軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1429 ジュニアの冒険:良識の塊

人魚宮の玉座の間では、まだイザコザが続いている。

「嫌ですよ! 私も王子様と結婚したい! 婚約したい!!」

「こんな良物件、早々に諦められますか!」

「諦めない止まらない!」

「人魚王だって殴ってみせるぜ!」

ひとまず僕の婚約者候補として集められた侍女さんたちが、パッファ王妃に詰め寄っている。

あの人主導で招集しておきながら土壇場で華麗なる身内びいきを見せたんだから、そりゃガン詰めしたくもなろう。

そしてさっきから異様に人魚王への殺意が高い子なんだ?

「なんだいいいとこのお嬢様たちがガツガツしてみっともない」

「恋は自分の手で掴み取れって言ったの、アナタ!!」

人魚王妃の朝令暮改が著しい。

「いいじゃないか人生、時には待つことも大事だよ。待てば海路の日和ありってね」

「待ってるだけじゃ王子様は迎えに来ないって言った!」

もはや現場は大混乱である。

さすが独身時代は魔女と恐れられたパッファおばさん。『そんなこと言ったっけ?』の返しが鮮やかすぎる。

「これじゃあ埒が明かないわ! いえ堰が開かないわ人魚的には!」

「こうなったら前王妃様をお呼びしましょう! パッファ妃が唯一恐れる相手よ!」

「そうね、シーラ前王妃様にガツンと言ってもらいましょう!」

と話し合う侍女さんたち。

立ってるの突かれたんで座りたい僕。

「なにぃアンタら、お義母様は卑怯なんじゃねえか……!?」

「先にちゃぶ台返したのは王妃様ですよ! 見てなさい、まったく関係ない第三者の観点から嫁姑戦争を勃発させてやる!」

弱点見たりと駆け去っていく侍女さんたち。

きっとシーラおばあちゃんを探しに行ったんだろう、今アロワナおじさんやナーガスおじいちゃんに付き添っているはず。

そしてほどなくシーラおばあちゃんを連れてくると……。

「……あらグッピーちゃんと? とてもいい良縁じゃない、ベネ(良し)よ」

「「「「ええええええええええええええッッ!?」」」」

目論見は見事に崩れ去った。

「なんでぇええええッ!?」

「そうだった、パッファ王妃様のご息女たればシーラ前王妃様にとっては孫娘!」

「身内に身内をぶつけたら味方化するに決まってるじゃないのよぉおおおおッ!」

「うおぉおおおおおおッ!?」

侍女さんたち、見事なるミステイク。

「はっはっは遠謀が足りなかったねアンタたち。謀略は二手三手先を読まないとね」

それくらいで勝ち誇らないでパッファおばさん。

「くぬぅうううッ! 得意げな顔をして!」

「年下相手に恥ずかしくないのかしら!」

「あんなのが人魚王妃でいいの!?」

「うぉおおおおおッ!?」

侍女さんたちも冷静さを欠いている。

「でも大丈夫、策はまだ尽きていないわ!」

「どういうこと!?」

「シーラ前王妃様の他にもう一人、パッファ王妃様に物申せる御方がいるじゃない!」

「そ、そうだったわ!」

しかし侍女さんたちアナタ方も充分目上に物申していると思うんですが。

歯に衣着せぬって感じで。

「よし、そうなれば早速その御方をここへお呼びしましょう!」

「召喚ね!」

「シンクロ召喚ね!」

「エクシーズ召喚ね!!」

そして呼び出されたのは誰かというと……。

「……おい、なんじゃこら?」

また僕の見知った人だった。

人魚宰相ゾス・サイラさん。

この人も農場と古くから関りがある人魚族の女性。

見た目怖くて目つきも鋭いが、これでなかなか優しいところのあるいい人だ。

包容力もある。

たしかに人魚国を切り盛りする臣下の最頂点にいる人ならば、人魚宮にもいるだろうから連れてくるのも容易いだろう。

だからって一国の宰相をそう簡単に連れてきていいものか。

「いいわけないじゃろ今、法案審議中だったんじゃが?」

「ガッツリ手が離せないタイミングで連れてきている!?」

すみません! 本当にすみません!!

「ああぁ? 見ない顔がおると思ったらジュニア坊ではないか。そういえばそろそろ我が国にやってくるって王家一同ざわついておったな」

ご無沙汰しておりますゾス・サイラさん。

「人魚王みずから出迎えに行くってトチ狂ったこと言いだすから決済待ちの案件が溜まって困っておったのじゃ」

やっぱり!

予想した通りの惨状になっている!

ホント申し訳ないと言いますか、やっとまともな視点の持ち主がやってきたといいますか!!

