作品タイトル不明
629 ドラゴンハーレム
グラウグリンツェルドラゴンのブラッディマリーよ。
随分ご無沙汰な気がするけれど、一体誰とご無沙汰だったのかしら?
わたくしは、愛するアードヘッグと常に一緒にいたのに。
わたくしがもっとも気にかけ、さらに服従してもいいと思える唯一の相手アードヘッグは、正式なる竜の帝王ガイザードラゴンよ。
全生物の頂点に立つ最強種族ドラゴン。
そのドラゴンの中でさらに頂点に立つ存在が竜の皇帝ガイザードラゴン。
そのガイザードラゴンであるアードヘッグは、名実ともに竜の頂点に君臨し、誰も逆らうことのできない完璧な存在。
いや、厳密にはさらに強いヤツが竜だけでもいくらかいるんだけども……!?
それでも実質的に、わたくしのアードヘッグがすべての竜を支配するモノと名乗って差し支えないのよ!
さすがわたくしの見込んだ竜アードヘッグ。
そんな彼は、ガイザードラゴンに就任して最初の頃は、自分にその資格があるか随分悩んでいたようだわ。
ちゃんとしたガイザードラゴンになるためには、しっかりした居城が必要だと棲み処づくりに打ち込み、知り合いのドラゴンが住む山々を巡って見学したりなど勤勉に過ごしていたわ。
でもある時から『別に一から建てなくてもいんじゃね?』という考えに行きついて、わたくしが元々住んでいる山ダンジョン『黒寡婦連山』に招いてそこを新ガイザードラゴンの居城にしていただいたの。
皇帝に従うモノが、棲み処を差し出すことぐらい当然のことですわ。
こういうのってニンゲンどもの言葉で『内助の功』っていうらしいわね! キャッ!
というわけで恐るべき我が黒の山は、今やわたくしたち夫婦竜の愛の巣と化しているのよ。
もはや『黒寡婦連山』なんて縁起でもないネーミングは相応しくないから『黒おしどり夫婦連山』とでも改名しようかと思っているの。
…………。
わたくし、ずっと前から心に秘めていることがあるのよ。
それはもうかなり前に耳にしたこと。
我らドラゴンの創造主、すべてを生み出せし神々を生み出した租の中の祖。森羅万象の母たる女神、万象母神ガイアが希少にも現界された折に織りなされたお言葉。
――『これからドラゴンの在り方も変わってくるから、生態を変えてもいんじゃなーい? 他の生物同様つがいを作って有性生殖で増えてく的なー?』
という感じの。
――『だったらガイザードラゴンにも妃としてつがう雌竜がいんじゃね? いんじゃねー?』
とか言ってた気がするわ。
実際こんな砕けた口調だったか記憶が曖昧なんだけど。
そうして竜の皇帝ガイザードラゴンの妃となるべき女の竜にも、特別な称号を与える……とも言っていたはず。
その竜は……。
グィーンドラゴン。
痺れるほど高貴で強力、それでいて色香を感じさせる響きだわ。
かつてガイザードラゴンに執着し、何としてでもその称号を手に入れようとしたわたくし。
その願いは叶わずガイザードラゴンとなったのはアードヘッグだけれども、そんなアードヘッグに愛される妃竜の座というのも悪くないのかもしれないわね。
グィーンドラゴンのブラッディマリー。
実にいい響きだわ!
心の中で思い浮かべても響きもいいし字面もいいわ!
史上初めてのグィーンドラゴンとなるのは、このブラッディマリーで決まりよ!
既に長く一緒にいて、棲み処まで捧げて同居しているのよ?
こんなわたくしたちの間柄を引き裂ける者など誰もいない! もはや妃竜になったも同然もわたくし!
いいかしら?
わたくしもう正式にグィーンドラゴンを名乗っちゃってもよろしいかしら?
そんな風に慢心していたのがいけなかったかしら?
ある日気づいたら……。
* * *
わたくしのグィーンドラゴン就任の可能性が瓦解寸前になっていた。
「あぁん♥♥ アードヘッグ様ぁ、今日も強くてカッコいいですわぁ♥♥」
「アナタ様にお仕えできて、わたし幸せですわぁ♥♥」
「お足をお揉みいたしましょうか? それとも背中ぁ♥♥」
「アードヘッグ様ぁ♥♥ わたし暑いですぃ♥♥ 服脱いじゃおうかしらぁ♥♥」
…………なんだこの女狐どもは?
いや女竜?
とにかくちょっと目を離した隙にアードヘッグへ見知らぬグリンツェルドラゴンどもが群がっている!?!?!?!?!?!?!?!?
いつの間に!?
「貴様らどこかりゃわいてぇりゃきらわりゃあああああああああッッ!?」
「きゃー!?」「ブラッディマリー様がご乱心だわー!」
ご丁寧に人化までしてやがって!
最強種族のドラゴンが、そんな媚びる仕草をどこから学んできた!?
「というか何!? なんだ貴様ら!? わたくしのダンジョンに許可なくどこから侵入してきたの!?」
「あらあら、勘違いされては困りますわブラッディマリー様?」
人化した雌竜の一体が、全身クネクネさせながら言う。
「アナタ様はこのダンジョンを譲渡なさったのでしょう? こちらのアードヘッグ様に?」
「ならば今、このダンジョンの支配者はアードヘッグ様。この御方に招かれればザコ竜に過ぎないわたしたちは従う他ありませんわ!」
アードヘッグ!?
