軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

432 挙式の前に ランプアイ編(上)

「結婚してください」

「はい」

私は人魚論客ヘンドラー。

一生の不覚。

女性の方からプロポーズさせてしまうとは。

我が想い人ランプアイは、人魚族にて魔女と称されるほどの卓越した才女。

そんな彼女に自分などふさわしいのかと葛藤している間に向こうから告白されてしまった。

こういうのは本来男の役目であろうに、なんという遅滞であろう。

機を逸した私には、彼女の申し込みを素直に受け入れるしかなかった。

こうして私とランプアイの結婚も決まった。

奇しくも我が敬愛する主、アロワナ王子も時を同じくして華燭の典を挙げる。

お相手はこれまた奇遇にも六魔女の一人。

時計るように王子と同時期に結婚。

しかも相手は同じ六魔女の一人。

人魚国最高峰の女性を同時に娶る。この関連性を周囲はどう受け取るだろうか想像するだに頭が痛い。

しかしランプアイの気持ちに応えないわけにもいかないというので、ついに年貢の納め時。

身を固めることになった。

私が身を固めるとなると非常に面倒くさい。

まあ、生まれとか、今まで歩んできた道のりとかで色々とな。

元々名家の生まれで途中出奔、実家との関わりを切って孤高の論客とかしてたら仕方ない。

それでも結婚は人生の一大事。

親元に知らせないわけにはいかないというので本日、フィアンセを連れて里帰りとなった。

* * *

そして父親と顔合わせして開口一番言われたのが……。

「お前は人魚元帥にでもなるつもりなのか?」

「何でですか?」

非常に心外であった。

人魚元帥といえば人魚国軍部のトップの中のトップ。

実力知力、覇気人徳すべてを備えていなければならないというので現在は空位となっているほどだった。

というかここ数十年ずっと空位。

新たに誰かが人魚元帥に任命されたら、そりゃもう歴史に残る快挙であった。

伝え聞くところでは、遠い魔国でベルフェガミリアなる人物が魔軍司令の座に就いたというが、人魚元帥はそれに匹敵する栄座。

「何故私がそんな大層な地位に就くとお思いですか? 血迷われましたか?」

「違うのか? ここ最近のお前の功績、人魚元帥を狙うには充分な質と量だと思うのだが?」

人魚国軍部にて大将軍の地位にある父が言う。

現在人魚軍は父上の他に二人の大将軍がいて、三人の合議&人魚王の承認にて軍の方針が決定されている。

しかし人魚元帥が就任したら完璧にその一人の決定に委ねられる。

そんな重責に私が?

