軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1430 ジュニアの冒険:人魚宰相の現在

「……あー、泣いたらちょっとスッとした」

ひとしきり泣きわめいて冷静に戻ったゾス・サイラさん。

やっぱり適度に感情吐き出すのは重要だな。

「とりあえずジュニア坊の婚約については最低限プラティに話し通すまでは保留ということで、そこの侍女ども散った……散れ!」

「えー、ゾス・サイラ様、私たちの味方してくれないんですかー?」「私たちのうちの誰かと王子様が結婚したら、国益になりますよー?」

呼び出した当人の侍女ーズの方々が口々に言う。

「それじゃったらガチの王女殿下であるグッピーが結婚する方が結びつきも強くなって得じゃろうが、たわけぇ。戯言ほざいとらんと侍女の仕事をやらんか。王妃さまに午後の茶でも用意せんかい」

一部の隙もない宰相閣下の正論。

おかげで反論もできない侍女さんたちは渋々ながらも下がっていった。

……やっぱり凄い。

この混乱を二言三言のうちに収めてしまった。これが人魚宰相の手腕。

踏んできた場数が違う。

「まあ踏みたくて踏んできたんじゃないがのう。こちとら地雷踏み続けてきた気分じゃわい」

フヒヒヒヒヒヒヒ、と空気が漏れるような笑い声が本気度を窺わせた。

「まあわらわの人生、絶えず地雷を踏み抜いてきたようなものじゃからのう。変な姉貴分には当たるし、変な弟子には当たるし。まったく人魚には尾びれはあっても地雷を踏む足もないはずなのに、どうしてこんなに的確に当たるのか……」

「あら、今アタシのこと地雷呼ばわりしたかしら?」

シーラおばあちゃんがツッコミを入れるが、それを華麗に聞こえないふり。

「あらあら、本当に強くなったわねえゾスちゃん」

「アタイのことも地雷呼ばわりしたよな?」

この強力な嫁姑に挟まれている時点で同情に値する。

「そもそもわらわが宰相職を務めるのは、即位したてで政務に慣れていない二人を補佐する期間限定って話じゃったじゃろう? あれから何年経ったと思っとるんじゃ? もういい加減慣れたじゃろう? わらわが助けてやらんでも充分やってけるじゃろう?」

「いやー、でもまだまだ不慣れなもので……!?」

「ウソつけこないだ即位十何周年って式典挙げたじゃろ! そんなにやってまだ慣れてないってのは才能なってことなのじゃ! でもお前らちゃんとしてるじゃろ! なんやかんや言いつつちゃんとしとるじゃろうが!!」

宰相閣下、怒涛のツッコミ。

「もー最近じゃ人間国のリテセウス坊と『どっちが先に辞めれるか』で賭けしとるほどなんじゃ。先に辞めれた方が相手の国の最高級レストランで全額奢るってな。もちろん双方夫婦出席で」

