軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

522 新・龍帝城

ガイザードラゴンのアードヘッグさん。

これまでも何度か農場に訪問されたことのある顔見知りだ。

元は人魚王のアロワナさんと友だちであるが、そのアロワナさんに連れられて農場に来るようになってから俺ともすっかり仲よしに。

「おお! 今日は聖者様まで訪ねてくださるとは! 来客は本当に嬉しいものですな!!」

そのアードヘッグさんが、何故ここに?

「やはりここは、龍帝城の跡地であったか」

俺たちと共に来訪したアレキサンダーさんが納得顔で言う。

「龍帝城?」

「ガイザードラゴンの住むダンジョンのことだ。すべての竜の頂点に立つ皇帝竜の、まさに王城と呼ぶべきダンジョンだな」

なるほど、それでアレキサンダーさんさっきから記憶の奥底を引っかき回すようなモゴモゴした表情だったのか。

「いや、確信がとりづらかった。なにしろ私が最後に見た龍帝城は、父上が支配していた頃のものだったからな」

「やっぱり違うんですか?」

たしか竜の皇帝ガイザードラゴンは、ついこの間代替わりがあったばかり。

竜の感覚からすれば一年二年ぐらいついこの間ってことで……!?

「アードヘッグが父上を倒したことでガイザードラゴンも敗者から勝者へと引き継がれた。先代ガイザードラゴンの敗北と共に、その居城も消滅したのだ」

それでこんな殺風景に?

「龍帝城は、世界中にあるどのダンジョン類型にも属さない。世界中を還流するマナの堆積ではなく、ガイザードラゴン自身の放つマナによって実体化される超特殊なダンジョンだ。だから主が消えると共に、ダンジョン自体も消滅する」

「そんなことができるのはドラゴンぐらいのものだがな! 自然現象であるはずのダンジョンを一個の生命が創り出せる! ドラゴンがどんだけすんげー存在かという一つの証明なのだ!!」

自慢気に言うヴィール。

別にお前が作れるわけじゃないだろうに……?

「これはアレキサンダー兄上まで!? 一体どうしたのです? このように世界の重要存在が雁首揃えて……、何か緊急事態でも?」

俺とアレキサンダーさんが揃って来訪したことに警戒するアードヘッグさん。

俺はともかく、世界最強のアレキサンダーさんがアポなしできたら、まあさすがに何事かと思うよな?

「アレキサンダーさんは、たまにここに遊びに来たりしないんですか?」

「しないな……! 元々龍帝城には、父上から勘当を言い渡された時から寄り付かぬようにしていたゆえ」

だからさっきも思い出そうとして思い出せないもどかしい表情をしていたのか。

随分久しぶりな上に景色もすっかり様変わりしていたから。

「父上が支配していた頃の龍帝城は、それこそ島中を覆い尽くすほどの要塞ぶりだったが、いやまあ殺風景になったものよ……」

「用がある時はおれの方から訪ねに行っていましたから、兄上がこっちに来ることはなかったですよね?」

たしかに友だち同士でも、どっちがどっちの家に遊びに来るかは固定されてることがあるあるだよね?

「それ以前にこんな何もないところに兄上をお招きするわけにもいきませんからなあ! あははははは……!!」

「それ笑うところか?」

どことなくアードヘッグさんの笑い声に乾いたものが宿っているのを俺も感じたのであった。

そこへ……。

「ヴィール!? それにお兄様まで!? 何故このようなところにまで!?」

新たにやってくる人影。

全身真っ黒なドレスに包まれた……美しい女性!?

「ブラッディマリーさんか」

彼女もドラゴンで、俺は前に一回だけあったことがある。

なんでここにいるんだ?

「マリーよ、お前まだアードヘッグにくっ付いておったのか? 自分のダンジョンに帰らないのか?」

「煩いわねえ! こないだ一回帰ったわよ!!」

「そしてまたアードヘッグにくっついてここまで来たと?」

あまりイジッてやらないでくださいアレキサンダーさん。

きっと恋する乙女のなんちゃらかなのですよ。

「父上とシードゥルもいるのか? 私のところへ来たときその面子だっただろう?」

「アイツらなら向こうの方で遊んでいるわよ?」

マリーさんが指さす先で、たしかになんか小さい人影が二つわちゃわちゃしている。

アル・ゴールさんとシードゥル。

「行きますわよお父様―」

「よっしゃこーい」

「レシーブ」

「トス!」

「スパイク」

「アタック!」

「コークスクリュー」

「ぐるおおおおおおおおおッッ!?」

なんかすっかり仲良くなってない?

