作品タイトル不明
1501 閑話:異世界救世主伝説
我が名はコネリ。
神と人の奇跡によって生み出された偉大なる人物だ。
私にはわかる。
私が強大で精強、輝かしい存在であるということに。
生まれながらにそういう宿命を背負った存在なのだ。
輝く者には、その輝きで照らし出すに相応しい環境が必要だ。
私が生まれた世界は、まだ始まったばかりで枠組みも定まっておらず、私のような究極の完全体がいれば却って道筋が歪みかねない。
私のような存在は、もっと明確な問題があって、それに立ち向かっていくことで存在価値を証明できる。
そう天才的頭脳で結論付けた私は、神に願い出てまったく別の世界へと渡ることにした。
この究極能力を振るい甲斐のある、深刻な問題のある世界へ。
その願いは叶えられ、私は次元と飛び越えとある世界へ降り立った……。
* * *
「……天才着地、成功!」
神によって送り込まれたこの世界は、実に輝かしい私の希望通りの世界だった。
世界に暗雲が立ち込めている。
空全体を厚い雲が覆い、陽光を遮り地上にはまったく届かない。
昼と夜との区別がつかないほどに暗い。
むしろ偉大なる私が輝き放つ光によって、私の周囲だけが明るいぐらいだ。
そのせいか外気も温まることなく肌寒く、地表には枯れ草がぽつぽつと萎れ果てていた。
まさしく生命力の欠片もない、夢も希望もない世界。
しかしながら肌にまとわりつく空気はピリピリと殺気に満たされている。
……つまり、そういう世界ということか。
意識を集中し、周囲の気配を探ってみる。
するとすぐさま反応があった。なるほどこんなにあっさりと修羅場の気配を察しとれる世界……ということか。
しかし、逡巡は今するべきことではない。
問題を発見したら即、対処に移るべきターン。
兵は拙速を尊ぶと、私を生み出した偉大なる御方も言っていた。
光の速さでウォーキング!
現場にたどり着いてみると、たしかに修羅場が展開していた。
人よりも遥かに大きな、それでいて羽毛が一切ない醜い禿げ頭の巨鳥が数羽、取り囲んで人を襲っていた。
「きゃああああああッ!? 誰か! 誰かぁあああああッ!?」
襲われているのはうら若い女性で、その胸にはさらに小さな男の童を抱えている。
醜い禿げ鳥は、同族らしい連携さで獲物の退路を塞ぎ、確実に追い詰めつつあった。
考えるまでもなく、弱々しい下位生物を取って食おうという魂胆だろうな、あの魔物どもは。
「お願いです、弟だけは……!」
やはり年ごろからして姉弟か。
我が身を挺してでも幼い弟を守ろうという健気な心意気だ。
この間の思考、約0.001秒。
そして次の0.002秒後にはすべてが決していた。
「偉大なる光速のパンチ!」
繰り出す拳が光を越えて、バケモノ鳥の醜い禿げ頭を確実丁寧に粉砕していく。
あとに残ったのは血煙と、自分が助かったことにも気づけず放心する被害者姉弟の呆けた顔だけだった。
「健気な娘よ、そしてその弟よ、怪我はないか?」
「ヒィッ!?」
何をそんなに怯えている。
お前たちの危機を救った救世主だぞ。
「なんですアナタ? 何をそんなピカピカ光って?」
「知らんのか偉大な人物は輝いて見えるものだ」
それに私は生まれたばかりだからな。
ピカピカの一年生というヤツだ。
「どうやらここは聞きしに勝る危険な世界のようだな。村娘よ、この世界に迫る危機を具体的に説明してくれないか」
「勝手に村娘だって決めつけないでくれます!?」
それは申し訳ない、町娘だったか?
こんな荒野をうろついていてまさか王女ということもあるまい?
「うう……よりにもよって変な人に助けられてお礼も言いづらい」
町娘の説明によると、この世界は暗黒残酷王なる者によって滅亡の際まで追い込まれているらしい。
突如としてこの世界に現れた暗黒残酷王は、『死と破壊こそが摂理』などと言い出してみずからの配下である暗黒残酷軍を差し向け、世界各地を攻撃しだしたという。
各国の抵抗も空しく、圧倒的な戦力に押されて人類はもはや滅亡寸前。
とある大陸の端に最終防衛線を張って、そこを破られたら滅亡確定とのことらしい。
「私たちも、最後の防衛拠点へ向かう途中だったのですがはぐれてしまって……アナタが通りかからなければきっとハゲコンドルについばまれて餌になっていたでしょう」
なるほど、この世界に迫る危機のことは把握した。
ではこの私が、暗黒残酷イッコク王とやらを倒して世界の平和を取り戻そう。
「ええッ? そんなの無理です! 暗黒残酷王は、暗黒力一万を誇るという怪物! ハゲコンドルをワンパンするぐらいの実力じゃとても立ち打ちできません!」
町娘よ、それは心配の言葉と受け取っておこう。
だが今の戦いが私のすべてではないことも充分な事実。
待っていろ、すぐにお前たちに安心して過ごせる平和な世をプレゼントしてやろう。
それでは問題の暗黒残酷テンゴク軍の最前線へ向けて、出発!
