作品タイトル不明
628 男人魚たちの歓談
シャーッシャッッシャッシャッシャッシャッ!!
オレ様の名はシャーク!
人魚王国軍で兵を率いる将軍様だぜーッ!
武勇は一級品!
海を掻き分け、矢のごとき速さで泳ぎ、敵に牙を突き立て噛みちぎる残虐さは敵味方からも恐れられ、サメたたえる……もとい、褒めたたえるほどだぜーッ!!
オレ様の戦闘能力のフカさは戦時だけでなく、平時にもしっかりアピールされ、毎年行われる男人魚たちの祭典……武泳大会では連年、決勝トーナメントへの勝ち残りをハタしてるんだぜー!
誰がハタハタだよ? サメだぜーッ!!
人魚王国軍に将軍クラスは複数いるが、毎年必ず決勝入りをしているのはその中でオレ様だけなんだぜぇーッ!!
お陰でオレの武勇は人魚王国軍の中でも轟き渡る!
名声は出世にも繋がり、オレはシャーク位を与えられて男シャークになったんだぜぇー! さらに昇シャークされて子シャークにもなったんだぜぇー!
ゆくゆくは伯シャークにもなってやるぜぇー!
しかし!
そんなオレ様の強さへの自信を打ち砕く存在がいるんだぜぇー!
ソイツは聖者!
陸から来た、尾びれも持たないナヨナヨした男だが、俺はソイツに完膚なきまでにフカくをとった!
前々年の武泳大会でのことだぜ!
人魚ならば圧倒的有利なはずの海中で、海中では不利どころかロクに動くこともできないはずの陸人に、手もヒレも出なかったんだぜぇー!!
男人魚の戦士にとって、ここまで屈辱的なことがあろうか!
あの日から雪辱するために軍務そっちのけでトレーニングに打ち込んだ!『軍務を疎かにするな』って怒られたんだぜぇー!!
それなのに去年の武泳大会で聖者は不参加!
今年も出てこなかった!
この二年オレ様は普通に決勝トーナメントまで勝ち進んで好成績を残したが、まったく満足できずにモヤモヤしたままだったぜぇー!
陸の聖者へのリベンジ!
それが叶わないことには!
そんな中、新王アロワナ様から突然の布告!
なんと今年はもう一つ、男人魚による武術大会が開かれるとか!
相撲大会? とかいう競技は陸で大ブームの戦いの技術! 男なら誰もがこぞって競い合っているんだとか!
陸の競技ということは、それこそ陸に住んでいる聖者も今度こそ出場するんじゃねーかッ!!
ならばそれこそ雪辱の好機!
武泳大会決勝進出者として参戦の打診が来たら、フカく考えず即座に了承したぜ!
そして当日!
睨んだ通り聖者も相撲するらしいじゃねーか!
ジョーズに思惑がハマったぜ! ヤツの有利な陸で勝ってこそかつてのフカくをチョウ消しにできるってものよ!
誰がチョウザメだぜ!?
二年間の屈辱を洗い流す時が今こそ来た!
そう思って土俵に上がったオレ様なのだが……!!
* * *
「どうしようもなかったぜぇー!」
相撲大会終了後。
その夜オレは、人魚国の裏町にある酒場で泣き崩れていた。
ヤケ酒でフカ酒だぜぇーッ!!
「聖者へリベンジするつもりが、最初の一回戦で得体の知れないヤツに秒殺されるとはー! この上ないシャーック……もといショックだぜぇー!」
敗北でついた心の傷を、酒で洗い流すんだぜぇー!
相撲大会で当たった、オークボとかいう得体の知れない野郎……!
ソイツにオレ様は一秒もたずに捻られたんだぜぇー!
なんてヤツ……これでもオレ様は人魚王国軍で屈指のパワーの持ち主であったはずなんだが、そんなオレ様がまったく歯が立たないなんて……!
サメの歯が立たないなんてぇー!