「新ガイザードラゴンの取り巻きも、すっかり面子が固定された感じだな」

「あんな連中とわたくしを一緒にしないでほしいわ!! それよりもお兄様の方からわざわざやってくるなんて! 一体何用なのかしら!?」

話の方向性がすっかり迷子になっていたのを、正しい方向に引き戻してくれた。

さすがマリーさん。

ガイザードラゴンの補佐を務めていらっしゃる。

「そうだそうだ本題があったな。だがヴィールよ。お前の目論見が私にもわかってきたぞ?」

「さすがアレキサンダー兄上、皆まで言わずとも察する力が凄いのだー」

え?

どういうこと?

察しの悪い俺は皆まで言われないとわからない。

「我々が探しているのは、今まで誰も踏み込んだことのない未開ダンジョン。誰もが初めて挑戦するからこそ攻略競争の公平が保てる」

「そしてここには、新しくガイザードラゴンになったアードヘッグが新しく作る龍帝城があるのだー!」

そうか。

出来たてホヤホヤのダンジョンなら、誰もまだ入ったことはない。

全員が初攻略となる意味で、新ガイザードラゴンのアードヘッグさんが作る新龍帝城はたしかに打ってつけだった!!

「というわけだアードヘッグ! お前のダンジョンを使わせてくれないか! 人類の未来のために!!」

「うわッ!? なんですかッ!?」

皇帝竜を超えた最強竜から求められてはアードヘッグさんもタジタジだ!

「よ、よくわかりませんがアレキサンダー兄上の頼みとあらば断わるわけにはいきませんな。人情的にも実力的にも……」

「やった!」

アードヘッグさんの口ぶりが悲しい。

「それに人類に役立つことであれば、おれも気が進みますぞ。最近の経験から、これからのドラゴンはもっと人類に慈悲を懸けてやるべきだと考えたのです!」

「おお! いい心がけだ! お前が新しいガイザードラゴンとなってドラゴンの世も一層よくなることだろう! ですよなあ父上!?」

「はーん!? なんのことかなー!?」

相変わらず潜在的に不仲な長男竜と父竜。

アードヘッグさんが快く了承してくれたことで、ついに闘場の問題も解決したかのように思えたが……。

「ちょっと待て、まだ問題があるのだー」

ヴィールが言う。

なんだ? ここに連れてきたのお前だろうに?

「おれも予測していなかった問題を、ここに来て実際発見してしまったのだ。見ろ、この見渡す限りのサラ地を!」

うん?

そういえば、本来ここに竜の王様のお城があるはずなんだよね?

しかしあるのは草も生えない平地だけ。

「おいアードヘッグ? お前まだ龍帝城の創造に着手していなかったのか?」

「…………」

アードヘッグさんが答えない。

ただ顔中にだらだら汗をかくのみ。

「参考にするとか言ってあちこちのダンジョン回っていたじゃないか? アイデアもだいぶ溜まって充分に実体化できるものと思っていたぞ? 今日も到着した時には、完成した新・龍帝城の全景が拝めるものと思っていたのだ!!」

「待って! これはしょうがないのよ!!」

本人に代わって弁明するマリーさん。

「案が多すぎて却って進めない時ってあるじゃない! そういうものよ! アイデアが多すぎてもいけないのよ!!」

「あの見学旅行は何の意味があったのだ!?」

何にせよ、ここに新たな龍帝城ができていないということは、勝負する人たちが突入するダンジョンもないってことじゃないか。

それでは勝負ができない。

解決したと思ったら話がまた振り出しに!?

「仕方ない……! こうなったらグズグズな弟のために姉が一肌脱いでやるのだー」

ヴィール、謎の腕まくり。

「アードヘッグはダンジョンの元となるマナを放出しておけばいいのだ。具体的な構成はこのダンジョンデザインの鉄人ヴィール様に任せておけ!」

「姉上!?」

「そういうことなら私も手伝おう! 話を持ってきたのは私だからな。汗を流さねば不義理になる」

「アレキサンダー兄上!?」

ヴィールにアレキサンダーさん。

家主の許しもなく勝手に皇帝の城を着工!

両者、自分のダンジョン作製に心血を注ぎ込む数寄者だ。ヒトん家と言えども手を抜くことはしない

「何をやっているの二人とも!」

狼藉を始める竜たちに叱責を飛ばすのはブラッディマリーさんだった。

「龍帝城の主はアードヘッグなのよ! 彼の許しもなしに居城に手を加えようなんて不敬にも程があるわ!」

「マリー姉上!」

「そう思ってずっと我慢してきたのにアナタたちだけ抜け駆けを許すものですか! わたくしだってビューティフルな龍帝城の意匠を手掛けるのよ!!」

「姉上えええええええッッ!?」

こうして城主が思いきれず遅々として進まなかった龍帝城作りは……。

他者の手によってあっという間に成し遂げられたのだった。