* * *
ほう、あれが敵軍だな。
構成しているのはアンデッドかゴーレムか、その手の不自然なる人工生物。
ああいったモノを主力に使っている辺り、やはり暗黒残酷王とやらは真っ当な侵略者ではないようだ。
しかもその先頭は、人類側の最終防衛線へと迫っている。
もう目と鼻の先だ。
どうやら私はギリギリで間に合ったようだな。
ヒーローたるもの登場のタイミングは重要だが、無辜の人々をいたずらに不安がらせることもない。
気を揉ませてしまったことに謝意を示す意味も込めて、即座に暗黒ナントカ軍を蹴散らすことにしよう。
鎧袖一触。
一秒に百体蹴散らすペースで戦ったら十分ちょっとで全滅した。
「ゲハハハハハハハハ! なかなか骨のあるニンゲンが残っていたようだな!」
全滅させた軍の最後に残った一人は、いかにも大将らしい風格のちょっと強そうなアンデッドだった。
「ワシは暗黒残酷王様の忠実なる下僕! 暗黒残酷四死帝の一人、不滅のオモンドラフ! 我が軍を壊滅させてくれた褒美として、我が手にかかる栄誉を与えよう!」
四死帝? 王の部下が皇帝なのか?
「我が暗黒力は一五一九! ワシに勝てぬようでは一万の暗黒力を誇る暗黒残酷王様の足元にも及ばぬわ! さあ生意気なニンゲン風情よ、果てしない実力差に絶望しながら死ね!」
光のデコピン。
四死帝とかいう幹部クラスの一人は、粉々になりながら消滅していった。
この後は残りの幹部クラスを倒しながら最後の大ボスに迫っていく流れか。
ラスボスがカチキレて残りの幹部を自分で処理したりしないかな。
「カーッカッカカ! オモンドラフなど四死帝最弱の面汚しよ! この疾風のカタストルデが、四死帝の真の恐ろしさを教えてくれよう!」
「フッ……、オレは面倒なのは嫌いだが、暗黒残酷王様の命令となれば仕方がない。四死帝が一人、盤石のケルバートがお命頂戴する」
「シシシシシ! 手柄だ手柄ァ! オモンドラフの仇を討てば暗黒残酷王様からの覚えがめでたくなる! 手柄首はこの四死帝が一人、執着のデオドラ様が貰ったぁ!!」
「他の四死帝など所詮ザコよ。暗黒力四〇〇〇を誇る最強の四死帝、最強のブラッディオを動かすとは、その無謀な勇気だけは褒めてやる」
全員一秒で倒した。
そしてヤツら暗黒残酷軍の本拠地、暗黒残酷城にたどり着く。
「よくぞここまでたどり着いた、見事だ」
玉座の間っぽいところに着くと、そこには豪勢な椅子に座ったヒョロ長の男が一人。
これが話題の暗黒残酷王か?
「そう、余こそが暗黒残酷王である。四死帝を蹴散らし、勝利寸前であった我が軍を追い込んだお前の実力は認める他ない。だがお前の行いは本当に正しいのか? 人間が無条件に正義だと何故決めつけられる? 真実のわからぬお前に聞かせてやろう、我が悲しい過去を……ぐべべべべべべべべべべべッッ!?」
悲しい過去を聞く前にとりあえずボコボコに殴った。
お前にどんな裏物語があったとして、戦争を起こして多くの人を巻き込んでいい理由にはならない。
重視するのは動機ではなく行動だ。
やったことの落とし前はきっちりつけてもらって、お前が何故戦争を起こすに至ったかの経緯はあとでこの世界の偉い人たちに聞いてもらうがいい。
さて、これでこの世界の破滅的危機は去った。
あとの複雑な事情は現地の人々が話し合いで解決すべきで、異界から訪れた私が首を突っ込むべきではないだろう。
私は次なる危機的世界に向かおう。
この輝かしい力を有効活用するために。
いざ次元を飛び越えて、トゥッ!!