軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

234 恐怖の隣人

オレは村人。

名前なんてどうでもいい、何処にでもある田舎村の、何処にでもいる普通の住人だ。

農民の父と母から生まれ。

いいこともないが、度が過ぎて悪いこともなく、日々同じことを繰り返して歳を取り、気づけば自分もカミさんを貰って父親になっていた。

娘は今年で八歳になる。

途中、オレたちを支配する人間国が滅ぼされて、魔族が代わりに支配するようになったけど、特に変わりはない。

オレたち庶民にはどうでもいいことだ。

それどころか税は軽減され、土も心なしか豊かになってきた。

植えた作物も育ちがよく、このままいけば暮らしはどんどん楽になっていく。

そう思っていたのに……!

天の神様は、オレたちに試練を与えてきなさった……!

* * *

「丘の上にモンスターがいた……!」

「やはりか……!?」

最近、山中に妙な気配が漂っていたので、たしかめてみたら案の定だった。

村の中で特に度胸のある若者を様子見に行かせたのだが、真っ青になって帰ってきた。

「……して、どんな種類のモンスターじゃった?」

「人型だ。でっかいナリをして、たくさんいた……!」

「それはオークじゃな。知恵がある上に群れて行動する。厄介なヤツらじゃ……!」

村で一番物知りな長老の解説ではあるが、名前がわかった程度で何の利があろうか?

モンスターは凶悪。

重要なのはそこだけで、その点、細かい種類に違いはない。

ウチ程度の小村が、ある日突然モンスターの群れに強襲されて壊滅する……。

などという話は、ごく稀にだが、それでもたしかに耳に入ってくる。

「モンスターの様子はどうじゃった……? こちらには気づいておったか? 長居する雰囲気じゃったか?」

「近くにオレたちの村があることには気づいてない風だった。でも確実に住みつく空気だったぜ。なんか木を伐り出して色々作ってたもん……!」

そんな!

モンスターが村の近くに巣食うというだけで、存亡に関わる大惨事ではないか!

今はまだオレたちの存在に気づいていないかもしれない。気づかないまま通り過ぎてくれたら万々歳。

でも居座り続けられたらいつかは気づく。

気づかれた瞬間オレたちは終わりだ!!

「こんな小村滅ぼすのに、オークなら十体もいれば充分じゃろう。実際ヤツらはどれくらいいた?」

「最低でも三十体ぐらい……!」

ダメだ……。

オレたちの村終わった。

ヤツらがこっちに気づくまでがオレたちの寿命の残り……!

「今すぐ領主様に連絡して兵を出してもらおう! そしてモンスターを追っ払うんだ!!」

「それが最善じゃろうのう。……よし、村で一番足の速い者を使いに出すんじゃ。領主様が動いてくれるまで、ワシらはじっと息を潜めてモンスターに気づかれんようにするんじゃ……」

皆も長老の指示に賛同し、オレたちは草木のように息を殺して耐え凌ぐことにした。

静かで長い日々の始まりだった。

* * *

そうしてオレたちが息を潜めている間も、度々偵察は重ねられていた。

すると驚くことがわかった。

モンスターは丘の上に城を築いているらしい。

最初は、雨露を凌ぐ小屋かと思われたが、日が経つごとに立派に大きくなっていき、もはや小屋とは呼べない規模にまで肥大化。

もはや城としか呼びようがない。

「石で壁造ったり、門建てたり、デッケェ城だ! あれじゃあもう兵士が来ても倒せねぇかも!?」

様子見から帰ってきた者たちは慌て泣きながら報告するのだった。

「これは……、最悪村を捨てる覚悟が必要かもしれんのう……」

長老が絶望するかのように言うのだった。

いつモンスターが襲ってくるかわからない村から去り、もっと遠くへ逃げようと?

そんな! 人間国の法術魔法もなくなって、枯れていた土のマナが戻ってきて、来年から益々豊作だって期待していたのに。

余所の土地に移って一からやり直せって言うのか!?

「皆殺しにされるよりマシじゃろう。男は撲殺され、女は連れ去られて散々慰み物にされてから殺される。その方がいいというのか?」

しかし……!?

