作品タイトル不明
317 ヴィール無双
「ヴィール?」
何故お前がここで出てくる?
アレキサンダーさんに任せておけばすべて灰燼と化す……もとい、丸く収まる話じゃないか?
「……不満に思っていたのだ」
「何を?」
「ここ最近ドラゴンがメインだというのに、肝心のおれの影が薄い! おれこそ農場土着のもっとも活躍すべきドラゴンだというのに!!」
知らんよそんなこと。
「だからそろそろ見せ場の一つも欲しいのだ! そしてジュニアに尊敬される!」
「ジュニアはまだ物心ついてないから何が起きても覚えてないわよー?」
プラティからのアドバイスも耳に届かない。
「だからここはおれに譲れアレキサンダー兄上! おれのパワーで華麗に解決してみせるのだ!」
「よかろう」
あっさり認める長兄。
「たしかに聖者殿に仕えるお前の力、しっかり見ておきたい。ブラッディマリーなら相手として不足ない」
「よしゃー!」
ええ、いいんですか?
たしかにヴィールは昔から最強だけど、それはひとえにドラゴンという種族ゆえに最強だったから。
同じ最強種族ドラゴンで、しかもその中で二番目に強いというマリーさんの相手は荷が重いんじゃ……!?
「それはどうかしら……!?」
と言うのはプラティだった。
ジュニアを抱えて俺の隣まで進み出る。
「思い出して旦那様。この農場に住むヤツは、何やかんや言ってアホみたいにパワーアップするものよ。一番古くからここで暮らしてきたヴィールだって、その例に倣うんじゃない?」
「はッ!?」
「あの娘は元々最強だから相対的に変化がわからなかったけれど、まさに今ハッキリするんじゃないかしら。ヴィールの、この農場で過ごした時間の成果を」
ヴィールが農場で過ごした成果。
毎日毎日食っちゃ寝してた記憶しかないような!?
しかしその食っちゃ寝の日々が、ヴィールに新たな力を!?
「ヴィール、その名前は聞いたことがありますわね?」
黒衣の貴婦人たるブラッディマリーが言う。
「お父様の子らの中でも、わたしやアレキサンダーお兄様に次いで十指に入る実力者。まさかアナタまでそちらに付いていたとは。……でも」
へー。
ヴィールって元からそんなに強かったのか!?
「でも、最強竜たるわたしに挑みかかろうという考えは浅はかですわね?」
「最強はアレキサンダー兄上だろう? お前は二番目だ、二番目竜!」
「ぐぬッ!?」
図星だったのか、マリーさんの表情歪む。
「いいでしょう。そこまで死にたいというなら引導を渡してあげるわ。このいずれガイザードラゴンとなる最強のわたしが!」
黒衣の美女の姿が、漆黒のドラゴンへと戻った。
それに合わせてヴィールもドラゴン形態へ変身。
そして瞬時のうちに上空高くへ飛翔する。
「おおおおー?」
でももうちょっとふんわり行ってもらえないかな、突風で土埃が立つんですが。
対決する二ドラゴンは、上空で睨み合う。
『身の程知らずで哀れな妹。同じグリンツェルドラゴンといえど、「グラウ」を冠するわたしとの間には埋めがたい差がある』
ドラゴン形態になったマリーさんが言う。
『その差を思い知り、後悔しながら消えていきなさい。お前のあとにはアレキサンダーお兄様を何とかして、肝心のアードヘッグとやらを始末せねばならない。いちいち手間取ってはいられないのよ!』
黒竜の体から漆黒の竜気が立ち上る。猛烈な勢いで。
それらの黒竜気は凝縮して結晶化され、いくつかの弾丸となって実体化する。
『我が竜奥義「ダークネスミーティア」! 凝縮された暗黒竜気の一斉砲撃を食らいなさい!』
宣言と同時に打ち放たれる黒い気弾。
たった一発でも島ぐらい吹き飛ばしそうな威力を持ったのが数え切れないほど同時にヴィールを襲う。
いかにヴィールと言えどもこれを食らって無事で済む……、いや生き残れるとは到底思えなかった。
最強種ドラゴンすら殺すことができる。
それがドラゴン同士の戦い。
改めてその凄さに戦慄するが、さらにもっと驚くべきことが起こった。
『ぼえー』
『うへぇッ!?』
ヴィールが、その凄まじき黒い連弾を消し去ってしまったのである。
いともたやすく。
『しょっぺえ奥義だなマリー姉上。この程度でおれを倒せると思ったのかー?』
『バカなッ!? お兄様以外のドラゴンがこの技に対処できるなんて!?』
必殺技が無効化されたのが余程ショックなのか、黒ドラゴンさんは空中で後ずさる。
『甘く見たな。おれがいつまでもお前より弱いと思っていたか。そんなことはない』
『何ですって!?』
『おれは成長したのだ。この農場に住んで、色んなものを食って強くなったのだ。その中でももっともおれに力をくれたのが、……ジュニアだ!』
ジュニア!?
