軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

768 グルテンフィアーズ

結婚披露宴、特別ドラゴン勝負の第一戦は、ヴィールの勝利に終わった。

「くッ、そんな!? このおれの計算がどこで崩れたんだ!?」

相手の竜が、データ主義天才系のやられ役みたいなことを言っていた。

「ラフプレーに走った者は敗北する。勝負のお約束なのだ」

ヴィールもよくわからんことを知ったかぶったように言う。

「お前は初心者の割にいい走りをした。勝負は最後の最後までもつれ込んだが、そのギリギリのところで力押しに頼るというドラゴンの本能を抑えきれなかったのだ。それだけが敗因なのだ」

「ドラゴンゆえの詰めの雑さ……。それゆえに勝利を逃したと?」

なんか熱血風になっておりますが、結婚披露宴の余興です。あくまで。

「そうか……!? 我々ドラゴンは力ある。それゆえに最後には力押しでなんとかなるという油断が常にあるということか……!? ギリギリの勝負になると必ず先に動いてしまう。辛抱強さが足りない……!?」

「そういうことなのだー。それは実力の伯仲した相手や、ドラゴンのパワーが通用しないルールに沿った勝負で決定的な敗因となりやすいのだ」

「それが我々ドラゴンのネックだと……!? ヴィール姉上はそれを教えるためにこの勝負を!?」

違うと思うけどなあ。

アイツはノリで思いついたそばからペラペラ喋っているようにしか思えない。

農場での生活で適当にそれっぽいことを言う技術も身についたヴィールである。

一体誰の真似をしたことやら?

俺か?

「我々ドラゴンも進化していかねばならないのだ。この勝負がお前の成長に繋がることを切に願うのだ」

「ヴィール姉上……!?」

「それはそれとして負けたんだから罰ゲームを受けてもらうのだ」

「はいッ!?」

罰ゲーム?

そんなルールあったっけ。

「敗者クロウリー・シーマには罰ゲームとしてコイツを飲み干してもらうのだー」

ドン。

という感じの重みでおかれる寸胴鍋。

本当にどこから出した?

その鍋の中に満たされた液体は……!?

「濃縮百パーセントのドラゴンエキス……すなわちゴンこつスープなのだ!! ニンゲン相手だと百倍に希釈して飲ませないとダメだから一向に減らねー!! しかし同族ドラゴンならそのままでイケるのだ!!」

ヴィールがラーメン作りに凝った時、究極のスープを作ろうと同族を鍋にぶち込みじっくりコトコト煮込んでとった出汁がアレ。

さすがにドラゴンから取ったスープなので人間には強烈すぎ、薄めずそのまま飲むと命に係わる劇物だった。

それを罰ゲームで飲まそうなんて、いいのか?

本当にそれでいいのか!?

「ぬううッ!? 負けたからには勝者に従うのが世の定め! ヴィール姉上が命じられるなら、このクロウリー・シーマ! 全力でその汁を飲み干させていただきますぞ!!」

そして相手側も蛮勇!?

寸胴鍋を抱え上げたと思ったら、そのまま煽った!?

待って? せめてドラゴン姿に戻ってから飲み干さないの!?

人間形態のままではあまりに体積が……!?

「ゴクッ! ゴクゴクゴクゴクゴク……! プハァー飲んだ!?」

あんまり問題なかった。

さすがは根源的にはドラゴンということか。

「よっしゃあああああッッ!? これで減らないスープを延々と使い続ける日々ともおさらばなのだーッ!?」

新商品の発表をしながらちゃっかり過去の負債も清算する!!

いつの間になんて世渡りの上手いヤツになったんだヴィール!?

「じゃあ次は第二試合ですわー」

と言い出したのはグリンツェルドラゴンのシードゥルさん。

ウチのヴィールやアードヘッグさんとつるむことの多い女子竜だ。

ちなみに彼女は十傑竜には入ってないの?

……ランク外?

ベスト50には入る?

…………そうすか。

「わたくしが提案する勝負は……。ドラゴンスープとり対決です!」

「くぁああああああッッ!! 十傑竜序列七位のティキラーが、負けるわけにはまいりませんわぁああああああッッ!!」

相手側の女子竜も、新たに用意された寸胴鍋にみずから飛び込んで、強火でに立つ。

大体ドラゴンは美男美女揃いなので、社交界の花級の美女二人が並んで鍋で煮られているのはひたすらに異様だった。

お子様には見せられないゴールデンタイムには映せない絵面なので、とりあえずプラティにはジュニアとノリトを遠ざけてもらった。

……で、これ。

互いを煮立ててどうなったら勝ちなの?

