軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

251 船舶改造計画

春になって、さらに取り掛かりたいと思っていたこと。

船の改造。

冬の期間中、俺は船を建造した。

その船は一様の形を成し、処女航海も成功させたが、まだまだ真の意味で完成の域に達していない。

その理由一。

無駄なスペースが多い。

本来蒸気船として運営するはずだった本船の蒸気機関にノーライフキングの先生が魔法熱源を搭載してくれた。

よって本船は燃料の補給なくエターナルに航行し続ける魔法動力船と化してしまい、元々の燃料だった石炭を積み込むためのスペースが丸々宙に浮いてしまった。

同じような経緯をもった設備は他にもある。漁獲した魚を保存するための冷蔵庫。

しかしプラティのアイデアで、釣った魚は即時転移魔法で農場の冷蔵庫に放り込むために、そもそも貯蔵する必要がなくなった。

よって船内冷蔵庫もお払い箱。

船内には、用途不明となったデッドスペースが多く発生してしまった。

これに上手いこと新しい役割を与えて、我が船をグレードアップさせていきたい。

次に我が船が未完成な理由……。

その二。

装飾が極めて少ない。

っていうか皆無。

俺のギフト『至高の担い手』は、作ろうと思えばどんなものでもセミオートで作れてしまう奇跡の手。

この魔法蒸気船が作れたのも『至高の担い手』による功績が大なのだが、そんな全能能力にも弱点はある。

芸術的な分野にまったく効果を発揮できないのだ。

たとえば創作的な絵画、彫刻。無理。

筆を持ったとしても感動的な大作小説を書けるわけでもない。

そういった、見る人によって何が最高か異なる芸術品は、『至高の担い手』にとって不得意分野であるらしい。

……単に俺のセンスが壊滅的なだけかもしれないが。

そのため我が船も、本来あるべき装飾的な要素がまったくない。

船首の女神像とか、欄干の緻密な彫り物とか、船体に塗装すら施していない。

建造中は、漁を実行して鰹節の材料になりうる魚を取ってくることが第一だったため、そこまで気が回らなかったが……。

いざその目的を果たすと、そのあまりにもな飾りっけのなさが気になってきた。

船内の改造と共に、外装にも凝りたいものだなあ。

「……しかし、外装の方は誰か他の人に任せないとな」

だって俺自身、そっちの分野が絶望的だと分析したばかりだ。

こればかりは他人任せにしなければどうにもならない。

内装のことはひとまず置くとして、外装を誰にお願いするか、考えなければなるまい。

「エルフの中の誰かでいいんじゃないの?」

とりあえず我が妻プラティに相談してみた。

妊娠初期の微妙な時期だが、その英邁さは陰りがない。

よって相談役には最適。

「ウチのそういう部門ってエルフたちの担当でしょう。彼女たちの中から適性ありそうなのを五、六人見繕って来れば?」

俺もそれは考えた。

ただね。

エルフチームのリーダー格であるエルロンが最近ね……。

――『船の装飾? 飾りつけなど何故しなければならないのだ? 飾るという行為自体が真の美から遠ざかるだけ。日夜、皿を焼き続けて私が辿り着いた美の極致とは、自然の美に勝る美はないということだ。人が作為をもって作り出す美など、自然の美に比べれば気取った小細工に過ぎん。飾るという行為は、それ自体が作為だ。自然は飾らなくとも美しい。飾れば飾るほど自然の美から遠ざかる。美の探究とは、小細工に過ぎない人の手による美を、いかに自然の美に近づけるか創意工夫することを言うのだ。だから飾りなど極力排し、人の手による大胆な造作と、偶然から生まれる色付けが鬩ぎ合って二つとない究極の美が生まれる瞬間が……!!』

…………皿の焼き過ぎで厄介なアート意識に目覚めてしまった。

なので頼めない。

「そもそもエルフは、手に収まる小物類の制作が得意分野だから……」

さすがに船なんて大建造物の加工は職務範囲外だろう。

となると……。

ウチの農場で他にできそうな人材の心当たりがない。

バティは服飾で創作的な才能を発揮しているけど、大工仕事はできないだろうし。

オークボたちはもはや大工仕事プロ級だけど、芸術性のある仕事はちょっと。

「……外注するしかないか」

とすると誰に頼もう?

