作品タイトル不明
1327 ジュニアの冒険:おいでよエルフの森
うるぶぁあああああああああッッ!?
僕ジュニア!
死ぬかと思った!
神々め、人のこと天空の高さから落としやがって。
普通死ぬよ!
落下による加速と地面との激突で、ヒキガエルのようにひしゃげて凄惨な死を迎えるよ!
本当に危なかった。
僕が『究極の担い手』で空気を掴み、中空にとどまる能力を獲得していなかったら、本当にはらわたぶちまけて地面にべったり張り付くところだった。
ゆるさんぞ天空の神々よ!
……まあ、向こうも神様なんだし、僕にそこまでの能力があることを承知の上で暴挙に出たんだろうけれども……。
もし承知じゃなかったんなら絶対許さん。
でもまあ、やっとこさ山から下りて地上に戻ってこれたわけで。
終わってみると長い道のりだったな。
魔族のゴティア王子からの依頼を受けて一緒に不死山へ上り……。
そのあとにブラり寄り道ぐらいのテンションでオリュンポス山に登ったら、とんでもない目に遭って……。
とにかく一生分ぐらいの山の難を遭遇した気がする。
これを“遭難”といっていいぐらいだ。そうなんですか。
「とにかくもうしばらく山はいいかな」
という気分になった僕。
* * *
さて、したらば次はどこへ行こうか?
このまま人間国の冒険者ギルドに戻ってもいいんだけれど、それじゃあ芸がないなと思う自分もいる。
正直、人間国でやれることはもうやり尽くしたという手応えはあるんだ。
それでも人間国でお世話になった方々に挨拶の一つもしておいた方がいいだろうが。
その前に一つ、またしても寄り道の先が一つ浮かんだ。
「ではそこへ行ってみるか」
思い立ったら即行動。
それが僕のポリシー、基本方針。
僕もだいぶ気ままな諸国漫遊しているよな。
不死山で飛行能力を獲得して、あちこちへの移動が気軽になったというのもある。
そして僕がギュィイイイイイイイーーンと飛んで向かった先は……。
またしても自然豊かな場所だった。
* * *
エルフの森。
エルフたちの住む森だ。
まんまだ。
深く広く、どこまでも続く深緑地帯。
ここは森の守護者エルフたちが住まう聖域だ。
エルフは、人魔人魚から成る三大種族のどれにも属さない、いわゆる小種族と呼ばれる分類だ。
この世界にはそうした枝分かれの種族が多数存在している。
そんな中でもエルフはけっこう名の知れた存在だ。
それは、森の支配者とまで呼ばれるほどの影響力によるもの。
エルフ独特の能力や術式、生活様式などが多くの他種族にまで知れわたっているからだろう。
そんなエルフの一人とも、僕は親交がある。
正確には僕の父さんとの親交であるが。
今のところ僕の人間関係は大抵父さんと母さんを通してなんだよな。
それではいけない。
いずれ父さんのすべてを引き継ぐさだめにあればこそ、受け継ぐ者をしっかり支える足腰を担えるように自身の人間関係をしっかり構築していかねば……!
と内省はそこそこにして、ここエルフの森で僕が会うべき人も、もちろんエルフだった。
かつて農場で暮らしていたエルフの一人、エルロンさん。
「おおご子息! しばらく見ないうちにまた大きくなったな!」
親戚のおばさんみたいなことを言ってくる、溌溂とした女性。
……すみません。
おばさんじゃなくてお姉さんでした!
「よしよし、女性の扱いに慣れておかないとお父上のようにはなれないぞ?」
エルロンさんは、かつて農場で暮らしていたエルフ。
どんな経緯で農場に住み着いたのかは知らないが、複数人いる農場エルフを率いる部署リーダー的立場にいた。
エルロンさんは、農場エルフの代表格だ。
さらにエルロンさんは、もう一つ農場において彼女以外には務まらない重要な役割があった。
それが陶器作り。
食事や、その他の日常作業で絶対に欠かせない皿や器、壺や甕や他諸々などの作製をこのエルロンさんが一気に引き受けていた。
かつて農場の工房で、エルロンさんが汗だくになりながら土をこね、出来上がった作品を窯にくべて焼き上げる様を、幼い僕は彼女の背中越しに見てきたのだった。
ある意味父さんより父さんらしい背中であった。
そんなエルロンさんは今、農場から離れてこのエルフの森に住み暮らしている。
一体何故?