招いたの!? アナタがこの媚び媚び竜どもを招いたというの何の意図があって!?
「いやあの、今日も元気に皇帝竜の仕事をしようと思ったら、大広間に既に彼女らがいて……!?」
「はぁあぁッッ!?!?」
「それで元々はマリー、キミの舎弟だった竜たちなのだろう? キミの仲間ならおれも大歓迎だと言ったのだが……!?」
なし崩しで言質とっただけじゃねえかあああああああッッ!?
誰がわたくしの舎弟だあああああああッ!? 羽と尻尾を引き抜くぞコラぁああああああああああああああッッ!?
「いやぁんマリー姉さま怖いぃん♥♥」
「お姉様がデーモンのようですわぁ♥♥ 助けてアードヘッグ様ぁん♥♥」
おんどりゃああああああああッッ!!
ことあるごとにアードヘッグにくっつくなゴラぁあああああああああッ!?
「でもでもわたしたち、マリー姉さまに従っていたことは事実ですわよ?」
「へぇッ!?」
たしかにわたくしは、ガイザードラゴンの後継者を巡る争いの時、自分に従う竜たちを多数配下に置いていたわ。
それは後継者争いを有利に進めるため、そして、いずれ戦いに介入してくるかもしれなかったアレキサンダー兄上への対抗策のつもりで群れを作っていたんだけど……!?
「その中にアナタたちもいたってこと?」
「ご名答です。でも姉様わたしたちのこと少しも覚えていらっしゃらなかったのね。こうして顔を合わせても説明するまで気づかないんだもの」
「所詮わたしたち、記憶に残る価値もないザコ竜だったってことかしら?」
我が配下の竜たちは、ガイザードラゴン継承戦争が終結して必要性がなくなった上、ある時わたくしに対して反逆してきたので解散させたのよ。
いいえ、わたくしに反抗するならまだしも一緒にアードヘッグにまで逆らい、侮辱の言葉を浴びせかけてきたので許せなかったわ。
首謀者の竜アギベントはアードヘッグのその手で誅殺。他のドラゴンたちも共犯で八つ裂きにしようと思っていたけれど、アードヘッグの恩情で見逃して、解散追放だけで済ましてあげたのよ?
それを断りもなく舞い戻って、こともあろうにアードヘッグに取り入ろうなんて……!?
「恩を仇で返すとは、このことだわ!!」
「違いますぅ、わたしたちむしろご恩をお返ししたくて戻ってきたんですぅ」
言い方ムカつくぅあああああーーーーーッ!?
「あのバカのアギベントとの戦いで、わたしたち気づいたのですわ。アードヘッグ様こそ真にガイザードラゴンとして相応しいと」
「そんなのわたくし最初から知ってたもんね!!」
「だからこそわたしたち、ガイザードラゴンたるアードヘッグ様にお仕えしたいと恥を忍んで戻ってきたのです。わたしたちの忠義を示すため、端女としてでも傍に置いていただきたいと思ったのです」
「お前ら本当は恥なんてないでしょう!?」
「煩いですわねえお姉様? ちょっと黙っててくださる?」
「んなッ!?」
かつて主竜として恐れていたはずのわたくしになんて口の利き方を!?
「だって、こうしてアードヘッグ様にお仕えするからには、わたしたち立場は一緒でしょう? 同じ、皇帝竜に従属する奴隷竜でしょう?」
「ち、違うわよ!」
舐めないでくれる!?
アードヘッグに従う立場は同じだろうと、わたくしとお前たちとの間では決定的な差があるのよ!!
「ご自分は皇帝竜の妃……グィーンドラゴンとでも?」
「!?」
アナタたち!? 何故それを!?
グィーンドラゴン称号は、その存在自体ガイア母神様が漏らした思い付きみたいなもの!?
たとえ思いつきでも言い出したからには世界の法則になってしまうのが神の凄さだけれども、ただ酒の席でのことばなんでほとんど世に広まってはいないはず!?
傍で立ち聞きしていたわたくしぐらいしか……!?
他の竜にはほとんど伝わっていないはず。ましてあの時、わたくしがヴィールに大敗して恐れをなして逃げ去ったコイツらは万が一にも盗み聞きする機会もなかったはず!?
それなのに……!?
「グィーンドラゴン、なんて素敵な称号かしら?」
「ガイザードラゴンになれなかったからには、是非ともグィーンドラゴンにはなってみたいものですわ。メスたる私たちにはその資格があるんだし……」
「マリー姉さまは、独り占めなんてズルいことはいたしませんよね? ねぇ?」
コイツら……!?
明らかに狙っている!?
皇妃竜グィーンドラゴンの座を狙っている!?
コイツらが舞い戻ってきたのは、けっして下僕として忠誠を示すためではない。そうみせかけて皇帝竜に次ぐ権力の座、皇妃竜に収まろうとしているのだわ!
でもなんで!?
どこからグィーンドラゴンの情報が漏れ出たの!?