作品タイトル不明
484 ギルドvs商会
バッカスが経営しているおでん屋が気になった。
バッカスと言うのは神と人のハーフで、もう何千年も生きている。
もうほとんど神と言っていい存在なのだが無類の酒好きで、その何千年かを酒造り、酒飲み、酒布教に費やしている酒マスターだ。
先日『真に酒を楽しむには一緒に食べるつまみも重要』という話になり、試みの一端としておでん屋を開業。
美味しい日本酒の置いてあるお店として、なんとバッカスみずから主を務めだした。
俺としてはあの酒神が客商売……と言うだけでも不安極まりない。
トラブル防止のためにも、こまめに様子を窺うつもりでいたのだがアロワナさん及び俺の結婚式、魔王さんのダイエット騒動など様々あって後回しになってしまっていた。
……。
俺こっちの世界でのんびり気ままに暮らすつもりだったのが、気づけば忙しくなってるんだよなあ。
まあ、これも宿業と思って受け入れるか。
こうしてできた余暇を利用し、バッカスの様子を見に来ている。
さて、俺が目を離している間に酒神のおでん屋はどう変わったであろうか?
相変わらず繁盛しているかな?
と覗いてみたら……。
* * *
争いが起こっていた。
バッカスのおでん屋がある魔都の一角。
そこでいかにも威勢のいい魔族男たちが数十人と睨み合っている。
「零細ギルドが、思い上がるな!」
「そりゃこっちのセリフだ商会のイヌが! 資本にモノをいわせりゃ言うこと聞くと思うなよ!!」
かなり険悪。
なんでここのおでん屋は訪ねるたびに抜き差しならない状況になっているんだ?
「おッ、聖者ではないか。いらっしゃい」
いがみ合う男どもの向こうでは、店のおやじにして酒神バッカスが何事もなかったかのようにおでんを煮ていた。
「最近顔を見せないから心配していたぞ。他の店に浮気していたか?」
「お前こそ少しは農場に顔見せに来いよ」
夢中なことが見つかると、そっちに懸かり切り。
それを数千年と繰り返してきたのが半神バッカスなのだ。
さすが奔放な天神の血を受け継いでるだけはある。
「積もる話もあるだろうが、座ったらまず注文が礼儀だ」
「はいはい、じゃあ大根とちくわ、あと厚揚げください」
「酒は?」
「昼間っから飲まねーよ。今の注文も昼飯気分だし、ご飯があれば欲しいくらい」
バッカスの店のおでんはおつゆが濃厚なので、充分ご飯にも合う。
昼に定食を出したら必ず売れるだろう。
実際ご飯が出た。
おでんをおかずに食べる白飯美味い。
「……で、店前で営業妨害甚だしい彼らは何なの?」
俺が美味しいおでんに舌鼓を打っている間も、店先ではむくつけき男どもが押し合いへし合い、いがみ合いを続けていた。
あれではお客も店に入って来づらいであろう。
「さあ、私が気にしているのは、美味しいお酒とおでんを人々に提供することばっかっす!」
「相変わらず自分の興味があることにしか興味がない……!」
この神は、毎回こんな感じなのでまともに向かい合っていたら話が進まない。
ここは、もう一人しっかりした解説役が必要だな。
「ベレナ」
「はい」
俺に同行していたベレナが隣の席で、ちくわぶに齧り付いていた。
「少し待ってください、これを食べ終わるまで……!?」
「落ち着いて食べなさい」
バッカスのおでん屋は魔都にあるので、俺が訪ねるには転移魔法要員に送ってもらうことが必要不可欠。
それを務めるベレナだった。
そして魔都の中を案内してもらうことも考えれば、元魔王軍に所属していたベレナこそが打ってつけ。
「……ごちそうさまでした。……さて、店先で言い争っている一方は、恐らく居酒屋ギルドの人たちじゃないですかね」
「ああ、こないだもいた……?」
前にこのおでん屋を訪ねた時にバッカスを締め上げていた者どもだ。
魔都では、どんな職種にも相互扶助会というべきギルドがあって、そこに所属しなければお店は開けない。
かつてバッカスのおでん屋は、無許可営業ということで居酒屋ギルドから咎められていたのだが……。
「バッカスが正体を現すことで解決したんじゃないのか?」
「酒に関わる職業にとってバッカス様は守護神ですからね。特例が認められて、すぐさま許可が出されたと記憶しています」
さすが事後処理にも関わったベレナは、よく知っている。
「でもそれならギルドとのいざこざはすっかり解決したんだろう? 何故また店先で騒動を起こしているんだ?」
「それは恐らく相手側に理由があるのでは?」
相手側?
