軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

293 ピノキオのねぐら

人魚国本国へ。

しかしどう行けばいいんだ?

「改めて聞くけど、人魚国の本国というのはどちらにあるの?」

「海の中」

だよねえ。

人魚さんたちはともかく、異世界からやって来たただの人間の俺は海中で活動なんかできないぞ。

溺れ死ぬのみ。

そんな俺がどうやって人魚の領域へ踏み込めばいいのだ?

「ご心配のようね? でも大丈夫よ、アナタがいらっしゃると聞いて色々準備をしておきましたから」

シーラ王妃。

プラティのお母さんが微笑ましげに言う。

「陸人の方が溺れないように本国に行き着ける特別な仕掛けをね」

俺たちは移動する。

* * *

着いたのは、楽園島の端。

小さな入り江だった。

「ここから本国へ向かいます」

言いつつシーラ王妃やプラティは、薬を飲んで人魚の姿に戻っていた。

明らかに海に入る準備。

「旦那様、ジュニアをお願い」

「んむ」

俺と同じく肺呼吸オンリーだろうジュニアは、母の手から俺へ。

いや、人魚族とのハーフであるジュニアなら水の中でも何らかの優位性を生まれ持ったりしているのかもしれないが、そこは今、検証すべきではあるまい。

いずれこの子が大きくなった時に、自分でたしかめてもらうとして……。

「俺と一緒に海に入ろうなー」

「おれがジュニアを持つ! おれがー!」

ヴィールがジュニアを抱きたがったが、ここは父親の役目。

こらえてくれ。

代わりになんかあった時はヴィールのドラゴンのパワーに頼らせてもらおう全面的に。

シーラ王妃から何かの液体をさっと振りかけられた。

すると俺を何やらがズモモモモ……っと包み込み、周囲を密閉するように覆った。

これはシャボン玉?

シャボン玉に包まれているのか俺たちは?

「これで海の中に入るんですよ。陸人が溺れないように最新開発した魔法薬なんですのよ?」

「いや、これ作ったのアタシだから……!」

プラティが言う。

「ヘンドラーから依頼受けて『何に使うんだろう?』と思ったんだけどガッツリとアタシの一家のためじゃない! なら一言ぐらい言ってよ! そもそもなんでアタシに作らせるのよ? 一流魔法薬学師を多数抱える人魚王宮!?」

「だってぇー、プラティちゃんに任せるのが一番確実なんだもんー」

王妃様がクネクネしなを作るのを見て『年甲斐ないな』と思ってしまった。

「ホラ、お母さん薬学魔法全然ダメでしょう? そんなアタシから生まれたのにプラティちゃんたらすっかり天才になってしまって。自慢したくなるのよ?」

「くッ……!? まあ必要なものだからいいけど……!?」

そうして海に入る俺たちだった。

「おお、本当に海の中でも呼吸できる……!?」

海中でもシャボン玉は割れたりせず、しっかり俺の周囲に空気を保持している。

ちなみに一つのシャボン玉の中に俺、ジュニア、ヴィールの三人が入っていた。

シャボン玉は、俺たちごとどんどん海底奥深くへ沈んでいく。

「しかし大したシャボン玉だよなあ。下へ向かっていくってことは、高い水圧にも耐えられるように作ってあるってことだろ?」

「あ、そういえば水圧のことまったく考慮してなかったわ」

「ちょっとおおおおおおッッ!?」

だったらある程度深いとこ潜ったら水圧に押し潰されて割れるじゃん!?

そしたら水が入ってきて俺とジュニアは窒息死!?

「仕方ないな、だったらおれが竜魔法でシャボンを強化してやる」

とヴィール。

いつでもどんな時でも頼りになるドラゴン。当人がその気になればだけど。

「あ、これ思った以上に調整が難しい。あんまり魔力流し込むとシャボンが耐えられずに割れる……!?」

頑張って!

ヴィールならできるよ!

