作品タイトル不明
334 自動人形の手を借りる
パッファの人手不足解決案に乗ることにして、俺たちはある場所を訪れた。
そこは魔族の領土、魔国の一区画。
しかも、もんの凄い山奥だった。
だがそこまで来るのに苦労は要しなかった。
転移魔法で一ッ飛びに来れたからだ。
つまりパッファは、一度ここに来たことがある?
「あー、懐かしい。さすがに山奥だけあって変わりがないねー」
転移魔法は、あらかじめ設置しておいた転移ポイントに向かってしか飛ぶことができない。
つまり一回直に足を踏み入れ、転移ポイントを設定する魔法作業を行わなければ、そこへ行くことはできないのだ。
この山奥に設定された転移ポイントは、パッファが設えたものであるに違いない。
でも、何の理由があってこんなところにそんなものを?
「あれも変わりないまま残っていればいいんだけど……。あー、あったあった」
パッファの進む先に、何やら建物があった。
こんな山奥にお屋敷!? なんか謎の連続殺人が起こりそうな!?
「大丈夫ここ!? 危険じゃない!?」
怯える俺にパッファが答える。
「大丈夫大丈夫、人形がたくさん置いてあるだけだから」
人形館殺人事件!?
なんかそんなミステリ小説ありそう!?
いやそんな話じゃなく……!?
パッファがあまりにもサクサク屋内に入っていくので、俺もビビりながらあとに続くしかなかった。
訪問すると、早速人形らしきものに出迎えされた。
それもたくさん。
「うひいいいいーーーーーッ!?」
俺、さすがにビビる。
玄関ホールが人形だらけ。
十や二十どころじゃなく、もっとたくさん数えきれないくらい。
しかも一つ残らず壊れている。
人形はいわゆる球体関節というヤツで、プロポーションが人間よりのリアル感があるから、壊れている姿はなおさら不気味。
顔形だってマネキンみたいにやたら人に寄せてあるんでなおさら怖い。
頭が叩き壊されていたり、胴と腰が泣き別れになっていたり。
凄惨な光景だ。
一体ここでどんな惨劇が繰り広げられたの!?
「懐かしいねえ……、ここに立っていると心がほんわかしてくるよ」
ほんわかするのパッファさん!?
ここにどんな思い出が残ってるの!? 痕跡を見る限り悪夢のような思い出しか発生しないと思いますけど!?
「まあ悪夢のような思い出だけど」
「やっぱり!?」
ここでやっとパッファは、この館で起きた悪夢の惨劇を話して聞かせてくれた。
かつて人魚国のアロワナ王子が、地上で武者修行していたことがある。
その旅にパッファも同行していたのだが途中立ち寄ったのがこの館だと言う。
「この辺りを治めている領主に頼まれてね。山奥に奇妙なヤツが住んでいるから様子を見てきてほしいって」
「奇妙なヤツ?」
「その正体が数十年前の天才が生み出した、自分で動く人形……、オートマトンだったってオチさ」
自動人形……!?
この世界にもそういうシロモノがあるのか。
じゃあ、ここにたくさん転がっているのも?
「アタイと旦那様が力を合わせて壊しまくったのさ……! 本当に懐かしい。二人の共同作業だよ……!」
パッファが恋する表情でうっとり想いを馳せるが、でもこれ二人だけの共同作業じゃないよね? ハッカイやソンゴクフォンもいたでしょう?
「でもなんで、そんな思い出の地に再びやって来て……? あッ!?」
思い至った。
農場の人手不足問題と、ここにたくさん転がっている自動人形。
それがカッチリ結びつくとしたら……?
「自動人形をウチの農場で働かせる気か!?」
「飯も食わせる必要もないし、寝床もいらない。理想的な労働力だろう?」
それで俺をここに連れてきたのか!?
「でも、ここらに転がってるのは皆ぶっ壊れてるぞ? 使おうとしてもまともに動かないんじゃ……?」
「そこまで壊れてないヤツを見つけ出して回収するのさ。九千八百体もあるんだから、ないってこたないだろ」
九千八百体!?
そんなにたくさんあるの!?
