作品タイトル不明
261 人魚授業模様
ここからは、新たに我が農場の住人となった人魚生徒たちの生活風景を追っていこう。
何しろ勉強のために我が農場に住みつくという、今までとは異なったパターンである。
彼女らが、我が農場で何を学び、何を得ていくのか?
農場主である俺が、興味本位で観察していこうではないか。
人魚生徒たちが、我が農場を学び舎と定めた理由は、そこに魔女がいるから。
六魔女という、人魚界最高峰の魔法薬使い。
彼女たちから教えを受けることは、どんな教科書、どんなベテラン教師から学ぶよりも実りあること。
……と言うことを認めたがらない層も一部いるようだが。
そんなわけで彼女らの新規加入でもっとも大きな影響を受けるのは、我が農場にすっかり住み慣れた人魚魔女たちであった。
その中で、まず取り上げるのは……。
* * *
「うおッ? なんか数増えてる?」
『凍寒の魔女』パッファ。
久々に農場に戻ってきて、少女人魚が増殖していることに一通りリアクションする。
「ディスカス、お前いつの間に分裂増殖できるようになったんだ? そんなん人魚の魔法にはないだろう?」
「違うっすよ! 私が単体で増えたわけじゃないッスよ!」
この発想の突飛さが、魔女の偉才たるゆえん……、なのか?
パッファは、元来からの直弟子であるディスカスと共に、新たに参入してきた新生徒を見渡す。
「はー、アタイのいない間に、そんな流れになっていたとは……!?」
「パッファは嬉しいでしょう? 前々から人員補充を望んでたし」
人手が増えるほど、その人たちに醸造蔵を任せて、アロワナ王子のところに行けるもんね。
最近パッファが農場を留守がちなのは理由がある。
人魚国の王位継承者アロワナ王子が、現在地上を武者修行中。パッファはそれに同行しているのだ。
何故?
アロワナ王子に惚れているから。
王子の旅に参加するのと農場での作業を両立するために、ブレイクスルーして人魚族版転移魔法まで編み出した彼女である。
農場の人手が充実するほど、農場に戻る頻度を少なくしてアロワナ王子と多く一緒にいられるのだから万々歳であろう。
「いやー……、でも逆にここまで増えると指揮統率にそれなりの責任あるヤツが付いてないといけないから……、大変そうだなあ……!」
ままならなかった。
……。
……いや待て。
今の発言に何か違和感がないか?
自他共に認めるアウトロー。権力へ反逆することが存在意義だと言わんばかりのパッファが、集団を気にかけるセリフを!?
「アナタに物申したいことがあります!」
俺が戸惑っていると、その戸惑いを一時置かなければならない事態が発生した。
新規の人魚生徒の一人が、パッファに食って掛かったのだ。
「『凍寒の魔女』パッファ様! アナタは何故自分の叡智を世のために使おうとしないのですか!?」
「あ?」
「女人魚の使う薬学魔法は、人魚国と人魚族へ貢献するために使うもの! 私は家や学校でそう教わりました! しかしアナタは、自分の探究心のためにしか並外れた魔法を使おうとしない!」
なんか独自に進めていた魔法研究が危険なので逮捕された経歴の持ち主のパッファである。
「そんな自分勝手な人から教わることなど何もありません! 私は、彼女からの授業を拒否します!」
食って掛かるのは、毛色正しい人魚貴族の娘なのだろう。だからこそパッファのアウトローさが許せないに違いない。
しかし無謀な子だなあ。
あのパッファに真正面からケンカ売るような発言をしてくれるなんて『オイオイオイ』『アイツ死んだわ』と言わざるをえない。
この無謀な発言者が、パッファ特製魔法薬で吹き飛ばされると確信した、次の瞬間……。
彼女は、パッファの熱い抱擁を受けた。
「むふうううううッ!?」
「お前の言う通りだ」
少女人魚の頭部が、パッファのおっぱいの谷間に埋もれていく。
「アタイは今まで、自分のためにしか自分の力を使ってこなかった。しかしそれではダメだということがやっとわかった」
「!?」
「ヒトに教えることは、自分自身も成長させるという。お前らを指導することで、アタイ自身もヒトから尊敬される魔女へと生まれ変わりたいと思う。一緒に頑張っていこう」
「!?!?」
おい、このアウトロー牙が丸まってるぞ!?
一体何があった!?
