軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

764 最後の反抗者

『ドラゴンが結婚? どういうことだ?』

どこにでもあるどこでもない場所。

そこは我らドラゴンの超絶魔法によって作り出された亜空間。

距離や移相を断絶したこの場所は、遠く離れた各居城に住むドラゴンが通信を行うにはもってこいの手段となる。

このおれ、十傑竜序列二位、グリンツドラゴンのシャルルアーツもこの緊急会合に参加していた。

私の他にも亜空間に集う数体の竜、いずれもかつての次期ガイザードラゴン後継争いで勝者になる可能性のあった有力候補たちだ。

『うむ……、不埒にもガイザードラゴンを僭称するアードヘッグなるもの。ブラッディマリー姉上を囲い妃にするなどという。これまでのドラゴンにはなかった専横よ……!』

そう、かつて行われた皇帝竜、後継者争い。

激戦も今は過ぎ去り、アードヘッグなるものが勝者として決着した。

それから数年の月日が過ぎ去ったが結果に納得していない者は根強くいる。

いや、誰も納得できるはずがないのだ。

皇帝竜の後継者争いは、当時の皇帝竜たる父上の定める下すべてのドラゴンが争い、最後の一体となるまで続けられるはずだった。

様々な試練を乗り越え、候補者同士での正々堂々たる決戦。

そうしたことの繰り返しの果てに、全ドラゴンの頂点に立つ皇帝が選ばれるはずであった。

しかし予定は大きく変わった。

一人の反逆者がすべてを上手くやりおおせたからだ。

その反逆者こそアードヘッグ。

父上の定めた後継者選出レースを無視し、直接父上を討ち取ることでガイザードラゴンの称号を手にしたヤツ。

そのような無道が許されていいのか?

我らドラゴンは地上最強の生物。

そのドラゴンが欲望のままみだりに争えば地上全土が焼き尽くされ地獄へと変わることであろう。

それを防ぐためにも厳正なルールに則って覇者を決めようとしていたのに、すべてをぶち壊しにするような欲深き者の専横よ。

父上を弑殺し、皇帝竜の位を簒奪したアードヘッグ。

無論すべての竜はこのルール破りに激怒し、集中攻撃によって粛清を与えるべきであった。

しかし様々な事情から見合され、均衡を維持したまま数年が過ぎ去る。

その平穏は簒奪者に驕りをもたらしたのであろうか?

均衡を崩したのはあちらの方から。簒奪者アードヘッグは今度は妃を娶るなどということをやりだした。

妃とされたのは実力名高いブラッディマリー姉上。

後継者争いが順当に進んでいたら、最有力候補となっていたグラウグリンツェルドラゴンだ。

『おいたわしやマリー姉上……! あのような無法者の囚われとなってしまうとは……!?』

竜亜空間に集った同胞竜たちからいたわりの声が上がった。

後継者争いの継続中も、その圧倒的な強さと気品あふれる振舞いから慕われることの多かったマリー姉上だ。

そのマリー姉上が、卑怯な簒奪者に無理強いされて、結婚などというものをするなど……!?

『そもそもケッコンとは一体何なのだ?』

『何知らぬのか? 無理もないドラゴンには縁遠い風習ゆえな』

『下等なニンゲンどもの風習よ。ヤツらは雄雌に分かれ、つがいとなることでしか後継者を創造できぬのだ。そのために行うのがケッコンだ』

『ほう、クロウリー・シーマは物知りなのだな?』

我ら同胞竜の中にも博識で、他種族の風習をよく知る者もいた。

しかし知ればますますわからなくなってくる。

我らドラゴンは皇帝竜にのみ使用できる竜魔法でみずからの複製を生産できる。

後継者の創造など、その魔法でいくらでも作り出せるというのに何故アードヘッグはそれをせず、ニンゲンどもの真似事などしているというのか?

『アードヘッグはニンゲンどもと同じ方法で新しい後継者を作製しようというのか?』

『それがまったくわからん。簒奪者の思考は理解不可能だ』

『そんな卑怯者に従っているマリーお姉様もわからないわ。あの御方の実力を持ってすれば、騙し討ちで成り上がったニセ皇帝竜など簡単に倒せるでしょうに。何故対抗しないの……!?』

亜空間に集う同胞竜たちは皆難しい表情となり黙り込む。

とにかく、我らがここで話し合っていてもアードヘッグの考えは何もわからなかった。

そもそも我々とはまったく違う考えを持った異質なドラゴンだ、アードヘッグとやらは。

ヤツを理解できる材料を何も持たないまま、ここで話し合ったとしても何の結論も出てこないだろう。

ここまで息をひそめ均衡を保ってきたが、そろそろ……いやもうずっと前に動き出すべきタイミングは来ていたのではなかろうか。

『我らが手をこまねいている間もアードヘッグは様々な変化を引き起こしてくる。ヤツはついに自分の新しい龍帝城を完成させたと聞くし、マリー姉上を妃としたのも、ヤツが皇帝竜であることを確固とするための方法なのかもしれん』

『そういえばニンゲンどもは後継者を作製するためだけでなく、自分の立場を強めるためにもケッコンするのだと聞いたことがある』

『クロウリー・シーマは物知りだなあ!!』

そうしたら時間を与えれば与えるほどアードヘッグの有利になるということではないか!

こうやってのんびり話し込んでいる場合ではない。今すぐにでも行動を開始して逆賊アードヘッグを討ち取る!

