軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

252 ドワーフの憂鬱

ワシはドワーフ地下帝国の親方エドワード。

あれ以来まったく仕事が手につかない。

あれ以来とはどれ以来かというと、あれだ。

マナメタルだ。

あの胡散臭いバッカスが持ってきた大量のインゴット。

紛れもないマナメタルのインゴット。

小指の先程度の塊でも、持ち帰れば一生遊んで暮らせるとまで言われているマナメタルを、あんなにたくさんどこから持ってきたんだ!?

そのことが気になって何も身に入らない。

仕事中ぼんやり鎚を振るって、間違えて自分の指に直撃して骨粉砕みたいなことを毎日やっている。

それもこれも、あの大量のマナメタルを目にしただけでなく、実際にこの手で加工してしまったことが原因だ。

この手に、大量のマナメタルを加工した時の感触が染みついて離れないのだ。

ワシらドワーフ職人にとって金属を打ち鍛える手応えは、上物を作り出すための大事な指針。

だからいつまでも手が覚えている。

あのマナメタル製の蒸留器を作り上げた時のことも。

あの熱く、剛健で、それでいて羽毛を触るような心地よさも感じる手触り。

ドワーフ一の美女の尻を撫でたところであそこまでの心地よさではあるまい。

あれ以来ワシは完全にマナメタルに魅入られていた。

あの時は、クライアントの指示通りに蒸留器をきっちり作ったが、あの大量のマナメタルで自分の好きなものを自由に作りだせたら、どんなに至福だろうか。

想像するだけで昇天しそう。

しかしあくまで妄想でしかないことに気づくたびワシは落胆に襲われるのだ。

もう一度……、マナメタルを使う仕事に携われないだろうか……?

そう思うたびワシは溜め息を吐き出すのだった。

* * *

「なあ、テメエら……」

取り巻きの若いドワーフに尋ねることもあった。

「テメエら、好きなだけマナメタル使っていいって言われたら、マナメタルで何作りたい?」

「どうしたんです親方いきなり?」

まあ、変な質問をしたら不審がられるのも仕方ないか。

「ちょっとした戯れみてえなもんよ。特に意味はないから、思ったことをそのまま言ってみな」

「変な親方ッスねえ。……う~ん、マナメタルでしょう? そんな超高級品……」

子分ドワーフは、意外と真面目に考えて……。

「……ゆ、指輪?」

「小さい!!」

好きなだけ使っていいって言っただろうが!

所詮想像の中のことなんだから、現実に縛られず大胆に考えろよ!

すると別の子分ドワーフがみずから名乗り出た。

「じゃあ親方! 剣なんてどうッスかね!?」

「剣……!?」

「ただの剣じゃないッス! 盾なしで、両手使って振るうツーハンドソードッス! デカくて重くなる分、鉱物もたくさん使うッスよおおおお!!」

ツーハンドソード。

それはいいな。

剣は何より祭器としても珍重され、ワシらドワーフの腕の見せ所となる武器。

それゆえ大量の鉱物を使う両手剣とは、大胆な発想だ。

「ハッ、お前らまだまだ考えることが小さいぜ?」

お?

なんだまた新たな子分ドワーフが立候補してきたぞ?

「オレならマナメタルを使ってもっとドデカいものを作るね。そう、オレが作るのは、…………全身鎧だ!!」

「「「全身鎧!?」」」

全身をマナメタルで覆うって言うのか!?

そんなのどれだけのマナメタルが必要だって言うんだよ!?

今までの案で、ダントツに多くの鋼材が必要になるのは明白だ。こないだ酒神が持ってきたインゴットの量でも足りるかどうか……。

足りるか。

「恐れ入ったぞ子分その三。お前の考えが一番大きい!」

「あざっす!」

そうだな、ドワーフたる者、本職である鍛冶に関しては稀有壮大であらねば!

ワシも夢見続けるぞ、いつか贅沢の限りを尽くして作り出してやるのだ自分の手で!

マナメタルの剣! マナメタルの盾! マナメタルの鎧!

伝説の武具になりうる三点セットを、いつの日かこの手で!!

「親方ぁー、お客さんですよー」

「何ぃッ!? 誰だ!?」

「こないだ来た胡散臭そうなヤツですー」

間違いないバッカスだ!!

* * *

バッカスは、こないだの仕事の礼と称し、新作の酒を多種多様に持ち込んできた。

「どうしたのだ……、そんなガッカリそうな表情をして?」

バッカスに指摘された。

え? そんな表情してましたか、すみませんねえ?

