軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

623 控室にて

人魚王アロワナである。

私に主導によって開催された人魚国相撲大会はまずまずの盛り上がりで進行している。

これからの時代は、人魚も自分から率先して陸に上がり、外界の人たちと交流していかねばならない。

そのきっかけの一つになればと思い、参加者に人族魔族の猛者たちも招聘して執り行った相撲大会。

トーナメント方式で現時点、一回戦がすべて終了した。

その上でゲスト参加した陸人陣が全勝という快挙。

当然、聖者殿や魔王殿も勝ち残った。

「まさか、これほどまでに圧倒されるとは……!?」

これには一般の観客人魚だけでなく、私自身も驚いていた。

最初の試みということで本大会の選手として抜擢された男人魚たちは、先日の武泳大会で決勝進出を果たした紛うことなき強者たち。

しかしそれが陸の強豪力士たちにまったく歯が立たなかったということか!?

シャーク将軍、タチウオ、このたび近衛兵隊長から人魚将軍へと転属になったばかりのワイルドもあえなく敗退した。

初めて陸人化薬を飲み、慣れない二本足で後れをとったということもあろう。

しかし日頃から荒波を泳ぎ進み、鍛え抜かれた足腰は二股に分かれても粘り強さ一級ではないのか?

「他種族との交わりなく、ともすれば驕りを持ちかねない人魚族が世界を知ってくれたらいいとは思ったが、これはいささか刺激が強すぎるな……!」

「御意」

一回戦突破力士の中で、数少ない人魚勢となってしまったのは、私アロワナと盟友ヘンドラー。

ヘンドラーは、武泳大会本年度準優勝の面目躍如で無事一回戦を突破。

取組は同族の人魚であったが。

私も彼も父親一年生として妻子に無様を見せるわけにはいかん。

武泳大会から引き続き、上位入賞して父親の威厳を示そうという野心が二人ともにある。

「人魚族のプライドを粉々にするわけにはいかん! 私かお前かで必ず勝ち進み、人魚の意地を見せてやるのだ!!」

「はい、それはわかりますが……!」

ヘンドラーの目が遠い感じになっている!?

一回戦の試合模様を見て、地上勢のほとんどに自分が勝てないことがわかってしまったからだ。

人魚国ナンバーツーの使い手をもってしても、この惨状。

一番の私ですら、どこまであの悪魔的精鋭と渡り合えるかわからない。

これはさすがに人魚王となったばかりの私としては面目が立たないというか……?

どうする!?

今から聖者殿と魔王殿のところに行って手加減してくれるようにこっそりお願いするか!?

「情けないことねアロワナちゃん」

「そういうのは誰だ!? 母上!?」

動揺する私のところへ、我が生母にして先代人魚王妃シーラ・カンヌが御到来!?

「母上何故こんなところへ!? ここは選手控室ですよ! アナタは観覧席でお控えを……!?」

「アナタたちがあまりにも情けないから出張ってきたのでしょう? ……いいえ、それはアタシが言っているのではないわ。今日のアタシは代弁役よ」

「もっす!」

その声はまさか!?

「父上ッ!?」

前人魚王ナーガス!?

「ももっす!」

「パパは人魚王時代、人魚族の武を誉としてきたわ。そんなパパにとって今日の不甲斐ない人魚たちはとても見過ごせないのよ。引退した前王を動かした、我が身の不明を恥じなさい」

「はいッ!?」

これは親子の問題ではない。

人魚国を支える王として、先輩が後輩を叱咤する場面だ。

そこに甘さは存在しない。

「もももももっす!!」

「このまま同じ流れで進めても、人魚族は恥の上塗りしかできないでしょう。陸人化に慣れない人魚たちで安易に陸の強者に挑んだアナタの迂闊よ」

「もっすもっす! もももっす!!」

「見ていられないからパパも参戦するそうよ。前人魚王ナーガス、土俵入り!」

ええッ!?

父上が相撲を取るというのですか!?

元々武泳大会で十五連覇を果たしてから一線を退き、公の試合に出たことなどほぼない。

唯一の例外が一昨年の武泳大会。私が修行帰りで聖者殿まで出場した記憶に残る大会に父上も急遽参戦したのだが……。

「しかし父上! 大会はもう始まっていて、真っ最中なのですぞ!? 取組もハッキリ決まっており、いくら前王と言えども、そこに割って入るのは横暴すぎる……!」

「もすもすもっす!」

え? なんて!?