そうこうしているうちにシャボンはどんどん潜行していき、もはや日光の光すらも届かず真っ暗になる。

しかし。

俺は海の中に『それ』の存在を感じ取った。

暗くて視界が封じられようと感じ取れた。

「さ、着きましたわ」

海底に魚がいた。

ただの魚ではない。巨大な魚だ。

ただ単に巨大という言葉では足りないくらいに巨大。

あまりにも大きすぎる!

あの巨魚の前では、ドラゴン化したヴィールですら小虫程度のスケール比だろう。

「なんだあの魚は……!?」

あれだけの巨体というだけで体の芯から根源的な恐怖が湧き出してくる。

これだけ大きな魚をすっぽり隠してしま海の壮大さにも重ねて畏怖が湧く。

「あれが人魚国よ」

「は?」

「あの魚自体が人魚国の首都」

何を言っているかわからなかったが、接近するごとにやがてその意味を理解できた。

プラティとシーラ王妃は、俺のシャボンを引っ張ったまま泳いで巨魚に近づき、なんとその口の中に入ってしまったのだ。

「ええええ……ッ!?」

巨魚の口から中に入り、そのまま進んでいくと、やがて水のないところに出た。

空気がある。

俺たちはそこに上がって。

「じゃあシャボンはもう必要なし。お疲れ様ー」

プラティが言って、また何かしらの魔法液を振りかけると、シャボンは音もたてずに割れて消え去ってしまった。

でも平気だ。

重ねて言うが、ここには空気があるから。海底なのに。

「あの魚の体内なんだよな? ここ……!?」

「旦那様ー、もうジュニア返してー」

プラティも再び薬で地上人の姿となり、さっそくジュニアを抱きなおした。

「この巨大魚は、名をジゴルと言います。海神ポセイドスが人魚族に与えたもうたものです」

シーラ王妃が説明してくれた。

「その昔、海中に安住の場所なく、岩陰などに隠れ住んでいた人魚たちを憐れんだ海神が、この魚を遣わされたと言います。生物でありながら口に入れたものを消化することがなく、しかも自由に出入りできる巨魚の体内は人魚族の格好の住み処になると」

そうして人魚たちは巨大魚ジゴルの体内に住み、そこに家や文明まで築いていった。

「それが人魚国なのか……!?」

「いまや巨大魚ジゴルは人魚国の首都であり、人魚国の国土そのもの。全人魚族の八割以上がこの中で暮らしているのよ」

巨大魚の体内が人魚の都市。

いかにもファンタジーっぽい設定だ。

「あの門を潜ったら、まさに人魚国の領内。きっと国民皆で歓待してくれるでしょうね?」

シーラ王妃の示す先には、たしかに大きな城門があった。

今は固く閉ざされて、向こうの様子を窺い知ることはできない。

「ママ、早く入っちゃわないの?」

「もう少しお待ちなさい。あとから来る人たちがいるでしょう?」

あとから来る人?

同じ瞬間、背後からザバンと水音がして、筋骨たくましい男たちが巨大魚体内に上陸してきた。

「もっす!」

ナーガス王とアロワナ王子ではないか。

そしてそのさらに後ろからパッファ、ソンゴクフォン、ハッカイ、アードヘッグさんと修行の旅の仲間たちが。

「そうか、彼らも来てたのか」

「別のシャボンに入ってもらって、夫とアロワナちゃんに引いてもらってたのよ」

……あれ?

でもシャボンの痕跡がないし、ソンゴクフォンやハッカイなど非人魚族の皆さんもびしょ濡れだぞ?

……。

途中でシャボン割れたのか。

「随分遅かったんじゃない? すぐ後ろに付いていたと思ったのに」

「すみません母上。出発前に、特別ゲストを迎えるのを手間取ってしまいましてな! あと途中でシャボンも割れるし……!」

やっぱり割れたのか。

いやそれより……。

特別ゲスト?

一体誰のことだ? と俺が訝るのと同時にまたザバンと水音が上がった。

最後に上陸してきた一人。

彼が件の特別ゲストってことか?

でも……。

「アナタは……!?」