エルロンさんと農場で袂を分かつ経緯でもあったのか?
というとそんなこともなく……。
「エルフの森での技術指導はどうですか?」
「ぼちぼちと言ったところだな。劇的な進歩もなければ停滞しているということもない。一歩一歩、着実に、だ」
エルロンさんはそう言いつつも日々充実していそうな精悍な笑みを浮かべた。
「技術の進歩とはそういうものだ。急がず弛まずに一つ一つ積み上げていかないと意味がないのさ。そのために私は、農場から離れてまで腰を据えて、ここで指導に当たっているんだからな」
当人の言う通り。
エルロンさんは、その器作りの技術の高さを買われて後進育成のためにエルフの里に迎えられたのだった。
エルロンさんの作る陶器の器は……、何ぞや?
芸術的価値がてんこ盛りとかで、好事家の間で大人気の品なんだとか。
モノによっては大金を払ってでも手に入れたいという人もいるそうで、エルロンさんの手掛けた作品に、天文学的な値段がつくことも珍しくないそうな。
……僕にはよくわからない世界だ。
そんなエルロンさんの技術を、同族であるエルフたちも高く評価しているそうで是非とも種族全体に浸透させたい……。
そんな理由でエルロンさんは長年住み慣れた農場を離れ、同族の多く住むエルフの森へと移住したんだって。
ここ数年前の出来事だ。
当時はエルロンさんも相当葛藤していたのが、僕の目からも見て取れた。
それぐらい農場のことを愛していたんだなと思うと僕も胸が熱くなる。
「ああ……、私も農場を離れる時は身が引き裂かれるような思いだった。いっそこの体を二つに分けて、農場と森二つに置けたらどれほどよいかと……!」
エルロンさんの苦悩が伝わってくる。
そんなにも農場を愛して……。
「聖者様の料理が食べられなくなるのが、どれほど辛いか……!! ハンバーグ、カレー、ローストビーフ……スパゲティ、ピザ……!!」
あ、違った。
ただの食欲だ。
この人、ただ単に父さんの作る美味しい料理が食べたいだけだった。
「しかし! ご子息が来てくれたからには今日は宴だな! ご子息も聖者様と同じぐらい料理が上手なんだから! 飛び切り美味いハンバーグを頼むぞ!!」
いや……。
僕、別にご飯を作りに来たわけじゃないんですが。
しかしエルロンさんは完全に僕のことをごはんづくりの使者と捉えていて他に余念がない。
メニューまで指摘しているし。
そもそもアナタは、こっちに腰を据えながらも数日に一回は農場でご飯食べてるじゃないですか。
本当に便利だよね転移魔法。
「ご子息がこっちに訪ねてくることはあらかじめ伝わっていたから待ち遠しかったぞ! 待てど暮らせどなかなか来なくてどこに寄り道してたんだ?」
不死山とか天界ですかね。
あと、その知らせを受けたのも農場にごはん食べに行った時のことでしょう?
このエルフの森に、旅の途中立ち寄るように言いつかったのは母さんからだ。
母さん曰く、この土地でとても大切なことを学べるんだとかなんとか。
「なるほど、ご子息も聖者様のあとを継がなければと色々大変だろうからなあ。私も農場に世話になった身……というか農場と関わらなかったらロクな最期を遂げてなかったであろうことは確実!」
そこまで?
「農場から受けた恩返しのためにも、私から教えられることは全力でご子息にインプットしよう! どうせここでやることも大して変わりはしないんだからな」
そうですよね、エルフの焼き物を一手に指導する窯長。
さあ、ここから僕の旅、エルフの森編の開幕だ。