軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

528 肉弾衝突

S級冒険者のシルバーウルフだ。

今、魔王軍との勝負舞台となる未発見ダンジョンの前にいる。

これから魔族側の代表と面子を賭けた攻略競争を行うのだ!

と言いたいところだが……。

それよりも皆、新しいダンジョンに入れることの方に興味がいっぱいになっている。

「新しいダンジョンにゃ、新しいダンジョンにゃ、新しいダンジョンにゃ、新しいダンジョンにゃ、新しいダンジョンにゃーーーーーーーーーーーん……!」

「早く攻略させろ、早く攻略させろ……! 前口上とかどうでもいいではないか……!?」

私の他のS級冒険者たちも早くダンジョンに入りたくてイライラしていた。

仕方ない、これが生粋の冒険者になってしまった者たちの習性というものだ。

何よりもダンジョンへ進むことを優先してしまう。

ダンジョンに魅入られ、憑りつかれた者たちなのだ。

そんなわけで開会の辞が終わりやっとダンジョンに入れる! と思った矢先に人魚族たちのコントが入って中断され、益々苛立ちが募る。

ご懐妊は普通におめでたいのだが……。

おめでとう、だから早よダンジョンに入らせて! という感じだ。

「これが城郭型ダンジョン……、既存のダンジョン類型に当てはまらない、城を模したダンジョンか……!?」

「遺跡ダンジョンの親戚とか言われてるけど、古ぼけた感じがまったくなくて綺麗にゃーん。早く中も見てみたいにゃん!!」

冒険者の中の冒険者、S級冒険者となればこんな風になってしまうのだ。

一種の職業病だな。

「うーん、魔族だけでなく人魚族まで相手にしないといけないんですね? どうしましょう?」

「キミは冷静だなカトウくん……!?」

同じ冒険者でも異世界人のブラウン・カトウくんは冷静だ。

「競争相手が増えたところで問題ない。あちらも魔王軍同様ダンジョン探索が本職でないのは見てわかる」

ダンジョン探索の本職といえば、我々冒険者のみ!

独壇場で戦えるのだ。

「いつも通りの探索を行えばいい。それで敗けることなどないはずだ」

「さすがシルバーウルフさん。ベテランの風格ですね」

そんな世辞を言ってくれるカトウくんが仲間内にいてくれるのは助かる。

何せS級冒険者といえば基本的に変人揃いだからな。

我々の中から敗因が生まれるとすれば、それら強すぎる我によって連携が乱れることだ。

「早くにゃ、早くにゃ、早くにゃ、早くにゃ、早くにゃ、早くにゃ……!?」

「スタートしろ、スタートしろ、スタートしろ、スタートしろ、スタートしろ……!!」

特にブラックキャットとゴールデンバットの二人は要注意だな。

この二人はなおさら『押し留まる』とか『一歩引く』ということを知らないし。

その分聞き分けのあるヤツに我慢を強いることになるであろう。

「すまないなカトウくん……!」

「先に謝られるのも気が重いんですが……!?」

あともう一人。

S級冒険者ピンクトントンもこの中では比較的話のわかる方だと認識している。

一番新参である上に先輩を立ててくれるから、いくつかある触れちゃいけない部分を見極めさえすれば付き合いやすい方のS級だ。

何とか彼女を引き込み、三人体制で問題児どもの手綱をとれば、勝利の可能性は益々上がる。

「……ということで頼んだぞピンクトントン」

頼りになるはずの後輩に声をかけたところ……。

「嫌です」

「あれえええええッッ!?」

拒否された!?

頼れる仲間だと思ったのに!?

「すみませんシルバーウルフさん……。私は本戦には参加できないようです。私は私の、決着をつけなければいけない相手を見つけてしまいました」

「え? どういうこと? 何!?」

まったく理解できない同輩のシリアス。

するとピンクトントンはするりと我らの陣営から離れて進み出て……。

「え? おい、どこへ行くんだ!?」

「お前も気づいているんでしょう? 隠れていないで出てきたらどう? ……四天王グラシャラ!!」

ピンクトントンが大きく名を呼ぶ!?

彼女……魔族側の四天王に顔見知りがいたのか!?

しかし四天王陣営からはまったく何の反応もない?

「シルバーウルフさん、そっちじゃありません」

「え?」

「グラシャラというのはたしか、既に引退してしまった先代四天王、今は魔王の妃の一人となっているはずですが……!?」

物知りだねカトウくん!?

たしかに貴賓席、魔王と思しき威風堂々たる人物の隣に……それ以上にものゴッツい体格の女性がいる!?

