軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39 少女の呟き

私の名前は明坂桃子。

どこにでもいる普通の女子高生。……だった。

ある日突然、異世界に召喚された。

マンガかゲームみたいな話だったけれど、紛れもない現実。

この世界は魔族との戦争で危機に瀕していて、そのために戦力を欲している。そこで別世界から勇者を召還したらしい。

異世界召喚された勇者には、神からスキルが与えられるから。

私が召喚された際に付いたスキルは『女神の大鎌+2』。

戦神アテナに由来するという、優良スキルだった。

その効果は、条件付きながらどんな相手でも一撃死させること。対象の特性、相性に関わりなく、不死性のある存在にすら効果を発揮するらしい。

条件付き、というのは使用者自身よりレベルが下の者にしか通用しない、ということ。

つまり私より強い相手には効かないってことだ。

でも私の『女神の大鎌』には『+2』の補助効果がある。

この補助のおかげで、ある程度格上相手にも一撃死は発動する。

『+1』の補助効果は時々あるが、『+2』は滅多にない、とのことだった。

このスキルのおかげで、私は異世界で充分以上の歓迎を受けた。

王様を始め会う人皆が、私のことを勇者だと絶賛してくれた。

だからこそ私は、この世界で懸命に戦っていこうと思う。

この世界を救い、いつの日か元の世界へ帰るために。

そう思って戦い始めた私だが、異世界での生活は私が考えるより遥かに過酷だった。

何よりこの世界は、私が元いた世界よりずっと文明が遅れていた。

電気がないとか、スマホがないとか、そんな次元の話じゃない。

食べるものも、寝るものも、着る服も、私の想像を絶して粗末なものだった。

この世界の一般的な人々の主食は、パン。

しかし私が知っている、前の世界で食べていたパンとは比べ物にならない粗末なもの。

カチカチに固まった鏡餅かというぐらい硬くて、普通に食べから歯が欠けてしまう。

仕方ないので一緒に出される水でふやかしてから食べる。

お茶とか、コーヒーとか、そんな洒落たものはこの世界に存在しない。

不潔でノミが飛ぶ寝床。

元の世界から着てきたパンツやブラはとっくに擦り切れてゴミと化し、代わりに着ているこの世界の衣服は麻袋かと勘違いするぐらいに布地が荒い。

肌に直接触れると常にチクチクする。

こうした過酷な環境に、異世界からやって来た人々の大半は馴染めず、遠からず衰弱して死んでしまうのだそうだ。

私がこの世界に召喚された時も、一緒に召喚されたらしい人が十人くらいいたが、その中で今でも生き残っている人は何人になるだろう?

召喚されてから、それぞれの所持するスキルに応じて色んな場所に振り分けられたらしく、あの日以来一度も再会していない。

そういえば、あの中で一人だけ「スキルなし」と診断されたオジサンがいたけど、どうなったのだろうか?

やっぱりもう死んでしまったんだろうか?

私のように優良なスキルをもって、そのために王様たちから大事にされる私は、ごく限られた恵まれた環境にいることを常に自覚しないといけない。

戦って、戦って、戦い抜くんだ。

この世界の人々のために。

だって私は、神様から選ばれてスキルを与えられた勇者なんだから!!

* * *

そんな私のすべてを打ち砕くような、衝撃的な出来事が起こった。

『女神の大鎌+2』スキルのお陰で、王国より一等勇者の認定を得た私は、その肩書きに見合った義務を果たすため戦争の最前線へと赴いていた。

敵は魔族。

その魔族が差し向けるモンスターを、右へ左へと斬り伏せていく。

モンスターの数は無尽蔵で、どれだけ『女神の大鎌+2』で斬っていっても終わりが見えてくる気がしなかった。

永遠に続くかに見える、混沌の戦場。

その混戦が、いきなり停止した。

人族も、魔族も、モンスターですら、突如空から飛来してきたものに気魂を奪われ、呼吸を忘れてしまった

ドラゴン。

この世界の人たちから何度も教えられた、世界二大災厄の一方。

それを見たら死を覚悟しなければいけない、とまで言われる。怪物の中の怪物。

それが何故魔族と人族の戦場へ?

ドラゴンが発する覇気というか気迫に、両陣営の誰もが動けなくなり硬直した。

戦うどころか逃げることもできない。

これが世界最強の生物、ドラゴンのパワーだというの?

勇者である私にはわかる。見ただけでわかる。

対象を一撃死させる『女神の大鎌』スキルを持つ私でも、あのバケモノを殺すことは絶対にできない。

力量差があまりに大きすぎる。

対象とのレベル差を埋める『+2』の補助があっても、いいえ、たとえ『+100』の破格補助があったとしても、あのドラゴンを私が殺すには到底足りない。

私は、神の与えてくれたスキルのおかげで少なくともこの世界で最強になれる。その望みはあると思っていたのに。

この世界の強者の標高は、私が想像するより遥か上まで伸びているというの?

『……この戦場に居合わせる、すべての下等種族に告げる』

!?

これはドラゴンの声!?

ドラゴンが喋っているの!?

『おれは偉大なる竜の王ガイザードラゴンの娘。グリンツェルドラゴンのヴィール。今は聖者キダンを主としている』

竜の王の娘!?

聖者を主!?

どういうことよ!? あの竜よりさらに上の存在がまだいるってこと!? しかも一人ならず!?

『今日は、我が主に盾突いた無礼者を送り返しに来た。死んではいない。我が主の慈悲だ』

そう言って竜は、自分の手から三人ほどを地面に放り投げた。

あれは、魔族?

『ここで下等種族全員に告げておく。魔族、人族隔てなく。我が主は慈悲深いゆえに多少の無礼は許してくれるが、おれは違う。主への無礼はおれへの無礼だ』

そしてドラゴンは炎を吐いた。

地上へではなく空へ向けて。

しかしその火炎は空を丸ごと覆い尽くしてしまうほどに大きく、余波にて起った熱風で人族、魔族両軍の兵士たちが何百人と吹かれて舞い飛ぶ。

空へ向かってのブレスだからその程度で済んだけど、もし地上に直撃していたら、ここにいる両軍まとめて五回は全滅している規模。

『もし再び我が主へ無礼を働けば、このブレスがお前たちのもっとも多く住む街に直撃することを約束する。我が主の名は、聖者キダン! その名を心に刻んで忘れるな! 聖者の敵は、このグリンツェルドラゴン、ヴィールの敵となることも!!』

そうしてドラゴンは去っていった。

その羽ばたきによって、竜巻のような暴風を起こしつつ。

竜が去ってからも、私はしばらく放心して動けなかった。

他の数万人の戦士兵士たちと同様に。

私は驕っていた。

神様からちょっといいスキルを貰ったぐらいで、この世界で最強になれると驕り高ぶっていた。

この世界には、私なんかには越えられない高すぎる壁がある。

その壁の向こうにいる絶対者の一人が、あのドラゴンなのだろう。

そしてあのドラゴンすら従える聖者というのは、一体何者なの!?

聖者キダン。

その日以来、私はその名を忘れることは一日たりとてなくなった。