軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

424 王のぬか漬け

結局パッファの方はどうしようもないので匙を投げた俺は、今度は出題者の方へ向かってみた。

人魚王妃シーラ様は、今は娘プラティと卓を囲んでお茶していた。

「ママったら、嫁苛めが過ぎるんじゃない? このままだと意地悪姑のキャラが定着しちゃうわよ?」

「プラティちゃんは相変わらず辛辣ねえ。でも仕方ないじゃない。結婚しちゃったらアロワナちゃんはアタシのものじゃなくなっちゃうのよ。お腹を痛めて生んだ可愛い息子が他の女のものに……!」

「だからって兄さん一生結婚しないわけにはいかないでしょう。王子なんだから特に。パッファなんて優秀なんだから大分マシな方でしょ」

「そういう口で説明できることじゃないのよ。プラティちゃんもいずれわかるわ。この子が成長して、お嫁さんを貰う歳になったら」

ウチのジュニアを抱えているシーラ王妃。

彼女にとってアイツは孫だ。

「想像してみなさい、大人になったジュニアちゃんが生意気そうな女を連れて『結婚します』って言い出したら……?」

「ぎゃああああああッ!? やだあああああああッ!?」

プラティが乱心した。

そこまで嫌か。

「殺す! その生意気女殺す!」

「でしょう? アタシはまだ殺意に至らないだけ優しいでしょう?」

「……アタシが結婚した時は特にリアクションなかったくせに」

「あら寂しい? プラティちゃんには色々言いたいことがあるけど、一般的には女の子がお嫁に行く場合父親が狼狽えるものよ。アナタが陸で結婚したって聞いてパパ号泣したんだから」

パパといえば人魚王のナーガスさん?

俺たちの知らない海底でそんな葛藤があったとは……!

「プラティちゃんも今度は女の子を産みなさい。そうすればわかるから。娘と息子、父親と母親の愛し方に違いがあるってことをね」

なんか含蓄あることを言われてしまった。

さすがに俺たちより多くの人生経験を積み重ねているだけはある。

俺も心しておかないといけないのかも。

ジュニアは男の子だから俺にはそんなに影響ないかもだけど、これから二子三子と生まれることはあり得るし、それが女の子だという可能性も充分ある。

可愛い娘が年頃に成長して……。

連れてきた野郎がガングロピアスのチャラ男だったら。

「ぎゃあああああああああッッッ!?」

「旦那様、煩いわよー?」

辛い!

娘自身が生まれる前からこんなに辛いとは!

世界中のチャラ男を撲滅しなくては!

「とは言っても親の我がままであることに変わりないのよねえ。いつまでも子どもでいてほしいと願うのは、子どもにとっては迷惑でしかない。わかっているのよねえ……」

シーラ王妃は寂しげなため息をついた。

あとナーガス陛下はまだあっちでオークゴブリンたちと相撲を取っていた。

「『ぬか漬けで王妃の何たるかを表現してみろ』なんて嫌がらせでしかないお題を出したりしてねえ。たしかにアタシ、嫌な姑だったわ」

「やっぱり嫌がらせだったんだ!!」

「ぬか漬けで王妃を語るなんてできるわけないじゃない」

でしょうね!

まさか完全無欠に嫌がらせの意図しかなかったとは!?

「でももう、あの子たちの邪魔はやめることにするわ。そのうちお題に合ったぬか漬けを持ってくるでしょうけれど。どんなものだろうと合格にしてあげましょう。それで晴れてアロワナちゃんはアタシのものから彼女のものになるのよ」

「ママ英断!」

俺とプラティで一斉に拍手した。

これが母親の決断。

息子を愛するがゆえに起こる葛藤を乗り越え、一人前になったことを認めるのだ。

「できましたーッ!!」

お、噂をすれば早速。

パッファではないか。

後方にアロワナ王子まで引き連れて。

……心なしか二人とも表情が鬼気迫ってない?

「遂に完成しました! ご所望の『王妃のぬか漬け』! きっとお考えに沿うものと自負いたします!」

「そうですぞ母上!」

アロワナ王子までなんか余裕がない!?

俺が場を離れたあと、ぬか漬け工房で一体何があったんだ!?

「……拝見いたしましょう」

対してシーラさんは冷静だった。

先ほど何があっても合格させると宣言した彼女だが、威儀は正しておきたいのだろう。

ここまで頑張ったパッファのためにも。

「わかっておりますね? この試練を乗り越えればアナタは晴れて王子アロワナの妻、ゆくゆくは人魚王妃。その覚悟を、アナタの一品にたしかに込めましたね?」

「無論です! アタイの覚悟、しかとご照覧あれ! これがアタイのたどり着いた『王妃のぬか漬け』! その名も……!」

ドンッ!