『しかし、そう簡単にいくのか? いつぞや先走ったグリンツドラゴンのマゴニーはあえなく返り討ちに遭った。マリー姉上に逆らったアギベントは、アードヘッグにより直々に処刑されたという』

我々が静観している間も個々に反抗し、そして叩き潰された竜が過去にもいたということだ。

彼らもまたルール破りによるアードヘッグの戴冠を快く思っていなかったのだろう。

そして行動を起こし、失敗した。

一見姑息に見えようと見事ガイザードラゴンの座を奪い取ったアードヘッグだ。

決して楽観できない相手ではあるのだろう。

『だからこそこうして皆で話し合っているのではないか。マゴニーやアギベンドは個々に行動したから敗れたのだ。ヤツらの失敗から学び、同志と結託してことを起こせば必ずやあの簒奪者を葬り去ることが出来よう』

『しかし、そう考えているのは向こうも同じなのでは? だからこそマリー姉上を妃にしたと考えられないか?』

『なるほど、ケッコンとは味方作りのことであったか……!?』

恐ろしく悪知恵の働くアードヘッグめ。

だとしたら時間が経てば経つほどヤツの有利、我らの不利となるのは明らか。

アードヘッグはきっと他にも自身を守り通すための手を次々打っているはずだから。

こうして手をこまねいている余裕など最初からなかったのだ。

『全員今すぐ動くぞ! あの簒奪者からガイザードラゴンの称号を奪い返すにはそれしかない!!』

『うむたしかに! 時間の経過はヤツを利することにしかならん!』

『アードヘッグに悪巧みする暇も与えず、我ら志同じくする竜たちの一致団結によって打ち砕く! それが最善! もっとも確実な手段!』

『時は今! 敵は龍帝城にあり!!』

竜亜空間にいるすべてのドラゴンが立ち上がり、開戦と叫んだ。

恐らくこれが最後の抵抗になる。

着々と地盤固めを進めるアードヘッグに、まとまった規模の対抗勢力を築き上げるのはこれが最大最後になるだろう。

アードヘッグの専横に不満を持つ実力派ドラゴンは他にもうおらず、それ以外の連中は弱小の木っ端竜で抵抗の意志も持てぬ。

ここで我らが対抗して敗れれば、アードヘッグの天下は揺るぎないものとなるであろう。

しかし我らは負けぬ!!

真に皇帝に相応しいドラゴンは、正当なる方法によって選出されねばならないのだ!!

そのことを我々が、あの簒奪者弑逆者に叩きつけてやろう。

『ほう、威勢がいいな我が子らは』

『!? 誰だッ!?』

我々しかいないはずの竜亜空間に響き渡る何者かの声。

一斉に視線が集まる先には、我らの小指程度の大きさしかない子竜が浮かんでいた。

『何だあのチビ竜は? どこから迷い込んできた?』

『随分な言い草だなシャルルアーツ。お前が誰より尊敬していた竜皇の気配を忘れたか?』

……!?

そう言えばこの気配の質は!?

随分小さく弱々しくなったが、このあまりにも気高い竜気は間違えようがない。

我らが父、偉大なるガイザードラゴンのアル・ゴール!?

『まさか生きておられたのですか!?』

『アードヘッグに敗れ力の大半を失ったがな。存在そのものは何とか保ったがガイザードラゴンとしても権能を失い、いまや何もできない竜の残骸のようなものだ』

それでも父上が生きながらえてくれたのは朗報です!

見ていてくだされ! 父上を陥れ、皇帝竜の栄座から蹴り落とした逆賊アードヘッグを見事討ち取ってご覧に入れましょう。

『その意気だぞシャルルアーツ。さすがはガイザードラゴン継承戦争でマリーに次ぐ第二位の勝者候補……かつ全ドラゴンの中でもっとも謹厳実直と謳われた竜だけはある』

『お褒めに預かり恐縮です!!』

『他の者たちもな。ここに集ったのはいずれも上位十名の中に入る強豪竜たち。お前たちが力を合わせればきっとアードヘッグも倒せよう』

おれ以外の評議に参加した竜たちも次々跪き、そして歓喜する。

我らが父帝が生存しただけでなく、僭帝アードヘッグの討伐に同意くださった。

これほど心強いことはない。

『なれば今すぐにでも軍勢を発し、アードヘッグに占拠された龍帝城への襲撃を……!』

『まあ待て。そうことを急くこともない』

父上は大仰に肩をすくめて……。

『「正義は我にあり」とお前たちも思っているのだろう? ならば振る舞いは堂々としていなくてはな。お前たちも知っての通りアードヘッグはブラッディマリーを皇妃に迎え入れ、結婚なる儀式を執り行う。それはもう盛大な宴になるとのことだ』

『は、はい……!? その報せを聞いたからこそ我々はこうして集まったのですが……!?』

『どうせならその宴に乗り込むというのはどうだ? 祝いの席であればアードヘッグの気も緩んでいることだろうし、ましてお前たちの理を鳴らすならば公の場である方がいい』

なるほど!

さすが父上、我ら若い竜にはない知恵が滾々と湧いてきますな!

わかりました! 我ら僭帝アードヘッグを討伐せし有志の竜!

ヤツの晴れの日に堂々と乗り込み、盛大な宴を弔いの儀式に変えてやりましょうぞ!!

『クククク……! やはり我が子どもは疑いを知らずにすんなり騙されてくれるな。見ているがいいアードヘッグよ。この父から格別の結婚祝いを贈ってやろう……!!』