いや、嬉しいですよ。ドワーフお酒も大好きですもん。

酒の神が鋭意を込めて作った酒なら美味いに決まってるし。酒好きドワーフ大喜び!

……まあ、お土産にマナメタル持ってくる道理もないしねえ。

「……早速味見でもさせてもらうか」

「それ酢だぞ」

「酸っぱッ!?」

「酒を元にした調味料だ。せっかくなので他の酒と一緒に持ってきた」

くそう! こんなたくさん種類のある酒の中にトラップが隠されていたとは!

それならマナメタルだって混ぜてあってもいいとは思いませんか!?

「……それでだな、今日は土産の酒の他に、もう一つ用件があって来た」

「?」

「また新しく仕事を頼みたいのだ」

!?

それって、まさかまたマナメタルの加工に関わるお仕事!?

「船造りなんだがな」

ふしゅ~~。

と、我が心の中で期待の風船がみるみるしぼんでいく絵が見えた。

船ぇ?

船ってあれでしょう? 大体木造でしょう?

マナメタルの関わる余地がないじゃない。それだけでモチベーション著しく下がった。

まあ、ドワーフはさ? 鍛冶も得意だが建築も得意よ?

地下帝国に住んでて海とは馴染がないと言っても、船ぐらい魔族や人族以上のものを築き上げる自信があるよ?

「いや、一から造らずともいいのだ。既に完成しているものが一隻あってな。ただ外装の飾り付けがどうにも上手くいかず、ここはプロの手を借りたいとなってな」

ああ?

どうせ素人造りの船でしょう? 一からウチらでやった方が出来がいいし早いんじゃない?

しかしまあ、他ならぬ神様仲介の仕事ならやらんわけにはいかんでしょうよ。

ヤツのくれる酒は美味しいしな。

……あともしかしたら、報酬にマナメタルが含まれることも、あるかもだし。

* * *

こうしてワシは、船造りの仕事を引き受けることにした。

ほぼ完成したものに装飾だけ施してほしいという、何とも奇妙な依頼ではあるが、まあモノ作りの仕事ならばなんでも完璧にこなすのがドワーフの誇り。

まずは、現物を見せてもらおうと現地に向かう。

転移魔法なんてハイカラなものを使いやがって、一瞬で到着したぜ。

出迎えたのが、そこの主とかいう何ともヒョロ細い男だった。

こんなのが主だなんて大丈夫かよ?

まさか船って、釣り船の飾りつけでもさせるんじゃあるまいな?

俄かに不安になってきた。

ともかく現物を見せてもらうことにした。

見た。

想像以上に大きな船だった。

魔族なぞの戦艦に匹敵する大きさなんじゃない!?

いや、何よりも……。

その巨大船の外装に使われているのが……。

「マナメタルうううううううううううううううううううッッッッ!?!?!?!?」

なんでッッ!?

なんでマナメタルが船の材質に!?

ああもうわかんない何から疑問にしていいのかからわからない。なんで? なんで? なんで!?

OK、少しずつ整理していこう。

まず船の材質に金属使ってるところからマジわかんない!

一番基本だよね、そこ。

金属なんか水に沈むじゃん。

なのに、この船はちゃんと浮かんでおる。

金属なのに浮かぶ船、何これ? ナニコレナニコレナニコレッ!?

いや待て落ち着け!

驚くべきところはまだたくさんある!

ここでこんなに興奮していたら最後までもたんぞ!

いいか……、何より驚くべきは……!

この船に使われている金属が間違いなくマナメタルうううううううううううううううッッ!?

なんでッ!?

贅沢とかそんな次元を遥かに超えておりますぞ!?

こんな巨大船を丸ごと構成するマナメタルの総量なんて……!?

どれだけですのん!?

全身鎧が軽く数百は作れるんじゃないですか!?

ワシの生涯を掛けた夢……、目標の数百体分……!

それがこの船……。

すご……、すごすごすごすごすごすご……!

ああ呼吸が……!

呼吸ってどうやるんだっけ……?

「…………」

「ん?」

「…………」

「し、死んでるッ!?」

* * *

ワシがどうやって冥府から戻ってこられたのかわからない。

しかしワシは全力でこの仕事を引き受けることにした。

マナメタルで出来た船の建造に多少なりとも関われるなら、ドワーフ冥利に尽きまする!!

え? 作業中ぽっくり逝きそうだからダメ?

逝かないように全身全霊頑張りますので!

どうか!!

ダメならそれはそれで憤死しますよ!!