軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

536 続・三人が気苦労

さて、こうして人魔人魚の三種族による臨時パーティを結成完了……。

この私シルバーウルフと。

魔族のマモル殿。

人魚ゾス・サイラ殿の三人だ。

その後ろをゴールデンバットのヤツがつまらなそうについてくるが、アイツは極力触れないようにしておこう。

テーマは協力と友情だ。

このまま進み、何事もなくゴールできればよし。

しかし早速困難にぶつかった。

我々の前に立ちはだかる白髭の老人。

その姿は……!?

「アレキサンダー様!?」

「よくぞここまで到達した。さすがS級冒険者よのうシルバーウルフ」

アレキサンダー様がここに現れたということは……。

ここはあの御方が守るエリアということか!?

今までのエリアにドラゴンやノーライフキングの番人がいたことを考えても、その可能性が大。

「誰なのだあのお爺さんは? やたら堂々としているが……!?」

マモル殿がそんな疑問を漏らす。

そうだな……、人間国のダンジョン事情に慣れていなければ、あの御方を一目でわかるのも無理か。

「人の姿をしているが、あの御方こそグラウグリンツドラゴンのアレキサンダー様。人間国最大最高のダンジョン『聖なる白乙女の山』を支配するドラゴンだ」

最強種族ドラゴンでありながら人類に対する深い思い入れを持ち、冒険者ギルドが交渉を持つ唯一のドラゴン。

我ら人族にとってどれほどありがたい存在か!

「世界最高のダンジョンを支配するからには、ご自身も最強と言われている。とても凄いドラゴンなのだ!」

まかり間違っても粗相があってはいけない相手アレキサンダー様!

とても偉いし賢いんだぞ!

「ふーん、でも、ここの主のドラゴンの方が強いんだろう?」

「竜の皇帝というぐらいだから、どのドラゴンより強いはずじゃからのう。ならソイツよりもしたということではないか、このドラゴンも?」

こらああああああああッッ!?

滅多なことを言うな!

「よいのだシルバーウルフよ。そう目くじらを立てずとも。アードヘッグが竜にてもっとも威厳ある立場にいることは間違いない」

はッ、何と御心の広いアレキサンダー様!!

「私もアイツに敬意を称え、新・龍帝城作りに手を貸した。ここから先は私が担当する区域だ。皆心して進むがいいぞ」

アレキサンダー様が設営したエリア……!?

やはりそういうことに……!?

「我が本拠『聖なる白乙女の山』で慣らしたダンジョン構築の技術、この場にても充分に生かしてやったわ。しかも今回、我が本拠に導入する予定だった新しい罠を実験的に導入してある」

「新しい罠ですと!?」

「その威力をお前たちで試させてもらおう。ここまで生き残った猛者たちよ、その実力で我が実験の手助けとなるがいい」

前口上が終わり、我々は本格的にアレキサンダー様の担当エリアを進むことになる。

何にしても人間国最大最高のダンジョンを支配するアレキサンダー様。

その方が手掛ける罠も、かなりの性能であることが予想される。

「注意に注意を重ねて進むんだ。今までの相手と同じと思ってはいけない……!」

「ダンジョン探索のプロが言うなら……!」

「そういうことじゃな」

さすが、この二人。

減らず口を叩いていても、こちらが注意を促せば即座に従ってくれる。

この素直さを、私以外のS級冒険者たちは何故持ち合わさないのだろう?

まず目の前に扉。

これを開けて中に入れば、いよいよアレキサンダー様の特製罠が満載の修羅のエリアに突入か……!?

「よし! 気合を入れて進むぞ!」

ドアノブを回し、勢いよくドアを開けて入る!

その瞬間、響き渡る声が!

『ちゃんとドアを開けられて、偉い!』

「えッ?」

なんだ今の声は?

振り向いて確認とるものの、マモル殿やゾス・サイラ殿は『自分じゃねえよ』とばかりに首を振る。

「……」

気を取り直して中に入ろう。

注意深く、そっと歩きながら……。

『通路を走らず歩けて、偉い!』

「……ッ!?」

やっぱり声するよな!?

何だこの声は!?

私たちの起こした行動に反応して発生しているようだが……!?

『勇気を持ってモンスターと戦えて、偉い!』

『宝箱を開けたあと、ちゃんと閉めて、偉い!』

『皆で協力して一生懸命頑張って、偉い!』

「だから何なの、これ!?」

思わず叫んでしまった。

何か行動するたびに『偉い!』『偉い!』と褒められて、やりにくいったらありゃしねえ!?

