軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1332 ジュニアの冒険:美しき思い出

さて、僕の作品であるが。

エルクさんに続いてお目見えする番になった。

「「こ、これは……!?」」

エルロン宗匠とL4C様、二人の目に映った作品はどのように感じられたのだろうか?

僕が作ったのは、何の変哲もない陶器の皿だ。

それが一番作りやすそうではあったから。

しかし、創意として僕が盛り込んだのは、その皿の表面に描かれた絵にある。

「この絵は……!?」

「はい、カニレンジャーです!!」

さらに精密に描き込まれたのは、僕が幼児の頃に慣れ親しんだ変身ヒーローの絵であった。

それがカニレンジャー。

父さんが、僕を喜ばせるために作り上げた架空のヒーロー。

父さん自身が変身し、その変身システムを実現させるためにカニの精霊と契約までしたという。

思い出してみた。

僕が子どもの頃、何いより美しくカッコいいと感じたのは父さんが演じるこのカニレンジャーだったと。

だからこのカッコいい姿を皿に描きつけることが、美の表現になるのだと感じとったんじゃい。

しかしそれを見て、対戦相手のエルクさんはプククーと笑った。

「何よこれ? こんな子どもが好きそうな絵を描いて、美しさも欠片もないわ。まさしく子どもだましね」

その言葉がグサッと刺さる。

うぅ……頑張って描いただけにツラいな……!

「ねえ、エルロン宗匠もそう思いますでしょう? これに比べたら技術センス両面でも私の方が圧倒的に……!」

「……素晴らしい」

「え?」

エルロン宗匠が僕の皿へ向けて手を伸ばす。

その指先は奮えていた。

「大きな皿一面に描かれるのは子どもたちの夢! これを見た子どもは大喜びするだろう! 食事が一層楽しくなるに違いない!」

「皿に描かれた絵を見たさに食事が進むかもしれんのう。そうなったら母親も大喜びじゃ!」

エルロン宗匠のみならずL4C様までベタ褒めのご様子。

これを見てさすがに僕も心が浮き立つ。

自作を褒められて嬉しくない者がいようか。

「で、ででででででで、でーすが!!」

慌てるエルクさん。

二人の重役が揃って褒めちぎるので対戦者としては心穏やかではいられぬだろう。

「こんなものを見て喜ぶなんて子どもしかいないじゃないですか! 美とはもっと高尚で、優れた者のためにあるものです!!」

「何を言っている?」

エルロン宗匠の声は鋭かった。

「美しいということは、限られた誰かのためだけにあるのではない。老若男女分け隔てなく感じるべきものだ」

「ろうにゃくにゃんにょ!」

L4C様、言えてません。

「それはもちろん、生まれて間もない子どもも同様だ。ご子息の作品はこれから多くのものに触れていく子どもたちの瑞々しい感性を鋭く揺さぶる。ヒーローというのはそれほど刺激が強いからな」

たしかに、ヒーローは刺激強いですよね!

というかエルロン宗匠は、このヒーローをご存じで?

「ああ、聖者様がご子息をあやすために創り出したんだろう。私も農場で働いていたのだから様子は見ていたよ」

さすが農場暮らし。

話が早くて助かる。

ただ一人、思い通りに行かない流れにエルクさんはジリジリする。

「待ってください! その人族の作品がよかったとしても、それはただ奇をてらっただけです! 基本的な技術力なら私の方が……!?」

「何を言っている、ご子息の技術力はかなりのものだぞ」

え? そうです?

