軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

747 ドラゴン魔都襲来

その日、魔族たちは思い出した……。

ヤツらに支配されていた恐怖を……。

とか言ってる場合じゃねー。

私、バティは現在的上空を旋回中。

ドラゴンとなったブラッディマリー様に鷲掴みにされて。

まさかこんな派手な形での里帰りがあったなんて。

当然ながら魔都に住む人々は突然のドラゴン襲来に大騒ぎ。

人々は逃げまどい、騎士や魔導士などは大慌てで出動し、外敵を迎え撃つ準備を整えんとする。

……まあドラゴンが本気になったら魔族側がどんなに抵抗しようとも一瞬で焼き払われるんですけども。

なので平和を謳歌していたはずの魔族たちは今や世界の終わりとばかりに恐怖のどん底へ叩き落とされていた。

「滅びじゃあああ~!! 滅びが訪れたのじゃあ~ッ!!」

「せっかく戦争が終わったのに何でぇ!?」

「神よ! 我ら魔族にまだ試練が足りぬとおっしゃられるか!?」

「うわーんママー!」

と地獄絵図の様相を呈しております。

それもこれもマリー様が不用意にドラゴンの姿で飛来してきたから。

まさにアリの巣にオレンジジュースを注ぎ込むかのごとき暴挙!

もういい加減にしてください帰りたい!

『なにをビクついているの!? 今まさにここからが始まりじゃないの!』

終わりの始まりですか!?

ドラゴン姿のマリー様、心なしかウキウキしていませんか不謹慎な!?

『よし、まずは一番偉いヤツに会うのよ! さあ、国ごと吹き飛ばされたくなきゃ責任者を出しなさーい!』

メチャクチャ迷惑なクレーマー!?

『大丈夫よ、ちょっとした脅しよ。本気で吹き飛ばすつもりなんてまさかないわよ』

「脅しの時点で充分悪いんですが!?」

そんなマリー様の無理難題に素早く対応し、人波を割って進みれる偉丈夫がいた。

シッカリガッシリとした体格で、覇気漲る総身は只者ではないと一目でわかる。

というか魔族だったら誰でも一目でわかるあの御方。

魔王様。

出てきたのは正真正銘魔族の責任者。

私にとっては雲の上の人というべきその人へ、尊大に向き合うマリー様はまさにドラゴン。

「黒き竜よ。我こそが魔族の頂点、魔王ゼダンである。こたびの突然なる来訪いかなる用件か?」

人類が絶対に敵わない超越者にも恐れず媚びずに対峙する。

まさに全魔族が敬服する魔王ゼダン様!

向こう百年は語り継がれるべき人格者!

『アナタが魔族の親玉ね!? まあ小さな体の割に偉そうな気配じゃないの?』

こらぁああああッ!! ドラゴン!

偉大なる魔王様に何たる口の利き方かああああッッ!?

『まあいいわ! 私はアナタに命令をしに来ました! 下等種族たるニンゲンが、ドラゴンに逆らえるなどとは思わぬことね』

「両者の種族的な差はよくわかっている。人類はけっしてドラゴンには逆らえぬ。我が魔国の民を虐げぬことであれば、謹んで遂行させてもらおう」

『フフン、安心するがいいわ! 私とてガイザードラゴンの妃として暴虐なる振る舞いはしないわ!』

まだ全然正式な妃竜ではないですがね!

『改めて名乗るとするわ! 私は偉大なるガイザードラゴン、アードヘッグの妃! グィーンドラゴンたるブラッディマリーよ! 万象一切恐れおののくがいいわ!!』

「敬意を表する」

魔王様、強襲同然にやってきたマリー様にキッチリ礼を祓う大人!

『では改めて魔族の長、魔王に命ずるわ! この子の望みを叶えてたもりなさい!』

と言ってマリー様、ズズズイと握った私を押し出さないで!

現場に集まってきた人々の視線が一斉に集まってくる!?

「うぬ? お前はバティではないか?」

そして魔王様、私めごときを一目で識別しないでください!?

「我が妃の一人アスタレスの元副官であろう。当時は彼女をよく支えてくれたものだ。今なお感謝しているぞ」

いえいえ恐れ多い!?

「今は聖者様の下で服を作っているとか? 人気だという話を聞いておるぞ? 魔王軍から離れたあとも活躍しているのは実に喜ばしいことだ」

そんな風にお褒めの言葉をぉおおおおおおッ!?

そんなに名君ぶりをお見せいただけると、本日の自分らの暴虐ぶりが益々浮き彫りになっていたたまれない!?

私らこんななんですよ!? もっと煙たそうにしてください!

『この子と付き合っている相手との結婚を認めなさい! 魔王なら法律とか自由にできるんでしょう!!』

そしてマリー様!

かまわずマイペースで進めないで!!

『この子は貴族やら仕事やらの問題で結婚を思い悩んでいるのよ! 魔王が命令すれば聞かないわけにはいかないでしょう!? 魔王の権限でもって色々命じなさい!!』

「断る」

ええッ!? 魔王様!?

今までずっと鷹揚な物腰であられたのに、何故ここに来て断固拒否!?

