軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

666 今年も変わらず

私の名はペステガロ。

人間国に住むしがない一般人だ。

皆は、毎日がつまらないと感じてはいないだろうか?

私は感じている。

代わり映えのない日々。

朝になれば起きて仕事に行き、面白みのない書類仕事を機械的にこなして就業時間になれば退勤して、家に帰っても家族の会話も特になく寝るまで手持ち無沙汰な空き時間。

そんな日々が何年も続いてきた。

しかし!

退屈と弛緩で埋もれるような私を救ってくれたものがある。

風雲オークボ城だ!

突如としてワルキナ辺境領で開催されるようになった年一回のイベント!

その内容はスリリングかつ独創的で、何度見ても新鮮な驚きを与えてくれる!

何の気なしに見物に行ったのがきっかけで、一瞬のうちにドはまりした。

私自身参加者としてオークボ城に挑戦し、第一関門であっさりリタイヤしたけれど、それから次のオークボ城へ向けて備え、体を鍛えること日々が幕を開けた。

朝は早起きしてジョギング。

食事は精の出るものをとるように心掛け、お陰で体の芯に力が入ったような感触がある。

気力が漲ってきたせいか職場でもアクティブになり、新たな企画を発案して、その主任に抜擢されたりもした。

言われたことを諾々とこなす無為の日々から、みずから目標をもって、そこへ向かっていく困難な日々に様変わり。

もちろん簡単に達成できるわけでもなく山あり谷ありとトラブルもあったりする手応えある日々だ。

こんなに充実した日々を送れるようになったのもオークボ城と出会ったお陰。

オークボ城のお陰で私の人生は一変したともいえる!

家族の会話も増え、ここ数年他人みたいだった妻との間柄もまるで恋人時代に戻ったかのようだった。

『子どもはいらない』などとすげなく言っていたはずの妻が先年男子を出産。

今年に入って早くも二人目を妊娠して、我が家はいつの間にやら賑やかになる一方だ。

息子が成長して、いつか一緒にオークボ城に出場することが今の私の夢だぞ!

体を鍛え練習を繰り返していることによって、直近の出場成績は第四関門までと着実に記録を伸ばしつつあった。

この調子で今年の新たなチャレンジでは、念願の全制覇・天守閣へ到達!

息子や妻に立派な姿を見せたい!

……と思っていた。

そんな矢先だった。

旧人間国を豪雪が襲ったのは。

普段から雪に閉ざされる地域に加え、毎年の降雪量がそこまででもない地域まで雪に沈没。

このままでは交通が寸断されて民の生活にも支障が出る……ということで私も事務官吏として必死に働かなくてはならなかった。

そこは社会の一員として仕事もこなさないといけないし。私が働くことで家族の生活も支えられるわけだから普通に頑張ったぞ!

そうこうしているうちに、なんか国内主要な街道があっという間に除雪されて交通機能が復活したという朗報。

春まで隣村との行き来もできなくなるとかいう絶望的観測は何だったの?

謎のオーク軍団が燎原を焼き尽くすように除雪していった、ってなんだその報告?

ともかく雪に閉ざされ死者が出るといった最悪の事態は避けられたわけか。

ホッと胸を撫で下ろしてすぐ、私は個人的な不安に苛まれてしまった。

そう、これほどの豪雪に晒されたからにはオークボ城も、例年の開催が危ぶまれているのではないか。

いや、大袈裟に言えば旧人間国の存続が危ぶまれるほどの自然災害であったわけだ、今年の大雪は。

それを無事乗り切れたわけで、その上で地方の一イベントなんか気にするのは不謹慎だろう、という意見もわかる。

しかし今の私にとって、毎年のオークボ城は生き甲斐なのだ!

それが中止になるだけでも心が折れそうなほどのショックなのに、もしこれがきっかけで来年以降の継続的開催も危ぶまれたらどうしよう!?

オークボ城開催地は普段人の生活区域から離れた僻地にあるので、とても除雪はいき届いていないはず。

最悪の事態は回避できたとしても、各地の人々はまだまだ雪の後始末に四苦八苦しているため遊興に耽る余裕はない。

とにかく今年のオークボ城中止は仕方ないとしても、願わくばそれが来年以降も尾を引かぬよう祈ることしかできなかった。

目に見えて元気のなくなった私を家族も心配し、気晴らしに散歩などにも連れ出してくれるなどあったが……。

その最中……。

* * *

「……アナタ、何かしらあれ?」

道を歩きながら身重の妻が言う。

息子を抱えながら歩いている私が反応し、妻の指さす先を視線で追うと……。

……本当に何だ? アレ?