「この皿に描きつけられた絵のクオリティを見てもそうだとわかるだろう。まあご子息は幼少の頃から千手観音像とか彫ったり手先の器用さは見せてきたからなあ」

そういやそんなこともあった。

「そんなご子息の描いたものだ。子ども向けだとしても子どもだましではない。それに子どもだましというのであればエルク、お前の方こそではないか?」

「ええええッ!?」

指摘を受けてエルクさん、心底意外そうに叫ぶ。

「それは……いくらなんでもあんまりです! 私はアナタの作品を目指して努力を続けてきたのに!!」

「だからこそだ。結局のところお前の作品は私の模倣に過ぎない。一作品としては価値をつけられないものだ」

「そんな……!?」

「それに比べてご子息の作品は、新たに子どもをターゲットにしたものとして思いもよらぬ新鮮さがあった。私の想像の外からくるものだった。そのアイデアだけでも充分に価値あるものだ」

そこまで認めてくさだるなんて。

なんか僕、天狗になっちゃいそうですよ。

対してエルクさんは、裁定がよほど堪えたのだろう無言のまま立ち尽くしてしまう。

「しかし、両作品は根源のところは同じように思えるがな」

「えッ?」

え?

そうは言いますけれど、エルロン宗匠を完璧にトレースしたエルクさんの技巧作品と、子ども向けヒーロー絵皿が同じものとは……。

「いや似ている。双方とも幼き日の感動が基になって作品を生み出している。何もないカラッポの時期に衝撃を受け、強烈な記憶として残り続ける。誰もがそこから自分のオリジナルを紡ぎ出していくものだ」

僕の場合は、父さんの作ってくれた変身ヒーローを。

エルクさんの場合は、エルロン宗匠の作品を。

それぞれ原体験として作品に投影したっていう意味では、同じものなのかもしれない。

「エルクよ、お前が私に憧れて陶工を目指した動機を否定しない。あらゆる創造は模倣から始まるしな。それに私だって正直、憧れてもらうのは嬉しいことだ」

「宗匠……」

「しかしお前がより高みに進むためには模倣から一歩踏み出さなければいけない。自分の形を生み出すモノは誰でもしてきたことだ。今日の勝負が、その第一歩を踏み出すきっかけになったのなら、それこそが嬉しい」

ものの見事にオリジナルそっくりの作品だったからな。

改めて彼女が贋作乱造しだしたらヤバいな。

「今回もまた、御父上との思い出を作品に込めたご子息の作品は、そこに一工夫が込められていた。そのひと工夫分だけ一歩長じた。それがお前との勝敗を分ける差だ」

「は、はい……!」

「よってこの勝負、ご子息の勝ちとする。エルクよ、これをみずからを見詰め直す材料とせよ」

そう厳しく言うのも、エルクさんがこれから成長することを期待してのこと。

とはいえショック受けていない? 大丈夫?

と僕などは心配してしまうのだった?

「よせ、人族に情けを掛けてもらうなどエルフのプライドが許さん」

おうッ?

そんなこと言われるなんて僕、余程気づかわしげな目で見てた?

「しかし、お前の作品には私も大いに考えさせられた。この経験を糧に私も大いに成長してやる。その点だけは礼を言っておこう人族」

「は、はい……!」

彼女の改心に繋がったんならよかったかな。

それはそれとして……。

「この着想は大いに売れますよL4C様」

エルロン宗匠が僕の作品を見て鼻息荒い。

「子ども向けの商品、これまで目を向けていなかった販路で市場が大いに拡大します」

「たしかに、聖者関係は来訪するたび恵みをもたらすのう。我らにとってはほんに幸福の使者じゃわい」

新たな商機に興奮冷めやらぬようだ。

エルフってこういうところ……たくましい。

「それでは! 子ども向けヒーロー絵皿! 生産ラインを構築しましょう!」

「そうじゃな、予定が空いておる十~十三番の窯を使ってよいぞ! ここでさらなるエルフの存在を見せつけようぞ!!」

あの……そうは言いますが、ヒーロー絵皿作るにしても、何のヒーローを描くんですか?

この世界ヒーロー文化根付いていませんよね?

「そうじゃ……、そうじゃった!」

「まずヒーローを! ヒーローを作るところから! エルフ独自のヒーローを創作しましょう!」

「おう!エルフ戦隊エルフレンジャーじゃな!」

なんか新たな商売が始まった。

異世界でキャラクター商法が始まろうとしている。