軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

349 植林計画の進捗

エルザリエルがやってきた。

彼女はエルフ。かつては同族の盗賊団を率い世界各地を荒らし回った大犯罪者。

一応、悪い金持ちからしか盗まない義賊だったそうだが。

捕まったり釈放されたり色々あって、今では植林作業に従事している。

彼女の今日の訪問にも、そのことが関わっているようだった。

「……それで、今日は何の御要件で?」

「ちょっと待て。この美味しいごはんを全部食べてから……」

訪問するなり、話をするより先に食事を所望したエルザリエルさんであった。

ごはん粒を撒き散らすがごとき勢いで、出された料理を口内に押し込んでいる。

「やっぱりここのメシは美味いな! 食糧庫ごと盗み去りたいぐらいだ!!」

「恐縮です……!」

農場で作られるごはんは……、正確には俺が作ったメシは好評で、皆から喜ばれるんだけども。

このエリザリエルさんはとりわけ気に入ってくれたようで、これがあるので『帰りたくない!』と子どものようにゴネるほどだった。

新作のチャーハンを吸引機のように掻きこみながら、エルザリエルさんは盗賊時代でも見せなかったような貪欲さであった。

「あー、食った食った。腹いっぱいだお代わり!」

「あの……、そろそろ要件を……?」

何か話さなきゃいけないことがあるんで、魔王軍から許可取ってこちらに来たんですよね?

わざわざ転移魔法で送り迎えまでしてもらって。

もしこれで『ごはん食べるために適当な用事をでっちあげました』とか言ったら信用が下がるぞ。

ただでさえ元盗賊で信じられにくいというのに。

「心配するな。ちゃんと用事はある。しかもお前たちにも関わりのある用事だ」

エルフのエルザリエルさんは言う。

「植林作業に関してだからな」

植林作業。

それはエルフの枯れた森を再生させる作業であった。

旧人間国の領土内にかつて広がっていた森。

しかし今はない。

人族が使う法術魔法によって大地のマナが吸い尽くされてしまったからだ。

魔力の元となるマナは、自然の生命活動を支えるエネルギーでもある。

人族の横暴によって枯れ果てたエルフの森を、再び緑溢れる空間に戻す。

そのために直接動いているのが、このエルザリエルさんだった。

「元々は我らエルフ族が住んでいた森だ。それを復活させることに異存はない」

ということでエルザリエルさんが先頭に立って実行されるエルフの森再生作業。

具体的にやるのは植林だった。

自然マナが戻って肥えてきた更地に、若い苗木を何本も植えこんでいく。

十数年もすれば苗木が育って立派な成樹となり、何百年と栄える森林を形成していくことだろう。

が……。

「問題が起きた」

「問題?」

「作業を妨害する者が現れたのだ」

妨害とな。

穏やかじゃない言葉が出てきた。

でも何故妨害なんか?

エルザリエルさんがしているのは立派な慈善作業で、誰かが困ることなんてないだろうに。

逆に植林作業の邪魔をして誰かが得することもないと思う。

「一体誰が妨害なんかを?」

「エルフだ」

意外な名が出た。

それはエルザリエルさん、出身種族のことじゃないか。

「エルフが敵対しているというんですか? 同じエルフのエルザリエルさんに?」

「エルフは元来排他的な種族。同族だろうと所属が違うだけで完全に余所者だ。襲ってきたのは今なお森の中で暮らしている地元エルフだな。……つまりジモエル!」

……いいですから。

旧人間族の領内に、エルフが暮らしていける森は本当に少なくなったがそれでも僅かには残っていた。

我々はその森を元の広さに戻すことを目指しているんだが……。

そんな猫の額のような森にしがみつくように暮らし、頑なに古くからの生活を守り続けているエルフがいるらしい。

「筋金入りの保守エルフといったところだな。住める森が少なくなり、多くのエルフは、いまだ豊かな森が多くある魔国へ移り住むか、定住生活を捨てて盗賊に成り下がった」

エルザリエルさんなどは盗賊へと転職したクチ。

何も好きでヒトの者を盗むようになったのではなく、生きるための過酷な選択肢の末だったということだ。

「新天地へ移り住むのも、違う生き方を探るのも楽な道と言うべきかもしれんな。最初からの生き方を貫き通すことに比べれば。その一番キツイ道を選んだヤツが、いまだ人間国の僅かな森に棲むジモエルだ」

気に入ったんですかその呼び名?

