作品タイトル不明
1481 ジュニアの冒険:恐るべき発表会
既に第一線を退いた前世代魔女を動かすほどにガラ・ルファさんの新研究は未知の恐怖であった。
今日母さんたちは、不測の事態あれば身を挺して止めようと決死の覚悟でここへ来ているのだ。
かつて傍若無人、唯我独尊だった魔女たちだが今では家族のために我が身を犠牲にすることも厭わない。
……いや待って。
我が身を犠牲にすることも考慮に入れられているってことか今日の研究発表会は!?
「そりゃそうよ、おん」
「何を今さら」
「あのガラ・ルファですよ?」
同期魔女三人からの揺るぎない信頼感……信頼と言っていいのか、コレは?
そこへまた新たに……。
「あらー、プラティちゃんも来ていたのね」
「ママ!?」
シーラおばあちゃんも研究発表会に出席していたのか!?
ゾス・サイラさんまで伴って!?
『王冠の魔女』プラティ。
『凍寒の魔女』パッファ。
『獄炎の魔女』ランプアイ。
『アビスの魔女』ゾス・サイラ。
『 暗黒(アドビヤー) の魔女』シーラ・カンヌ。
そこに今日の主催『疫病の魔女』ガラ・ルファを加えて狂乱六魔女傑が全員集合!?
「狂乱六魔女傑だ……」
「狂乱六魔女傑が揃っている……?」
「シーラ前王妃だけ違うけれど……?」
他に研究発表会に参列する人々も、この集まりを見てヒソヒソと戦慄している。
やはり人目を惹くんだろうな。
「ああ、何コソコソ囁いてんのよ言いたいことがあるなら目を見て言いなさいや」
「プラティちゃん、ハウス」
いまだに血の気の多い我が母がケンカを買う装いで四方八方にケンカを売っている。
これが往時に恐れられし狂乱六魔女傑……。
「狂乱六魔女傑か……。好きな呼び方じゃないんだけれどねえ」
えッ、そうなんですか?
パッファおばさんのすべてを懐かしむ口ぶりに意外さを感じる。
「そもそもわたくしたち自身が狂乱六魔女傑を名乗ったことは一度もないのでね。アレは当時、各地で暴れていた魔女たちを総合して誰かが付けた名称で、本人たちが気づいた時には世間に定着していました」
「おまけにどうもケバケバしてて性に合わないんだよねえ。自分から“狂乱”だの“女傑”だのって。ああいうのは余所から恐れをもって言われるからカッコいいんじゃないか」
しかしその呼び名が定着して今なお使われ続けている。
この名前を最初に思いついた人はさぞかし誇らしいだろうな。
さらにゾス・サイラさんもコメントして。
「さらにはわらわたちみたいにまったく世代が違う魔女までごった煮しての。そこも気に入らんわい。本来ならわらわとシーラ姉さま、それにカープのヤツで一括りの同世代。そこの小娘どもと一緒にされるのは敵わんわい」
「あぁ、誰がケツの青いガキですってぇ? 婚期はこっちの方が早かったのよ、あぁん?」
母さん。
頼むから誰彼かまわず噛みつかないで。
久々の六魔女集合で精神テンションが独身時代に戻っている?
「そうねえ、アタシなんてプラティちゃんの時代は取り立てて暴れた覚えもないのにしっかりノミネートされてるし」
「姉さまは残した伝説が大きすぎますんで」
――『ジャ○プ三大マンガにワ○ピナ○トに交じってドラ○ンボールが入っているようなものか』
と僕の心の中のイマジナリー父さんが囁いた。
ちなみに噂の『暗黒の魔女』がシーラおばあちゃんであることはまったく知られていない。
知る者は僅か一握りだ。
だからこの魔女たちの輪にシーラおばあちゃんが加わっているのも傍から見れば謎なのだが、誰も深く触れてはいけない。
『暗黒の魔女』については文字通りシーラおばあちゃんの黒歴史……いや暗黒歴史。
『暗黒の魔女』=シーラおばあちゃんの事実は、誰にも知られることなく墓まで持っていかれるべきなのだ。
「最近だと魔女は世代で分けられるのがマストになっちゃったから、その形式でいえばプラティとアタイとランプアイとガラ・ルファが本来一括りにされるべきだよねえ」
「あら、じゃあアタシたちは古い世代のオバサンだって言いたいのかしら?」
「なんでそこに噛みついてくるんですかお義母様!?」
母さんが血の気が多いのは、やっぱり母系の遺伝か?
そうなってくると我が末妹ザンカの成長も不安の種なんだが?