「仕方ありますまい、オークボ殿は聖者様の住処を守護する最強ガーディアン。その双璧の一方……」
一緒に飲んでいるヘンドラーの野郎が言うぜ……。
軍にも所属してなかったくせに、いつの間にかオレ様の同格以上の地位についている。
アロワナ王様の新体制に移行して、もっとも出世してオボコからトドぐらいにまでランク上げした出世魚野郎だぜぇー。
「速度と技で蹂躙するゴブ吉殿に対比して、パワーと覇気で圧し込めるオークボ殿の風格はまさしく皇帝。土俵のように限定された空間内では尚更いなしようがない。あの中でオークボ殿に抗うのは神すら不可能なことでしょう」
「知った風な口を利くぜぇー……!?」
ヘンドラーの野郎、やけに詳しいぜ?
あれでアロワナ王様の側近だからな。アイツしか知らないことが色々多いぜぇー。
「ということは、アイツは聖者よりも強いんだぜぇー?」
「そんなことはないでしょう。オークボ殿とて聖者様の家臣。従者が主より上ということはありますまい」
聖者は、あのオークボよりもっと強い!?
結局今日の相撲大会でも、人魚国伝説の強者、ナーガス前王様に引き分けたしなあ……!
益々あの陸人が遠い存在に感じるぜぇ……!?
「聖者様を越えるなどと、大それた考えはこの際お捨てになった方がいいかと。あの方は天地万物を治める存在にあらせられる。そのようなお方に力で挑むこと自体不遜ではありませんか」
「そうですぞシャーク殿。従者にすら敵わぬ我々で、どうしてその頂点にいる聖者様に挑めましょう? ここは、あれほど巨大な存在と盟を通じるアロワナ王の偉大さを讃えようではありませんか」
などと悟った風な口を利くのはベタ・ワイルドのヤツだぜー。
最近、近衛隊長から人魚将軍に位替えし、一軍を率いる立場になった。オレからすれば同輩だぜぇー。
要領もいいし外面もいいしで、有能なヤツなのはわかるが……。
「テメーだって聖者の部下に一回戦で負けやがったぜー」
「何故か試合のあと、カープ教諭からめっちゃ煽られたんですが……?」
「オレもゾス・サイラ宰相から煽られたぜぇー?」
――『オークボに負けてどんな気持ち? 真の最強を知ってどんな気持ち? 心折れた? 絶望した?』的な。
「今年になってついに念願の武泳大会決勝入りを果たしたというのに……! すぐさま相撲でこのように無様を晒し……! ベタ家の威厳を示すことがまったく……!?」
「お前、今年まで決勝に出られなかったんだぜぇー? ヘンドラーは随分前から決勝常連になってたのに?」
「それを言わないでください!」
ちなみにワイルドとヘンドラーは兄弟なんだぜぇー。
軍人家系のベタ家に生まれ、兄は忠実に家に従い軍人畑を歩み、弟は抗って出奔し、長く在野した。
そんな弟の方が地位でも実力でも兄の上にいるんだから奇特な話だぜぇー。
まあ、庶民出身で叩き上げのオレ様にとってはヘンドラーの逆転劇は痛快でもあるがよぉー。
「わかってるんです……! 弟の方が才能にも気運にも恵まれてるって……! ヘンドラーはアロワナ新王の懐刀と呼び声高く、ゆくゆくは人魚元帥となることが有望視されている。その上綺麗な嫁まで貰い、今年ついに子どもまで儲けて……! 私はまだ彼女すらできていないのに……!?」
「兄上! 大丈夫です! きっと兄上にもいい人が見つかりますから……!」
ワイルド将軍、酒に飲まれてるぜぇー。
エリートの挫折を肴にして飲む酒は美味いぜぇー!
「ふん……、どいつもこいつもくだらん……!」
卓を囲んで飲むメンバー、そのもう一人が口を開いたぜぇー。
オレ様ですら馴染みの薄い顔だが、かつて陸追放の重罰を科された反逆者ホウボウじゃねーのか?
