軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

164 地下より湧き出すもの

話がちょっと前後するが。

天使ホルコスフォンが農場で生活していくことになり、そのことを一番喜んだのは、元人間国王女レタスレートちゃんだった。

「やった! やった! よかったわねホルちゃん! 本当によかったわ!!」

マジ我が事のように喜んでいる。

神前でもっともホルコスフォンを庇った彼女は、自分と相手を重ねて見ているらしく、それだけに感情移入が甚だしいようだ。

「いいこと! 今日からアナタは私の妹よ!!」

と言うくらいにホルコスフォンのことを気に入っている。

「わからないことがあれば何でも私に聞きなさい! ここでの生活は私の方がより長いんですからね!!」

と先輩風まで吹かせてやがる。

お前こそ、ホルコスフォンに次いでニューフェイスなのに。

「レタスレート・サン。恐れながらお静かに願います」

ホルコスフォンが、ヒトの名を呼ぶ際に独特なイントネーションだった。

「ただ今納豆作りの奥義をマスターから学んでいる最中なので」

「…………」

レタスレートちゃん。俺のことを引っ張って少々距離を開ける。

「ねえ? あれどういうこと? 私に対する敬意が思ったほどでもないんだけど?」

「そんなこと俺に言われても……!」

「私、あの子を助けるために一番必死で神に訴えたのよ? もっと感謝や尊敬が溢れんばかりに迸ってもいいと言うか、最低限それぐらいしなさいよ、と思うんだけど?」

「…………」

多少、殊勝になったと思いきや、レタスレートちゃんは所詮レタスレートちゃんだった。

「見返りを期待する時点で善意は善意でなくなるものですよ」

有形の見返りを求めないだけまだマシかもしれないが。

「そうね! 私のもっともっとカッコいいところを見せれば、やがて私を『お姉様』と信仰してくれることでしょうね!!」

信仰対象になろうとしてるのか。

高望みする分には自由だし、まあほっとくか。

「マスター、原料菌の分布率を記録しております。もっとも効率的な割合の指示を願います」

「え!? そこまで読み取れるの!?」

ホルコスフォンの能力はなんだか多岐にわたって凄い。

「いいえ、マスターが製造される聖納豆にはまだまだ及びません。これからますますの研究を重ねていきたいと思います」

「このままでも充分美味しいのに。ホルコスフォンは頑張る子だねえ」

あまりに優秀かつ健気なので、俺は賞賛の意味も込めてホルコスフォンの頭を撫でてやった。

それをレタスレートちゃんが不満げな表情で見つめていた。

「私よりあとに入って来たのに……! 私より高評価……!」

と。

「ホルちゃん! ちょっと一緒に来なさい!!」

レタスレートちゃんは、ホルコスフォンの手を取ってどこぞへと引っ張っていく。

「どちらへ向かわれるのですか? 私はもっとマスターから納豆作りの秘訣を窺いたいのですが?」

「私の作っている畑を見せてあげる! 私一人で世話しているのよ! それを見ればアナタも私の偉大さがわかるはず!!」

そしてホルコスフォンからの尊敬を勝ち取ろうというわけか。

でも、キミが育てている個人畑はどうなったか。

ちゃんと覚えてる?

* * *

「こ、これは……!?」

レタスレートちゃんは、自分の個人的に育てている畑……、が、あった場所を訪れて絶句した。

そこには畑など影も形もなかったからだ。

代わりにあるのは、底も見えないほど深く深くポッカリと空いた穴だった。

その穴のおかげで、畑は無茶苦茶になっている。

「この穴は……!? この穴は……!?」

そうです。

ホルコスフォンが地中から飛び出してきた時に空けた穴です。

四千年前からずっと地中で眠り続けていたという天使ホルコスフォン。出てくる際には当然土を掘り分けなきゃいけませんものね。

その上に偶然レタスレートちゃんの個人畑があったというのは、何百分の一の確率となるのだろう?

「そうだったあああ……! 私の畑が……! すっかり忘れてたああああ……ッッ!!」

あの直後から立て続けに色々起こったものね。

そりゃ頭から抜け落ちるか。そして今思い出して精神ダメージ倍増。

ホルコスフォンが地中脱出のために空けた穴は、それほど大きな直径ではない。が、そもそもレタスレートちゃん個人畑は二畳程度の小さな面積のため、壊滅させるには充分な規模。

埋めるのにも面倒な深さだし、またどこかで作り直しかな……。

「どうやら、私の不始末で迷惑をかけた様子」

ホルコスフォンが申し訳なさげに言う。

「いや、ああなったのは完全な偶然でキミのせいでは……?」

「せめてもの償いに、この穴を有効利用しましょう。マナカノン展開」

そう言ってホルコスフォンは、どこかからゴツイ大砲を取り出すと……、本当にどっから取り出した!?

……まあいいや。

その砲身を穴の中へ向けた。どこまで続いているかわからない穴の底めがけて。

「地層分析完了。ハイマナプラズマカノン、発射」

そして撃った。

穴へ向けてごん太ビーム砲を。

一体何なの!?

そして、ゴゴゴゴ……と地響きすると同時に、穴の奥から大量の水が噴き出した。

「おおおおーーーッ!? なんだあああああッ!?」

「地層内にある水脈を割り出し、プラズマ砲で撃ち抜いて繋ぎました」

水脈!?

そうか地下水か!?

「農作業には大量の水が必要と伺いましたので。マスターのお役に立てればと」

なるほど。

一発で井戸を掘りあててしまうとは、なんと有能なんだホルコスフォン!?

ただ……。

この噴き出た地下水なんだけど……。

一つ農業用水とするにしては問題が……。

「温かい」

そう。穴から湧き出す地下水は、人肌に対してけっこうな温かさ。

というかお湯。

水じゃなくてお湯。

「……温泉?」

ホルコスフォンは、地下水ではなくて温泉を掘り当てていた!?

「えー? あのっ!? これは……ッ!?」

その事実に、ホルコスフォンはただ普通に狼狽していた。

どうやらミス慣れしていないらしい。

そして一方……。

「私の畑があああああッ! 穴が開いた上に水浸しいいいッッ!!」

もう完全に絶望的となった自分の畑を前にレタスレートちゃんが泣き崩れていた。

正確には水浸しじゃなくてお湯浸しだけどね。

「あのッ……! そちらも何か、すみません……!」

そして、レタスレートちゃんにもオロオロするホルコスフォンだった。

……まあ、いいじゃない。

作物植える直前だったんだし、どこかに場所変えて畑を作り直せば。