作品タイトル不明
1328 ジュニアの冒険:陶芸体験
こうして始まるエルフの森、職人エルロンの異世界一受けたい授業。
……か、どうかはわからないが。
僕はとりあえず、このエルフの森で行われているエルロンさんの活動を見学させてもらうことにした。
「……いま、エルフたちの間では空前の焼き物ブームでな」
と歩きながらの解説をするエルロンさん。
……そのブームって、発端はアナタですよね?
エルフの森の中にはエルフたちが暮らす集落があり、切り拓かれたある程度の敷地の中に軒が並ぶ。
……あと、窯も。
「初期の頃は、焼き物を愛でることから始まった。農場から届けられる作品を見て、買い求めて、傍に置くだけで満足していた」
その作品を作っていたのがエルロンさんですよね。
「しかしそのうちに、『自分でもこのように美しいものを作りたい』という欲が出てきたのだろう。一人、また一人と焼き物に挑戦するエルフが出始めた」
今、遠回しに自画自賛しなかった?
「まあ生活用品としての陶器類はエルフ族全体で作ってはいたが、私が農場で、聖者様発案の下に作ってきた美術品としての焼き物が大いにエルフたちを刺激したということだな」
そのうちに、産業としても大きく利益の出る試みだと誰かがいたのだろう。エルフに森に聡い人がいたものだ。
意欲のある者、才能のある者をかき集めて切磋琢磨させていけば、そのうちから幾人かが大成し、エルロンさんのような巨匠が生まれるかもしれない。
それを期待して焼き物の一門を立ち上げ、その指導者として既に大きな実績を打ち立てているエルロンさんを迎えた。
まさに完全無欠、非の打ちどころのない布陣だ。
「私もこれまで農場で培ってきた技術理念を自分の中にとどめておくのはもったいないと思っていたからな。己が技を後世に遺しつつ、協力を得てより大きな事業に乗り出す話は魅力的だった」
それでエルロンさんは求めに応じてエルフの森に移り住んだ。
農場の美味しいごはんの誘惑を振り切って。
実はあんまり振り切れていないけれど。
「そうしてできたのが、このエルフの職人里だ!」
エルロンさんに案内されてたどり着いた場所には、大きな窯が無数に並んでいた。
もちろん、土で小ネタ闘気を焼くための窯だ。
農場にもエルロンさん手製の窯があったが、それを遥かに上回る規模。
さすがにこれは、僕も圧倒されるしかない。
「エルフ族全面協力で建設された最新施設だ。このために二百の木を伐り倒し人里区画を広げた」
それは……環境破壊なのでは?
「伐採した木は窯にくべる薪として有効活用しているから大丈夫だ! ふはははははははははは!」
大丈夫なんですか? ホントに?
「まあ、真面目な話をすると十年以上前に実施されたエルフの森再生事業で復活した森林区域の方が遥かに広いから問題はない。かつてエルフの森は、人間族の魔法によって衰退し、縮小していた」
それって話に聞く旧法術魔法ですよね。
地脈からマナを吸い取って、著しく衰弱させるという。
「一番ヤバい時期など、エルフの森の総面積がそれこそ今目の前にある陶工設備の敷地程度しかなかった。そんな死にかけた森ではエルフ族すべてを賄いきることなどできず、森を出ることを余儀なくされたエルフも多くいた。そのうちの一人が私だ」
エルロンさんは森を追われたエルフとして人間国や魔国を放浪し、最後に農場へと行きついた。
その当時のエルロンさんたちの境遇について詳細は知らないが、きっと多くの苦労を体験してきたんだろう。
その積み重ねで今のエルロンさんができているんだ。
「もはや死を待つばかりだったエルフの森がここまでの繁栄を取り戻せたのも、聖者様の慈悲によるお陰だ。……とまあ話は逸れたが、何が言いたいかというとそれぐらい広域に復活したエルフの森だから多少切り拓いたとしても問題ないということよ! はーはははははは!」
高笑いするエルロンさん。
今や彼女は、この大規模な陶工施設を牛耳る窯主。
多くの人から傅かれ、尊敬される立ち位置だ。
農場から始まり、地道な努力を重ねてきた結果の成功。
叩き上げの成功者……という呼び名が誰に相応しいか、とするならエルロンさんこそが相応しいだろう。
彼女から学び得ることはたくさんあるはずだ。
それなら農場にいる時から学んでおけよ、という話だったが。
「それで、プラティ様から言付けだが……」
僕も母さんに言われて、旅の途中こちらへ立ち寄ることになった。
母さんは一体、この土地で何をさせようというのか。
「ここでご子息に、陶芸について指導してやれ、とのこと」
えッ?
