軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72 不知足

こうして新たに加わった人材たちには大助かりだった。

特に助かったのがプラティだろう。

実際、発酵食品や薬剤の生産を一手に引き受けていて、どう見てもオーバーワークだったからな。

その上、彼女は俺の妻という立場から全員の面倒を見たり連携管理したりもやっていたので、スケジュールが殺人的。

俺が興味の赴くままに現場を飛び回るので、そのサポートはなおさら大変だろう。

もっと早く気付いて改善させてあげればよかった……!

人材が増えたことで、プラティは醸造蔵での仕事を新人さんたちに任せて、自分は俺のサポートに集中するようになった。

俺の秘書役みたいな感じかな。

俺のスケジュール、いつどこにいるかを正確に把握して、他の住人たちの意思を汲み上げ報告する。

そのおかげで人手が不足する部署がなくなり皆とても感謝しているらしい。

そしてメインのプラティが抜けた醸造蔵は、新たな主人を迎えることになった。

それがパッファだった。

たとえば、先生への土産を取りに俺が醸造蔵を訪ねると、いかにも不機嫌そうな顔で「あぁん?」と睨んでくる。

用件を伝えると、いかにもしぶしぶと言った表情で漬物桶からたくあんを数本取り出してくれる。

俺が指示した数以上を。

「頼み事しに行くんだろう? だったらケチケチするんじゃねえよ」

と叱られた。

「お姫様から聞いてるだろうけど、ガラ・ルファのヤツが試作品を完成させたんで味見してやってくれよ。それから明日漬け込み作業をやるんで外にいるランプアイを呼び戻してくれない? 人手が欲しいんだ。お姫様もたまには戻って来いって言っといてくれよ。一応アイツがまだここのトップなんだからさ」

テキパキ指示を言ってくる。

表向きいかにも不良だが、実際にはよく仕切る委員長タイプだった。

「あと……!」

モジモジしながらパッファ言う。

「アロワナ様は今度いつ来るんだよ……?」

そして可愛かった。

あと他の新人三人娘についても追記しておこう。

人魚国の近衛兵だった『獄炎の魔女』ランプアイは……。

「わたくしも狩りの仕事をさせてくれませんか?」

と先日言ってきた。

「醸造蔵での職務に不満はありませんが、わたくし、性格なのか定期的に体を動かさないと調子が崩れてしまい……! 畑仕事でもよいのですが、できれば戦いの勘も取り戻せる狩り仕事が望ましいかと……!」

そんな感を取り戻してどうするつもりですか?

と思ったが、できるだけ住民の希望には応えてあげたかったので、ダンジョンに向かうオークボたちに混ぜて送り出してやった。

けっこう大活躍だったそうだ。

近衛兵という前職から充分期待できた成果だが『獄炎の魔女』の異名通りに火炎系魔法薬の扱いはプラティを遥かに凌ぐ。

身も軽くモンスターの懐に入っては火炎魔法薬を投げつけ、一瞬にして焼き尽くす様にオークボたちは喝采を上げたという。

……ただし、彼女はそうして片っ端から焼き尽くしてしまうために、倒した獲物の利用価値が完全になくなってしまう。

どこをとっても利用できる部位のない完全害獣モンスターしか相手にできないんだってさ。

そして『疫病の魔女』ガラ・ルファだが、やっぱり彼女が一番凄まじい。

丸一日俺のことを捕まえて、細菌と発酵に関する知識を洗いざらい俺から引き出していきやがった。

「素晴らしいです! 細菌は素晴らしいです! ミルクがバターやチーズに変わる行程にまで関わっているとは思いもしませんでした!!」

どうやら乳製品の類はこの世界にもあるらしい。

俺も欲しいけど牛乳。

ただそれを出してくれる牛がいないんだよな。

先生、ヴィールのダンジョン双方を洗いざらい探してみたけど乳牛に代わりそうな牛型モンスターは見当たらなかったし。

しかも牛ぐらい大きな生き物となったらヨッシャモや金剛カイコほど気軽に飼うわけにもいかない。

欲しいは欲しいが、これもまたこれからの課題か。

水路とか米とか焼き物用の窯とか風呂とか、欲しいのにできていないものがまだまだたくさんあるのに。

そしてここに、俺以上に貪欲さを振り撒く彼女がいる。

「聖者様! バターやチーズだけでなく、お酒造りにも細菌が関わっているんですね!?」

「お、おう……!」

「私、お酒造りやってみたいです!! 細菌たちが糖分をアルコールに分解する過程を観察して実感したいです!!」

ガラ・ルファの細菌にかける情熱がハンパではない。

酒か。

たしかに欲しいよな。

先日の彼女らの歓迎会だって、食べ物類は潤沢だったけど肝心のお酒がなくては盛り上がりに欠けていただろう。

アロワナ王子が人魚国から持ち込んでくれて、何とか体裁を整えたものだ。

今度は自家製の酒で皆をもてなしてあげたいもんな。

お酒の原料と言えば……、ブドウ=ワイン。米=日本酒。麦=ビール。

……どれもない。

いやある。

ビールの材料、麦。

一応パン作るために栽培した小麦が、引いて小麦粉にしたものもそうでないものもまだまだたくさん備蓄がある。

でもビールって小麦で作れるものか?

麦って一種類だけじゃないもんな。大麦とかライ麦とか聞いたことがある。

ビールってそのうちどれで作れるの?

知らん。

まあいいか。その辺りガラ・ルファに任せて徹底的に研究させてもいい。

こんな俺でも大雑把なヒントは出せるし、その少ないヒントで正解に行きついてしまうほど彼女らは優秀なのだ。

彼女たち、狂乱六魔女桀にとってはな!!

……スミマセン。

彼女らは狂乱六魔女傑という呼び名が嫌いで、呼ばれると怒る。

しかし新たに酒造りするとなると、醸造蔵で一緒にやることになるのかな?

それもなんか嫌だ。

酒造りのためにそれ専用の酒蔵を用意。

そこの主にガラ・ルファを任命して、酒を作ると同時に最近の研究を思う存分させてあげるのもいい。

……夢が広がるな。

ああでも。

そしたら今ある食糧庫や醸造蔵と同規模のものをまた新たに建設しなきゃならなくなり!

水路も風呂も焼き物窯も全然完成してないのに!

作りたいものばかりが増えていく!

誰か止めて!

このとめどなく溢れる欲望を!!