作品タイトル不明
416 とんこつにあらねばラーメンにあらず
「新たな力が欲しいのだ」
「この上さらに?」
ヴィールから相談されて俺は当惑した。
ヴィールといえば最強種族ドラゴン、そのドラゴンの中で最強クラスに属するのがヴィールだ。
アレキサンダーさんという超別格を除けば正確に最強と言っていいかもしれない。
そんな最強の中の最強になっておきながらまだ力を欲すると?
「どんだけ向上心が高いんだよ?」
その向上心を農場で働くことに使えないのか。
「ドラゴンのプライドが懸かっているのだ。これ以上ニンゲンの女ごときに負けるわけにはいかないのだー」
ん?
人間の女?
「誰のこと?」
「あの羽女といつも一緒にいるヤツだ!」
ああ、レタスレートのことか。
羽女……、天使だから背中に翼の生えているのは至極当然のホルコスフォンとコンビのような存在だからな今や。
「いや待て、お前レタスレートなんかよりぶっちぎりで強いだろう?」
そりゃ最近の彼女は理解に苦しむほどパワーインフレぶりが酷いけれど。
それでもドラゴンを脅かすほどではないだろう?
「何を言う。おれはもう既に二回もアイツに敗北を喫しているのだー」
「えッ!? いつの間に!?」
「これ以上の屈辱はドラゴンとして許容できん! 今度こそは勝つ! だからそのために新たな力がいるのだ!」
ヴィールは力を込めて言った。
「新たな小麦粉メニューが!!」
……。
ああ。
そういうことか。
「勝負って料理勝負のことか……!?」
そういやしてたな。
冬の間開催されていた農場博覧会やオークボ城で。レタスレートたちは豆料理。ヴィールは小麦を原料にしたパンやら麺類やら。
やはり食い物なだけあって両イベントの花形化し、人気トップを競い合ったものだ。
その両方でヴィールは敗北した。
「アイツらズルいのだ! 豆だからって言って色んな種類のもの投入しやがって! こっちは種類なんてあってないようなもんだぞ! 薄力粉と強力粉の区別なんてつかないのだ!」
それでもお前、パンとかうどんとかパスタとか調理結果で劇的なレパートリーを演出できるだろう?
差し引きハンデはないんじゃ?
「それでももっとレパートリーに広がりが欲しいのだ! だからご主人様よ! 俺に新たな力を!」
ようやく翻訳完了。
ヴィールの言う『新たな力』とはレタスレート&ホルコスフォンに対抗するための新しい小麦料理のことらしい。
前にも言った気がするがヴィールよ……。
お前いつからそんな生粋のグルテンジャーに……?
「わかったわかった。じゃあうどんのトッピングとかパスタの調理法を模索してみるか」
「それではパンチに欠けるのだ! もっと! もっと根本的なところから新しいものが欲しいのだ!」
わがままなドラゴンだなあ……。
根本的にパンともうどんともパスタとも違う小麦料理か……。
「ちなみにケーキとかはNGなんだよな」
ケーキやタルトといった洋菓子類には大抵小麦が使われていて、農場博覧会の時も『菓子類OKじゃね?』という主張が出たが協議の結果却下された。
パン麺類といった主食系とお菓子ではどうしてもジャンルに違いがありすぎて、とりとめがなくなってしまうし。
あと以前から何となくわかってはいたが農場の料理って、こちらの世界から見たらかなりの中毒性があるようなんだ。
別にヤバいもの入れたつもりはないんだがな。
ただでさえ中毒性のある菓子類まで振る舞ったら、どんな事態になるかわからないという危機感からイベント御禁制になった。
ヴィール側に菓子類を許したらレタスレート側も小豆を使ったお汁粉とか羊羹を出してくるだろうし。
そうなったら和菓子vs洋菓子的な感じになって様相がまったく様変わりするだろうから。
「つまり新メニューも、主食系でまとめろってことだよな……?」
しかし、主食系小麦メニューもそろそろ出尽くしてないか?
パンでしょ?
うどんでしょ?
パスタでしょ?
他に何かあると言ったら……?
