軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1502 ジュニアの冒険:異世界漂流記

僕ジュニア、ただいま絶賛遭難中。

だって大海原に投げ出されたら、自然そうなるでしょう。

僕をここまで乗せて泳いでくれた大怪獣ケートスさんは、終始物腰丁寧で仕事も正確。安心して任せられると思ったのに……。

最後の最後でやらかしてくれた!

襲撃を受けたからって乗客を放っぽりだすのはどうかと!?

……しかし、ケートスさんが襲撃者を誘導してくれたお陰でこっちに類が及ばないのを考えると、適切な判断なのかなあ?

だからって大海原で放っぽり出されてもなぁ!

現状、海に落ちたからと言って溺れてはいない。

僕には『究極の担い手』があるので、その効能で海面の上にも直立できるからだ。

だから溺れたり、海水に体温を奪われる心配はないのだが……だからと言ってピンチでないわけでもない。

だってこの地点(海点?)見渡す限り三六〇度水平線なんだもの。

これではどこに向かえば陸地があるかわかったものではない。

それでも大まかな位置さえ特定できれば、太陽や星の位置で方角はわかるから、大陸側と推測される方へゆっくりでも進んでいけばいいだけだ。

しかし今の僕は神界から帰ってきたばかりで、自分の大まかな位置もわからない。

これで下手に進んで、もし大陸のある側と逆方向だったらマジでヤバい。

語彙も消失するほどに命に係わる。

『究極の担い手』だって全能ではないんだ。

海の上を歩ける、空だって飛べる。

しかし歩くにも飛ぶにも体力がかかる。

もし途中で体力が尽きたら?

『究極の担い手』を発動させるのにも多少の集中力がいる。意識を失えば途端に海の底だ。

だから、どの方向へ進むかは慎重に決めなければならないけれど、その手掛かりがまったくと言っていいほどない。

どこへも行けない、進めない。

逆様邪八方塞がりだ。

鉄格子のない牢獄とはまさにこのこと。

「う~ん、想像以上にヤバくないか?」

大海の脅威ここにあり、といった感じ。

現在ベストなのは動かないことだが、それだって打開の決め手にはならず、精々『状況を悪化させない』ことに有効というだけだ。

しかも現状維持は無限ではない。

こうしている間も少しずつ体力は低下していくし、お腹も減れば喉も乾く。ただ下手に動き回るよりは消費が緩やかだ……と言うだけに過ぎない。

こんな危機的な状況……これはまさに、漂流!

漂流しているのだ僕は!!

これが世に言う漂流!

まさか僕が漂流を実体験する日がこようとは!

これも修行の旅のいい経験になるんだろうか?

いや……このままだと僕の人生という旅路の終着点になりかねない!

何とかしてシリアスに切り抜けねば!

まずは、生命維持の確保こそ肝要だ。

こうなったからには長期戦も視野に入れておかなければ。

なんたって漂流だからな! 漂流!!

生命維持に大切なのは食料及び飲料。

僕の視界にはそれこそ海水で溢れているが、これを飲むわけにはいかない。

いつか父さんから教えられたものだ。

――『海水ってのは塩が入っているから飲んだ分だけ喉が乾くものだぞ。ましてや体内の塩分濃度が上がって命に係わるからな』

――『だから、海水でも飲まなきゃならない! となった時は……』

まず手で海水を掬う。

そうすると『究極の担い手』に反応して海水が、真水と塩に分かれる。

その真水だけを摂取する。

残った塩は適当に海に還すか、少量なら舐めてもよい。

『至高の担い手』と『究極の担い手』、同系統の能力を持った僕たち親子だからこそ可能な技だ。

これで飲料を確保したが、人は水だけで生きるにあらず。

形あるものを食べて様々な栄養素も補給しなければならない。

そこで取り出すのは、このテグス。

これでも旅する人として、何かあった時用に様々な道具を持ち歩いている。

細く丈夫な糸の先には、曲がった針が結びつけてある。

その針を投じると、海面にポチャンと落ちて、そのままズルズルと沈んでいく。

錘もないのに何故沈む?

それもまた『究極の担い手』の効果だ。

しばらく待つと“引き”があった。

即座に反応して手繰り寄せると……やったぜ、フィーッシュ!

「イワシだぁーッ!!」

さすがイワシ、どの海にもいる?

