軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

259 人魚分校

俺です。

はい。

エンゼルたちが帰って来たよ。里帰りを終えて我が農場に。

ただ、気になる点が一つ……。

「……増えてる?」

数が。

人数が。

たしか行く時は五人プラス引率のゾス・サイラだったはずなのだが、戻ってきたら二十人ぐらいになっていた。

増殖?

「人魚は増殖する生き物だったのか!?」

「違うわ。なんでそういう発想になるんじゃ?」

今回、引率係を務めたゾス・サイラから鋭いツッコミを食らった。

いやホント今回はお疲れ様でした。

「じゃあなんで信じて送り出した人魚たちが数増やして戻ってきてんの?」

総勢二十人程度の人魚たちの中には、元からのメンバーであるエンゼル、ディスカス、ベールテール、ヘッケリィ、バトラクスの五人もいて苦笑気味の表情をしていた。

じゃあ他十五人程度の見知らぬ人魚たちは誰?

少なくとも俺は会ったことのない顔だ、初対面。

「お初にお目にかかります聖者様。アナタ様のお噂はかねがね」

その中で、平均年齢層を頭一つ抜け出したようなお姉さん人魚がいた。

何やらひどく几帳面そうな印象で、印象そのままにキビキビ頭を下げる。

「私はカープ。人魚国一の名門魔法薬学校マーメイドウィッチアカデミアにて教師を務めております」

あー、あの話題に上っていた。

「このたびは聖者様の支配するこの農場にて、マーメイドウィッチアカデミアの分校を設立する仕儀となりました。どうかよしなにお願いいたしたく存じます」

「ふーん……」

……。

……ん?

「分校ッ!?」

なんですかそれ!?

唐突剛速球すぎて『ビックリして二度見』みたいな感じになっちゃったじゃないですか!?

理解するのに一瞬かかっちゃいましたよ!?

「それが妥協案なのじゃ」

一応こちら側サイドの人材としてゾス・サイラが解説してくれる。

「妥協案?」

「エンゼルどもは、この農場での修行生活を続けたい。しかしそれをされたら名門校のメンツは丸潰れになる。あちらを立てればこちらが立たず」

それを両立し、両方の都合を満足させるように……?

「この農場にマーメイドウィッチアカデミアの分校を設立し、エンゼルどもはそこに席を置かせる。さすればここにいるままアカデミアの生徒のまま。すべてがそのままというわけじゃ」

なーるほどー。

なんという政治家辺りが考えそうな灰色の詭弁的な。

「それと、出発した時より増えている人魚たちとはどんな関係が?」

「分校を立ち上げるなら、もう少し立派な数がいるじゃろうという配慮じゃな。マーメイドウィッチアカデミアから募った留学生と言ったところじゃ」

なるほど。

皆さんも一緒にここでお勉強していきたいと?

「私は、分校の責任者兼生徒たちの指導係として赴任させていただきました。当然、プラティ様の旦那様であらせられる聖者様のお役にも立つ所存でございます!」

さっきのカープさん? なる女性が頭を下げた。

なるほどたしかに彼女だけ生徒っていう年格好じゃないしな。

「お願いいたします。この地にマーメイドウィッチアカデミア分校設立の許可を!」

「いや、別に否やはないけど……」

どうせ幾度も新住人を受け入れてきた我が農場だし、今さら心配したところで意味はなかろう。

まあ、我が農場の古株たちにも意見を求める程度の配慮はいるが……。

「賛成です」

「よかろうなのだと思います」

「人魚さんたちの部署は定期的に人手不足になるし、ここらで一挙に増員してもいいんじゃないですか?」

「また新たに皿を焼かなければいけないな?」

「ワンワンッ!」

「に゛ゃー!!」

「明日からさらにたくさんミルクを搾らないと……」

「新しいお友だちですー!」

「彼女らは酒を飲むのか?」

概ね歓迎ムードだった。

ただし一点……。

「問題ありですね」

異論を唱えたのは皮肉にも同族の人魚だった。

六魔女の一人『獄炎の魔女』ランプアイ。

「あれ? キミだけ?」

他の人魚面子は?

