軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

517 ジュニア育成日記

ウチのジュニアが生まれてからとっくに一年過ぎた。

正式名、聖者キダン・ジュニア。

我が麗しの息子が生まれてからは、それ以前の生活とはまったく趣を変えて騒がしくなった。

夜泣きで起こされるわ、ジュニアの体調がちょっとおかしくなるだけでパニックだわ。

子どもに振り回される生活。

しかし、変え難い喜びや感動もある。

「旦那様! 旦那様!」

「どうしたプラティ?」

「ウチの子が天才だわ!」

「落ち着け」

何があったのかと寄ってみたら、ジュニアがトークしていた。

「ママ、ママー」

「ジュニアがお喋りしたのよ! この歳でもう! これは天才よ! 天才と言っても過言ではないわ!!」

プラティが親バカを露呈させておる。

しかしジュニアももう一歳……半かな?

それくらいになればカタコト喋り出すのは自然と聞く。

発育が平均より遅れて不安がるのもいけないが、とりあえずウチの子はごく平均的に成長しているようだから慌てず騒がずしておけばいいんじゃないかな?

「パパー」

「ウチの子は天才だ!!」

「ご主人様落ち着くのだー」

ヴィールからツッコまれた。

「ヴィーヴィー」

「それっておれのことか!? 凄いぞジュニアは天才なのだ! こうしてはいられない! お祝いのパーティを開くのだー!!」

こうしてツッコむ者は誰もいなくなった。

ジュニアが生まれてからの我が農場は大体こんな感じです。

* * *

こんな風に日々目を見張る成長をしているジュニアだが、上がったのは知力だけではない。

機動力も上昇した。

もはや一人で立って歩くことを覚え、自分の意思で行きたい場所へと行く。

お家の中は彼の冒険フィールドとなった。

そのお陰で大変な者たちもいる。

「うわあああああ、あぶないのですーッ!?」

「おぼっちゃま、そっちは危険なのですーッ!」

「つくえのカドがあぶないのですーッ!!」

「段差があぶないのですーッ!」

「階段のぼっちゃダメですーッ!?」

「そっちは台所なのですーッ!?」

ジュニアの不用意な移動に目を光らせているのは、屋内掃除を担当する大地の精霊たち。

彼女ら自身子どものようなものだが、それでも危険判断能力は今のジュニアより格段にある。

彼女たちに見張ってもらえればとりあえず安心だが、本業に集中できなくなるほどに大地の精霊たちの気の張り方がMAX。

「しんどいのですー……!」

「きづかれするのですー……!」

「きんちょー感がハンパではないのですー……!」

通常業務以上に負担が大きくなってるので報酬のバターを多めに出しておかねばと思った。

ことほど左様に、我が子の周囲を振り回す率は両親の俺たちだけに留まらない。

こんな事案もある。

ウチの家は和風建築なので軒下に縁側がある。

天気のいい日などはここで日向ぼっこすると最高なのだが、ただ今冒険心の塊であるジュニアがここへ訪れると、第一種警戒態勢になる。

反応するのは庭先で寝ているポチと、縁側で寝ている博士だ。

犬と猫。

『あのガキまた来やがったにゃー!?』

「バウッ!?」

ポチは庭から、博士は屋内から。

ジュニアが誤って縁側から落ちないように最大限の注意を払う。

『ニャーは内側から引っ張るから、犬っころは万一外側へはみ出た場合押し返すにゃ!』

「バウバウッ!」

犬と猫の共同作業によって、ジュニアは縁側から真っ逆さまに落下するリスクを回避できる。

一応俺も心配してあとからついて言っているが、ウチの賢い動物たちがいるおかげで安心だな。

『にゃあああああっす!? このガキ居座りやがったにゃーッ!? 気が休まらないにゃーッ!?』

「バウウウウウウウッ!?」

ここでも気苦労かけ通しだが……。

意外にも子育てで心強い味方になってくれる動物たちであった。

* * *

それからジュニアは、普通に食事もするようになった。

プラティのおっぱいからは大分前に卒業したこの子であるが、それだけに彼に栄養提供するのは俺の役目!

