軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

647 クマの里帰り

ホイル焼きが食べられなかったのは残念だが、それで挫けてしまうほど俺の鮭欲は小さくない。

何しろまだまだ鮭食の本丸……生サーモンを味わってないからな!

しかし、そこまで調理するには鮭一匹だけでは心許なくなってきた。

そこで改めて大々的な鮭漁としゃれこもうではないか皆の衆!

「「「「「おおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」

オークボゴブ吉などを始め、農場で手の空いている者から有志を募り、一団引き連れて再び川へとやってきた。

「どうやら鮭たちは今、この川を遡上の真っ最中のようだ。自然のバランスを崩さない程度に乱獲して自然の恵みを美味しくいただこう」

何年か前に人工的に掘り進めた運河をいつの間に産卵場にしたんだ?

しかしお陰で俺たちは鮭の味にありつけるということで、謹んで乱獲させていただこう。

ジュニアは釣り竿で釣ったが、大勢で遡上する鮭をいちいち釣り上げるのは非効率だろう。

ということで網やら銛やらを用意して、片っ端から捕まえていこうぜ!

そして冷凍したり新巻鮭にしたりして長く楽しむ!

どこかの文化では鮭の皮で靴とか服を作ったりするらしいから、そういう方面でもバティの創作意欲に貢献するかもしれない!

そういうわけで頑張るぞ鮭獲り!

獲って獲って獲りまくるんじゃあああああッ! と思って川に再び訪れたら……。

……先客がいた。

* * *

「……クマ?」

そうクマ。

『目にクマが』……とか、『吾輩はアクマだ』……とかのクマではなく、哺乳類クマ科クマ属の、クマ。

クマがいるなあ、くまったくまった。

……。

って落ち着いてる場合じゃねええええッ!?

クマだああああッ!

凶悪な肉食獣で、村を全滅させたりもするクマだあああああッ!?

戦闘準備! 皆、奮え! クマから俺たちの農場を守れええええッ!!

「お待ちください我が君!」

「なした!?」

「あのクマ、様子が変です! 落ち着いてご覧ください!」

落ち着いて見ろといっても……。

……あッ!? クマが川の中へ入っていく!?

そして真剣な眼差しで流れる水面を見詰めて……。

前足を振り上げ……。

……振り下ろす!

叩かれた水面は裂かれて無数の飛沫を散らす!

その中に一際しっかりしたシルエットが空を舞った!

「「「「鮭だあぁあああああああッ!?」」」」

クマの強烈パンチによって水中から飛び出してきたのは紛れもなく鮭!

クマが鮭獲ってるッ!?

「なんか見たことある!? こういう映像!?」

そういやクマって鮭が大好きなんだっけ?

冬眠前の腹にたくさん溜めておきたい時期に、遡上する鮭は量も味も栄養も、理想のクオリティを極めたご馳走!

なんてナショナルジオグ○フィックな光景だ!

「これが大自然の雄々しさ……!?」

いやいや見惚れている場合じゃないぞ!?

たとえ何が目的だとしても、農場界隈にクマが現れた危険さは変わらないのだし、このままではクマに鮭を取り尽くされて俺たちの分がなくなってしまう!

これも過酷な生存競争。

クマという侵入者を撃退し、鮭という天然資源を守るのだ!

「お、お待ちください我が君!」

「まだ何か!?」

オークボたちに止められ、マジマジ観察を続行してみると……、クマは二、三匹とったところで早くも切り上げて岸へ上った。

そして俺たちの存在に気づいていたのか、『どうぞどうぞ』とばかりに川辺を譲る。

「あッ、どうも……?」

なんだ紳士的なクマさんだな?

そして自分の前足で打ち上げた鮭の二、三匹を行儀よく籠に詰めてまとめる。

「籠ッ!?」

なんでクマが籠を所持&使用!?

なんだかよくわからなくなってきたぞ……!?

このクマ、もしや俺たちの予想を超えるただ者でないクマなのでは!?

「あッ、もしや!?」

「どうしたゴブ吉!?」

さっきからオークゴブリンたちのタイムリーな気づきが露骨!?

「あのクマは、もしや彼なのではないですか!? 私たちはかつてこのクマに会ったことがあります!」

「な、なんだってー!?」

で、結局誰なの?

もったいつけないでくれよ!?

