軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1406 ジュニアの冒険:誰もが死んだら行く世界

僕ジュニア。

竜の国から帰還するつもりで、今度はまたとんでもない別世界に足を踏み入れてしまった。

僕の目の前には冥神ハデス。

大地の支配者にして、すべての魂の行く末を管理する神でもある。

死後の世界……冥界を棲み処として暮らす神でもあり、自然をまっとうして肉体から離れた魂たちと在所を同じくする。

それが冥神ハデスなのであった。

そんなハデス神と遭遇したってことは……。

……ここが冥界!?

という明快な答え!?

「いやぁああああああああああッッ!?」

死んだのッ!? 死んだの僕ッ!?

冥界にいるってことはそういうことじゃん!

嫌だ! 僕にはまだ現世でやらなきゃいけないことが山のようにあるんだい!

そんなおちおちと死んでいられるものですかって!

死にたくない!

死にたくない!

『おおお、落ち着きなさい聖者の息子よ。……しかしここに来てすぐの魂は大体そんなものであるが』

そんなプロの落ち着いた視線やめて!

ドラゴンの異空間から真っ逆さまに落ちて、死と直結なんて聞いてないよ!

ダイレクトダンクシュートじゃんコレ!

『竜の国から? ううむ……!』

冥神ハデスは、こちらをまじまじと見て……。

『まず言うが聖者の息子よ、ぬしはまだ死んではおらぬぞ』

へッ?

『ぬしはまだ肉体を伴っているではないか。すべての魂は冥界の門をくぐる時肉体を脱ぎ捨ててくるものだ。それこそが生者と死者のもっとも明快な違いだ』

冥界だけに!

たしかに僕のこの若々しいボディは健在だけれども……?

『ぬしの言っていた竜の国って……アレだろう? 若い皇帝竜が新たに作り出した異空間だろう。アレ、基本的に我らが神界と同じものなんだよな』

マジで?

さすがドラゴン、神と同列とは。

『そのせいで適当に作ってると互いの世界が干渉して繋がってしまうことがままあるのだ。今回ぬしは偶然その穴に入ってしまったんだろうな。まったく当代の皇帝竜はやる気に満ち溢れているのはいいが、所々仕事が雑だ』

そうは言ってやらないで……。

アードヘッグさんは良心的なので……。

『まあ、結果的に我が領域へ来てしまったのなら全力で歓迎しようではないか。ぬしは先ごろ天界でも見かけたな。天界神どもの招待に応じたからといって、我ら冥界神の下にまで挨拶に訪れるとは律儀なものよ』

それらすべてにおいて不可抗力と言いますか。

『天界神よりショボい歓迎となれば、我ら冥界神の名折れ。冥神ハデスの名に懸けて、死者の世界を心行くまで堪能してもらおうではないか! 古来冥界にはこのような標語がある……罪に合わせておもてなし!』

『かわいがり』と極めて似通ったニュアンスのおもてなしよな。

それよりも僕は一刻も早く現世に帰りたいんですけれども。

生者として冥界に居続けるなんてことが極めてデンジャラスだし、それに神の世界に居続けることの危うさは天界で実感してきている。

そんな僕の不安焦燥を知ってか知らずか、ハデス神のテンションは爆上がり。

『さあ、見るがいい! あの世すべての魂を統括管理する冥界を!』

!?

僕の身体が意図せずフワリと浮かび上がる。

ハデス神の仕業か!?

僕と共にハデス神もまた地表からぐんぐん離れて、遠き高みからこの世界を見下ろす。

すべての死者が、死んだらやってくるべき場所。

誰もその運命から逃れることはできない。

生前、その振る舞いによって死後の扱いが決まり、どんな権力者もどんな富者も決定から抗うことはできない。

まさに生き様の善し悪しだけが己の価値を決める。

それが冥界。

「うわぁ……!」

高いところに浮かせてもらって、俯瞰で眺めるだけでもわかる世界の異様さ。

罪ある死者を責め立てるための血の池、針山、まだまだ色々……。

……あれ、でもそっちの方に死者あんまりいなくね?

『時勢なのか最近、地獄系の利用者が少なくてのう。地上では戦争がなくなったとのことだし、全体的に見ればいいことなのだが』

やはり戦乱が、世に悪をもたらすのか……?