「白い……、山? あんな方向に山なんかあったっけ?」

「山にしては細長くない? まるで空を突き刺すような……塔かしら?」

と訝る妻。

いや待て。

塔であったとしても見た感じの距離は大分ここから離れているように思えるぞ。

あの距離感であのボリューム。

もしアレが本当に塔なら、山のように大きな塔になるわけだが。

しかしながらアレが山だったとして、山がそう簡単にいつの間にか出来ているものだろうか?

人工建造物というのがまだあり得る話なのだが、それにしても巨大すぎない?

さすがに放置しておくわけにもいかないので、明日仕事に出たら確認をだしておくか。

しかしあの塔(?)のある方向……。

あれはいつもオークボ城をやっている地区のある方では?

* * *

数日後、判明した事実は私の予想を超えるものだった。

「オークボ城特別編・雪まつり、だと……!?」

「ワルキナ辺境領への問い合わせから返ってきた報告なのですが。今年の異常大雪によって通常の運営が不可能と判断されたため、急遽企画変更になったのだそうです」

むしろ通常運営できなくなった理由を逆手にとって、あり余るほど積もった雪を利用しての雪まつり!?

それを開催するという知らせが、地元領から発信されているんだとか!?

「雪を使って様々なものを作り出すお祭りなんだそうですよ! 既に会場には完成した像や建物が所狭しと並んでいるんだそうです!」

「では、ここから見える巨大な細いものも……!?」

「あれはオークボ城・雪まつり版の目玉作品、原寸大雪東京タワーなんだそうです!」

「トーキョー?」

職場の仲間が興奮気味に伝えてくる。

彼の生粋のオークボ城ファンだからな。奇跡の今年開催は心から嬉しいんだろう。

しかし……。

「趣向を変えて……、というのが……!?」

直接参加型ユーザーである私は、その辺に危惧を感じざるを得なかった。

目の前で沸き返っている同僚は、私と違って観戦者タイプのユーザーだからな。

見て楽しめるなら手に汗握るアトラクションでも氷像でもどっちでもいいということなのか。

しかし私はそう簡単に安心することはできない。

私は今年こそ天守閣に到達しようと体を鍛えてきた。

イベントの内容が変わるということは、その一年の努力が無駄になってしまうかもしれないという可能性を孕んでいた。

ただ出来たものを眺めて終わりというのでは、本来のオークボ城とあまりにもかけ離れていすぎる。

それを正統なオークボ城の派生イベントと見做していいのだろうか?

「もー、主任たらまた難しく考えてますね?」

「ん? ああ、いや……!?」

「気楽に受け止めたらいいんですよー! そもそもこの大雪で中止確実と言われてたオークボ城が開催されただけでも大金星じゃないすか! これが賑わえば来年以降の通常開催にも弾みがつくかもしれないですし、ファンとしては支えるためにも様子見ぐらいにはいきましょうよ」

なんて有り難いファンだ。

そうだな。

これで客の入りが少なくなったら来年以降の開催も危うくなるかもしれないし、ファンとしてお布施程度のつもりで賑やかしに行くのもアリか。

ということで家族を連れて変則オークボ城を見物しに行ってみたが……。

* * *

「おおおおおおおおッッ!? デカいッ!?」

我が街からでも容易に姿を見ることのできた東京タワー(雪製)とやら!?

間近で見たら胆が縮むほど大きい!

あまりの大きさにそれだけで子どもが怖がって泣き出すほどだった。

ウチの子は胆が据わっているのか、泣きもせずに呆然と見上げるだけだったが……。

なんという大きな塔!?

これを石もレンガも使わず雪だけで仕上げるなんて、どんな技術があれば実現可能なのか!?

オークボ城の主催者たちの能力は、何度見ても驚かされるばかりだ!

例年の参加型アトラクションはなかったとしてもこのトーキョータワーとやらを見れただけで、充分来た価値はあったな……!

……。

……何?

雪合戦大会?

参加者随時募集中?

何それ私も出るぞ!