軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

294 クーデターの末路

吾輩はビランビラン。

人魚国の行く末を真に憂う者である。

今、人魚国は未曽有の危機を目前としている。

戦争の終結。

永遠に続くかと思われた人間国と魔国の戦争。それが終わったのだ。

勝ったのは魔国。

つまり魔族たちの国。

勝利を得た魔族たちは日の出の勢いで、さらなる勝利を味わうために新しい敵を求めるに違いない。

それこそが我ら人魚族だ。

三大種族と言われるほどに並び立つ強種族のうち、戦争に関わらず残ったのは我ら人魚族だけなのだから自明の理。

戦争が起きれば、我々人魚族は甚大な被害をこうむるだろう。

人族の二の舞となって、魔族の支配下に組み込まれるという最悪の展開もありうる。

だからこそ魔国との戦争勃発だけは絶対に避けなければ。

そのために必死の運動をしなければならないというのに、愚鈍な人魚王族は何もしようとはしない。

今ある平和を貪るのみだ。

これではいけない。

義務ある者が動かないというのであれば、国を真に憂うこの吾輩こそが立って国を導かねば!

ゆえに吾輩こそが真なる憂国の英雄なのである!!

* * *

さて。

同じ志を持つ仲間も集まり、我ら憂国人魚団はそれ相応の規模となった。

これならば実質的な行動を起こすこともできる。

人魚国を滅亡から救い出す行動を。

何よりもまずすべきは、魔国との関係強化だ。

陸の覇者・魔族との親交を結び、友好関係を築き上げて、攻め込まれるなどありえない状況にするのだ。

そのためにもっとも有効なのが政略結婚だと考える。

魔国の主、魔王の下に人魚王族の娘を嫁がせれば、魔国と人魚国の王室は親戚関係となり、結びつきは増す。

実は、その話は以前あったのだ。

人魚王の長女、プラティ王女に魔国から嫁入りの申し込みがあったのだが、結局決まらぬまま流れてしまった。

あの時、素直にプラティ王女が結婚していればこのように思い悩むこともなかったのに。

人魚国は安泰だったのに。

しかし過ぎたことを悔やむのは時間の無駄。

未来を見据えなければ。

今からでも遅くない。

プラティ王女を魔王と結婚させればいいのだ。

そうなれば魔国と人魚国は心腹の友となり、平和は永遠に続くだろう。

人魚王ナーガス陛下には他にも姫君がいらっしゃられるが、中でももっとも美しく、天才の呼び声高いプラティ王女が一番いいに違いない。

贈り物は高級品でなくては。

しかし、そのプラティ王女が他の誰とも知れんヤツと結婚し、人魚国から去られてしまった。

何としてでもプラティ王女を連れ戻して、魔国に嫁がせなければ。

憂国人魚団の総力を結集して探すのだが一向に見つからない。

そうこうしているうちに朗報が舞い込んだ。

プラティ王女みずから人魚国に舞い戻ってきたというのだ!

これこそ絶好の好機!

我らの手でプラティ王女を確保し、我らの手で魔国との交渉を進めて結婚を成立させるのだ!

それこそ、人魚国を憂う者たちがなすべきこと!