しかし世代で考えれば、まずシーラおばあちゃんゾス・サイラさん、カープ学園長による始祖の三魔女。
ウチの母さん、パッファおばさん、ランプアイさん、ガラ・ルファさんの旧四魔女。
そして最現役のディスカスおねえさん、ベールテールおねえさん、ヘッケリィおねえさん、バトラクスおねえさんの新四魔女と分けられる。
こうして見ると魔女もたくさんいるなあ。
「その中でも飛び抜けてヤバい魔女がアイツなんだけどね」
「これから起こることを考えると胃がキリキリする……」
と話は最初へ戻ってくる。
「ママやゾス・サイラも駆けつけたってことは、やっぱり警戒に?」
「もちろんよ、せっかくウチのダーリンが守り抜いたこの世界を容易く崩壊させはしないわ。いざとなればアタシの正体が明るみになってでも食い止める所存よ」
「わぁ~いママ頼もしい!」
いや逆説的にシーラおばあちゃんが死んでもバレたくない正体を晒す覚悟が必要なんですか?
あと実の母がその母にキラキラで甘えてるの見てシンドイ。
「カープのヤツは学園に留まっておる。何かあった場合、学園だけはその手で守り通す覚悟とのこと。さすがに優先順位が定まってるヤツの行動は迅速だし堅いわ」
「さらにディスカスども現役世代は全員この発表会の準備に駆り出されてる様子だね。今この時も裏方で東奔西走北伐南征、忙しなく働いてるみたいだ。アイツら何のかんの言ってガラ・ルファへの信奉心が厚いから……どうしてあんなに信心深いのか……」
狂気と信仰は紙一重……って言わすなよ。
ともかく同類の魔女であればあるほどガラ・ルファさんの動向に警戒を生じ、万全以上の前準備で臨むものだった。
そんな母さんたち以外にも、今日の発表会にはたくさんの人々が出席していたが……。
「狂乱六魔女傑まで雁首揃えて……やはりそれほど大変なことなのか?」
「ガラ・ルファ様がわざわざセレモニーまで開いて発表するほどのことだぞ。些事であるわけが……」
「あの社交嫌いのガラ・ルファ様が……」
「もしや魔女たちによる世界制圧宣言では?」
「ありうるな、今の世代は上品な魔女しか知らないから……」
「もっとポジティブに考えましょうよ! ガラ・ルファ様のことですから今度もきっと、世界を変える革新的な技術を……!」
「これだから今の上品な魔女しか知らない世代は……!」
と憶測が飛び交っておる。
こんなアカデミックな催しに出席するぐらいだから、皆さんも学者だったり医者だったりで頭のよろしい人たちなんだろう。
そういう人たちこそガラ・ルファさんに惑わされるというか。
そんな中、宴もたけなわでついに発表かいしのアナウンスが入る。
「……あーあー、テステス」
この声はヘッケリィおねえさん?
マジで運営の手伝いしているのか!?
「皆さんお待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません」
全員の視線が一点に集まる。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。『狂気の中の狂気』『常識の破壊者』『反逆のトリーズナー』『彼女の前では誰もが狂気を演じているだけ』でお馴染みの『疫病の魔女』ガラ・ルファ様の研究発表会へ」
相変わらずとてつもない二つ名がいくつも並ぶ彼女だ。
その異名の物々しさに参列者の多くが引いている。
「そんなガラ・ルファ様が本日またしても新たな偉業を積み上げます。さすがはガラ・ルファ様、既に細菌とそれに伴う免疫理論で歴史に名を残す存在になったというのに、さらなる大事業へと踏み入る。これこそまさに天才の所業と言わざるを得ません」
「一生のうちに打ち立てる大功績が、一つだけだと誰が言った?」
うわぁ、新世代四魔女のうちディスカスおねえさんまでもがアナウンスに交じって。
なんで読み聞かせ調で司会進行していく?
「かつてガラ・ルファ様が免疫理論を発表した際、世界は大きく様変わりしました。死亡率は大きく減少。我々人類はよりよい未来に進むことができました」
「まさしく希望の光。ガラ・ルファ様は光をもたらす神の化身」
「そして今、ガラ・ルファ様はまた新しい光を我々にお示しになろうとしています。今度はどんな奇跡を、どな幸福を見せてくださるのでしょうか?」
「凡人どもよ、その貧しい理解力を総動員して神のもたらす奇跡を実感せよ!」
なんだこの説法(?)みたいなアナウンス?
新四魔女のお姉さんたちに、あのような一面があったとは。僕、これまで通りに接することができるのか不安になってきた。
「それでは満を持して、登場していただきましょう!」
「彼女こそ新時代の創設者、パラダイムシフトの奏手、新世紀創造主、神、世界至高の頭脳を持つ天才、『疫病の魔女』ガラ・ルファ様ご来臨んんんんんんんんんんんんんんんんんんんッッ!!」
一段高くなった壇上から火柱が上がる。
花火とスモークでド派手な演出を伴いながらガラ・ルファさん、登壇。
なにやら厳かなマントを羽織り、頭には冠、手には錫杖めいたものをもって、その佇まいはいかにも荘厳だ。
っていうかどういうコーディネートだ?
企画の趣旨がいきなりわからなくなってきたんだが?