オレの娘が最近、冬の寒さにやられて風邪を引いて寝込んでいるんだ。

熱も引かないし、今の状態で動かすことは……!

「もはや領主様のお助けを待つ余裕はない。一刻の猶予もならん。おぬしの娘には、生命力がもつことを期待するしかあるまい。他の者も急いで出立する準備を始めるのじゃ!」

村を捨てるという選択に誰もが納得できないものの、他に生命を守る方法がないのなら従うしかなかった。

でも、オレには熱にうなされる娘がいる。

病身のこの子は、長い移動に耐えられないに違いない。

他は大丈夫でもオレたち家族は今すぐ逃げられない。

貧乏村の俺には、病気の娘に精のつく食事を与えてやることもできないし、暖かい布団も掛けてやることもできない。

あるのは精々麻の粗末な掛け物だけ。

こんな劣悪な環境では、治るものも治らない。

一体俺はどうすればいいというんだ?

娘を救い、村を守る方法が何かないのか?

天の神よ……。

見ているのならどうかオレたちを助けてください……!

* * *

そして来た。

村を捨てる準備ができる前に、モンスターがやってきた。

ついに村の存在に気づいたのだ。

ヤツらの行動は迅速で、迫ってきたとわかった時にはもう遅かった。

「遅ればせながら、ご挨拶に伺わせていただきました」

「…………」

ん!?

オークは、三体ほどの小集団で正面からやってきた。

武器は持っておらず、代わりに何かの包みを持っていた。

「これは手土産です、つまらないものですがお納めください。いや、こんなに近くにお住まいとは露知らず、一ヶ月近くも放置して申し訳ありませんでした」

小包は、オークから代表の長老の手に渡る。

「我らの本拠地で作ってます野菜です。自由に調理して食べてください。村の皆さんに行き渡るよう、あとで仲間が荷台に積んでやってきますので」

「は、はあ……!? ……ッ!? ッ!?」

長老が、恐怖と混乱で今にも昇天しそうな顔色になっている。

本当に昇天されたら困るので、オレが機転を利かせて応対を替わる。

「あ、アンタたちは、この村を襲う気はないのか!?」

「そんな滅相もない。我々に敵対の意思はありません。何事も平和が一番ではありませんか」

相手のオーク。

礼儀正しいだけでなく、堂々とした物腰が偉人めいていて圧倒される。

「で、では何故、城を建てているんだ!? 城? なのか? 城ってのはどこかを攻めたり戦争したりするために建てるものだろう!?」

「建てたいからです」

あまりにキッパリ答えてくるので、それ以上追及のしようがなかった。

「で、でも、アンタらが近くにいることで皆迷惑してるんだ。モンスターがいつ襲ってくるかわからない。そんな状況で皆怯えて、外もオチオチ出歩けない! 水汲みや薪拾いも滞るし、第一皆精神的にヘロヘロなんだ!」

もはやヤケクソ気味に言いたいこと全部ぶちまける。

向こうが逆切れしたとしてもかまうものか。

「ウチの娘なんて、ただでさえ病気で具合が悪いというのに……!」

「病気ですか。それはいけない。医者にはもうお診せに?」

「こんな貧乏村に医者なんかいるわけないじゃないか!!」

「ならば私が診ましょう」

は!?

「これでも人魚族の名医から一通りの診察の仕方を学んでいます。何かお役に立てるかもしれません」

もう何が何だかわからなくなって、オレはオークに請われるまま、娘の下へ連れて行った。

オークは娘の口の中を覗いたり、胸の鼓動を聞いたりして……。

「典型的な風邪ですが、悪化して肺炎になりかけている。栄養状態が悪いのと、この冷え切った部屋の空気が悪いのでしょう」

「そんなこと、わかったからってどうしようも……!」

「とりあえず、ガラ・ルファ様から預かってきた常備薬をお分けしましょう。ウチからのお土産の野菜で、栄養たっぷりのスープを作って飲ませてあげなさい。あとはできる限り部屋の中を暖かくすれば、風邪ぐらいすぐ治るはずだ」

オークは、懐から壜を取り出し、その瓶から丸薬を一粒出して娘の口元に運んだ。

翌朝、娘はいきなり元気になった。

何か釈然としないまま村の危機は去った。