軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

390 キングオブ工芸家ズ

こうして始まりました。

エルロンvsエドワードさんによる工芸対決。

エルロンの主張する自然美か、それともエドワードさんの誇る超絶技巧か?

どちらが真実の美に相応しいかを競い合う、まさに究極と至高の対決。

開催場所は、引き続き博覧会場。

エルロンが率いる陶芸パビリオンで行われております。

並べられるエルフ側出展の皿や器、陶器製数点。

ドワーフ側は貴金属製の、精巧な細工が施された王冠やら儀仗やら宝剣やら。

真正面からぶつかり合うように並べてあった。

観客はこの間を眺めつつ通り過ぎ、出口辺りで気に入った方に投票するシステム。

投票札は入り口で一人一枚渡され、組織票を防ぐためにドワーフエルフ族は全面禁止で投票資格があるのは魔族を始めとする他種族だけ。

また一人が複数回投票するのを防止するため、投票札に特殊な魔法が施されているらしい。

一度札に触れた人に痕跡が残って、新たに別の札を手に取ったらアラームが鳴る仕組み。

協力、システム構成ベレナ。

「本格的すぎる……!?」

何にしろ、勝負への意気込みの本物ぶりが窺えた。

「そうまでして自分の主張が正しいって証明したいんだな……!?」

エルロンの陶芸、エドワードさんの金細工。

どちらも名人芸の域だがだからこそどちらが上かを証明したいのか?

勝負は二人の意地の範疇に留まらず、エルフvsドワーフの種族間の勝負という様相まで呈し始めていた。

「おい! 向こうでエルフとドワーフが勝負するんだってよ!?」

「何ぃ!? そんなイベントまで用意してあるのか!? 凄いなこの博覧会は!?」

噂が噂を呼んで、来場客も一度は訪れる空気になっていた。

そもそもエルフもドワーフも亜種族で魔族にとっては馴染み薄く。

特にエルフは自族以外との交わりを一切持たない孤高の種族なので、なおさら謎めいて興味惹かれるそうな。

ただ話題を呼ぶのはエルフとドワーフの特殊性だけではない。

展示品も充分に来場者の心を鷲掴みにした。

「ここ、これがぁーッ!? これがドワーフ一流の傑作たち!?」

「ドワーフがみずから採掘した黄金宝石を惜しげもなく使い、数百年の歴史を誇る技巧で飾り立てた逸品! 見よ、この緻密な透かし彫りを……!?」

「魔族の職人がこのようなものを作り出せるまでに何百年かかるやら……!?」

「のおおおおおッ!? こんなに大きなエメラルドを惜しげもなく! カッティングも最高じゃああああッ!!」

と大盛況だ。

俺もこの競い合いを傍から見守っていたが、この勝負どう転ぶのかな?

俺の素人目線から見て、あまりにも一方的すぎるように思えるのだが。

だってドワーフたちの出品が金銀財宝の大盤振る舞いなのに対して、エルフ作品は何の変哲もない陶器だよ?

所詮は土をこねて作ったもの。

そもそもの価値で金銀宝石に敵うわけがない。

エルロンはなんでこんな無謀な勝負に? と困惑したぐらいだが……。

意外にもエルロンの陶器にもたくさんの票が入った。

「またファームは意欲的な新作を繰り出してきましたな!!」

「……この色! ……この形! まるで自然の一部を切り取ってきたかのようですわ!」

「器の中に世界が見える……!!」

「ファームの陶芸職人は、芸術の新境地を切り拓きましたぞおおおッ!!」

え? うっそ?

エルロン側の投票箱にもじゃんじゃん札が入れられている。

「土塊が金銀と競り合ってる……!?」

「エルロンさんの作品は、いまや魔都で一大ブームですから……!」

と説明する俺の隣に立っている人。

誰だ? と思ったら。

魔族商人のシャクスさんだった。

「食器に個性をつけ、独特の世界観を築き上げたエルロンさんは、まさにただの土塊に純金以上の価値をつける錬金術師! ものによってはエルロンさんの焼く器一つに城一つ分の値打ちがつきます」

「城一つッ!?」

どこぞの戦国時代か!?

俺が驚き呆れながらも、人の通過は大河のように流れてゆき途切れることがない。

その時、人ゴミからまた一層騒がしい感動の声が。

絶叫?

「何故だぁ? こんな素晴らしいものをどうして人の手で作り出せるんだあああッ!?」

「ベベギット師匠!? 他の人の迷惑になりますよ行きましょう!!」

出展作品を囲むガラスケース(ポーエル作)に縋りつく老人を、弟子っぽい若い人が必死に押しとどめている。

「この色合い! この歪み具合! どうしてもオイラの窯じゃ出せねえ! オイラは弟子入りする、この名器を作り出した名工に弟子入りするううううッ!!」

「そんなことできるわけないじゃないですか!! アナタは魔都最大の窯場を牛耳る大職人なんですよ!!」

「やだああああッ! すべてを捨てて一から出直すんだい!」

「そんなことしたらオレらが路頭に迷うでしょうが!」

と一悶着しながら引きずられていった。

何なんだ?