想像するだに恐ろしい。

「考えても見よ。先のクーデター鎮圧の功で、お前の評価は最高潮になった。いまや『アロワナ王子の懐刀』との呼び声高い」

「そんな風に呼ばれてるんですか!?」

いや知ってたけど。

一応論客だから耳は早くないと。会う人会う人からそんな風に呼ばれて居心地悪いったらもう……。

「さらに先年の武泳大会にてベスト4に並ぶ快挙。他三人は別次元の怪物ばかりの中で、お前の武辺はそれでも存在感を示した」

「運がよかっただけです」

本当にそうとしか言えない。

ナーガス王、アロワナ王子、そして聖者様。

私が準決勝まで進出できた一番の理由は、準決勝までこの最強者たちと当たらなかったこと。

もし当たっていたら、当たったところで敗退していたに違いない。

「それでもお前は王子殿下を前に、最後まで屈することなく戦い抜いたではないか。あれは間違いなく名勝負であったぞ!」

「結局は負けました」

私の最終試合となった準決勝。

対戦相手は敬愛するアロワナ王子。しかし直接戦ってみてあの方の強さがまざまざと見せつけられた。

一回打ち合っただけですぐ『勝てない』と悟った。

陸での武者修行の成果は充分すぎるほど。修行に出る前と戻ってきたあととでは、王子の放つ覇気は別人のように違った。

試合自体は長丁場となったが、あれは意地だ。

自分がどこまで主君に近づけるか試したかっただけだ。

「臣下の身で主君に並ぼうなど不遜の極み。お前の戦績は、人臣の中で最高と言っていい」

「そうかもしれませんが……」

あの大会で私は、王族を除いて最強という評価を国全体から得てしまったのだ。

ただの論客には大袈裟すぎる称号ではないか。

「挙句の果てに、今度はかの狂乱六魔女傑、その一人と一緒になるという。近々アロワナ王子も同じく狂乱六魔女傑の一人を妃になさると伝え聞いている」

あの父上……。

『狂乱六魔女傑』というのは連呼しない方がいいです本人たちの前で。

「これはどう解釈しようと、お前と王子の結びつきを強める結果となるだろう。功績があり、実力も知れ渡り、未来の国王と尋常ならざる結びつきもある。何より血統がいい! 数十年ぶりの人魚元帥を狙う土台は充分できていると思うが!?」

『思うが?』じゃねえよ。

父め。自分の家系から頂点を輩出できると思って浮かれておる。

実現すれば快挙だなあ、たしかに。

「おっしゃる通りですお義父上!」

そして盛り上がっている者がもう一人いた。

私の隣に座っている。

「このランプアイ、これよりはヘンドラー様の愛妻として全力で支えていく所存です! ヘンドラー様はまさに偉才! 人魚元帥にまでたどり着く可能性を秘めています!」

「キミもそう思うかね! さすが結婚するだけあってヘンドラーのことをよくわかっている!」

「お義父上こそ、ヘンドラー様の才覚を見抜かれるとはまさに慧眼! わたくしの内助の功で、彼を人魚元帥まで伸し上げたく存じます!」

フィアンセがめっちゃやる気を見せとる。

……まあ、元々の職業が人魚宮近衛兵だからなあ。

やはり軍籍にいた者として人魚元帥の凄さは理解している。

そんな凄い役職に自分の夫がなれると聞いたらそりゃまあテンション上がるのだろうが。

「お待ちください父上、私は何度も言っていますように……!」

「お前も家庭を持つからには、きっちりとした仕事を持たねばなるまい。いよいよ軍籍に入る時が来たな」

それを言われるとキッツい!!

定職とみなされない論客の仕事が悲しい。

……ランプアイもなあ。農場でプラティ王女を警護するという栄えある職務を投げうって私と一緒になってくれるのだ。

私だって、二人の生活を新たに築くため、今の自分を一部切り捨てなきゃいけないんではないか?

それが結婚というものではないか。

人魚国の軍人か……、安定してるんだろうなあ……!?

「軍部ではどんなポストがいい? 近衛兵副隊長ではどうだ? 隊長の長男から色々学べるであろう!」

既に色々決めてあるし。

「きょ、今日は結婚の許可をいただきに来たので、まずはその話を……!」

「おお、そうだった。話を急ぎ過ぎるのが私の悪い癖だとよく言われているのにな。ハッハッハ!」

父上、照れ笑いを一つぶっ放して誤魔化し。

「誉れ高い狂乱六魔女傑の一人が我が家に入ってくれるなど光栄の極み! 不肖の息子ではあるがよろしくお願いいたしますぞ!!」

「狂乱なんたらはやめてください」

まったく笑顔を崩さないまま言うランプアイ。

逆に怖い。

「ではそろそろ家族全員と顔合わせいたそうではないか! 今日のために全員揃えてあるのでな! 呼んでくるので少しの間だけ待っていてくれ!」

そう言ってウキウキ、部屋から出て行った父上。

きっと別室で待機している家族一同を連れてくるのだろう。

親兄弟との顔見世がつつがなく済めば、ランプアイもいよいよ我が家の一員だ。

「……浮かない顔ですね」

二人きりになって、唐突に彼女から言われた。

「すまん。こんなめでたい日だというのに、そぐわないな……」

「ずっと気になっていたのですが、ヘンドラー様はご実家と何かあったのではないですか?」

今まで一度も聞かれなかったことをズバリ聞かれた。

……いや。

聞くとしたらこのタイミングしかなかろう。

私も聞かれたくない空気をずっと出していたから賢明な彼女は意図を汲んでそっとしておいてくれた。

しかし問題の家族とこれから付き合っていくなら、そこに触れないわけにはいくまい。

私も腹を括った。

「……まあ、よくある話だ」

ぽつぽつと語りだす。

私がこの家から出ていくことになった経緯を。

「私は落ちこぼれだったのさ」