「前にあったじゃないですか。ヴィール様がダンジョンを改装して、それで試しに皆で攻略してみようという話になって」

「はあはあ、たしかにそんなこともあったな?」

でもそれかなり初期の方の話じゃなかったっけ?

あの頃はレタスレートもホルコスフォンもいなかったし……エルフたちはいた?

「そこの最終階層でクマのモンスターと遭遇したじゃないですか!」

「あーッ!?」

「思い出しましたかッ!?」

「あーあーあーあーあーあーッ!? あぁッ!?」

あまりに思い当たりが遠くて脳みその中で反響する音が『あーあー』です。

あったあった、そんなことが!

たしかにヴィールの山ダンジョン(階層ver)で一際凄そうなモンスターにクマがいたっけ!

冬エリアでしょう!?

倒したものの命までは取るまいってしたら、今よりもっと強くなるために修行するって外の世界に向かっていったのだよね?

あったあったあったあった! そんなことが!

「キミかぁ!? あの時のキミかぁ! なつかしぃー!?」

再会の嬉しさの余りクマとハグ、そしてハンドシェイク。

肉球の圧が凄い。

「どうしたのいきなり帰ってきて? ……はッ、まさか修行の果てにレベルアップして、俺に再挑戦を!?」

修行目的で、外の世界へ旅立っていったんだよな、クマ?

そんな彼が帰ってきたというなら、ここからバトル展開になってしまう……!?

「ふむふむ、ほうほう、ふーん! へぇー?」

クマの言うことを翻訳するオークボとゴブ吉。

モンスターのよしみ?

「クマ殿は、農場を旅立ったあと世界各地を巡って修行に明け暮れていたそうです」

真面目だねぇー。

「その途中、勇者に出会って行動を共にするようになり、一緒にダンジョン探索などしていたそうです」

何ッ? 勇者に!?

「それはもしや、勇者の実力に惚れ込んで供を申し出たと!?」

「いえ、やること危なっかしくて見守ってやらなきゃ、という気分になったそうです」

ああ、そう……!?

「その勇者が先ごろ女子プロレスに参戦し、各地の興業で忙しくなり、ダンジョンに潜る機会が減ったのだそうで」

「勇者がプロレス!? どういうこと!?」

ちゃんとしたやる気あるの、その勇者!?

「クマ殿までプロレスに出るわけにもいかず、暇になったのでこれを機に里帰りしてみよう。という話になったそうです」

「なるほどー!」

クマくんも色んな経験を積んだんだな。

ならば久方ぶりに帰ってきたクマくんを我々は全力で歓迎するのみ!

何故ならここがキミの故郷だから!

いつだってキミを肯定するそれが故郷!!

「よぉし! ではクマくんと一緒に鮭獲り再開だぁ! クマくんも二、三匹程度じゃ全然足りないだろう! 心行くまで鮭を獲って獲って獲りまくりすてぃだぁあーーーーッ!!」

「「「「「うおぉおおおおおーーーーーーーーーッッ!!」」」」」

こうして鮭乱獲祭りはクマ君お帰りなさい歓迎会を兼ねた乱獲祭りとなって、皆力の限り乱獲したのであった。

そして……。

「……ん? どうしたミエラル?」

漁に同行したエルフの一人ミエラルは、木工細工を担当しているエルフだった。

木彫りで見事な像を創り出すこともある彼女だったが……。

「……あのモチーフ……いい!」

「ん?」

ミエラルが釘付けになっている視線を追うと、そこには里帰りのクマくんがいた。

野生解放して鮭獲りに白熱している。

「あの野性味あふれた質感、逞しい巨体……! あれを木に彫りこんで像としたら素晴らしい名作になると思うんです!」

「ほうほう!」

「しかもあの鮭を獲るダイナミックな動きを取り入れれば! より素晴らしく!」

…………。

ちょっと待って?

クマの木彫りの像? しかも鮭を咥えた?

俺はそのモチーフに滅茶苦茶心当たりが……!?

「こうしてはおれません聖者様! 私は失礼ながら先に戻らせていただきます! この心のたぎりが収まらないうちに製作実行を!!」

「待ってミエラル! キミが作ろうとしている者は日本一微妙な土産物! それを作ってどうするつもりなの!? 作ったあとのことまで考えてよ!! ああぁ~~~ッ!?」

俺の抵抗虚しく、ミエラルが精魂込めて完成させた『鮭を咥えたクマの木彫りの像』は無事俺の屋敷の玄関に飾られることとなった。