「百体もあれば充分労働力になるんじゃない? アンタたち、選別頼むよ!」
この場には、俺とパッファの他にもオーク、ゴブリンたちが多数同行していた。
彼らに破損軽微の自動人形を選別してもらい、農場に持ち帰る算段だろう。
ちなみにその中には、かつてアロワナ王子パッファと共に旅したハッカイもいる。
皆テキパキと作業を進めてくれた。
「でもさあ? 一応ここ魔国の領内なんでしょう? 地主に断りなく領地のもの持っていって怒られない?」
「聖者のくせに細かいこと気にするヤツだねえ。心配しなくても魔王さんに根回しして許可は取ってあるよ」
パッファは本当にアウトローぶりながら根回しを欠かさぬ女だ。
そして魔王さん、骨を折ってくれてありがとう。
頼りになるのは権力のある友だち。
「さーて、じゃあアタイも状態のいい自動人形見つけてやるかねえ。新品同然のヤツ発掘してやるよ!」
「あッ、俺も……!!」
皆に働かせて俺だけぼうっと突っ立ってるわけにもいかない。
俺もこの残骸の中からお宝を発掘してやるぜ!
趣旨違う?
「ほーい、じゃあどうしようかな? ノルマ一人二体って感じで。でも慎重に怪我ないようにねー」
「「「「はーい」」」」
現場には、俺やパッファやオークゴブリンたちだけでなく、他に何人も同行者がいた。
いつも暇そうなレタスレートとホルコスフォン。
人魚族のランプアイも同行していた。
あとエルフたちも数人。そしてベレナも故郷魔国でのイベントということで参加している。
実際、農場の外で何かすることなど滅多にないので、珍しいもの好きが集まったって印象だ。
我が妻プラティも来たがっていたが、俺も出かけて彼女も出かけてはジュニアを見る者がいなくなるというのでやむなく留まった。
ヴィールもそれに倣った。
好奇心よりジュニアへの執着が勝った感じなのだろう。
「ウチの旦那様もタイミングよくいてくれたら、一緒に来られたのにねえ。二人であの日のことを懐かしみたかった……!」
パッファの言う旦那様というのは、アロワナ王子のことで二人は結婚の約束を交わしている。
「まったく隙あらばイチャつこうとする……!」
「ちげーよ。……旦那様はね、この館の主のことを気にかけていたからね」
この館の主?
荒れ果てて、ずっと誰も住んでいない廃屋に見えますが?
「何十年も前に死んだ魔族の魔法研究者だよ。才能を認められないまま失意のうちに死んでったそうだ。……才人を見いだせないのは為政者の失態だって、自分と重ねていたねえ……」
真面目なアロワナ王子らしい。
「その死んだ天才が遺した作品を、一部なりとも農場で有効利用できると知れば旦那様も喜んでくれると思ってね。ま、コイツら農場に連れ帰って、働かせるところを見せてあげれば充分目的は果たせるんだけど……」
いつだってアロワナ王子第一主義なパッファだ。
この勢いなら、彼女が新しい人魚王妃になる日も遠いことではないだろう。
そう考えてほっこりしていると……。
「我が君、我が君ー!」
同行のオークたちが何やら騒がしい。
どうした?
「大物です! 大物を発掘してしまいましたー!」
大物?
どういう意味だ? まったく壊れたところのない綺麗真っ新、新品同然の自動人形を発見したってこと?
どれどれ……、と見に行ってみると……。
本当に超絶デカい自動人形が発掘されていた。
「大物だあああああああッ!?」
文句のつけようもなく物理的に大物。
他の自動人形より三倍以上の全長があった。
しかも厄介なことに、その巨大自動人形は他の残骸人形のように機能停止しておらず、元気に暴れ回っていた。
「危ねええええッ!! 退避いいいいいいッ!?」
その巨体で、遺憾なく朽ちかけた廃屋をぶち壊していくので、生き埋めになっては堪らないと皆逃げる。
「パッファあああッ!? あれ!? あれも自動人形おおおおおッ!?」
「形状から見て間違いないけれども、おかしいねッ! 前来た時はあんなのいなかったよ!?」
訪問歴のあるパッファですら知らない模様。
あの大きさからして見逃すことなんてないはずだが、一体どこに隠れていた!?
そして何故今さら現れて、かつ元気に暴れておる?
「いや考えてる場合じゃねえええ、このままだと踏み潰されるうううッ!!」
……と思ったが、そんなことにはならなかった。
騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた仲間たちが一斉に攻撃を加え……。
ホルコスフォンのマナカノンを始め、ランプアイの爆炎魔法薬、ベレナの極大魔法連射、ハッカイのセイントオーク拳などが全弾命中し、巨大自動人形はあえなく粉砕されしまった。
「……ウチの子たちってつよぉい……!」
でも結局、あの巨大自動人形はそれこそ一体何だったんだ?