……あ。
「ラーメン作るか」
「早速いい案が出たか!?」
目を輝かせるヴィール。
ラーメンといえば麺。小麦、主食、双方の条件をクリアした優良素材。
主食といえば主食だ。
皆ラーメン屋に行けばラーメンだけ食べて帰っていくからな。
独特性があり、なんか難しそうでもあって今まで手が出なかった料理。
ラーメン。
ヴィールのオーダーに応えて作ってみますか!
* * *
そして……。
「麺はできた……!」
麺の製作過程はうどんやパスタで何回も繰り返しているので割愛した。
違うところといえば、かん水を加える程度だしな。なんかの中華料理マンガで見たことがある。
それの解明と調達に苦労したが、なんとか完成までこぎつけた。
「なんだこれー? ただのパスタじゃないかー!?」
そしてヴィールがありがちな勘違いをかます。
「新料理を創作すると思ったのに、既存品の焼き回しとは見損なったぞご主人様! 才能が涸れたんじゃないか!?」
「機会があれば罵倒のクオリティが凄まじいな、お前」
しかしラーメンが他と違うのはここからだ。
ラーメンの本領は麺だけではない。
スープにあるのだッ!!
「というわけでこれからスープを開発します」
「おおー」
ラーメンスープといえば、主な種類は四つ。
みそ、しょうゆ、しお、とんこつ……。
「なのでとんこつスープを作ります」
「ん? なんか今、奇妙な間がなかったか?」
「とんこつ以外にラーメンスープがあるとでも?」
「よくわからないけど、とんでもない暴論かましてないか!?」
何をバカな。
ヴィールの勘違いだよ。
とんこつスープを作るぞ。
カップ麺なら小袋を開けて粉末をだばぁしてお湯かければ三分で完成するが、一から作るとなると大変だ。
何より必要なのが豚骨。
こっちの世界では猪型モンスターの骨で代用する。
幸い我が農場では消費肉類代表格、角イノシシことスクエアボアがいる。
解体したあと残る骨はいつもは砕いて肥料にしていたのだが、そこから簡単に調達することができた。
「角イノシシの骨を、ただひたすら煮込んでいく」
「どれだけ煮込むんだー?」
「今からだと……、夕方ぐらいまでかな?」
「ゆうがた!?」
今、さっきちょうど朝食が終わったところです。
「そんなに時間がかかるのか!? コスパ悪すぎなのだ!? 晩飯を作るために昼飯前から用意しようってことじゃないか正気の沙汰じゃないぞ!?」
「レタスレートに勝つために手間を惜しむのか?」
「ぐッ、そう言われては引けないのだー!!」
こうして俺たちは異世界豚骨スープ作りに挑戦することにした。
「御主人様、骨を煮込むんだろ? その大量の野菜やしょーゆはなんだー?」
「味の調整をするためだよ。豚骨だけじゃ単調な味になるし、角イノシシの骨もどれだけのポテンシャルを持ってるか未知数だ」
煮立たせて味が出てきたら、味見しつつ食材追加して濃厚にしていこう。
俺とヴィールの、手探りの試みが続けられて……。
* * *
当初の目算を大幅に越えて夜までかかった。
「ぎゃー!? 何よこの臭さ!? 臭い! めっちゃ臭い!!」
プラティが台所に入るなり抗議を発した!
「また何か作ってるのはわかってたけど、なんて臭いもの作ってるのよ!? 台所の枠を超えて家中匂いが漂ってくるわよ!?」
「いいじゃないか。二軒先まで匂ってきてこそ本物のとんこつスープだ」
「知るかあ! 見なさいよジュニアがあまりの臭さに渋い顔つきになっちゃったじゃない!?」
すまぬ我が子よ。
いまだ一歳も迎えぬお前にとんこつは早すぎたか。
しかしいつかお前もとんこつを食べるために父は開発を頑張るぞ!
「……ご主人様、そろそろいいんじゃないか?」
すっかり職人の顔つきになったヴィールが、小皿で取ったスープを啜りつつ言った。
もういいか。
では、どんぶりの中で麺とスープを合わせて……!
「完成! 異世界とんこつラーメン!!」