母上通訳プリーズ!

「トーナメント中止よ! これより人魚勢と陸人勢で分け、チーム戦を執り行うわ!」

何ですって!? 父上はマジでそんなことを!?

「一回戦が終わって、勝ち上がった陸人勢は人族魔族を合わせて五人。人魚側も精鋭五人を絞り全面激突よ。五対五のチーム戦よ!」

なんと!?

しかし母上……と父上? 人魚側から五人を絞るといっても、一体どうやって?

今現在一回戦が終了し、勝ち残った人魚族はそれでも五人以上いますよ?

「大丈夫よ、選定は既に済んでいるわ」

「え?」

控室から出てみた。

するとなんか人がたくさん倒れているううううッ!?

彼らは全員、二回戦進出した人魚族の参加力士たち!?

武泳大会の決勝にも進出したはずの彼らがこうも簡単に!? やられたというのか!?

倒れる人々の中で、たった二人、二本の足で立っている者たちがいる。

二人のうち一方は子ども……と言っていいぐらいの小柄さで若く溌剌としている。

そしてもう一方は対照的に枯れて引き締まった痩身の男だった。人生の辛酸を味わい尽くしたような凄味を感じる。

ヤツらの仕業かこの凶行は!?

「チーム戦のためにパパが連れてきた特別な助っ人たちよ」

「ももっす!」

「まずアタシとダーリンの次男テトラちゃん」

「もっす!」

「そしてパパの古いお友だちのホウボウさんよ」

その二人の名には私も聞き覚えがある。

我が両親の子……つまり我が弟に当たるテトラは、昔からヤンチャ小僧として手の付けられない悪ガキだ。

父上母上、私とプラティとエンゼルの下にもまだまだたくさんの弟妹を拵えているからなあ。

そしてそれ以上に驚愕するのがホウボウ。

あの『凶人魚』と呼び恐れられたホウボウか!?

「かつては武泳大会決勝常連となるほどの強者だったが、あまりに過激な闘法を使い、何度注意を受けても改めないために追放処分を受けたという……!?」

「今日のためにパパが呼び戻したのよ。このホウボウさんにテトラちゃん、元々の参加者からアロワナちゃんとヘンドラーさん、そしてパパを入れて五人の人魚連合軍を結成するのよ!」

「人魚連合軍!?」

「そして人族魔族の連合を討ち果たし、人魚族の誇りを守るのよ! いいわね!」

「もっすもっす! ももももっす!!」

なんかとんでもないことになってきた!?

私は、相撲の素晴らしさを人魚族の者たちに伝えたいと思って本大会を企画したのに。

いつの間にか海と陸のプライドを懸けた戦争に発展している!?

「情けないツラするなよ兄ちゃん。陸人なんて所詮は陸の上で強いだけだろ?」

生意気を言うな我が弟テトラよ!

それは我々人魚族にだって言えることなんだぞ!

「調子乗ってるだけなんだよアイツらは! 見てなよ、このオレがちょっと早いけどデビューして、王弟としての強さを海陸に見せつけてやるぜ! このオレの強さで、兄ちゃんの人魚王としての格を高めてやるからな!」

「…………」

我が兄弟は、長男である私の下にプラティ、エンゼルと続き、さらにその下に妹が三人続いてその次に生まれたのがテトラなのだ。

だから兄弟といっても長男次男にはかなりの年齢差があって、正直私から見たら弟というより甥っ子的な感覚の方が強い。

……さすがに息子のようにとは思えないが……。

「オレも父上に鍛えられて強くなったんだ! これから人魚王弟テトラ様の最強伝説が幕上げだぜーッ!!」

「…………」

* * *

そして経過を色々端折って始まった、人魚連合vs人魔連合のチーム相撲戦。

先鋒ウチのテトラvs農場のゴブ吉殿。

開始直後、迂闊に突進したテトラの動きに合わせるがごとく突き出されたカウンターの張り手が、顎にヒット。

その振動がダイレクトに頭全体へ伝わり、典型的な脳震盪を起こしたテトラへ容赦なくすくい投げ。

農場最速を誇るゴブ吉殿が我が弟を片付けるのにかかった時間は、一秒にも満たなかった。

まあ、これからすべてが始まっていくテトラだ。

ここでの敗北が鼻っ柱を折ってよい経験となり、よい糧となることを心から祈る。