* * *

その日。

プラティ様が里帰りされるというその日。

国を出入りするための正門前には、出迎えの観衆が山のように詰めかけていた。

皆王族を慕い、その姿を一目見ようと集まってきた者たち。

平和ボケしたバカ者どもだ。

その人ごみの中に、我ら憂国人魚団の勇士も紛れ込んでいた。

「いいか、手順を確認するぞ?」

吾輩は、一隊を任されたリーダーとして、率いる同志たちに言う。

「もうすぐ正門よりプラティ王女が入ってくる。そこを我らで強襲し、王女の身柄を確保するのだ」

そして魔国へと嫁がせる。

「警備兵との激しい戦闘になるだろうが、邪魔を排して必ずプラティ王女をお連れあそばすのだ! この一戦に人魚国の命運がかかっていると心得よ!」

「あの……、リーダー……」

兵員の一人がおずおず尋ねてきた。

「本当にいいのでしょうか? 聞くところによるとプラティ王女は結婚して、子どもも生まれたとか。その子を国王陛下に見せるための里帰りなのでしょう?」

「それがどうした?」

「いやあの、既に家族がいるのに、それと引き離すのは可哀相というか……!?」

下らんことに拘る兵員だ。

だから下っ端なのだ。

「いいか、プラティ王女は王族だ」

「はい……!?」

「王族は、国家のために犠牲にならなければならないのだ」

身を挺して国を危機から守る、国を救う。

それこそ王族の義務であり、存在意義だろう。

「魔国に嫁入りすることも、そうした犠牲行為の一つなのだ。王族たる者、自分の望む相手より、国家の益になる相手に嫁入りするのは当たり前のこと」

むしろそれをしないプラティ王女が我がままなのだ。

我らはその我がままを正してさしあげると考えればよかろう。

「むしろプラティ王女が蟠りなく新たに嫁入りできるよう。前の夫と子どもをその場で斬殺してもいい。そうすれば心置きなく魔国へ嫁入りできるであろう」

「……ッ!?」

よし、王女が来る。

ぬかるなよ。

正門が開いて、王女の存在をしっかり確認できたら作戦決行だ。

この作戦が成功した暁には、我ら憂国人魚団は救国人魚団となり、人魚国で政治の主導権を握るのだ!

正門が開いた!

誰か入ってくるぞ!

しっかり確認しろ! 王女ならすぐに飛び出して……!

……あ。

違う?

王女じゃない、王子だ。

アロワナ王子!?

ここ最近公の場に出てこなかった王子が何故今!?

「皆の者ただいま! 王子アロワナただ今修行の旅から帰って来たぞ!!」

周囲の出迎え観衆から、大きな歓声が上がった。

コイツらに紛れて吾輩たちも隠れられているのだが、周りで騒がれると煩い。

「まさかこのタイミングでアロワナ王子まで帰ってくるとは……!?」

国難の時期に、呑気に武者修行になど出た。時勢を読む能力がまるでない。

こんな凡愚が人魚王になったら、それもまた国難となろう。

「帰って来て早々だが、皆に紹介したい方がいる。我が心腹の友で、他国の重要人物……!」

ん?

「魔王ゼダン殿だ!!」

ん? あれ?

何やらアロワナ王子の隣に、いかにも屈強そうな魔族が並んで立っている?

しかもなんか見覚えがある?

あれは間違いなく魔国の主、魔王ゼダン?

「修行の旅の途中、魔都への訪問は済ませており平和協定の調印に合意してある。今日はそれに沿って魔王殿の方からも人魚国に訪問いただいた!!」

「アロワナ王子は、稀代の英雄! そんな彼と並び立って国を統治していくことは、両国にとって何よりの幸福である!!」

……。

我々、憂国人魚団は第一の交渉相手として、肖像画などで魔王の顔を見知っている。

だから間違いなく言える。

あれは魔王。

アロワナ王子、修行の旅と称して魔王と親友に!?

我らの目的は、プラティ王女を嫁入りさせて魔国との関係強化することだったのに。

既にアロワナ王子が達成させていた!?

じゃあ我々の立場は!?

「さらに紹介したい方がいる!」

「我々の友情を取り持ってくれた、三人目の友! その名は……!」

「「聖者キダン殿だ!!」」

アロワナ王子と魔王に続いて、三人目の男が門から出てきた。

これは何の変哲もない、ヒョロッとした男だが。

……その隣に赤ん坊を抱えたプラティ王女が!?

「この聖者殿こそ、我が妹プラティの夫にして、世界の全能者の一人!」

「聖者殿の下にこそ、人魚国と魔国との平和が実現する!」

魔王とアロワナ王子がテンポよく口々に語る。

息ピッタリじゃないか……!

「もし、聖者様に危害を加える一団がいたらどうなさる? 魔王殿?」

アロワナ王子の質問に、魔王溜めて……。

「滅ぼす」

答えた。

「私も同意見だ。我が妹プラティを娶った聖者殿は我が義弟。その一家総ぐるみに危害を与えようとする者は人魚国全体の敵とみなす!」

…………。

これもしや……。

吾輩たちに言ってる?

吾輩たちの企てに気づいている!?

「逆賊ビランビラン」

背後からいきなり声を掛けられたッ!?

誰だ!?

お前は、ベタ家のヘンドラー!?

しかも人魚衛兵を引き連れて……!?

「お前たち憂国人魚団を名乗る暴徒が、王女襲撃を計画しているのはとっくに露見している。大人しく縛につけ」

「貴様……、論客風情が……!?」

「見ただろう。貴様らごときの不安などアロワナ王子がすべて解決済みなのだ。偉大なる支配者を信頼できず、軽挙妄動する粗忽者など、アロワナ王子が治める新たな人魚国に必要ない!!」

おごッ!?

「よって排除する! 衛兵よ、残らず引っ捕らえろ!!」

バカなッ!?

何故吾輩を拘束する!? 何故罪人のような扱いをする!?

吾輩は人魚国の未来を憂いて……!? 国のために……!?

やめろ!

猿轡を噛ませるな!

ぐごごごごごごご……!?