軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

389 芸術戦争

俺です。

かつて俺の元いた世界では、バベルの塔をきっかけに人類統一が破たんした。

そして今、俺の住む異世界では、俺の建てた塔をきっかけに世界の融和が成されようとしていた。

急きょ冥神ハデスと海神ポセイドスが呼び出された。

『いやなんなん?』

『これなんなん?』

太陽神アポロンの要請で三界神すべてが人類を分け隔てなく守護するという協定が、その場で結ばれた。

『天神どもはゼウスのガキに至るまでノリで物事決めるからなあ。まあ我々も反対する理由ないし? いくら天神どもでも約束したことは覆せんだろうから乗るけどさあ?』

『吐いたツバ飲まんとけよ』

という感じでハデス神もポセイドス神も充分警戒しつつ、それぞれの世界を支配する神の階位に懸けて誓いを立て合った。

俺たちの主催する博覧会場で。

元々見物客はたくさんいたので、多くの人々が神々の誓約を目撃することになったのだが。

「神が……、神が目の前に……!?」

「これは夢か幻か……!?」

「なんと神々しい光景なのか……ッ!?」

皆感動して祈りを捧げております。

さすがに。

まあ、自分たちの信仰する神(ハデス神)も含めて、全領域の主神(一神は代理)が一堂に会すればレベリオンしちゃうのは仕方ないけど。

「これは博覧会の催しではありません」

と説明するのに一苦労した。

『聖者よ、またお前が関わっておったのか? ところでそこかしこからいい匂いがするけれど、またここでお前のところの美味しいメシが食えるのか?』

『おいポセイドスよ。この催しは人類向けのようだからあまり食いつくなよ。神が人々のごはんを横取りするなど、大人が子どものオモチャを取り上げて遊ぶぐらいにみっともない』

神々まで各パビリオンで振る舞われている農場ごはんに惹かれたり……。

「こんにちY」

「今日も一日頑張るY」

アポロン神の持ちネタが流行ったりした。

まあ経過はどうあれ世界が平和に近づくのはいいことだ。

この世界の貴重な不安要素、天神の動向もこれでひとまず鎮静化の流れに向くだろうし。

平和が一番。

俺の為すことすべてが平穏に向かっていけばいい。

そう思っていたが……。

* * *

「いくさが始まる……!」

いきなり不穏になった。

時はまだ博覧会期間の真っ最中。

唐突な神降臨によって益々客足が増えて大盛況という最中のこと……。

「絶好のいくさ日和……。カラッカラの晴天にこそ血の雨がよく似合う……!!」

「なんか怖いこと言ってる!?」

この職質不可避な不穏当言動の主は誰かというと……。

エルフのエルロン。

我が農場に所属するエルフのリーダー格だった。

「どうしたのエルロン? キミがあんまり不穏当な発言をすると俺も放置できないんだけれど」

何せ過去の経歴が経歴だから。

「何を言う聖者!? 挑んできたのはあっちだ! ならば私も誇りある職人として堂々と受けて立たねば」

「誰が誇りある職人か?」

いやコイツか。

ここ最近はそう言っても差し支えないほどに陶芸への執着が凄いもんな。

元々はウチの農場へ盗みに入った罰として労役として皿を焼かせてみたのだが。

今ではすっかり仕事に没頭していっぱしの陶芸家気取り。

今回の博覧会でも陶芸専門のパビリオンを出展し、好評を博しているようだ。

俺は、エルロンの作る器が、もはや独特の世界過ぎて誰もついてこれないんじゃないかな? と危惧していたがそうでもないらしい。

そもそもエルロンの焼いた器は、かねてから魔国に流通していてジワジワとファンを獲得していったようなのだ。

「釉薬の塗り具合が……」

「この辺りの歪みなど色気すら感じますなあ……」

と知ったかぶった語り合いを、俺もエルロンのパビリオンで目撃した。

ここまでが導入。

「……で、誰と戦おうとしてるんだっけ?」

「ドワーフだ!!」

出たよ。

この世界に散在する亜人種の双璧。

エルフとドワーフ。

共にこの世界では魔族から枝分かれした派生種族。

内紛で敗れた一派が逃走し、逃走先で独自の発展を遂げた結果、別種族になってしまったのがエルフやドワーフだとか。

今では昔のわだかまりを忘れて、理がある際は交易もためらわずという関係だそうだが……。

ここにきてエルフとドワーフの戦争勃発。

どうして……?

「そうこう言ってるうちに来たな!?」

エルロンの言う通り、ここ農場博覧会場へ堂々と乗り込んでくるドワーフの一団。

その先頭にいるのは見知った髭面だった。

「エドワードさんじゃないですか」

「聖者殿、農場以外の場所で会うのは新鮮な気がいたしますのう」

エドワードさんはドワーフ地下帝国の王。

ドワーフたちの間では『王』ではなく『親方』と呼ぶのがトレンドらしいが……。

ウチでもドワーフにしか任せられない細かい仕事をお頼みするため何度か農場に招いたことがあるが。

…………。

そうか、エドワードさんエルロンとそこで知り合いになってたもんなあ。

「仲よしだもんねキミたち」

「「仲よしではないッ!!」」

ダブルで反論された。

そうは言っても、この息の合いっぷり。

「ドワーフとエルフがわかりあう時など永遠に来ない! 特にこの芸術家気取りのエルフとは!」

「それはこっちのセリフだ! 真の美とは自然の中にあるのだ! お前たちのようなわざとらしい作為から美しさは生まれない!!」

「こっちこそ言わせてもらうわ! 美しさとは! 弛まぬ修錬と研究の積み重ねによって生まれるのだ! 技術! 技巧! それこそが美の根源なのだ!!」

火花を散らすエルフとドワーフ。

そういやコイツらこんな関係だったな。

双方職人気質なのは違いない、しかし追求する美の方向性が真逆で、会うたび論争になっていた。

その対立が、ついに行き着くところまで……!?

「まさにおあつらえ向きの舞台ではないか。大衆の見ている前でお前の素人芸を晒してやる!」

「恥をかくのはお前の方だ! 今まで職人種族だと過大評価されていたのが、化けの皮が剥がれる瞬間を見せてやる!」

二人とも想像以上に敵意剥き出しで睨み合っていた。

つまりはこういうことか?

「この博覧会場を舞台に、エルロンvsエドワードさんの芸術対決を行うと?」

「「その通り!!」」

これは宿命の対決だった。

かねてから農場で主張をぶつけ合っていた二人が、ここに着て白黒ハッキリつける状況を得た。

エルロンの自然を重んじる美か?

エドワードさんの技巧によって精密に構成される美か?

どちらの美術工芸がより優れているかを決めるのに、たくさんの見物客が訪れる博覧会は打ってつけ。

イベントの趣旨もあって目の肥えている人も多かろうから審査員をさせるにも打ってつけだ。

「我らドワーフ地下帝国から、自慢の最高傑作を持ってきた。貴様の粗品と並べて比べてみようではないか!!」

「よかろう! 投票数で勝敗を決めるというのはどうだ!? 来訪客に気に入った方に札を入れてもらう! これでどっちの主張が正しいか、長年あやふやだったことがついに確定するな!!」

エルロン、エドワードさんの挑戦を受けて立つご様子。

まさかここにきて農場博覧会を盛り上げる一大イベント……。

エルフvsドワーフによるガチンコ工芸対決。

……が開催されるとはッ!?