軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1407 ジュニアの冒険:地獄観光ツアー

ハーデス城に入ってしばらくの間、僕は冥界の神々の紹介を受けていた。

『死の神タナトスです。卍解します』

するな。

『ええー、でも死神なら卍解するだろって散々言われるんだよなー。だから一発芸として修得したんだけど……』

キャラ性に迷走入っている神や……。

『眠りの神ヒュプノスです。私を無視する者ほど死に近くなります』

やたらと何かに強火の神もいた。

『誰もが徹夜自慢したがるものですがね。それって寿命の前借りに過ぎないんですよ。徹夜がいかに健康を害し、人生に深い亀裂を残す行為であるか。漫画家の早世ぶりを見ればよくわかることでしょう。徹夜ダメ、絶対!』

はあ……。

『むしろアレです。睡眠を娯楽だと思うです。人間の三大欲求っていうでしょう。性も娯楽、食も娯楽、ならば眠りも娯楽になりえる。思い出してみなさい、冬の日の暖かい布団にくるまって眠る心地よさ、アレに勝る快楽が他にどれだけあることか。誰もが当たり前に味わえる至高の快楽に、現代人は無頓着すぎるのです』

現代人って何?

『それでなくとも眠りに関しては敷布団掛布団毛布枕……寝具に関しては様々な研究作成が行われて一つの文化。それ以外にも眠りの質を高めるためのリラックスミュージックや、また嗅覚にも訴えかけるアロマもあります。この場合オススメされるのはリラックスを促すラベンダーやカモミール等が本命ですね』

はあ……。

『やはり実感が湧きませんか? そうですよね若い頃は横になって目を瞑れば勝手に寝られるものですよね。さっきの三大欲求の話に当てはめれば、若ければ油ものだっていくらでも食える、一日に何回でもオナニーできる……といったところでしょうか?』

おなッ……!?

何を言いだす……!?

『しかし違うのです。若さの勢いで押し切れることも、年を取るごとに難しくなっていくのです。眠りも同様、加齢と共に生体リズムを統括し続けるのも難しくなりますし、何より長く生きれるほど人は多くの不安を抱えるもの。年金? 考えない方がいいですよ、絶対眠れなくなります』

だからなんでこんなに眠りに対して強火なの!?

眠りの神だからか!?

でもこんなに強火で推していたらそれこそ眠れなくなるんでは!?

『だからこそ眠りにも創意工夫が必要なのです。眠りに対して真剣に考え、あれこれと案を出す。それが文化へと繋がっていくのです。眠りは文化タカラ』

……おいッ!

『たとえばそう、上質な眠りを得られるのは冬や春の間だけだと思っていませんか? 夏などは暑苦しくて寝苦しいですよね。そんな時に活躍する安眠……いや快眠グッズがあるのです。それこそ冷感式パッド! こちらを日頃愛用の布団の上にかけるとあら不思議! ひんやりと冷たい感じが全身に広がり快適。でも体温ですぐ暑くなるだろうって? いいえ扇風機の風でも充分に冷やされますので寝返りを打っていれば永続的に冷たさを体感できるのも可能! 真夏の夜の眠りに是非とも冷感敷パッドを……』

『おーい、聖者の息子よ、待ったー?』

ハデス神がやっと来た!!

助けて!

このままでは僕、勧められるがままに快眠グッズを買わされる!

『ヒュプノスめまた、また快眠グッズをゴリ押ししておったのか? コイツのお陰で余も何個枕を買わされたことか……。タナトスお前がちゃんと止めておかないとダメだろう』

『卍解!』

ハデス神の表情に『こりゃダメだな』という感じがありあり浮かんだ。

『すまぬな、退屈させないようにと歓待役を用意したがそれが却って窮地に追い込んでしまうとは。ヒュプノスのヤツ今日はやけに意気込んで……、どこかで誰かの徹夜自慢でも聞いたかな?』

いえ……。

僕も現世に帰ったら枕新調しようかと思います。

それでハデス神。

僕をこんな修羅場に放り込んでくれた意図は?

まさかこれもあの世の責め苦の一種なんですか?

徹夜罪?

『いや、フツーに余の手が塞がっていたので代わりにホスト役を頼んだのだが。……徹夜罪、目下の者に徹夜を強いる罪……行けそうだな……』

何事かブツブツ呟くハデス神。

『ああ、今はそんなことよりも聖者の息子よ。ぬしのために案内人を用意していたのだ』

案内人?

『いかにも、これから冥界を探索するのにガイドがいるといないとではだいぶ違うからな。前にも冥界ツアー企画があったのだが、一度の通しで停滞してしまったのだ。その時のガイド役に声をかけてみた』

ほほう?