我が子のためにもより一層料理の腕を振るうぞ!

一歳過ぎたこの子ももう離乳食という時期でもないが、それだけに色々作るものの幅が広がる。

子育ての先輩である魔王さんご夫婦から聞いたが、赤ちゃんももう一歳半越えると大抵のものは食べられるとか。

ならばこの農場で取れるあらゆる食材を駆使して、ジュニアに豊かな食生活を送らせてあげよう!

と宣言したら魔王さんたちから不安げな顔をされた。

――『赤子の頃から、農場の最高食材に慣れてしまって大丈夫か?』

と。

そんなに危険かなあ? ウチの食材?

たしかに小さいころから好きなものばなり食べさせて好き嫌いが激しくなってはいけない。

ここは俺が父親として、我が子にあらゆる料理を楽しめる大人になるように工夫を凝らすとしよう!

まずはやっぱりニンジンとピーマン!

子どもの嫌いな代表選手!

この二種類を食べてもらえるように工夫を凝らそう。

真っ先に思いつくのはやっぱり刻んで何かを混ぜることだな。

原形を留めなくして、さらに子どもの好みそうなものとごっちゃにすることによって体内に潜入させる抱き合わせ作戦だ!

というわけで実験的に作ってみました。

ニンジンケーキ。

ケーキの生地にニンジンを混ぜ込んで焼いてみた。

さて、これをいきなりジュニアの食べさせるのも不安なので誰かで実験してみよう。

「おいヴィールよ。ケーキ食べるか?」

「ケーキ!? 食う食う! 食うに決まっているのだ! どうしたんだご主人様!? 特に何もしてないのにケーキなんて! 何かの日なのか!?」

ちょうどいいところに通りかかったドラゴンのヴィールにニンジンケーキを差し出す。

まあ、疑いもせず食うてみんさい。

「いっただきまーす! うめうめ! やっぱりケーキはうめーなー! でもなんか、このケーキ赤くね? まあいいか! ケーキばんざーい!!」

ヴィールのヤツは、多少の違和感を気にしながらもケーキの甘さの方に注意がいって、結局最後までバクバク食べた。

さー、食い終わったところで種明かしでーす。

「実は、そのケーキの中にはニンジンが入ってたんだー!」

『な、なんだってー!!』

ヴィール、衝撃のあまりドラゴン形態に戻る。

『だ、騙したなご主人様ー! このおれに! このおれにニンジンを食べさせるなんて鬼の所業なのだーッ!!』

「お前もニンジン嫌いなのかよ」

見た目通りの子ども舌だった。

とりあえず騙したことを丁寧に謝罪しつつ、ヴィールをすっかり騙せたことで自信をつけた俺は、改めてニンジンケーキを作製。

「ジュニア今日のおやつはスペシャルだぞー? ケーキだぞー?」

と俺がジュニアの下へ駆けつけると、そこでは既にプラティがおやつを与えていた。

何を食べさせているのかな? と思ったらニンジンだった。

ニンジンそのものを軟らかく煮た、何の工夫もないニンジンそのもの。

「ほーらジュニアの好きなニンジンよー?」

母親の差し出すままにジュニアは迷いなくニンジンに齧りついた。

「ジュニアは好き嫌いがなくて偉いわねええ~。さすがアタシの息子!」

そうだった。

ジュニアは幼児だというのに嫌いな食べ物とかまったくない稀有の逸材だった。

ああしてニンジンを齧ってる今も『これは子どものころ嫌いだった味だ』って風な表情をしている。

今もって子どもだというのに。

「…………」

「あら、どうしたの旦那様?」

「プラティ、ケーキ食べる?」

「きゃーケーキ! どうしたの旦那様なんかの記念日!? 食べる食べる! 幸せが口の中に広がるわ!!」

「ニンジン入りケーキだけどね」

「なんてもの食わすの旦那様!?」

プラティもニンジンが苦手だった。

もしかしてこの中で一番大人なのはジュニアなのでは……!?