「枯死寸前の森にしがみついて昔ながらの暮らしを守っていくことは想像を絶する過酷さだ。その過酷さをあえて選んだ連中はまさに頑固。元々頑固な性状のエルフの中でも特にな」

そんな旧守エルフの住む森に、侵入者が現れた。

エルザリエルさんも一員の、植林作業隊だ。

「……植林は、元々エルフの森があった地帯を対象に行われる。自然、今あるエルフの森を押し広げるように進めていく」

人族によるマナ枯渇の影響を受けながら、極小範囲に僅かに残ったエルフの森。

それを元の範囲まで広げ直そうと。

「そのためにもまず、今なおエルフの森に棲んでいるエルフたちにも協力を得ようと思ってな。挨拶がてら森を訪ねてみた。そしたら追い返された」

「えー?」

「ヤツらにとっては同族でも、森を捨てて出ていったヤツは仲間ではないらしい。エルフの森に近づくなら侵入者とみなし、攻撃してくる始末だ」

「そんな……、それじゃあ植林作業も進められないじゃないですか?」

「そういうことだ」

森周辺で植林を行おうとする人員に矢を射かけてくる。

せっかく植えた若苗を掘り起こしていく。

そんな妨害をされて一向に作業が進まないという。

せっかく誰の迷惑にもならない慈善作業だというのに。滅びゆく自然にしがみついて頑なに昔の生活を守ってきた人たちだからこそ、益々頑固になってしまったんだろうが……!

「植林作業を進めるには、このジモエルを排除する以外にない。私は魔王軍と協力して攻めかけたのだが……」

話し合いという手段はなかったんですか?

「しかし、やはり森の中でエルフは無敵だ。森の中は視界不明瞭。エルフは木々に紛れながら、完全に気配を消して近づいてくる。そして百発百中の矢で狙ってくるのだ」

対して他種族は、森を熟知しておらず気配を断つ術もいない。

どんなマヌケな獣よりもグズでノロマで狩りやすいとのこと。

「エルフが使うシャーマン魔法は魔術魔法の一種であるが、より密接に自然精霊との繋がりを持つ。そいつで魔法防護壁無効化を付与させた矢を放たれたら獲物は一巻の終わりだ」

「獲物……!」

「そんなわけで魔王軍を戦いに投入するにはあまりに危険すぎる。エルフを森の中で倒せるのはエルフだけだ。つまり、この私だ!」

エルザリエルさんは自分を指さす。

「しかし、いくら私が勇猛果敢でも一人で集団を相手取るのは無謀だ。こちらもそれ相応の数を揃えなければならない。……それでだ!」

「ここに来たと?」

やっと本題が判明した。

つまりエルザリエルさんはケンカの頭数を揃えるために我が農場へやって来た。

何故なら我が農場にはエルフが二十人は住んでいるからだ。

しかもエルザリエルさんと周知の間柄。

何せかつては一緒に盗賊をやっていたので。

「エルロンたちの手を借りに来たということですね?」

「その通りだ、『雷雨の石削り団』を期間限定復活させ、植林作業を阻むエルフどもを排除してやる!」

いや、一応アナタたちの同族でしょうに……!?

森の中でエルフとまともに戦えるのは、エルフだけ。

その摂理に則れば適切な対処と言えるのだろうが……。

「やだーーーーッ!! 絶対やだーーーーーッ!?」

俺とエルザリエルさんとの会談に乱入してくる褐色美女。

それは我が農場のエルフチームを代表する、エルフのエルロンだった。

「エルロン!? 貴様立ち聞きしてたなッ!?」

「姐さんが訪問してきたら警戒してそれぐらいしますわ!! そして私は行かない! 戦いになんか赴かない!!」

「なにぃ!? エルロン、我々の故郷が甦るかどうかの瀬戸際なのだぞ!?」

「そんなこと言ったって! 姐さんに従って農場から離れたが最後、用事が済んでも何やらと難癖つけて引き留められ、永遠に農場に帰れないに決まってるんだー! そんなの絶対いやぁぁぁああああああッ!!」

エルザリエルさん信用ねえ。

すっかり農場に住み慣れた我が家のエルフたちは、ここから離れることを何より嫌うのだった。

さながら刑務所に入りたくない被告人のように。

全身全霊を懸けて嫌がるのだった。

「ええい! すっかり軟弱になりおって! それでも『雷雨の石削り団』二代目頭領か!?」

「今はただの皿焼き職人だい!」

「うるせえ! 私だってここに住みついて毎日美味しいごはん食べたいのに、お前らだけいい目見てズルいんだよ!!」

「ついに本音が出たなああッ!!」

さて、俺は農場の主として、この提案にどういった判断を下すべきだろう?

戦いになれば、相手は同族のエルフ。

本人たちは露も気にしてないようだが、同種の仲間同士で殺し合うのは見ていても心苦しいし、戦って当然犠牲者も出ることだろう。

ウチの農場のエルフたちは大切な労働力にして心通った仲間。

今さら一人も失いたくはない。

「ならば答えは決まったな」

今だエルロンと取っ組み合いしているエルザリエルさんに言った。

「ウチのエルフたちはお貸しできません。その代わり強力な助っ人を紹介させていただきましょう」