「あれが元四天王のグラシャラ……!?」

「戦争時代を生き抜いた四天王……! 魔王妃という立場で魔王と共に視察に来たんでしょうが……!?」

たしかに、軍人らしからぬ落ち着いた衣装で、子どもを抱きかかえているしなあ。

しかし全身から溢れ出す覇気は、隣の魔王にも匹敵しない!?

「久しぶりだなトントン……、生きて再びお前と会える日が来るとは思わなかったぜ……!」

グラシャラの側からも言葉が。

しかも因縁めいた口ぶり!?

「人魔の戦争も終わり、お前と決着もつかず仕舞いだと思っていた。オレは魔王妃として新しい責務に就き、お前の所在もわからない。これでは決着もつけようがないと……!」

「しかし天は再び私たちを巡り合わせた。どうやら何が何でも私たちの勝負に決着をつけさせたいようですねえ……!」

二者の殺気が、炎のごとく立ち昇ってく!?

一体何なの!? 何事!?

どういう展開に持ってきたいんだ!?

「そういえば、聞いたことがあります!?」

「知っているのかカトウくん!?」

「ピンクトントンさんはS級冒険者の中でも一番新参ですが、その前職は傭兵! 魔族との戦争に参加して戦場で暴れていたといいます! しかし人間国の王族が滅ぼされたことで戦争は終結し、職を失った彼女は冒険者に転職したと……!」

前の職業が傭兵!?

ってことは……!?

「戦場で、あの四天王と戦ったこともある……!?」

「いかにも最前線で暴れてそうな体つきですもんね……!?」

たしかにあのグラシャラとかいう魔王のお妃様、手足が大木のように太く、いかにもパワフル。

遠目に男だと見間違えそうだ。

S級冒険者の俺ですら圧倒される迫力。

……魔王はよくあんなパワフルな女性を嫁に貰ったな。

「さすが魔王というべきか……!?」

「ちなみに彼女が二人目のお妃だそうです」

「さすが魔王!?」

同じ男として素直に尊敬できる!!

「……魔王様、マリネをお願いします」

「お、おう……!?」

自分の子どもらしい幼児を魔王に預け、貴賓席から飛び降りる筋肉魔王妃。

着地と同時にズシンと揺れる。

地面が!?

「……魔王妃となり、前線を退いてオレの軍人としての日々は終わったと思った。しかし唯一の心残りは、お前との決着をつけられなかったことだ」

「何度も戦いましたものね……。様々な戦場で。私も戦争が終わり、傭兵で食っていけなくなり冒険者に職業替えしてからも、アナタとの決着を忘れたことはなかった……!」

いや、そういえばピンクトントンも、あのグラシャラさんとやらに勝るとも劣らない巨躯の持ち主。

大きいし、太い。

あんな巨体女性が、正面からぶつかり合ったら……!?

「今ここで……!」

「戦場で着けられなかった決着を……!?」

「「つける!!」」

うわーッ!?

ぶつかった!?

女性らしからぬ太さと重さの巨体がぶつかり合っただけで、衝撃波みたいなものが周囲に広く飛び広がる!?

「さあ、始まりました! ピンクトントンと魔王妃グラシャラによる世紀の一戦! 双方、過去は戦場に生き、何度も戦ってきたライバル同士! 引退してもはや現役復帰はないかと思われた夢のカード! 夢の一戦! 注目せざるをえません!」

「カトウくん!?」

何その独特な口調!?

「あぁーーっと!? いきなりグラシャラの方から仕掛けてきた!? タックルが来た! タックルが来た! しかしピンクトントン堪える! さすがの粘り腰だ、あああーーーーっとッ! 持ち上げて! 持ち上げて! 叩き落とす! パワーボムだああああーーーーーッッ!!」

ねえ、カトウくん?

何なのこの口調? まるでどこかで練習してきたような、状況の伝えやすさと盛り上げの両方を追求したような喋り方は何?

「しかしグラシャラ! 魔王妃になったというのにブランクを感じさせない動きのキレです! パワーボムのダメージもものともしない! おおっとドロップキック! ドロップキックだ!? まともに食らったピンクトントン動けない!? そのピンクトントンに向かって……、ああーっとダイビングボディアタック! これは危険だ! さすが元四天王やることに容赦がない!!」

……。

まあ、当人たちが楽しんでいるならいいか。

観客たちも別の意味で盛り上がり始めたし。

我々の勝負は、なんか予測しえない方向性で走り出した。