僕がやるんですか、お皿づくり?
ろくろ回すんですか?
意外。
何故かって言うと、我が故郷農場では父さんは一切そういうことをやっていなかったんだ。
農場では、エルフさんたちは陶工の他に木工、革細工、ガラス細工などの工芸を担っていたが、父さんがそれらに手出しすることはまったくなかった。
初めに方針的な指示を出すことは何度か見かけたことはあったけれど、それだけだ。
だから父さんの後継を目指している僕自身も、そういうことには一切タッチなしだと思っていた。
「プラティ様……お母上のお考えを伝える」
――『ジュニア、アナタは将来王様として、様々な人との関係を結んでいかなければなりません。その時、共通的な美的感覚は会話を円滑にし、人間関係を円満に導く効能を持っているし、何より一般常識としてそなえておいて損はないわ!』
よって。
――『エルロンのこねり出すよくわからないお皿は、今や世界水準の美術品となっているわ。美的センスを養わせるならば彼女以上の適任はいないと言えるでしょう。だからジュニア、彼女の下で高度な審美眼を磨いてくるのよ!』
「……とのことでした」
エルロンさん、母さんの声マネ凄い。
滅茶苦茶よく似ていた。似ていることに驚いて話の内容が入ってこなかったぐらいだ。
ダメじゃん。
「さすがはプラティ様、ご子息の美的センスを磨くのに私をご指名とは見事な人選。その期待に応えて、ご子息を最高の陶工職人に育ててみせましょうぞ!」
そこまでしろとは言ってない。
あくまでセンスを磨くだけでいいですので。
でも母さんの言うことにも一理ある。
これから色んな人と出会って会話していく中で、共通の話題は一つでも多い方がいいからな。
――『エルロンの陶器、いいよね』
――『いい』
こんな会話ぐらいできるようになっておかないと。
そういうわけで先生! ご指導お願いします!!
「先生ではない、宗匠と呼べ」
あッ、ハイ。
そういえばエルロンさんのこと陶工として崇め奉る人たちは、宗匠という呼んでいるけれど。
「それに、農場で先生と呼ばれるお方は一人しかいないだろう?」
あッ、たしかにそうでした。
* * *
「んだば、我が陶工技術のすべてをご子息に叩きこむとしよう!」
そこまでしなくていいです。
あくまでさわりだけ。大まかな把握さえできれば充分ですから。
「工芸は頭で理解するだけでは足りない! やはりもっとも重要なのは手で実際に触って覚えなければ! さわりは触って確かめろってね!」
と、僕の前に出されたのは大きな粘土の塊。
……まさかこれを捏ねて、なんか作れと?
「最初だから条件は付けない! 自分の赴くままに、心を形にしてみろ!」
それ一番困るヤツ。
なんでもいいよっていうのが、結局何作っていいかわからずに途方に暮れるヤツ。
一体どうしたらいいのやら?
闇夜に手探りの感覚で、とりあえず目の前の粘土に触れてみる。
この独特の感触。
もうほんと何していいかわからないからとりあえずこねくり回すか。
握って、握って、伸ばして……。
おお、ますます手のひらに伝わる感触が独特な。
独特過ぎて引き込まれるな。
だんだん集中してきて、他の感覚が失われていく。
世界に僕と土しかないかのようだ。
これが習うより慣れろ、ってことなのか。
そうして無意識にグニグニしていると……。
「おおおおおおおッ!? これはぁあああああッッ!?」
エルロン宗匠の驚きの声で現実に呼び戻された。
あッ、寝てた。
一体何が起きたのかと目の前を見下ろすと、とんでもない事態に。
「はッ、花がぁああああッッ!?」
何と、僕のこねていた粘土から無数の茎が伸び出て、その先に花が咲いているではないかッ!?
無数の花、百花繚乱!?
なんで粘土から花がッ!?
はッ、これはもしや……。
『究極の担い手』の効果かッ!?