軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1482 ジュニアの冒険:魔法のレントゲン

ジャーン、ジャーン、ジャーン……!

ガラ・ルファさんの姿が現れると共に舞い散る紙吹雪、数か所から照らされるスポットライト。

さっきまで花火で演出してたのに紙吹雪は危なくない?

いやもう花火は消えてるか……。

それどことじゃなく。

豪勢な服装、できる限りの豪華な演出にガラ・ルファさんの厳かさは極限まで際立っていた。

「……って、違う!!」

突如、羽織っていたマントを脱ぎ捨てるガラ・ルファさん。

マントの下は、……いつもの普段着だ、よかった。

「なんですかこれは!? 研究発表会の準備手伝ってくれるって言ってくれた時は喜びましたけど、助かるって思いましたけれど! こんな演出の数々は知らないし求めてないですよ!」

「はい! 頑張って企画立案、そして実施しました!」

「だから、それを求めてないんですよ!」

ガラ・ルファさんまで困惑させる新魔女さんたちの過剰演出。

その曇りなき信仰心が恐ろしい。

「……あのですねえ、ここは研究発表会です。私がこれまで積み重ねてきた研究成果を披露する場であって、私のことはどうでもいいんですよ!」

「はッ!? 何というストイックさ!?」

「自分よりもなお自分の研究が大事だというガラ・ルファ様の姿勢! そこにしびれる憧れる!」

信奉者は何言っても意味をポジティブに変換する。

もうどうしようもないと思ったのか、後輩の説得を諦めてガラ・ルファさんは一呼吸。

気持ちを切り替える儀式だった。

「……人魚国を代表する学士の皆さん。本日はお忙しい中集まっていただいて、ありがとうございます」

「ヒューヒュー!」「ガラ・ルファ様からのご神託が!」「尊みが深すぎて卒倒しそうだわ!」「凡人も私語は慎め! 有難く傾聴せよ!」

新魔女さんたちの熱狂ぶりがあまりにも目に余るため、見かねた母さんとパッファあばさんが壇に上って、後輩たちを速やかにブチのめしたのちに引きずり下ろしていった。

「本日は皆さまに、私の新たな研究成果をお目にかけたいと思います。かつて私が理論確立にいそしんだ細菌の研究。それに匹敵する成果をもたらすものと自負しています」

おおぉ……、という当惑の声が上がる。

それはそうだろう。以前にガラ・ルファさんが世に送り出した細菌と免疫に関するあれこれも世界を一新させるほどの大理論だったのに。

それと同じぐらい衝撃的な新理論を、同じ一人が一つの人生のうちに世へ送りだせるものなのか。

「今回私が紹介する新発明、その名は……レントゲンです!!」

「恋と幻!?」「錬と現?」「連と厳!?」「蓮to原!?」

聴衆、皆混乱している。

無理もないまったく聞き覚えのない単語だからな。

「ちなみにこの名称は聖者様よりいただきました。元々の発想も聖者様のご助言から始まっています」

「やっぱり旦那様が元凶か……、あの二人が組み合わさると生半可なことじゃ収まらないのよね……!」

ウチの母さんが戦慄交じりに言う。

まあ僕もたしかにそう思った。父さんのよくわからないところから持ってくる発想と、ガラ・ルファさんのいかなる奇想も実現してしまう研究力。

その組み合わせは、例えるなら火薬と火、油に火、空中に舞い散る小麦粉と火だ。

つまり凄まじい爆発になるってことだ。

「ではこれから詳しい内容をご説明します。この説明が終わる時にはレントゲンの素晴らしさ有用さを、海綿動物が水を吸い込むかの如くインプットしていただけるものと思います」

ここからガラ・ルファさんのレントゲンと放射線講座がスタートする。

「え、ではまず電磁波というのは波と粒子、双方の特徴を持つ振る舞いをしてですね……」

割愛。

一通りガラ・ルファさんが満足するまで語り終えたあと、聴衆のほとんどは目が点になって言葉を失っていた。

「ホウシャセン……?」「ゲンシカクの揺らぎ……?」「波長が1pm以下のデンジハ……?」

もう誰も何もわかってないって顔をしている。

早すぎたんだ、まだこの文明水準の人々に、このレベルの理論は。

かく言う僕もまったくわかんないんだけど。

多分知識の大元となっている父さんだってしっかりと理解した上で伝えたわけじゃないと思うんだ。

素人のあやふやな知識を土台に実用化までこぎ着けたガラ・ルファさんこそ恐るべしと戦慄すべし。

ただの天才魔法薬研究家ではないのだ、彼女は。

しかし説明能力はいささか基準に達していないように思われる。

だって皆、何も理解できないまま。むしろ理解不能という事実に圧倒されるばかり。

これもまたガラ・ルファさんが狂気の天才と畏怖されるゆえんか。

このままではレントゲンの有用さは伝わらないまま埋もれてしまいかねない。

そして以前に彼女が細菌の存在を提唱したのと同じように、世に認知され実用化されるまでに大きな回り道をすることになってしまう。

ここに父さんがいれば、手を変え品を変えて上手く運ぶ手段を講じれたのかもしれないが、今は不在。

僕が何とかできればいいんだが……。

「では理論がわかったところで次に実演に移りたいと思います」

いや、まったく理解できていないけれども!

