、急ジャンプと共に回転蹴りを放ってきた!?

ジャンプからアスタレスさんの目前の飛び込もうとしていたレタスレート。それを回避もできずまともに食らって蹴り飛ばされる!?

そういえばアスタレスさんは前々からサマーソルトキックが得意技で、バティのお仕置きによく使っていた。

それは今、リングの上で煌めく。

「ぐおおぉーーッ!? この私を空中からとはいえ吹っ飛ばすとは!?」

「我が渾身のサマーソルトで沈まないどころかダメージらしいダメージもないとは……!? 人間国の王女は真なる怪物に進化したようだな!?……しかし……!」

遠距離からは飛び道具で釘づけにされ、ジャンプで飛び越えようとするとサマーソルトによる完全対空防御で吹っ飛ばされる。

この鉄壁の布陣にレスリングスタイルであるレタスレートは手も足も出ない!?