「私が離れている間、海中も随分軟弱になったものだ。このように酒場でウジウジと敗北の傷の舐め合いなど、いじましいにもほどがある」
「対抗戦でまったくいいとこなしで負けやがったヤツがよく言うぜぇー」
「うぐッ!? ルールがいかんのだ! 私が数十年を懸けて鍛え上げた蹴り技を禁止するなど。だったらなんで私を呼んだと声を大きくして問いたい!!」
「言い訳はいじましいぜぇー」
かつては常勝ナーガス王に唯一の挑戦者として名をはせた修羅人魚ホウボウの全力を確認できなかったのは残念だがよぉー。
「それに、この宴席を開いたのは別に敗者の慰め合いのためではないですからね。この会の主催は私です」
「お前だったのかよ!?」
この大会で数少ない満足いく結果を残したヘンドラーの野郎!
コイツも一応負けたけど相手は魔王だろう!?
他国の王様に華を持たせて敗退とか、むしろ株を挙げてるじゃねーか!
「アロワナ王が即位した新体制では、これから他国との親交こそが最大のプロジェクトとなります。旧体制にはないもっとも顕著な相違点です」
「それは……前々から言われてるがよぉー」
「今日の大会は、その課題を進めるのに大いに役立ったと思います。陸の強者を目の当たりにし、陸を侮る風潮は一気に消し飛んだはずです」
それはそうかもしれないが……。
「ショック療法にも限度があるのではないかヘンドラー? 陸勢力は、人魚の強者たちをあまりにも徹底的に蹴散らしすぎた。あれでは侮りを払しょくする以上に恐れを抱かせ、人魚族全体の自信喪失に繋がりかねぬぞ?」
ワイルドの言う通りだと思うぜ?
さすがにもうどれだけ修行しても、あのオークボに勝てるなんて思えないぜぇー!?
「いいえ。今年の人魚たちはまだ陸人化し、二本脚をもって地を踏みしめ戦うことに慣れておりませんでした。訓練によりそれを克服すれば、元から大海を泳ぎ進むことで下半身に強い粘りを持つ人魚。けして相撲でも陸人に遅れはとりますまい」
既に陸を幾度も行き来しているアロワナ王やヘンドラーが好成績を残せたように?
「そしてそのことが、多くの人魚たちに陸へ興味を向けさせるきっかけになればと考えています。アロワナ王はそこまで考えて大会を企画したのです」
マジかよ。
「シャーク、ワイルド両将軍はそのことを周知させ、できるだけ多くの人魚たちを鼓舞することにご尽力いただきたい。練習し、二本の脚で戦うことに精通すればきっと来年は勝てると」
「来年もやるんだぜぇー!?」
「当然です。そしてホウボウ殿」
久方ぶりに海中へ帰還した、元追放囚に言うぜぇ。
「長い陸暮らしを務めあげたアナタには、そうして培った二本足の使い方を多くの人魚へ教導いただきたい。さらには陸との交流を実行する役割も兼務してほしい」
「私に外交官をやれというのか?」
「旧勢力の腐敗を一掃し、現状の人魚国は人手不足にあるのです。アナタのような有用の士を遊ばせておく余裕はない。私だって! 長く打ち込んできた論客の道を断って王宮に勤めるからには、他の連中を自由になんかさせるか!」
「今チラッと本音が出た!」
恐ろしいぜぇー。
アロワナ王様は陸での修行の旅で見聞を積み、政策にイカそうとしてるぜぇー。
イカじゃねえ、サメだぜぇー!
そんな王の考えを汲み取り、全力でサポートするヘンドラーもさすがだぜぇー。
これが新たな体制となった新・人魚国の方針だぜぇー! ジョーズに頭を切り替えて対応していかないと、オレも古い人魚として時代に取り残されちまうぜぇー!?