「これがまさかアレキサンダー様の用意した罠!? ただ『偉い』と褒めるだけのこれが!?」

「その通りだ」

エリア内にもアレキサンダー様が出てきて言う。

「私はかねてから、こうしたかったのだ! 日夜ダンジョンを駆けずり回り、必死に攻略する冒険者たちに、激励の言葉を掛けてやりたかったのだ!」

「なんと!?」

「お前たちのしていることは、当たり前のことなどではない! 弛まぬ努力と磨き上げられた技術の結晶なのだ! しかしそのことを讃える者があまりに少ない! だから考えたのだ! だったら讃える罠を作ればいいと!」

「…………」

「どうだ!?」

どうだと言われましても……!?

それもう罠じゃないじゃないですか。

単に『偉い』という音声発生装置。

それだけのものに過ぎない。過ぎないというのに……!

「涙が止まらない……!?」

目蓋の奥から溢れ出してくる。

いつだったかなあ、最後に人から褒められたのって。

これまで自分がしてきたことは、すべてできて当たり前のもの思っていたが……!

そうか、私は凄いことをしていたのか。

今までの努力が認められたのか!!

「やめてくれ! 私の心の隙間を衝くのはやめてくれ!」

「このタイミングで優しい言葉をかけられるのは辛いんじゃあああああ……!?」

おおッ!?

私ばかりでなくマモル殿やゾス・サイラ殿にまで優しい言葉が効いている!?

彼らの心も飢え乾いていたのか!?

気を遣う者ほど、みずからは気遣われることはない。

そこへ不意に見せた優しさがここまでクリティカルにヒットするとは!

「ぐおおおおおおッ!? ダメだ心の鎧が剥されていくうううううッ!!」

「優しい世界が! 優しい世界では私の張りつめた心は維持できないいいいッ!!」

「ありがとうと言っていい世の中なのじゃあああああッ!?」

ダメだ!

皆、太陽の光に照らされた吸血鬼のごとく優しい心に溶かされていく!?

なんと恐ろしい罠を考え付いたんだアレキサンダー様!

さすが世界最大ダンジョンの主!

「何がそんなに恐ろしいんだ?」

ピシッと。

春の日差しのように暖かだった空気が一気に冷たく張り詰めた。

その余計な一言は、私と一緒に入ってきたS級冒険者ゴールデンバットから放たれた言葉。

「お前たちも妙なヤツらだな、ただ声がするだけで何が大変なのだ? 少しも危険などないではないか?」

「コイツ……!?」

「アレキサンダー様もアレキサンダー様だな。ドラゴンが腕によりをかけて作ったというからどんな困難な罠かと期待したらとんだ拍子抜けだ。オレはもっと攻略しがいのある鬼畜ダンジョンを求めているというのに、もっとしっかりしてほしいものだな」

その時、私たち三人の心が一つになった。

「「「黙れこのアホがあああああーーーーーーッ!!」」」

「げふえッ!?」

矢のごとく飛び放たれるキックが三発、完全同時にヒット。

蹴られたゴールデンバットは吹っ飛ばされる。

「アイツの始末は私が付けておく! シルバーウルフ殿ゾス・サイラ殿! キミらはアレキサンダー様のフォローを!!」

「わかったのじゃ!」

任せたぞ!

「おりゃああああッ! 貴様! 貴様のようなヤツがいるから! 世界はいつまで経っても優しくならないんだあああああッ!!」

普段我慢している者が我慢しなくなると手が付けられない典型だったらしいマモル殿。

ゴールデンバットの背筋を弓なりにして今にもへし折りそうであったが、私たちはそれよりアレキサンダー様の方へ。

クソ野郎の心ない言葉でしょんぼりしていらっしゃる!

ここは全力で励まさねば!

「大丈夫ですよ! アレキサンダー様の試みは我々の心に染み入りましたよ!」

「そうじゃ! 今日あった色々辛いことも消え去ったぞ! すべてはアレキサンダー様のおかげなのじゃ!」

ゾス・サイラ殿も一緒になって優しい言葉のお返しとばかりに元気づける。

結局このエリアでも何やかんや言ってしこたま疲れたのだった。

しかしこのエリアの罠は、アレキサンダー様のダンジョンでも是非実装してほしい。