まあ恐らくは同業の人らしいけど、そんな人たちをも錯乱させてしまうほどのエルロンの腕前?

* * *

さて。

そんなこんなしているうちに今日分の営業が終わり、同時に投票も締め切りとなった。

早速これから開票され、どっちにどれだけの票が入れられたかが判明する。

「ふっふっふ……、ようやくエルフの世迷言が間違いであると証明される時が来たな……!」

「その余裕面、投票が終わったら屈辱で歪みまくるのだと思うと楽しみで仕方ないぞ!」

既にエドワードさんとエルロンがバチバチ視線の火花を飛ばし合っている。

果たして職人の女神はどちらの名工に微笑むのか?

泣いても笑っても恨みっこなしの蓋が開けられる、その寸前……。

「待ってくださいッッ!!」

鋭い制止で、全員の動きが止まった。

開票を担当する人々まで静止してしまったので当然開票自体も進まない。

「この勝負、ナシにはできないでしょうか!?」

ええー?

今さら?

そもそも。このタイミングで中止を訴えてる子はどちら様?

「私です! エルフ陶芸班に所属するエルトリガーです!」

農場のエルフチームの一つ、陶芸班を率いているのはエルロンだが、無論のことエルロン一人だけで陶器を作製しているわけではない。

十人強の班員が手分けして効率的に焼き物作業をしている。

エルトリガーはそのうちの一人というわけだった。

「エルロン班長の作品、エドワード親方の作品! どちらも素晴らしいです、それでいいではないですか! 無理に優劣をつけようなんてこと自体が不純です!」

「何を言いだすエルトリガー!?」

班員の突如とした反逆に戸惑うエルロン班長。

「はっはっは、ここに来て怖気づいたな!」

さらにそれを見てエドワードさんが高笑い。

「大方、勝つ自信がないから有耶無耶にしようと言うわけだろう。エルフとしては賢明な判断だな。所詮エルフの俄仕込みでドワーフ伝来の超絶技巧を打ち破られるわけがないのだ!」

「いいえ親方、オレも彼女の意見に賛成です」

「えッ?」

さらに進み出たのは、若いドワーフ。

エドワードさんが引き連れてきたドワーフ職人の一人だった。

「ボドワン! 貴様一体何を!?」

「親方! アナタは職人の何たるかを見失っています! どっちが優れているかなんてどうでもいいじゃないですか!」

なんかエルフサイドもドワーフサイドも、下からの諌言で上役を説得するフェイズに入った?

「……そうだな、たしかにワシは大事なことを忘れていたのかもしれん」

「優劣に拘ること自体、自然から外れる行いだ。そんな性根でいい作品を生み出せるわけもなかったな」

そして説得成功した?

容易い。

「エドワード親方。どうやら私たちは間違っていたようだな」

「うむ、それぞれ違った作品への打ち込み方があっていい。様々な美の形があってこそ、それぞれが輝くのだ」

互いの道に拘りを持つ者同士が固く握手を交わした。

激しい主張のぶつかり合いの末の和解。まさしく大団円の筋道だった。

「……じゃねーよ」

なんだこれ?

俺は唐突過ぎて付いていけなかったが。

そんな中、この唐突な流れを作り出した張本人たちが、人だかりから外れた場所で……。

「ふぃ~、なんとか無事終わった」

「事なきを得ましたね」

あれ?

なんか二人とも共謀しあった風?

「当然ですよ! もし勝負がついて優劣ハッキリしてごらんなさい! 負けた方は大損害ですよ!?」

「勝てばいいでしょうよ! でももし負けたら!? 万が一でも負けたら!? これまで築いてきたブランドイメージは失墜し、注文を大量に失う! 存亡の危機に瀕するかも!」

「それなのに勝って得られるのが満足だけとかハイリスクローリターンすぎる! こんな勝負やらないのが一番いい!」

「有耶無耶で誤魔化しとくのが一番ですよ!」

両勢力、熱くなっているトップの脇で冷静なナンバーツーがいい仕事した感じ。

「さて、災いの元となる投票結果を投票箱ごと闇に葬っちゃいましょう!」

「燃やせ燃やせ! 禍根を残さないよう灰の一粒残さず焼き尽せ!!」

* * *

こうしてエルフvsドワーフの職人対決は幕を閉じた。

有能腹心二人の手により勝敗未詳のまま。

ただ勝負自体は開催されたために話題を呼んで、終了直後から双方新しい注文が殺到しているという。

まさかあの有能腹心二人。

ここまで計算してギリギリのタイミングで制止入れた!?