絶対辞めたい大統領と絶対辞めたい宰相でシンパシーが現れだしている。

その一方で魔国宰相は引退の歳になっても頑なに辞めようとしない。

どこの国も宰相が辞める辞めない問題を抱えているものだ。

「でもアナタにだって原因あるわよゾスちゃん。だってアナタあまりに有能なんだもの、アナタみたいに使える人材そりゃあ話したくないって思うのが王族というものよ」

「王族は! これだから王族は! もう!!」

「でもアナタの姉貴分と弟子よ?」

この人の場合、血縁の次に太そうな縁故の二人が双方王家に嫁入ってしまったからもう詰みに近い。

一方が引退して解放されたと思いきやもう一方が現役第一線に立ってまた頼られる。

そしてダブルで来るという抗いがたい状況。

「でもゾスちゃんだってやり甲斐のある仕事いいでしょう? それに成果だって大きいし、きっとアナタ歴史の教科書に載るわよ?」

「いーやーじゃー! わらわはもっと悪名を歴史に残したかったんじゃあ! このままじゃ名臣列伝とかに載ってしまうんじゃああ! 嫌じゃああああッ!!」

「我がままな子ねえ」

いっそ国内のどこかに銅像が立ちそう。

「でもこっちだって多少は譲歩してるの忘れないでほしいわ。今だって自宅からの通勤許してあげてるでしょう?」

「そんなん許されなくなったらいよいよじゃ! 人魚族にも転移魔法が使えるようになったおかげで気軽に家から通えるようになったのは助かるが……」

そう、人魚国の宰相として欠くべからざる人物であるゾス・サイラさんだが、実のところ現住所は農場だ。

まさかの国外。

何故って旦那さんであるオークボさんが、農場の欠くべからざる重要人物であるから。

異なる二国の重鎮であるオークボさんとゾス・サイラさんが結婚したら、この一組夫婦はどちらで暮らせばいいのか。

このケースでは奥さん側が歩み寄って農場で暮らすことになった。

と言っても当のゾス・サイラさんは別に人魚国に骨を埋めたいわけでもないので、折れたかというとそうでもない。

「むしろ転移魔法なぞなければ『夫と共に暮らしたい』を理由に固辞できたんじゃないかえ? そう思うと技術の進歩が憎い……!」

「暮らしは日々変わっているのね」

そんなゾス・サイラさんはどんなに仕事が忙しかろうと毎日転移魔法で帰宅しているために夫婦仲は良好。

夫オークボさんとの間に三人の子どもを設けて順風満帆。

しかし本人は……。

「くっそ、仕事が忙しくなければわらわも十人は生めたのに……!」

とやや不満げ。

「ダメよぉゾスちゃん。赤ちゃんなんて授かりものなんだから、何人だろうと生まれてきてくれた子を愛し抜くことが肝要なのよ」

「そうだぜ師匠、幸いどの子も健康にすくすく育って、それが一番いいことじゃねえか」

姉貴分と弟子からダブルで諭される宰相。

「二人して正論ぶつけてくるなムカつく!」

たしかに僕もそう思う。

「師匠にも不自由な思いはさせちまうけれど、それでも師匠が結婚しててよかったと思うこともあるぜ。何せ相手があのオークボだからなあ」

しみじみ言うのも仕方ない。

オークボさんは農場を運営に関わる重要幹部の一人。

ボゴ吉さんと並んで双璧と言わしめる人だ。

その実力は天下無双で下手なドラゴンやノーライフキングなら余裕で組み伏せられるタイプ。

さすがに超越者の中でも一級以上な先生やヴィールにはアレだけども。

しかしそんなオークボさんだから農場はいつも安泰なのだ。

「そのオークボが人魚国の防衛に当たってくれたことがあったじゃないか」

「ああ、“センテルポートの闇事件”ね」

なんか専門用語っぽいものが出てきた。

「去年一昨年だったか、人魚国をモンスターの大軍が襲ってきた事件があったのだけれど……」

「人魚軍本隊がモンスター狩り遠征で出払っていたところを襲来という、どこか狙いすました感のある事件だったわねえ」

本隊が留守という、防衛力が極めて低下した状態に現れし危機。

本国に残った大臣官僚、それに一般市民は当然恐怖したという。

「何しろ首都が戦火に巻き込まれるなど建国以来ないことですからねえ。ジゴルは襲撃に弱いから」

「戦場になった時点で滅ぶの確定だからな。だからなんとしても外で蹴散らす必要があったんだが……」

そのための戦力は、遠征軍を率いる人魚王アロワナも含めて不在。

その時何故か腹心のヘンドラー、シャーク将軍、先王ナーガスまで参加していたためマジで首都は無防備だった。

長い平和からほころび出た油断という他ない。

「まあでも本当の油断の原因は、アタシやパッファちゃんやゾスちゃんが留守番していたからなんだけど……」

微笑みながら言うシーラおばあちゃん。

強者だけが浮かべる自信と余裕の笑みだった。

「まあでもアタシの強さが公になるのは最終手段だったんだけども、そこに颯爽と現れたのがゾスちゃんの旦那さんでねえ」

――『我がスイートハートを脅かす者は許さん』

そう宣言したのち、海中を出陣。

水中適性などないまま無呼吸で大暴れし、襲い来る海棲モンスター四万体をたった一人で薙ぎ払う。

人魚国には一人の犠牲者も一戸の被害もなく守り抜いた守護神。

その日、名宰相の夫は大魔神であると全人魚族が認知した、

「いやぁホントに助かったわ。ただ奥さんが宰相やってるってだけで国難を粉砕してくれるんだから、ゾスちゃんの旦那さんもスパダリよねえ」

「……それ以来、人魚国を守った陸の魔神は人気うなぎ登り、その妻である師匠の人気も抱き合わせでうなぎ登り。お陰でまたしても引退のタイミングを見逃す師匠だったよな」

海底でそんなことが起きてたなんて……。

そういやいつだったかオークボさんが、ちょっと姿見えなくなったと思ったらびしょ濡れで帰ってきて『酸素美味しい』としみじみ言っていたのは、そういうことだったのか!?

「それ以前は、『人魚宰相たる者が陸人を伴侶にするなど見苦しい』とか的外れ批判言うヤツがいたけれど、軒並み黙らされたわね。大体その論で言ったら陸へお嫁に行ったプラティちゃんなんて国賊じゃない」

「ホントになー、少しは考えて喋れってんだよなー」

HAHAHAHAHAと笑い合う新旧人魚王妃。

またお気楽そうに笑ってるなあ、宰相様の癇に障っていないかなあ、と恐る恐る伺ってみると。

「もう、よすんじゃよぉ。ウチの旦那様がスーパークリティカルインヴィンシブルダーリン(略してスパダリ)なんてわかり切ったことじゃろうがよぉ」

普通に照れまくっていた。

結婚から十年以上たつというのにこうもアツアツでいられるものだろうか。

僕は将来こんな結婚をできるのかと考えると、恥ずかしながら不安でもある。

背後からいまだにいる侍女―ズさんたちの熱視線を浴びると余計に。