軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

331 留学生vs農場五番勝負その四

僕はリテセウス。

農場で学ばせて貰っている人間族の留学生だ。

ここからは僕ら留学生の視点から立って話を進めていきたい。

* * *

ここまでの展開は地獄絵図だった。

『農場の強さ水準を実地で知ろう』という考えから始まった農場代表VS僕ら留学生の五番勝負。

一から三回戦まで終わって三戦全敗。

しかも惨敗に近い形で一方的に。

戦いに参加したベレナさん、レタスレート姫、プラティ奥さまはいずれも次元違いの強さで、何十人といる僕ら留学生を圧倒した。

その中には当然僕も交じっていて、一緒くたに圧倒されるだけだった。

僕もここ農場に来て、今までに経験したこともないものを様々経験し、力をつけてきたつもりだったが……。

その自信を一瞬にして打ち砕かれた。

農場、奥が深すぎる……!

僕もそうだが、それ以外の留学生のほとんどすべてが心を折られて消沈していた。

「どうしてこんなことに……!?」

「誰かが余計なこと言ったからだろ……?」

「誰だよ!? 農場で一番強いのは誰? とか言い出したのは誰だよ!?」

既に言わんでもいいことを言って舌禍を招いた犯人探しが行われていた。

「はいはいはい、愚痴を言うのはまだ早いわよー」

子守をする聖者様に代わって、プラティ奥さまが司会進行を務める。

「何故ならまだ試合は終わっていないから。五番勝負のうち三勝負が済んだだけよ。反省会は、全部終わったあと」

「まだやるんですかッ!!」

僕らもう心がボッキボキに折れまくってるんですが!?

「そりゃそうよ。むしろこれからが本番。ここまでは準備体操みたいなものなんだから」

「準備体操で手も足も出なかったんですかッ!? オレらッ!?」

生徒の一人が絶叫するが、どうしようもない。

「彼らは別の場所で待っているから、そこまで送ってあげるわ。せいぜい健闘することを祈っているわ」

心にもないことを言ってプラティ奥さまは、僕らに魔法薬を振りかけた。

これは!?

強制転移魔法薬!?

肌についた魔法薬の効能によって、僕たちは一人残らずどこぞへと強制転移させられるのだった。

* * *

そして到着。

うーん、ここはどこだ?

「森!?」

周囲にはたくさんの木立が並んでいて、木の葉に日光遮られて鬱蒼とした雰囲気は、まさに森。

周囲にたくさん人の気配はするし、僕らは全員まとめて森の中に飛ばされたらしい。

「これだけの人数を強制転移させることもまた常識外れだが……!?」

農場には常識外れなことしか存在しないのかッ。

「で、何故森の中なんだ……!?」

これまで行われた三試合は、それこそ試合にはちょうどいい開けた広場で行われたのに。

……いや。

皆薄々とだが勘付いている。

だからこそ緊張している。

次の対戦相手は誰なのか?

皆が大方予想はついている。

考えてみればおかしな話だ。

ここまでの三試合に登場した対戦相手のコンセプト。

人族魔族人魚族、それぞれの農場最強を選出したという。

なのに五番勝負。

では残りの二人は一体、どういった基準で選抜されたのか?

まったく別の基準ではないのか?

そう、そもそもこんなことになる発端となる発言があった。

その発言の中には、誰のことが語られていたか?

『オークボさんとゴブ吉さんは仲がいいから実現しないと思うけど、戦ったらどっちが強いの?』

つまり、待ち受ける残りの二人とは……!?

「出たぞおおおおおーーーーーッ!?」

仲間の一人の声が上がった。

恐怖と混乱に裏返った声だった。

声のした方を振り向くと、たしかにいた。

そこには。

大鎌を振りかざした真っ青なる騎士が……!!