そうか、揉めているということは意見が衝突する相手がいるということ。
よく見れば男たちの人垣は真っ二つに分かれ、天下分け目とばかりに睨み合っている。
「ギルドと揉めている……、一体何者なんだ?」
「それがわかれば対立の理由がわかるでしょうが、その前に追加ではんぺんください」
ベレナは練り物が好きなようだ。
「俺にもごぼう天と白滝」
バッカスのおでんが美味しいお陰で、ちっとも話が進まない。
* * *
「ふー、食った食った……!」
「お腹いっぱいですねー」
満たされてようやく争いに介入する俺たち。
「で、キミたちは何を争っているのかね?」
「何だオッサン!? 部外者は引っ込んでろ!!」
凄い剣幕。
仲裁に乗り出そうとしたのにまったく話を受けつけない。
「いい加減にしやがれ! こうなったら力づくで追っ払ってやろうか!?」
「粗暴なギルドはすぐ暴力に訴える。どうしてもやるというなら、お前たちが劣っているのは資金力だけじゃないと思い知ることになるぞ?」
いかん、険悪さが積もりに積もってもはや暴発寸前だ。
このままではバッカスの店の目前で乱闘騒ぎが起きかねない。
「そんなことになったらバッカスの店が潰れかねない。こうなったら……!」
「私の魔法連射で一掃しますか?」
とベレナ。
彼女も本当に逞しくなったな。
いざとなったら彼女に『お願いします!』しようとしたが……。
「やめなさい見苦しい」
先んじて荒くれ者どもを制する声がした。
しかもこの声には聞き覚えがある俺も。
彼は……。
「シャクスさんじゃありませんか!?」
魔国の商会を率いる偉い人!
我が農場とも取り引きがあって懇意になってる御方が何故ここに。
「これはこれは聖者様。思わぬところでお目に……いや、そこまで思わぬことでもないですな」
俺の姿に気づいたシャクスさんは恭しく挨拶。
相変わらず抜け目ない人だ。
「バッカス様が営むレストランにアナタ様が関わっていないはずがありませんからな」
「いや、レストランって……!?」
そんな大仰な……!?
「ウチの者たちがお見苦しいところを見せてしまいました。聖者様からは失望を禁じえぬところでしょうが、吾輩に免じてどうかご容赦のほどを……!」
「いえいえいえ……!?」
そんな丁寧に……!?
さすが商会長はやることにソツがない?
「じゃあギルドと揉めている相手側は、商会の人たち?」
「困ったものです。商会に所属する者は、末端であろうとお客様の目に触れる機会があるから常に優雅に振舞って、お客様の気分を害さぬようにと指導してあるのですが……」
社員教育も徹底なすってるんですね……?
「ただ、相手がギルドとなるとどうしても荒っぽくなり……、やはりゴロツキと接すると荒々しさが移ってしまうのですかな?」
「おうおうおう!? そりゃどういう了見だ!?」
また新たな登場人物が!?
「テメエごときが生意気な口ぶりじゃねえかシャクス! 舐めた物言いしてると昔みてえにシバき倒すぞ! この居酒屋ギルドのギルドマスター、サミジュラがな!」