というかやっぱり僕今から冥界探索に出かける運命になったんですか?

『ちょうど手が空いていたようですぐ来てくれることになった。もう少しで到着するだろうからザクロでも食べて待っているといい』

さりげなくヨモツヘグイトラップを仕掛けるな。

『では、待っている間、また私のイチオシ快眠グッズ紹介を! イビキに悩んではいませんか!? 自室で眠る分にはいいけれど旅行などで相部屋となると引け目を感じる、ありませんか!?』

『「もういいッ!!』」

隙あらば快眠グッズを押し込んでくるな!

あと僕はイビキしないから! してないよな……多分!!

こうしてヒュプノス神と眠気も吹っ飛ぶハイテンションバトルを繰り広げていたところへ……。

『すみません遅れましたぁーーッ!!』

誰かが滑り込むで突入してきた。

『お、来た来た案内人が』

彼が案内人?

僕をこの眠り推し地獄から救い出してくれる?

『このたびは御用命いただきありがとうございます。冥界観光ツアー名誉案内人を襲名しておりますウェルギリウスともうします!』

ウェルギリウスさん?

って、どなた?

『生前はどっかで詩人をしてたんだけれど、冥界の観光企画が立ち上がった時にガイド役として立候補してもらったのだ。あの時は企画が流れてしまったが、その時の経験を活かしてもらおうと呼ばせてもらった』

『冥府の神よ! こちらこそ再び呼んでいただけて光栄の極みです!! いただいたチャンスを今度こそモノにしてみせます!!』

なんでそんなにモチベ高いんだ?

『では頼むぞウェルちゃんよ。冥界のよさを余すことなく、この聖者の息子に伝えてくれ』

『御意!!』

『では余は通常業務に戻るから。聖者の息子よ、満足するまで見終えたら再びハーデス城に戻ってくるがよい。その頃には現世に帰還する準備を整えておこう』

あッ、ありがとうございます!

大変助かります!

『タナトスとヒュプノスも通常業務に戻るがいい。……もう寝具のオススメはするな。余の寝室、女児のぬいぐるみぐらいに枕で溢れかえってるんだから』

こうして僕の身はハデス神から、このウェルギリウスさんとやらに委ねられた。

……。

やはり緊張が強まるな。

なんやかんやいってハデス神は顔馴染みなので安心感が保てたが、この人とは完全初対面。

どんな人かもわからない中で一対一にされるのは緊張感上がるって。

僕、人見知りするタチなんだけど。

社交性SSで陰キャの皮を被った陽キャこと弟ノリトと一緒にしないでいただきたい。

『あの……冥界は初めてですか、ハハハハ……』

そうですね、初めてですね。

かなり多くの人間が初冥界で訪れることになると思いますが。

僕は数少ない『冥界? 二回目です?』と言う予定ができた人間です。

「……」

『…………』

会話が尽きた。

初対面だとこういう事態に陥りかねないから怖いんだよ!!

『すみません、こういうことも慣れていないものですから会話デッキというものも構築できていなくて……!』

はあ、でも経験者でいらっしゃるのですよね?

『それも一度だけですから。昔一度だけ冥界観光企画が持ち上がって、テストケースで招待された人が、私のことを熱烈にご指名してくださったんですよ。それで私が案内役に抜擢されたという経緯がありまして』

そんな感じで決まるんだ案内役……。

というか御指名制?

「でも一回だけしか開かれなかったんですか? なんで?」

『それはもちろん……』

その一回目が不調に終わったからか。

『そのテストケースに呼ばれたお客様が……夭折した初恋の君に執着して、冥界中を探し回って結局ガイドになりませんで』

テストケースに問題あるお客様を引いてしまったわけか。

『ましてや現世戻りしたあと、こちらでの体験を書にしたためてベストセラーにしてくださったお陰で、それを呼んだ人たちが「実際行かなくても、これ読めばいんじゃね」となり、冥界ツアーの採算も取れなくなり……!!』

あえなくお蔵入りと……。

やっぱ大変だな、最初のお客さん選び。

僕も何が機会で同じような立場になるかわからないし、この経験を深く刻んでおこう。

『というわけでアナタ様が、失われた希望の光が再び灯るかもしれない千載一遇のチャンスなんです!! 全力でご案内いたしますので、是非とも終了後のアンケートにお答えください!!』

向こうの必死が伝わってきた。

何故か終始謎の緊張を強いられる冥界ツアーだった。

『あ、あと念のための確認なんですが……』

はい?

『幼い頃に死に別れた幼馴染とか初恋の人とかいませんよね?』

……。

……大丈夫です、いません!