「フフン、凄いでしょう! ゾス・サイラ宰相閣下こそ人魚界の良識、人魚界の良心、人魚界の良俗の三拍子揃った“人魚界の三良”と呼ばれていますのよ!」

「そんなゾス・サイラ宰相閣下なら王族の行き過ぎた行為も諫めてくれるはず!」

「さあ、権力を振りかざす横暴なる王族にガツンと言ってくださいませ!」

「ガツンと!!」

宰相を取り囲み囃し立てる侍女―ズたち。

「いや……どっちかっていうと、お前らにガツンと言いたいんじゃが?」

ゾス・サイラさんのこの上ない正論が打ち返されてくる。

くぅ、これこれ。

人魚国に来てからずっと求めていたもの。

ゾス・サイラさんは呆れ切った視線を周囲に向けて……。

「ふむふむ、なるほどのう……」

そしてすべてを察した。

さすがに宰相を務めるだけあって洞察力と理解力が高い。

「まずパッファよ」

「お、おう!?」

ゾス・サイラさんからの呼びかけにビクッとするパッファおばさん。

「大方いつものように縁結び世話焼き癖を発揮したんじゃろうが、先方に伺いは立てているのか? アレでも一応は王族じゃぞ、それに加えて聖者一家じゃが」

「お、おう、そうだな……!?」

「こういうのは筋を通しておかんと後々厄介事になるものじゃ。ましてプラティとお前はすぐくだらんことでケンカし始めるんじゃからなおさら慎重さが必要じゃろう」

「は、はい」

「まずはプラティに一言通せ。何をするにしてもまずそこからじゃぞ」

「はい……!」

パッファばさんをやり込めた。

すげぇ……これが人魚界の良識、良心、良俗の三良。

「シーラ姉さまも、こじれているとあからさまにわかっていたら窘めてくれないと困りますぞ?」

「あらあら、でもジュニアちゃんとグッピーちゃんが結ばれたら素敵じゃない?」

「それも最終的には本人の決断次第ですし、国の損益が絡むことだからこそノリと勢いでは進められませんでしょう」

「でも、素敵なことでしょう?」

「うぐぐ……、負けませんぞ。わらわだってこの十年で鍛えられたんじゃ」

シーラおばあちゃんに対しても一歩も引かない!?

凄いぞゾス・サイラさん!

人魚宰相としてこの国を支えている実感がある。

王族がどんなに無茶しても、ノリと勢いとパッション任せで突き進んでも。

ゾス・サイラさんがいる限り、人魚国は安泰だぁ!!

「だから、それをやめぃちゅーとるんじゃあぁああああッッ!!」

あッ、人魚界の良識が吠えた。

「わらわは良識ないの!! かつて『アビスの魔女』と呼ばれ凶悪、混沌、危険の呼び名をほしいままにした人魚史上最悪の凶悪犯だったんじゃぞ!!」

「またまたぁ」

「マジじゃって!」

ゾス・サイラさん涙目で語る。

「それが……なんか気づいたら直弟子が人魚王妃になっとるし、その縁か何か知らんが、いつの間にやら宰相の地位に就けられているし……それからウン十年、辞めたい辞めたいと言ってもまったく辞めさせてもらえないし……!」

どこかで聞いたような嘆きが聞こえてくる。

「わらわだってなあ、好きで良識ぶってんじゃないんじゃよ! 本当はワルぶりたいの! 危険な実験やらかして周囲からドン引き恐れられたいの! でも他の連中がガチでヤバいことしくさるから制御役に回らざるをえんのではないか! こんなわらわに誰がした!?」

「いつも助かってるわゾスちゃん」

「アンタだったか!!」

ゾス・サイラさん心の叫び。

彼女の主張は真っ当なもので、実際に昔のゾス・サイラさんはそれこそ魔女として恐れられたという。

『アビスの魔女』と言えば著名な魔女の中でもっとも古株。その分逸話や凶行は他の魔女よりも多い。

禁断のホムンクルス制作に没頭するマッドサイエンティストとしても知られ、彼女を放置すれば世界滅亡もあり得ると指名手配されていた時期もあったとか。

そんなガチ犯罪者がいまや宰相の地位に就くなんて、どんなミラクルがあったら起こりえるのかと思うけれど。

……うん、きっと噂に尾ひれがついたんだな。

言うほど悪いこともしていなくて、だからこそ体制側に用いられたんだろう。

「違うんじゃよぉおおおおおッ!! わらわは本当に極悪人で通っていたんじゃよぉおおおおッッ! 誰か信じておくれええええええッ!!」

泣きはらすゾス・サイラさん。

ええ、僕は信じていますよ。

アナタが優秀で善良な宰相であるということを。

……誰よりも深く固く信じていますよ!!