ウチの子が何か!?
『ジュニアはおれに愛というものを教えてくれた。愛がおれを強くした。愛を得たおれは最強のドラゴンなのだ』
どっかの暗殺拳伝承者みたいなことを言いだしたぞ?
『見るがいい! 愛を得たおれの最強パワーを!』
ドラゴン形態ヴィールの周囲に、猛烈な竜気が吹き上がる。
第二位のドラゴンであるブラッディマリーのそれをも遥かに凌駕する。
『愛が合わさったおれの竜気は、元の竜気より百倍強い! 放て必殺の! おれの竜奥義「愛・ラブ・ジュテーム」!!』
ヴィールから放たれる光線は、マリーさんの黒弾より遥かに大きく、凄まじかった。
たった一筋ではあるが空を割るかと思われるほどのごん太光線で、巨大な竜すら簡単に飲み込みそうな……。
『ひえええええーーーーーーーッ!?』
マリーさんは全速力で回避行動。
最強者の誇りも捨て一目散に逃げることで、なんとか光線を回避することができた。
『ああ……、あんなのまともに食らったら命がない……!!』
ヴィールは第二位の竜に、恐怖を与えることに成功した。
プラティの言った通りだった。
ヴィールのヤツも最強者なりに農場の影響を受けていたんだなあ。
誰であろうとどんな形であっても成長するのはよいことはないか。
ヴィール凄い。ヴィール偉い。
『クッソ逃げたか!? 今度は外さんぞ追撃の「愛・ラブ・アモーレ」!!』
そしてヴィールは容赦するということを知らなかった。
間髪入れず同じ規模の巨大光線を放つヴィール。
ほぼ連射。
一度回避行動を終えた、その瞬間をドンピシャに重ねられたので、なおさらかわしようがない。
『ぎゃあああああッ!? 死ぬううううううッ!?』
ああ、これもう死んだわ、と誰もが確信した瞬間だった。
マリーさんは本格的に愛という名の凶光に飲み込まれて死ぬかと思いきや……!!
『ぬおああああああッ!!』
『死ぬーッ!? 死……、えッ!?』
なんと別のドラゴンが飛び込んできて巨大閃光を受け止めるではないか。
正面から両手を突き出し、みずからも竜力を展開して盾を作り、ヴィールの攻撃を弾いている。
なんと。
全ドラゴンの中で二番目に強いはずのドラゴンが直撃=死になってしまうぐらい強力な攻撃を、受け止めきれるドラゴンがいたなんて!?
それはやっぱり真の最強竜アレキサンダーさん!?
じゃない!!
アレキサンダーさんは、人間形態のまま俺の隣で同じ光景を見上げている。
じゃあ誰!?
『おおお? アードヘッグじゃないか?』
大閃光を受け止めきったドラゴンは、たしかに竜形態のアードヘッグさんだった。
『ヴィール姉上! 戯れが過ぎますぞ!』
防ぎ切った光の粒子を払いつつアードヘッグさんが言う。
『おれの愛攻撃を防ぐとは凄いではないかー? ガイザードラゴンになって力が上がったのかー?』
対してヴィールは、渾身の超必殺技が破られたというのに気楽だった。
『竜同士が殺し合うなど不毛なこと! ヴィール姉上もマリー姉上もご自重ください!』
『あ、あああ……!!』
九死に一生を得たマリーさんは、颯爽たる救援者を呆然と見詰めるのだった。
『アナタが、アードヘッグ……?』
『いかにも。姉上、おれのような若輩者が皇帝竜を拝命し、ご不満なのはわかりますが一旦落ち着いて……!』
なんか場を治めようとして明君みたいじゃないか。早速皇帝竜としての自覚が出てきたか?
『よーし、アードヘッグがどんだけ強くなったかもっと確認してやるぞ! 「愛・ラブ・アロハー」!!』
『ぎゃああああッ!? ヴィール姉上なんでもう一回撃ってくるのですかあああッ!?』
第二位の竜を圧倒するヴィールの攻撃を受け止めきれる。
それはやっぱりアードヘッグさんがガイザードラゴンとなり力を得たからなのか?