軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

461 閉式

こうしてすべてのプログラムがつつがなく終了し、俺とプラティの結婚式は成功裏に閉幕した。

最後、ブーケ逃げ切り成功というまさかの事態に女性陣からのブーイングが物凄かったが、後日何らかの埋め合わせをするということで何とか収まった。

外より来賓の方々は、転移魔法によってそれぞれのお家へと帰る。

「皆さまこちらをお持ち帰りください」

といって招待客一人一人に手渡すのは……。

結婚式最後で最後の企画。

引き出物だった。

結婚式といえば、来てくれたお客様に感謝の気持ちを込めて進呈するお土産。

それが引き出物。

俺たちの結婚式でも当然用意してある。

引き出物といえば定番は何か?

色々考えた末に俺が出した結論は『皿』だった。

どんな大量の料理でも盛り付けできそうな大きな皿。

もちろんエルロンたちに焼いてもらう。今や魔都で大評判のエルフ製食器皿だけに、もらった人はニッコリなること間違いなしだろう。

しかしそれだけではまだ寂しい。

今回の、結婚式の引き出物としてでないと貰えないようなオリジナル感を付加させたい。

結婚式の引き出物として定番と言えるような飾りつけ。

そう、俺たち夫婦の肖像画をデンと描き込むのだ!!

皿はエルロンたちに急ピッチで焼かせ、エルフや留学生の中から絵心のある者に筆を持たせ、描く。

俺とプラティ、二人が向き合いつつ微笑を浮かべる絵を。

画材は釉薬を使うため、食器としても充分使用可能。皿の上にたくさん料理を盛って、平らげると最後に皿の底から俺たち夫婦とご対面となる仕掛けだ。

『そんなの微妙だよ……』『使えないし捨てられない』となること請け合いの貰って困る引き出物の代表格。

『そこまでわかっていて何故作った?』と言われそうだが、そういう貰って困る引き出物を贈られて湧き起こる煩悶も結婚式の醍醐味ということで。

みんなにも心行くまで結婚式を悲喜こもごもしてほしいんだ!

だから贈る! この貰って困る引き出物ランキング不動の第一位!

夫婦の肖像画入り巨大皿を!

* * *

この時の俺はまったく知らなかったが……。

例えば俺が前住んでた世界の、中世ヨーロッパなどではお皿を本来の食器としては使わず、あえて装飾品として部屋に飾ったりすることもあったそうな。

そういう習慣はこっちの世界にもあるらしく、俺が完全ジョークのつもりで贈呈した『夫婦の肖像画入り大皿』も装飾用、観賞用と理解されたらしい。

受け取った招待客は嬉々として応接間とかに飾り、訪問客に見せびらかしたという。

それを見た訪問客は『これが聖者様のご尊顔か……!』と感動し、主人に許可を得て複製画を作製。

自分の屋敷やら公共の場に飾ったんだそうな。

なんで?