っていうか実演?

レントゲンの実演!?

「説明にもあったようにレントゲンは、皮肉を透過する放射線を使って体内の骨の状態を確認する装置です。実際にこれからレントゲンを皆さんの骨の状態を確認したいと思います」

おお! それいい!

そうだよ百聞は一見に如からずんば虎児を得ず!

くどくど説明するより、どうするかを実際に見てもらった方が早いじゃないか!

ならばガラ・ルファさんはここでレントゲンの実動させるのか?

試運転?……いや実験?

そういえば、僕も理屈を聞いただけでレントゲンがどのような装置なのか見たこともない。

どういう風にレントゲンを使って見せるのだろう。

「さて、ここに取り出します魔法薬」

と言って試験管を取り出すガラ・ルファさん。

その中には青白く光る液体が満ちている。

「これが、レントゲン魔法薬です!」

レントゲン魔法薬!?

まさかレントゲンって装置じゃなくて……でもガラ・ルファさん基本は魔女即ち魔法薬学士だから。

「このレントゲン魔法薬を振りまくと……あら不思議……!」

何の躊躇いもなく試験管の蓋を開け、何の躊躇いもなく中身をバラ撒くガラ・ルファさん。

放たれた青白い薬品は空気中で霧状となり、この研究発表会場に満遍なく散布される。

その結果……何が起こったかというと。

「んッ!? んんんんんんんんんんんんんんんんんんんッッ!?」

ここは、地獄か?

それともあの世か!?

いや同じようなものだけども、どうしてそう思ったか。

それは僕の目の前に骸骨の大群が居並んでいるからだ!

「骸骨だ! ここは死後の世界だぁああああああッッ!!」

と思ってしまうのも仕方がない。

目の前のすべてが何十体もの人骨で埋め合わされれば、それは死の世界と思っても仕方がない。

生が支配するうちは肉に覆われ、死が支配すれば骨になるのと同じ道理だ。

道理か?

いや待て人骨とは言ったがよく見れば下半身は違う。

下半身は脊椎が一本だけ最後まで伸び切って尾びれに繋がるだけ。

つまり人魚の下半身。

ここは人魚のあの世なのかッ!?

「落ち着きなさいジュニア!」

おおッ、骸骨人魚の一体がこちらに迫ってくる!?

そして何か聞き覚えのある声でしかりつけてくる!?

「骨しか見えなくなったぐらいで見分けつかなくなってどうするの!? アタシよ、お腹を痛めてアンタを生んだ母親よ! アイムユアマザー!」

マザー?

……まさか母さん!?

いやでも僕の母はちゃんと肉と皮と髪の毛と、何なら鱗もあるちゃんとした人魚……!?

「だから肉骨髪鱗ゼンブ、透過して見えなくなったんでしょうガラ・ルファさんの魔法薬で! 恐ろしい効能だわ。まさかこんなことが現実で可能なんて……!?」

これが魔法薬の効果?

するってーと、この眼の前の骸骨群はすべて研究発表会に参列した人魚さんたち!?

「うーん……老姫が、老姫がいっぱい……!」

「お気をたしかに前王妃様! あれはただ単に人骨なだけでノーライフキングじゃありません!」

あの声はシーラおばあちゃんに新四魔女のバトラクスおねえさん。

たしかに……よくよく注意深く見てみればどの骨が誰かおおよその見当はつく。

主に声から。

じゃあさっきから僕の胸倉掴んでるのがホントに母さん?

「そうよ! マザーからⅯを取ったら他人の母よ!」

おお、しかしよくこの状況で僕が僕だとわかったね。

これが母の愛情のなせる業か。

「いや、アンタの場合骨盤の下から伸びるのが二本の大腿骨から脛骨妃腓骨踵骨でしょう。そんな骨格形態してるのは陸人で間違いなくいて。人魚だらけのこの場で陸人なのはジュニア一人、ハイ証明完了」

なるほど、骨格見分け選手権では僕がベリーイージーだったってことか。

「そうじゃなくてもよくよく観察すれば性別年齢で骨の形状が変わってくるのがわかるわね。……なるほど肉眼で骨の状態を確認することの有用さ。ガラ・ルファの言いたいことがやっと理解できてきたわ」

実例を示されてやっと伝わる意図。

しかし、ガラ・ルファさん当人に迫る知識と才能の持ち合わせた母さんだからこそだ。

「……あー、あそこの骨、誰かわかんないけど骨格に歪みがあるわね。それに向こうの骨は肺に炎症を抱えている? 肉を透過してわかることはたくさんありそうね……!」

……。

やはり母さんもかなりの天才だということが、なんとなくでわかった。

これでガラ・ルファさんの新研究成果も、速やかに浸透していくだろうか。