我慢比べしようにもドラゴンにとっちゃ百度なんてぬるま湯みたいなものだし。

出たスープで味比べしようというにも、人が口にするにはアレすぎる。

ということでただグダグダの結果になってしまった。

「出来たスープはまたヴィールお姉様に差し上げますわ」

「ぎゃああああああッッ!? せっかく使い切ったドラゴンエキスが二倍になって帰って来たのだぁあああああッッ!?」

今回はシードゥルさんのだけでなく、その対戦相手となった女性竜からとったドラゴンスープもありますからね。

再び在庫を抱える羽目になったヴィール。

その一方で、前の対戦者のドラゴンさんが、罰ゲームで何を飲まされたか実地で見せられたがために、すべてを悟って卒倒した。

次なる勝負はアレキサンダーさんが担当した。

相手のドラゴンはすぐさま逃げようとしたが最強竜からは逃げられない。

「安心せよ、実力勝負などと血も涙もないことは言わぬ。人間に生態に即した勝負をするのだろう? ならば私にも打ってつけの得意分野があるぞ!」

自分の得意分野を種目に入れようというガチさ。

「褒め勝負だ!」

「褒め勝負!?」

「この会場にいるニンゲンたちの美点を見つけ出し、褒める! それを繰り返してより多く褒めた方の勝ちだ! 単純明快だろう!?」

「じ、実力勝負なら五百万回やっても勝てないアレキサンダー兄上相手に僅かでも勝ち目があるならやるべきか……? よ、よかろう、この十傑竜序列六位のワイルドバギが相手になってやる!!」

そして始まる最強ドラゴンによる褒め殺し競争!

列席した人類サイドをも巻き込んで、披露宴に称賛の嵐が吹き荒れる。

「そこにいるのは当代魔族の王だな。そなたの治世は近代まれに見る立派なもの。公正だし思いやりがあって見事だぞ」

「人魚族の王は、アードヘッグと友人であったな。種の壁を越えて通じ合える器の大きさは大海の王に相応しいであろう」

「魔族の花嫁よ結婚おめでとう。そなたの作る服の素晴らしさは私の棲み処にまで届いているぞ。我が山の麓に支店を作ってほしいぐらいだ」

「坊や何歳だ? 三歳か。自分の年齢がちゃんと言えて偉いなあ」

さすがアレキサンダーさんは自慢するだけあって目が合った相手の長所美点を的確について、当たり障りなく褒める。

一方で、対戦者となった十傑ドラゴンは……。

「おいそこのニンゲンのオス! ……その、なんだ、見事にツルツルな頭だな!!」

「そっちのニンゲンのメスは……、無駄のない均整の取れたボディ! その平らな胸部は実に機能的だぞ!!」

片っ端から目につく相手を褒めちぎりながら盛大に顰蹙を買っていた。

やっぱり人を褒めるって難しいね。

そんな感じで当たり前のようにアレキサンダーさんの勝利が決まって、第三試合は終わった。

……これいつまで続くの?

さらに次の試合の担当になったプロトガイザードラゴンのテュポンが……。

「何でおれがそんなことしなきゃならんのだ?」

と言って没収試合になった。

さすが始祖の皇帝竜わがまま。

試合も終盤に入ってついに花嫁登場。

ブラッディマリーさんが花嫁衣裳のまま女王の威厳を醸し出す。

「この私と対戦することになった不幸な竜は誰かしら?」

着ている衣装は純白だというのに、発するオーラが暗黒すぎてよくわからなくなる。

対戦相手となった竜もその気迫に押されて震えるばかり。

「このグラウグリンツェルドラゴン改め正真正銘グィーンドラゴンとなったブラッディマリーの最初の獲物になるとは栄誉なことね。アナタにはこの私から真の恐怖を教えてあげるわ」

「あ、姉上……!? 今日は祝いの席なのですから手荒なことは最小限に……!?」

ちなみにアードヘッグさんは正式に結婚してなお奥さんのことを姉上と呼ぶ模様。

「大丈夫よ、場は弁えているわ。私が提案する勝負は……味噌スープ作り!」

味噌汁!?

「結婚した人間の女性は、毎朝夫のために味噌汁を作るのよ!」

個人の主張です。

「晴れてアードヘッグの妻となった私が、あらゆる知識技術を駆使して作り上げる味噌汁に敵うことができるかしら!? そして今日のお味噌汁は、農場から取り寄せた最高級のお麩を具材にして作る……!」

今日、麩の味噌汁。

たしかに恐怖だった。

ブラッディマリーさんは勝利した。