というと、今や世界のどこかに隠れ住む聖者の存在は広く知れ渡り『神に匹敵する万能者』として崇め奉られているのだそうな。

そんな聖者の確たる姿と言ったら神聖画といってよく、偶像崇拝の対象として全土へ拡がっていく。

こうして絵画の題材として、聖者夫妻像はポピュラーなものとなっていく。

無論そんな大変なことになるなど、軽い悪戯心で嫌引き出物を作製してた頃の俺は知る由もないのであった。

…………。

* * *

こうして結婚式は終わり、俺とプラティの特別な時間は過ぎ去った。

招待客も見送り、式の後片付けも終わって、何事もない平和な日常へと戻る。

ウェディングドレスも純白タキシードも脱いで、ごく普通の普段着に。

たまのおめかしもいいが、やっぱり日頃から着慣れてるものの方が落ち着くな。

「ジュニア~、長いこと離れててゴメンね? おばあちゃんの腕の中は抹香臭かったでしょう~?」

式中シーラお義母さんに預かってもらっていたジュニアを取り戻しご満悦のプラティ。

花嫁気分でいることも心躍ったが、やはり今の彼女はジュニアの母親であることの方に頭がいっぱいらしい。

しばらく母の腕の中でご満悦だったジュニアも、今度は俺の方に手を伸ばす。

俺にもかまってくれるのか。優しいなジュニアよ。

プラティからジュニアを受け取って抱え上げた。

ああして、いかにも節目らしい儀式を執り行ったものの、それが終わって何かが変わったという気分は特にない。

それはそうだ。

普通の夫婦ならまだしも俺たちは随分前から夫婦だったのだから。

「……でも、思い出は残った」

「そうねえ、おいしいケーキも食べたし、ブーケでたくさんの小娘どもを翻弄できたし」

それは結婚式の思い出として正しいのかどうか?

いやまあいいか、プラティが楽しいと言ってくれたんなら。

ただ一つ変わった点があるとしたら、それはプラティの左手の薬指に光る指輪。

何の飾り気もないシンプル極まりない指輪だが、それが今ではプラティが人妻である証だ。

大騒ぎの果てにちょっとした変化。

人はそうしたものの積み重ねによって日々変わっていくのであろう。

結婚式という大騒ぎも終わって。

ウチの農場はまた細々とした移り変わりの日々を送っていく。

追記だが、結婚式を挙げてからの数日間。

プラティの機嫌が最高によかったのは言うまでもないのだった。

* * *

さて、ここからは余談だが。

ブーケが帰ってきた。

『ただいま戻りましたぞ!』

「なんで?」

お前、空の彼方へ飛び去って行ったじゃないか。

また戻ってくるとは思いもよらなかった。

『プラティ様に飛翔推進魔法薬を補充してもらわないと飛び続けられませんので』

「飛び続ける必要があるのか?」

お前が誰の手にも収まらないまま勝ち逃げしたことで会場は大ブーイングだったんだぞ?

そして結婚式も終わった今、何故なおも飛び続けようとする?

飛ぶこと自体に使命感を感じるタイプか?

「あ、ちょっと待ってねー、今注入してあげるから」

「補給するの!?」

なんかよく知らないけど、さらに飛び続けるための魔法薬を!?

プラティの所業にちょっと理解が追い付かない。

いいじゃないコイツ力尽きて地に堕ちるままに任せたら!

「ところがそういうわけにもいかないのよー。この子が飛び続けてた方が何かと有益でね」

何の益があるというの!?

俺がすっかり理解をお手上げしていると……。

「……あッ!? ブーケがいたわよ!」

「ホントに! チャンスだ捕まえろー!!」

通りかかった女の子が、即座にブーケに飛び掛かった。

何この瞬発力?

『そうはいきませんぞ! プラティ様に推進剤を補給してもらった今、私は万全! つまり捕まる要素はないということ!』

そしてブーケの野郎はまた目で追えない速度で飛び、女の子たちを難なく振り切るのだった。

「あーん! また逃がしたー!」

「今に見てなさい! 次こそ捕まえてやるんだからー!!」

なんでそんな警察みたいなセリフ……?

「式当日はブーケを捕まえられた子誰もいなかったでしょう? それで『捕まえたら結婚できる』という約束がまだ生きてるのよ」

「何それ?」

そもそもブーケは捕まえるものじゃないよ?

そこから価値観をすり合わせる必要がありそうなんだが?

「今でも時に農場内に出現するブーケを、夢見る独身乙女たちは競って捕まえようとしているのよ。でもブーケの方は壮絶な素早さで逃げ切っていまだ誰も捕まえられないけど」

ブーケがいつのまにか、は〇れメ〇ルみたいな扱いになっていた。

倒せれば莫大な経験値(結婚の経験)が入ってくるという。

しかしは〇れメ〇ルほど良心的な難易度調整もなく、むしろ壊れ難易度を仕掛けてくることで有名なプラティ謹製のブーケだからクソ素早い上に回避率百パーセントで、どうしようもないクソゲー。

しかも万が一捕まえたところでご褒美は迷信レベルでしかないという悪魔の仕様だった。

しかし乙女たちはそれでもブーケを捕まえようと奔走する。

いつか自分がウェディングドレスを着る日を夢見て。