軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

272 農場研修

エリザリエルさんをやっとこさ送り出して、また直後に来客があった。

ただ今回はちょっと安心。

魔王ゼダンさんというお馴染みの方だったのだから。

「今日は、聖者殿に相談があってきたのだ……」

いつもながら厳かな口調の魔王さん。

「なんです改まって?」

俺と魔王さんの仲じゃないですか。

俺の方だって魔王さんに色々世話になっているんですし、そのお返しをするためにもガンガン頼ってください。

「研修を受け入れてはくれまいか?」

「けんしゅう?」

「魔王軍の有望な若手にな、聖者殿の農場での暮らしを経験させたいのだ」

また異なことを申されて。

研修というのはわかる。

特別な技能やら知識やらを得るために修行することでしょう?

魔王軍のような大きな組織なら研修ぐらいあってもいいと思うが、何故その研修先が我が農場?

「農業とか教わっても、軍の運営にプラスになることとかないでしょうに?」

「いや、この農場では、他にも重要なことを教えてくれる。魔王軍の未来に必要不可欠なことだ。どうか頼む!!」

ここまで全身全霊で頼まれては嫌とは言えない。

元々俺と魔王さんの仲ではないか。

快く引き受けることにした。

* * *

こうして我が農場は、十人ほどの若い魔族を受け入れることになった。

皆いずれも未来の魔王軍を背負うべき期待の若手たちらしい。

で。

その若魔族たちが実際到着したところ……。

「我ら魔族にひれ伏せぇーーーーーッ!!」

「……」

なんか凄いイキッている子たちが来た。

「我ら魔族はぁーーッ!! 世界最高の存在ぃぃーーッ!!」

「人族を討ち破りぃーーーッ! 地上の支配者に相応しいいいーーーーッ!!」

「讃えろ!! ひれ伏せ!! 我ら魔族に服従せよぉーーーーーーーッ!!」

「魔国のおおおおッ! 支配力はああああッ! 世界一いいいいいッッ!!」

……。

何だこれ?

訪問した若い魔族たちは、愚連隊か親衛隊かってぐらいに威圧的。

タチの悪い流行にやられていますって感じだった。

「……魔王さん、これは……!?」

困惑しながら引率の魔王さんに聞く。

彼は、「申し訳ない」「恥ずかしい」という感じで渋面していた。

「……これが今、魔王軍にはびこりつつある問題なのだ。いや、魔王軍どころか魔族全体に広がりつつある……!」

魔族を蝕む心の病。

その病の名は。

傲慢。

「我ら魔族は、長きにわたる人族との戦争に終止符を打った。勝利したのだ。そのこと自体は喜ばしいことだが、思わぬ副作用が現れた」

一部の魔族が増長し、横柄に振る舞いだした。

さも、自分たちが地上の支配者であるかのように。

「おい貴様ァッ!!」

若者魔族の一人が、俺に食って掛かってきた。

何故?

「魔王様になんたる態度だ!? 馴れ馴れしいぞ! その御方は魔族の王にして今や世界最高の王! 魔族でもない貴様が対等に喋り合うなど言語道断!!」

ああ。

俺と魔王さんが友だちっぽく話しているのに憤慨しているというわけか。

「ひれ伏せ! 貴様ごときが魔王様を直視することも直答を賜ることも恐れ多すぎるのだ! 世界の支配者、魔族の恐ろしさをブギャランッ!?」

彼は黙った。

魔王さんに殴られ、顔面を地面にめり込ませたがゆえに。

「本当に恥ずかしい限りだ」

若魔族をぶん殴った拳をワキワキさせながら魔王さんは言う。

「勝利は寿ぐべきだが、勝利に酔って己を見失うとは嘆かわしい限り。何度訓戒しても改まる様子がない」

一人はぶん殴って沈黙させたものの、農場へ研修にやって来た若魔族は他にも多数いる。

魔王さんの怒気に身を震わせるものの、顔つきから見て考えを改めたようにはみえない。

「このままでは、このバカどもが人族、人魚族に迷惑をかける日が来ないとも限らん。だからできる限り速やかに、この心の病を根絶したいのだ……!」

それで彼らを我が農場に。

わかりました。

俺たちが彼らにしてやるべきことを。

魔王さんの期待に添えるよう全力を尽くそうではありませんか!

* * *

では。

研修に来てくださった若手魔族さんたちに見学いただくのは……!

「叩いて守ってジャンケンポンゲーム!!」

今から二人がジャンケンして、勝った方が攻撃し、負けた方が防御するゲームを皆さんに観戦してもらいます。

では試合開始!

『叩いて守って』

「ジャンケンポン」

チョキ。

パー。

勝敗が分れた。

『よっしゃくらえー! ドラゴンブレスー!』

チョキを出したヴィール(ドラゴン形態)が遠慮なしの炎のブレスを吐く。

それはもうドラゴンだから、一軍を灰にしてしまう規模と威力。

それを……。

「マナフィールド展開。脅威シャットアウト率100%」

パーを出したホルコスフォンがバリアっぽいものを出して防ぐ。

かつて世界を一回滅亡させた破壊天使の一人ホルコスフォン。

我が農場といえどヴィールとまともに渡り合えるのは彼女か先生ぐらいのものだからね。

先生に気軽にお願いできない以上、ホルコスフォンの登板率は高い。

『がははははー、よくぞおれの攻撃を防いだな羽女ー!』

「マスターの指示とあれば従わぬわけにはいきません」

もう一回。

「叩いて守って」

『ジャンケンポン!!』

グー。

グー。

あいこ。

『もう一回!!』

グー。

パー。

ホルコスフォンが勝った。

「マナカノン一斉斉射」

ホルコスフォンに搭載されたビーム砲的なものが躊躇なくヴィールに向けて放たれる。

その威力は、山の一つや二つ簡単に吹き飛ばせるだろうと傍目から見ただけで察せられた。

ドラゴン形態のヴィールは直撃を受けた。受けはしたが、しかし少しもたじろがず逆にビームを霧散させてしまった。

『がははははー、竜魔法で強化されたおれのウロコには、お前のヘナチョコビームなど通じぬのだー』

ヴィールのヤツも、これまで何度もホルコスフォンとの模擬戦という名のじゃれ合いを繰り返してきたからな。

山をも砕くマナカノンを封殺できる防御力を進歩して身に付けたか。

「……よいでしょう。今度は本気の威力でマナカノンを叩きこんで差し上げましょう」

『そんなことは、まずジャンケンでおれに勝ってから言うがいい。これからの全勝負おれの勝ちだぞー!』

「遅出しは反則ですよ」

こうして最強種vs最強種による殲滅的ジャンケン大会が繰り広げられるのを、若手魔族さんたちは心行くまで観戦なさっていた。

「さて、これで少しは実感してくれたかなー?」

己の矮小さを。

ヴィールとホルコスフォンの世界を滅ぼすじゃれ合いを見ることによって『自分たちより強いものなどいくらでもいる』『思い上がってはいけない』と考えを改めてくれればいいのだが。