やはり魔王さん辺りからテキトーに人材紹介してもらうのが無難かな。

魔族商人のシャクスさんに頼むと大きな借りになって怖いし。

「……」

「あれ? バッカスどうしたの?」

気付いたら酒神バッカスがすぐ隣に立っていた。

何だか難しそうな表情をしているのが謎。

「その人材に心当たりがあるのだが……」

「え? 本当?」

というか聞くとはなしに聞かれていたか……。

船の装飾を請け負ってくれる業者さんに、数千年の時を生き抜く酒の神の推薦。

信用できるんじゃない?

「連れてきてもいいか?」

「うん、いいよいいよ。バッカスが連れてくる人なら問題ないでしょ。……で、なんでさっきから微苦笑してるの?」

「いや……、まあ、腕はたしかなのだ。何せ世界一のモノ作り種族だから、建築も得意だろうし。……でもなあ、そのモノ作りへの情熱が却ってアダになるというか……!」

バッカスにしては珍しい、奥歯にものが挟まったかのような素振りだった。

まあ、とにかく連れて来てみたらいいんじゃない?

* * *

バッカスが連れてきたのは、ドワーフだった。

以前、お酒の蒸留器作りを依頼したという人か。

たしかにあの蒸留器は出来が良かったし、任せて大丈夫、という実感は湧くが……。

「…………!」

実際にドワーフの親方という方に来てもらい、船の現物を見てもらった。

プロのドワーフさんに、素人作りの我が船をお見せするのは恥ずかしくもあるんですが……。

細かい部分のツッコミはナシにしてくださいよ?

しかし、ドワーフさんは一目船を見てから少しもたじろがず、動きを止めていた。

「……あの?」

あまりに動かないドワーフさんなので、気になって声をかけてみるも、動かない。

動かないどころか、呼吸してない?

「死んでるううううううううーーーーーーーッ!?」

ドワーフさん、立ったまま死亡していた。

何故?

大急ぎでダンジョンから先生を呼んで、術で魂を戻してもらった。

もう少し遅れてたら蘇生不可能だった。

『反魂の術は、魂が冥府に渡ったり肉体が損壊しすぎると効き目がなくなりますからのう』

先生、本当に御足労すみません。

なんでいきなり死んだのドワーフ?

問いただしてみると、総マナメタル製の船なんかが存在していること自体に、事実を受け止めきれなかったらしい。

驚愕と感動で心臓が止まったそうな。

だ……、大丈夫なのこの人?

仕事任せて大丈夫?

あのバッカスが、酸っぱい顔で躊躇する理由が俺にもやっとわかった。

このまま船の装飾をお願いしても、何度心臓発作で死なれるかわかったものじゃないから、バッドエンドを避けるためにも仕事は別の方にお願いして……。

「待ってくれ!」

いきなりドワーフの人に縋りつかれた。

「この仕事は! この仕事は是非ともワシにやらせてくれ! こんな膨大なマナメタルの加工! ワシの生涯最高の仕事になる! この仕事を逃したらワシは一生後悔するううううううううッッ!! 後悔しすぎて死んでしまううううッ!!」

仕事頼んでも死ぬし頼まなくても死ぬの!?

厄介な人に申し込んじゃったなあ……。

少なくとも仕事を任せれば死んだとしても最悪成仏はできるだろうということで、任せることにした。

ドワーフは天にも昇るように喜び、早速そのまま昇天しそうになっていた。

はなはだ先行きが不安になってきた。

* * *

とにかく作業は始まり、ドワーフの親方は本拠から数人の助手を呼び寄せ、我が船を見栄えよくするための装飾加工に乗り出した。

もう一つの懸念だった船内の改造について。こっちは俺自身でやろうかなと思っていたんだが、ドワーフたちが強硬に乗り出し……。

「そっちも! そっちも是非ともワシらにやらせてくれ!!」

「追加料金とか取りませんから! この素晴らしい船の製作に関われること自体が幸せ!」

と、押し切られて結局全部任せることになってしまった。

さて。

どんな船に出来上がるのやら……。