軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

383 魔窟を覗く

引き続き、革職人ギルドのギルドマスター、パズスシーが拝見する。

ファームブランドが単独開催する博覧会の模様を。

と言ってもオレが興味を持つのは、自分の職域と同じ所だけだけど。

なので、ここ『革館』を徹底観察し、得られる情報すべてを脳内に詰め帰ってやる!

と思って見学を開始したのだが……。

一歩踏み入れた途端に驚かされた。

いや、コンパニオンの制服とは別の件で。

「うひゃあああああーーーーッ!?」

館内に入ると入り口近くにモンスターが並んでいた。

ハイドロレックス。キリサキシカ。オッパイソン。ディノゲーター。サンバイソンにヨンバイソン。ゴバイソンもいる!? スクエアボアにエリマキワイバーンまで!?

そんな凶悪なモンスターたちが館内に居並んでるううーーッ!?

「ご安心ください。あれはすべて剥製です」

「はくせい!?」

コンパニオンの説明で腰が抜けそうになるのを何とか踏みとどまる。

「たしかに言われてみれば、まったく動かないし、生きている感じもない……!?」

「『革館』展示物の一環で、日頃加工品しか見ていない消費者様に、素材となるモンスターの現物を見てもらおうという意図で作られました」

なるほど実を言うとオレも実物を見るのは初めてで、図鑑の絵でしか見たことないものも多くあるが。

……すべてが高級革素材となるモンスターではないか。

ファームの革職人たちは皆、こんないい素材を普段から加工しているのか!?

「ちなみにこの剥製は博覧会が終わったら用途がなくなりますんで、希望者に売却する予定でいます」

「マジですか!?」

売約してください!

オレあのオッパイソンの剥製欲しいです!

……いや。

「さらに奥に進みますと、農場革製品班の仕事風景をナマでご覧にできます」

「ッ!? 仕事している様子を直接見られるというのか!?」

「はい」

コンパニオンあっさり肯定しおった!

マジで!?

「博覧会の開催期間中は、職場をこの地に移して作業するようにしています。それはバティ様も陶器班もガラス班も木工班も同様です。農場の仕事ぶりを見ていただくのが、この博覧会の意義なのですから」

気前がよすぎやしないか?

オレが予測するところで精々完成品が展示され、それを穴が開くほど観察する。

その出来栄えや細かいところから、どういった技術を使っているのか、それを上手く見抜いて取り入れられれば上々。

……ぐらいに思っていた。

しかし作業しているところそのものを見せてくるとは、技を盗めと言わんばかりじゃないか。

相当アホなのか?

それとも技を盗まれても我々ごとき商売敵にならないと自信に満ち溢れているのか?

どちらとしても千載一遇のチャンス。

盗ませてくれるというなら遠慮なく技術の一切合切を盗んでやろうではないか!!

それが職人の仁義なき戦いだからな!!

「……ところで」

「ふむ」

コンパニオンがオレに尋ねてくる。

「お客様はお一人なのですね。お連れ様はいらっしゃらないのですか?」

「うむ、一人で来たが、それが何か?」

「『服飾館』に向かったお客様はたくさんお供を連れていたので……」

ああ。

服飾ギルドの連中は、ギルド加入するブランドの代表者をたくさん引き連れてきたからなあ。

『後学のため』とか言っていたが……。

オレもギルド所属する職人を連れてこようかと悩んだが、結局一人で来た。

何があるかまだわからんので念のための用心だ。

「着きましたよ、ここが革細工班の臨時工房です」

「これはあああああーーーーッ!?」

透明なガラス? などで仕切られた向こうのスペースで、職人たちが仕事をしている!?

あれはエルフ!?

エルフなのか!?

「エルフたちが製品を作っていたのか……!?」

「こちらはマエルガ様が班長を務める革製品班です。マエルガ様はエルフチームの冷静なナンバーツーとして有名です」

コンパニオンの『絶対それ余計な情報だろ』という解説を聞きつつ……。

エルフが製造に関わっているなら、そりゃ勝てないわ。

と思った。

森の民と異称されるエルフは、決して他種族と交わることのない謎多き種族。

手先の器用さは全種族で一、二を争うと言われ、彼女たちが作った道具は森の中に捨てられたものを拾ってきただけでも千金の値打ちになるという。

「そんなエルフに最高の素材で作られたら、最高の製品になるはずだよ……!」

勝てねえ……!?

「さらに右手奥をご覧ください」

コンパニオンが何か指し示す。

まだ何かあるのか!?

「あちらで作動しているのがミシンでございます」

「ミシン!?」

何だそれは魚のことか!?

「ミシンは農場の主が作りだした秘宝で、手縫いを遥かに超える速さで規則正しく縫うことができます。農場でもこのミシンを備えているのは革細工班とバティ様の被服室だけです」

噂に聞く……、『ファーム製の製品は手で縫ったと思えないほど縫い目が綺麗だ』という理由はそこにあったのか。

「ダメだ……真似できない……!!」

オレはその場に崩れ落ちた。

種族としてのエルフも、ミシンとかいう秘宝も、真似しようと思ってどうにかなるレベルを遥かに逸脱している……!?

さらにいえば素材となる超高級モンスターも……!

あれらの素材を揃えるとなったら一体どれだけの金と時間がかかるのか……!?

わかっても真似できない、勝てないという実感だけが襲ってくるのだった。

絶望でもう立ち上がれない。

「アナタも革を扱う職人なら知っているでしょうが……」

「あッ、マエルガ様」

公開スペースで作業していたエルフの一人が、仕切りについたドアを開けてこっちに来た。

「蛇は不死の象徴。死ぬことがなく永遠に生き続けると言われています。何故か知っていますか?」

「脱皮するからだろう? 昔の人は脱皮する蛇を見て、そのたび若返り死ぬことがないと考えた……! 普通に考えればそんなことあるはずないのに……!」

「しかし教訓にはなります。古い衣を脱ぎ捨て新しくなる蛇のように。我々も心にまとわりつく古い皮を脱ぎ去って新しい自分になることができるはずです」

「はッ!?」

そうか!? オレが勝てないと絶望したのは、古い考えを捨てきれないからだ!

どんな未知のことだってやる前から諦めていたら、そりゃ実現できないさ!

「器用さでは私たちに遥かに劣るアナタたちですが、それでも真似しようとしてできることも多少はあるでしょう。博覧会の開催期間中、食い入るように観察してマネできるところは取り入れるのですね」

「は、はい!」

なんという堅実な励まし!?

「さすが冷静なマエルガ様です!」

冷静なマエルガ様!!

「私はクールに仕事に戻ります。今日中に冬使い用の毛皮コートを揃えなければいけませんので」

そう言って作業スペースに戻るエルフさん!

クール!

それを迎えて他のエルフたち……。

「班長ぉー。やっぱりここでの作業捗りませんよー」

「使い慣れた場所じゃないし。何より人目があると落ち着かない!」

と抗議する。

「甘えるのではありません」

それを一発にて切り捨てる班長。

「これも希望したことでしょう。自分たちの仕事を魔族たちに見せつけてやりたいと。ならば思う存分見せてやるのです。我らエルフの誇りに懸けて」

凄いなあ冷静なマエルガ様。

よし、開催期間中は毎日ここに通うぞ!

マエルガ様に会いに!

そして彼女らの技を凝視して、できうる限り学習するのだ!

今度来るときはギルドの職人もできる限り連れてこよう。