『だからこの頃は、地獄系の利用者を増やすための試作を、他の冥界神たちとも話し合っているところなのだ。聖者の息子もあとで会議に参加してはもらえないか?』

嫌ですよそんな商業戦略みたいな地獄!

っていうか地獄系があるのなら、天国系はどちらに?

『この冥界の中にあるぞ』

それは意外。

天国ってイメージ的に展開にあるのかな、と思っていた。

『天界神の連中が、そんな殊勝なことするわけないだろう。自分たちの領域に、自分たちより下等と見下す人類を迎え入れるとか。そう言いつつも、神の血が混じった英雄辺りはちゃっかり取り込んでいるところが腹立つ』

た、たしかに……!?

そっちの方がよっぽど解釈一致だった。

では天国もこの冥界の中にあるのか、でもこうして俯瞰してもそれっぽい領域が見つからないが?

『目立たぬからな』

目立たないのか。

『いつの世もどこでもそういうものだ。好事は門を出でず悪事は千里を走る。ダンテも嘆いておった「地獄篇しか読まれねえ」と……』

誰?

『さて俯瞰はもう堪能したので一旦戻るとするか。聖者の息子よ、観光地に来た時はまず一番高いところに登ってみるとよいぞ。全景を見渡せば、その土地にきた実感を味わえるしこれから回るところも把握できるからな』

冥界って観光地なの!?

僕は流されるままに冥神ハデスに連れられて、巨大な人工物のある所へとやってきた。

あの大きな建物は……?

『ハーデス城だ』

ハーデス城!?

もっと他にありませんでしたか!?

『冥界における我が居城だ。我が愛しき妻よ、通常業務の見回りより今、帰ったぞ』

といって門前にフワリと降り立つ冥界神。

すると城の奥からしずしずと現れる、女神と見紛う美貌の女性。

……いや実際に女神だった。

ハデス神の奥さん、大地の豊穣を司る女神デメテルセポネさんであった。

『お帰りなさいアナタ。……あら、随分と珍しいらしい拾いものね』

僕に真っ直ぐ視線を向けて言い放った。

さすが神、何か告げてくる時のストレートっぷりがハンパではない。

しかし僕のこと犬猫みたいに認識するのやめていただけませんかね?

『あら心外、犬ちゃん猫ちゃんの方がもっと可愛いわよ』

炎の正論ドストレート!

そうですね、成人男子が犬猫より可愛かったら大問題ですよね!

『境遇は捨て犬捨て猫とそう変わらんぞ。この者、肉体もつ身でありながら冥界に迷い込んできてしまってな。余がこの世界の主として保護してまいったというわけだ』

ハデスさんホント頼りになります。

『世界の間に穴開けおったドラゴンにはあとでクレームを入れておくとして。せっかく冥界に来てもらったのだから一通り堪能して帰ってもらおうと思うのだ』

『あら、それはいい考えですわね。この子の父親の聖者さんにはいつもお世話になっていますから、ここで少しは恩をは返しておきませんと』

父の人徳がこんな神界まで行き渡っているとは。

遠くに来て初めてわかる父の偉大さ。

『ところでジュニアちゃん』

あ、はい?

なんでございませう?

『一応注意しておきますけれど、この世界で出されたものは決して口に入れてはいけませんよ?』

はい、心得ております。

ヨモツヘグイですよね、天界でも仕掛けられて危ういところだったので、さすがにあんな最近のことを綺麗に忘れていたら危機感がなさすぎるな。

『ならよかったわ、何しろウチのヒトはヨモツヘグイをもっとも有効活用した神で有名ですから……』

『うぐッ!?』

デメテルセポネ女神からのなんだか色気のこもった視線を受けてむせ返るハデス神。

『本当にこの神、普段は冷静沈着公正なのにほしいものを手に入れる時だけはなりふりかまわないというかギラギラするというか……まあ今となっては、そういうところも好きなのだけど』

『お前……!』

客人の前でイチャつき始めないでくれませんか。

何のことを言っているのか今いちよくわからないが、旅先での食べ物には気を付けましょうね、ということだけはわかった。