「いや……、だって将来人魚王妃になることを考えると、無闇に敵を作っておくことは悪手だろ?」
「人魚王妃!?」
話が想像以上に急進してない!?
「妻が夫の足引っ張るわけにもいかない。コイツらいいとこの学校所属ってことは未来のエリート候補だろ? 手懐けといて悪いことはない!」
旅の途中で、彼女とアロワナ王子との間に何かがあった……。
としか思えない怒涛の展開。
今俺たちの目の前にいるのは、切れ味鋭いアウトロー女ではなく、将来の幸せな家庭を夢見る恋の乙女であった。
「……あッ、ディスカス大丈夫? キミ、アウトローなパッファに憧れてたんだよね? 幻滅してない?」
と、立ち位置的にパッファの一番弟子と言うべきディスカスに尋ねた。
「大丈夫っす。パッファ姐さんが時おりどこに出かけてるのか薄々勘付いていましたんで……」
「そうか……」
そりゃ気づくよね。
実際のところ、時おりどころの頻度じゃなかったし。
「愛の力って偉大っすね……」
「そうだな……」
こうして意外なことに、六魔女の中でもっとも指導と教育に熱心に取り組むのはパッファとなるのであった。
* * *
次はランプアイのところを覗いてみよう。
なんか見慣れぬ少女人魚が、ランプアイの前で直立不動の姿勢をとっている。
「ベタ家息女! クラウンテールであります!」
誰?
まあ、分校化で新たに加入したニューフェイス人魚の一人なんだろうけれど。
話しぶりからして偉い血筋なのかな? 貴族とかそんな感じ?
「『闘魚』の家に生まれた女として、将来近衛兵となることを目標とする身として、先んじて近衛兵に所属し『獄炎の魔女』とまで称されるランプアイ様にかねがね敬服しておりました。この度お会いできて、随喜に打ち震えております!!」
「家柄的にはアナタの方が上なんですし、そんなに畏まらんでも……!」
戸惑いがちなランプアイ。
やっぱり、人魚族内での六魔女人気は高い。
「実はわたくし、ランプアイ様に謝罪したいことがありまして!」
「謝罪? わたくしとアナタは初対面のはずですが?」
「肯定です! しかしながらわたくしが謝したいのは、わたくし自身のことでなく我が身内の不始末!」
身内?
「アナタ様を陥れた不肖の兄のこと、何卒お許しいただきたいのです!!」
兄?
「我が兄、ベタ・ヘンドラーは、『闘魚』の栄名掲げしベタ家に生まれながら、出奔し口先三寸の弁士などに身をやつした当家の恥! にも拘らず先日は人魚王ナーガス陛下に目通りし、ご政道に口を挟むという身の程知らず!」
あー……?
あの娘、ヘンドラーくぅんの妹?
「その無礼を拳で戒めたがためにランプアイ様が囚われてしまったと聞き及んでおります! ですがランプアイ様に非はありません! 悪いのはすべて我が兄!」
そう言えばヘンドラーくん今日は来てないな?
用がなくてもランプアイとイチャつくために訪問したりするのに、タイミングが合わなかったか?
「愚兄には、あの事件のすぐあとに『お兄ちゃん大嫌い!』と言っておきましたので、まずそれで溜飲をお下げください! いずれ我が家の全力を挙げ、ランプアイ様の無罪を勝ち取り、汚名をそそいでみせますので!!」
「過ぎたことはいいのですよ」
ランプアイが、クラウンテールとやらの手を取り、優しげな微笑を浮かべた。
「大切なのは今。そう今だけが大切なのです。もう少し落ち着いたところで話しましょう。保管しておいた聖者様手製のお菓子がありますので」
「こ、光栄ですが……! 話って、一体何を話せば……!?」
「ヘンドラー様のことを、子ども時代のこととか趣味とか色々……!」
「なんでそんなことを!?」
ランプアイ。
他の生徒への授業もちゃんとやれよ?
こうしてランプアイとクラウンテールは部屋へと消えていったが、これはヘンドラーくんが訪問した時にまた一波乱ありそうだなと思った。
* * *
そして。
『疫病の魔女』ガラ・ルファが管理する医務室から、なんか物音が聞こえてきたので、何言ってるんだろう? と耳を澄ませると……。
「「「「狂気! 狂気! 狂気! 狂気! 狂気! 狂気! 狂気……!」」」」
というシュプレヒコールが延々と続いていた。
そっとしておこうと思ってそのまま通り過ぎた。