釣り竿も餌もなく、よくまあそれで釣りが成立するものだと困惑することだろうが、それも能力のお陰。

『究極の担い手』が釣り糸釣り針のポテンシャルを最大限以上に引き出せているから錘や疑似餌、釣り竿がなくとも変わりが務まる。

ガチのアングラーからすれば顰蹙ものではあるが、それぐらいなんでもアリだよな僕の能力……と再認識させられた。

それはともかく、せっかく釣った魚を、手早く料理しなければ鮮度が落ちてしまう。

早速調理だ。

僕の道具袋にはナイフも入っている。色んなものに使えるからなナイフは。

コイツを使えば大抵のお肉は、美味しい料理に早変わりだ。

手早く捌いてワタを取り出し、残った身を焼いて食べ……ようとしたが、さすがに海上では火は起こせないか。

『究極の担い手』でもさすがに属性対極なものを両立はできない。

仕方ないので生食で行くか。

食当たりが怖いが、『究極の担い手』で病原になる細菌や寄生虫も無力化できる。

せめて海水から分離した塩で味をつけて……。

……うん。

まあ、美味しい。

サバイバル食だから贅を凝らしたご馳走とまではいかないが。

すまんなイワシよ。

もっと整った環境なら最高に美味しく料理してやれたのだが。命を食らうからには最大限に美味しく食べるのが礼儀だが、ここではこれが精いっぱい。

とはいえ『究極の担い手』があればこそ、ここまで何でもできているわけで。

本当に『究極の担い手』って何でもアリだなと改めて戦慄する。

こうした能力の使い方は大半父さんから教わったものだ。

海水から真水を分けて作る方法、釣りの仕方、あと水面を断ったり歩いたり走ったり……。

そういえば幼い頃、父さんと一緒に水上ランニングしたこともあったっけ。

当時は父さんが体重を気にしていて、意識的に体を動かしていたからな。日頃から農作業で運動量は多かったはずなのに。

思えば父さんも、何もない荒れ地で一から農場を築き上げてきた人だ。きっと今のような状況から一人成し遂げてきたに違いない。

そう思うと益々父さんの凄さが実感できるのだった。

……はあ、思わぬ漂流生活で顧みる機会を得るとは。

しかし超絶ピンチな状況には変わりないのよな。

サバイバルで食糧確保できても、永遠にこのままというわけにはいかないし。

何より僕は、農場に帰って父さんの築いてきたあらゆるものを継承するという義務がある。

いつまでも海の上で、海座頭みたいな暮らしを続けるわけにはいかないんだ!

やはりどうにかして、陸地にたどり着く手立てはないものか?

しかしなあ、改めて見渡してもあるのは海水ばかりで小島どころか横切る船影

すら見当たらない。

『究極の担い手』で視力強化すれば……いや無理か。

そういう効果を狙うのであれば自分の眼球に手で触れなきゃいけないし、そんなの痛いだろうし怖すぎる。

さらにいえば、どんなに視力を強化しても水平線の向こうは陰になって見えないのであって、視力の強弱とは無関係。

う~ん、もっと高位置からなら遠くを見渡せるのになあ。

『究極の担い手』で身長を伸ばして……無理すぎる。

身長なんて一朝一夕には伸びないし、いくら『究極の担い手』でも成長期のおかわり特盛なんて可能なのか?

何より一旦伸ばしたら元に戻せないことが怖すぎる。

漂流からの生還と引き換えに八尺に伸びた息子を迎えるなんて……父さんも母さんもどう思うだろう?

ノリトはゲラゲラ笑いそうだが。

う~ん、う~ん、他に何かいい手は……。

う~ん、う~ん、熟考に熟考を重ねて沈思黙考……。

そして日も傾きかけてきた頃、ようやく……。

「そうだ! 飛べばいいんだ!?」

何故もっと早く気づけなかったのか!?

僕は空気を掴むことで『究極の担い手』から働きかけて、空を飛ぶことができる。

飛行してより高度から見回せば、地上視点からではわからない水平線の先も見渡せるではないかッ!?

気づいてみたらなんと簡単なことか。

自身の間抜けっぷりに呆れるまである。

万能無敵に思える『究極の担い手』も、使い手の発想が貧困なら力を発揮できないという証拠でもある。

まだまだ修行不足だなと実感させられた。

しかし今は打開策が見つかった以上、即実行だ。

僕はすぐさま『究極の担い手』を発動させて天高く舞い上がった。

「おおッ! 見える! 遠くまで見渡せるぞ!!」

高高度へと上がった僕からは、なおのこと遠くまで見渡せた。

ひゃー、いい眺め。

って言ってる場合じゃない。必要なのは陸地を探すことだ。

視点を上げて、視認範囲が広がった。これでより遠くにある陸地も見つけ出せるはずだ。

見つけられなければさらに高度を上げて視界を広げるか……。

何とか小島でも見つけ出せれば……あッ。

いやアレはケートスさんとそれにダル絡みしているペルセウスか。まだ戦ってたのか。

あちらはもう放っておくとして……。

……。

……あ。

あったぁああああああああああああああああああああッッ!!

島だ!

島があったぞぉおおおおおおおッ!!

大陸ではないが陸地であれば充分!

最悪無人島でも体を休められれば生還率は倍プッシュ!

今すぐあの島へ直行だぁあああああ!