と置かれるデカめの桶。

パッファめ、桶ごと持ってきおった!?

「……ドリアンのぬか漬けです!!」

「えええええええええええええッ!?」

くさッ? くさあああああああああああッ!?

いつもながらドリアンの臭いが強烈ですぜ!?

桶の中から半分だけ顔を出しているのは、とげとげした突起を無数に、表面中びっしり並べるドリアンの果実!

そこに目鼻がついているのは、ただのドリアンではない証。

コイツはドリアンの樹霊ドリアン・カイオウではないか。

『あ、どうも』

「どうもじゃねーよ!?」

『初めてぬか床というものに浸かってみましたが案外心地いいですな』

「そんな温泉初体験みたいな感想いらんよ!?」

とにかくドリアンが出てきたために一瞬にして大混乱!

プラティは、ジュニアを抱えてさっさと逃げてしまった。

赤ん坊にはまだまだ刺激が強すぎるからナイスな判断だプラティ!

「な、なんなのこれは……!?」

さすがのシーラ王妃も頬を引くつかせて言葉を失う。

王妃の度肝を抜いたという意味ではよくやったぞ。

「よくぞ聞いてくださいました! このぬか床に漬けてあるものはドリアン! 果実の王様と呼ばれています!」

俺が教えました。

たしかにドリアンはフルーツの王様だが?

「その王様をぬかに漬ける! これぞまさに『王妃のぬか漬け』! お義母さまからの注文を見事満たしたと思いますがいかに!」

パッファの目が血走っている。

散々迷走した果てのこれなんだろうな、アロワナ王子も同じようなテンションだし。

さあ、これを受けてシーラ王妃のご裁断は……!?

「……色々言いたいことがたくさんあるけれど、何よりまず一つね?」

「はい」

「このドリアンさんですっけ? 果物の王様と言われているの?」

『いかにもですぞ』

自身が答えるなドリアン。

「そうなのー、ご立派ねー……。でもね、アタシ思ったんだけど……、果物の王様をぬか漬けにした場合……」

そう。

「出来るのは『王のぬか漬け』じゃないかしら?」

それな。

お題に出されたのは『王妃のぬか漬け』。『王』とは微妙に違う。

それでも『こまけぇことはいいんだよ』で押し切れないぐらいのズレ。

この場に居合わせた誰もが思ったことだが、結局言及したのはシーラ王妃だった。

「「…………」」

パッファとアロワナ王子、すべてが砕け散ったような顔つきになり。

「わああああああッ! ダメだったああああああッ!!」

泣き崩れた。

「できないいいいいいッ! これでもう旦那様と結婚できないいいいッ!!」

「案ずるなパッファ! こうなったらお前と一緒になるためなら王位も捨てるぞ! 二人で幸せな家庭を築こう!」

滅多なことをおっしゃっているアロワナ王子まで追い詰められてテンパってきたか。

この見るに堪えないカップルにドリアンの悪臭まで混じって騒然としてきた。

この場を収めるには。

地獄のようになっている状況を救うには……!

シーラ王妃様のご決断しかない……!

「合格ッ!!」

「「えッ!?」」

パッファ、アロワナ王子、地面を睨みつけていた顔を上げる。

「アナタたちの、なんつーのその……熱意と努力を認めます! それだけあればきっと幸せな家庭を築き上げることができるでしょう!」

「本当ですか!? やったー!!」

一応何が出てきても合格とするのは先立って決まっていたが、無理やり合格出すのがこれほど難しい題材もなかなかないな。

それでもよくやりましたシーラ王女。

よくあんなものに力づくで合格出した。

「やった! やったぞパッファ! これで私たちは晴れて夫婦だ!!」

「乗り越えたー! ガイザードラゴンと戦うより辛かったー!!」

泣きながら抱き合い、同じ喜びを分かち合う男女。

我が農場でここまで結ばれるために険しい障害を乗り越えたカップルも珍しい。

その分幸せになってほしいね、幸あれ。

「はー、ついに許可してしまったわ」

一方でシーラ王妃様も憑き物が落ちたような顔をしていた。

「これでアロワナちゃんを独占する日々は終わり、そして代わりに長い長い嫁姑戦争が幕を開けるのね。寂しいようなワクワクするようなだわ」

ちなみにぬか漬けにしたドリアンは俺とナーガス王で一緒に食ってみました。