『ちょっとどういうことよ!? 私の言うことなら何でも聞くって言ったばかりじゃないの!?』

「我が魔国の民を虐げることでなければ、と断りも入れたはず。結婚とは、男女双方の合意によって行われるもの。そこにいかなる強制も割り込んではいけない」

魔王様の強いご意志がドラゴンの脅しすらはね返す。

「バティとて、我が命令によって渋々相手が結婚したなど嫌なはずだ。互いを想い合う気持ちに一点の疑惑もあってはならない。ゆえにドラゴンに迫られようと我は、民の心を捻じ曲げるような命令は出さぬ」

「ぐぬぅ……!?」

魔王様渾身の正論にマリー様もたじろぐ。

反論も出てこない感じ。

「ほらぁ、だからもういいでしょう? お騒がせして申し訳ありませんして帰りましょうよぉ?」

ここで暴れたところで何の進展にもなりませんってぇ……!?

そこでなんとかことを丸く収めたい私へ……!

「バティ!」

ひぇええええッ!?

想い人のご本人が来ちゃった!?

四天王補佐のオルバ!?

こんな大騒ぎを起こして、ドラゴンの力で魔王様に脅しかけたなんて言われたら怒られて、縁を結ぶ前から離縁されるぅううううッッ!?

「ドラゴンに握られたキミの顔がわかったから急いで走ってきたのだ! 一体どういうことになっているんだ!? キミにもしものことがあってはと心配で胸が潰れそうになった!」

「そんな、アナタも四天王補佐として守る持ち場があったでしょうに……!?」

「そちらは心配ない。私が仕える四天王ベルフェガミリア様は、このような事態になっても『大したことはないからダイジョーブ』と言って怠けるばかり。一時ぐらい持ち場を離れても特に問題ないさ」

傍で聞いてた魔王様が『それはそれでどうなんだよ』と呟いていた。

さらにはまったく思い通りに進められないで戸惑っていたマリー様がここぞとばかりに……。

『そうだわ! こうなったら本人に直接ぶつかるしかないわ! そこのアナタ! 今すぐバティと結婚しなさい!』

「いいですとも」

ビックリするほどの即答に居合わせた全員が言葉を失った。

私も絶句した。

そんなに簡単に承諾してしまっていいの!?

「彼女が私との結婚に踏み切れない理由は私にもわかっていた。彼女は仕立て師の夢をずっと追いかけていたのだから。跡取り息子である私と結婚すれば、彼女は夢を捨てることにもなりかねない。そうならぬよう私も模索を続けてきたのだ」

まあ。

そんなこと全然知らなかったわ。

「彼女が当主夫人となっても仕事を続けられないか、母に相談してみたが『全然かまわない』と言われた。時代も変わってきた。貴族の妻を務めながら、意義ある職務に社会に貢献することもいいではないかと言われるように」

「人魔戦争が終結して、いくさに駆り出された男たちも領地私邸に戻ってきた。それまで夫人一人で切り盛りしてきたことも夫婦で協力できるようになったので、余裕が生まれたという」

魔王様まで一緒になって説明してくださる。

「何よりキミの仕立ての妙技は世界中の人々から求められている。私一人の都合で断ち切らせてしまっては、それこそ恨みで我が家は潰れよう」

オルバからの優しい言葉で、私は心が満たされていく気分になった。

「すべてを満足させるにはまだまだ多くの話し合いが必要だろうが……まずはバティ、私の妻になってほしい」

「喜んで……!?」

なんだかわからない間に結婚が決まった。

しかもこんなのに多くの人々の前で。ドラゴン騒ぎで集まってきた人たちだけれども。

「うむめでたい! やはり婚姻は相思相愛で結ばなければな!」

そんな魔王様の称賛の言葉に、一斉に拍手の大合唱が鳴った。

その中心が自分たちというのが何やら恥ずかしい。

それで、なんかあっという間に蚊帳の外におかれたブラッディマリー様だが……。

『これは……、私のお陰で大成功と言っていいのかしら? やったわ! だったら今度は私の応援の方をよろしく頼むわよ!』

『何がよろしくなのだ?』

背後から響き渡る冷え冷えした声にマリー様は震えた。

いつの間にやらもう一体のドラゴンが、マリー様の背後に降り立っていた。

『ああああ、アナタはヴィール? 何故こんなところに……!?』

『それはこっちのセリフなのだー。ご主人様に言われて駆けつけてみればどういう事態だコレはー?』

魔王様は、最強種ドラゴンを前に堂々としておられたけど……。

物怖じしないことには理由がある。

そう魔王様のお知り合いには、それこそ世界を束ねて率いることもできる聖者様がおられるのだから、迅速に連絡がつけば救援を送るのだって速い。

ヴィール様は、聖者様に直接仕えるドラゴン。

しかもその実力はマリー様を遥かに凌ぎ、実際に過去一方的にマリー様をブチ転がした実績がある。

『あああ、あのあのあの……!? ヴィールこれは違うのよ……!?』

『姉上……ちょっと頭冷やそうか……?』

その日、魔都の上空で世にも珍しい、ドラゴンをお仕置きするドラゴンの姿が目撃された。