「パッファはまた外出しております。それとガラ・ルファは医務室にこもっていまして、職務が忙しいと言うよりはまた狂気呼ばわりされるのに耐えがたいようです」

初来訪の少女人魚たちから「『獄炎の魔女』キターッ!?」「ホントにいたーッ!?」と感激の声。

六魔女ってホントに地元じゃステータス高いんだな。

「パッファ、ガラ・ルファはいいとして、プラティは? 本来こういう時こそ彼女の出番だろう?」

我が妻にして人魚チームの代表、統括者なんだから。

人魚チーム全体の意見こそ彼女の口から発言されるべきじゃないの?

それを何故ランプアイが?

そして何故拒否?

「今回はわたくしが代弁者を務めさせていただきました。『問題あり』とはプラティ様のご意見です」

「えー?」

「プラティ様とあの学校とは様々軋轢がありまして……」

そうなの?

俺がさらに話を聞こうとしたところ、異変が起こった。

生徒たちを率いてきた教師カープの目がキラリと光ったのだ。

「プラティ様! そちらにおられますね!?」

「ギャー!? 見つかったーッ!?」

プラティいたの?

いないと思ったらそんな近くの物陰に隠れていたのか?

「甘いですねプラティ様! アナタの学生時代、そうやって隠れて授業から抜け出そうとするのを何度阻止したかお忘れですか!?」

「だからアンタは嫌いなのよ! 過去の亡霊が! アタシの楽園に踏み込んでくるな!!」

……。

プラティがあそこまで拒否感丸出して、かつ不利に回っているとは珍しい。

彼女とあの教師の関係とは?

「……そういえば『王冠の魔女』はマーメイドウィッチアカデミアを中退していたんじゃったのう」

とゾス・サイラ。

「わたくしも伝え聞く程度ですが、ああいう性格ゆえに名門校の規律正しい校風に合わなかったプラティ様は、教師陣と何度も衝突していたとか。恐らくあのカープ教師とやらはその急先鋒だったのでしょう」

とランプアイ。

「……ってことは、アタシへの教師からの視線がやけに厳しかったのって、お姉ちゃんのとばっちり!?」

とエンゼル。

問題児の妹ともなれば、そりゃ警戒されるよな。

その傍らでプラティとカープさんは取っ組み合いとなっている。

「この時をずっと待ち望んでいました! 私がここに来たのは在校生の保護教育だけでなくプラティ様、アナタにも再会できると踏んだから! エンゼル様たちと共に今こそアナタも再教育を受けて、マーメイドウィッチアカデミアからの正式な卒業を! 中退でなく!」

「うるせえええッ!! アタシはとっくに支配からの卒業を果たしたのよおおお! 行儀よく真面目になんてできやしないのよ! 早く自由になりたかったのよおお!!」

プラティが子どものように嫌がっている。

あとあんまり派手に暴れないでね、お腹の子が心配だから。

「と、いう風に拒否反応凄まじく。わたくしに代わって反対してきてくれと懇願してくるほどで」

ランプアイが呆れ気味に言うが……。

プラティが懇願……!?

「さすがの『王冠の魔女』にも天敵はいるということじゃのう。規律几帳面の塊というべきカープでは魔女と波長が合わぬのは仕方ないかもしれんが」

それに加えて恩師と言えば、親の次に生涯逆らいづらい相手。

プラティも煙たく感じてしまうか。

としたらどうしたものか?

さすがに愛妻が嫌がるのを押し切ってまで新住人を認めるのはやりたくないんだが?

「そうよ! 今や農場主夫人であるアタシの権限を総動員してアンタを拒否してやるわ! エンゼルたち生徒全員連れて人魚国に帰りなさい!!」

「アタシまで!?」

巻き添えのエンゼル。

プラティがどうしてもと言うなら俺もそれに賛同するしかないけど……。

「となれば仕方ありません」

カープ教師が、しかし冷静さを崩さず言った。

「これを出す他あるまいでしょう。シーラ王妃様から預かってきた書簡です」

「ママから!?」

懐から何やら幅の広い海草を出すカープ教師。

……手紙?

昆布に書かれた手紙?

プラティは、それをひったくるように取って広げて読みふける。

「…………」

数十秒間、彼女の眼球が忙しなく動いて。

やがて……。

「……分校の設立を認めます……ッ!!」

「「「「「やったーッ!!」」」」」

生徒人魚たち大喜び。

プラティ完全敗北。

プラティにはさらにもう一人天敵がいた。