「ゴブ吉さんだあああああああッ!!」

農場のモンスター軍団を束ねる双璧の一方。

ゴブリンのゴブ吉さんだ。

愛馬ミミックオクトバス号にまたがり、愛用の農具大鎌を携えた彼は、完全に死神騎士の様相だった。

やっぱり五番勝負の四番目と五番目は、あの二人なんだ。

「逃げろおおおッ! ゴブ吉さんに敵うわけねえええええッ!!」

学生の一人が悲鳴と共に逃げようとするが……。

その時には彼の背後にゴブ吉さんがいた。

その大鎌を、相手の首筋に添えて。

「動くな……、動けばこのマナメタル製、草刈り用大鎌が、雑草同様にキミの首を刈り取るぞ」

「草刈り用なんですか!? 大鎌なのに!?」

「大きい方が一振りでたくさん刈れるだろう」

そう言われては指一本動かせない。

今にもオシッコちびりそうな表情をしてる、鎌を突き付けられた学生。

だがゴブ吉さんはいつの間に相手へ接近したんだ?

最初にゴブ吉さんが現れた地点と、叫び声を上げた学生との間には五十歩以上の距離があった。

その距離を詰めるところを、僕は確認できなかった。

普通なら走ったり歩いたりして相手に迫らなければいけないのに、その過程を一切挟まず一瞬のうちに移動していた。

まるで転移魔法のように一瞬で移動したみたいだ。

「では、次に行くか」

そう言ったと共に、ゴブ吉さんの姿が消えた!?

……と思ったら、別の学生の背後にいた!?

本当に転移魔法でも使っているのか?

「ふむ……、通常の速度では何が起こったかわからんかキミたちには……」

呆れ顔で言うゴブ吉さん。

「では、もう少し速度を緩めてやろう。キミたちが何も理解できないまま蹴散らされては勉強にならないからな」

「……う……!?」

「キミたちは学生だ、だからこの戦いで学ばなければいけない。何故キミたちが私にまったく歯が立たないのか。『わけがわからないまま負けました』ではいけない」

厳しいなあ……!?

「ではまず、足に注目しなさい。我が愛馬ミミックオクトバス号の足に」

足?

ゴブ吉さんの乗馬の足が何だというのか?

ゴブ吉さんの乗っている馬は、主人同様小柄でロバのような体格だ。

特に何の変哲もないように思えるが……!?

……?

ヒッ!? な、なんだ!?

ゴブ吉さんの乗ってる馬の足が、なんか曲がり出した。

しかも中途半端な曲がり方じゃない!?

馬の足が曲がって、曲がって……、円を描くほどに曲がって……!?

しかもそれだけに飽き足らず円を何重にも重ねて……!?

「我が君が言うには、この形態をバネ状というのだそうだ。我が愛馬ミミックオクトバス号は、人魚ゾス・サイラ様が作成してくださったホムンクルス馬。あるモンスタータコの性質を加味され、馬とは思えぬ柔軟性と瞬発力を合わせもった馬なのだ」

バネ状……っていうの?

四本足全部をそんな風にして、瞬発力を蓄積したゴブ吉さんの馬は……、ある瞬間、爆ぜた。

凄まじい勢いで跳躍。

僕らの頭上高くまで舞い上がる。

「今度はかなり速度を遅めにした。ちゃんと見えているな?」

それでかなり遅めですか!?

目で追うのにも苦労するんですが!?

ここは鬱蒼とした森の中であるため、飛び上がるにも大した高度にはならない。

森の中だから。あまり高く飛び過ぎると、広がる枝葉に突入してしまうからだ。

しかしゴブ吉さんに不都合はなかった。

飛び上がったゴブ吉さんとその愛馬は、並び立つ木の幹の一つに飛びつくと、反動を利用して地面目掛けて飛び込んできたからだ。

猛スピードで。

「うひゃあッ!?」

ゴブ吉さんの飛び込んでくる先にいた学生が、恐怖と驚きのあまり悲鳴を上げる。

しかしその時には、ゴブ吉さんはふわりと着地して、彼の背後を取っていた。

愛用の大鎌を喉元に添えて。

「こう言うわけだ」

ああやってゴブ吉さんは、僕らの背後を次々渡っていたのか。

今回は加減してくれたので僕らにも何とか理解できるスピードだったが、本気になれば何が起きたかすらわからない。

まさに超スピードゴブリン!?

「理解できたところで、そろそろ本気でいこう。寸止めしてやるから下手に動くなよ。我が大鎌は草を刈るための鎌だから、動物の血を吸わせたくない」

そういってゴブ吉さんは僕らの視界から消えた。

実際は猛スピードで僕らの目に留まらないだけなのだが。

猛スピードによる蹂躙が始まった。

っていうか蹂躙されすぎだろ僕ら何回目だよ!?