作品タイトル不明
1325 ジュニアの冒険:『究極』の選択2
もう一つの試練?
ヘパイストス神からの?
この期に及んで一体何を? ここまでですらもうお腹パンパンぐらいの心持ちなんですけども?
『……神は、一人にさらなるものを与えてはならない』
はい?
『神々がみずからに課したルールなんだな』
『要は、神は人間に対していくつも施しをしてはいけないってことだね。スキルやギフトもその対象に入るから今まで複数のスキルを持つ勇者は一人もいなかったということになる』
ヘルメス神が補足を加える。
『かつて今よりも野放図だった時代。神々が後先考えず一人の人間に大量の力を与えてね。その結果一人で天地を覆すほどの力を持った人間が生まれて世界のバランスも大いに狂った』
その時の教訓として『与えていい力は一人一つだけ』というルールが設けられたってことか。
そう制限しておけば、たしかにバケモノ級の力を持った人間は生まれなくなる。
少なくとも神によって作り出されることはない。
『一度与えたものを取り上げてはならない』というのも、同じ理由から補助的に加えられたルールなのだろう。
どちらにしろ神が人に、気軽に干渉することを戒めたのだ。
『ボクは聖者くんに「至高の担い手」を贈ったんだな。それは明らかに神から人への贈り物。ゆえに今言ったルーツがガッツリ適応されるんだな』
ヘパイストス神は、一度与えた『至高の担い手』を父さんから取り上げることはできない。
それにヘパイストス神も他の神々も、父さんに何か与えることもできない。
もう既にたった一回の、いわばプレゼント権というものを使ってしまっているんだから。
『でもジュニアくん、キミは違うんだな』
ヘパイストス神は、緩い口調で鋭く言った。
『さっきも言った通り「究極の担い手」はイレギュラーで聖者くんから遺伝された能力なんだな。従って神の贈り物には当たらない。よって今言った二つのルールもまったく適用されない』
それが意味するところは二つ。
まず一つは『与えたものを取り上げてはならない』ルール適用外から僕の『究極の担い手』は、ヘパイストス神によって没収することができるということ。
それは先ほど話し合って見送りしてもらった。
そしてもう一つ。
『神はさらなるものを人に与えてはならない』というルールも適用外だとすれば。
『そう、神はキミに贈り物をすることができるんだジュニアくん』
ヘルメス神に言われた。
『そしてそれは恐るべきことだ。キミは既に「究極の担い手」という最強無二のギフトを得ている。その上でさらに神の何らかの加護を得ることができれば……キミは宇宙を支配できるようになるかもしれない』
宇宙って?
『能力の組み合わせによるだろうけどジュニアくん、キミは覚えていないだろうが以前もそういうことはあったんだよ。キミが生まれてすぐのことだ』
たしかにそんな頃なら僕の記憶に残っているはずもなく。
『キミの出生祝いと銘打って、多くの神がキミに贈り物をしようと押し掛けたんだよ。神々が上げた品目は壮観だったなあ。不老不死とか、最強無敵の肉体とか』
んがっふ。
お題目からしてチートじゃないですか。
そんなものをプレゼントにするなんて神に自制心はないのか?
『神々のルールに則ればキミに贈り物ができる機会は一度だけ。したがってキミにプレゼントを贈る栄誉を得られるのは一神だけということになる。自分が選ばれるためにも必死で、加減なんてしていられなかったんだろう』
何故そこまで必死に!?
『父親である聖者くんに気に入られたかったから』
そこでまた父さんが出てくるのか。
父さんと親交を深められれば、特別に信仰する神としてお供え物のたくさん貰えるかもしれないってこと?
お供え物とはもちろん父さんの作った美味しい料理。
それをいただくために世界へ与える影響も顧みずに超高級プレゼント勝負。
元から父さんの料理は食べられるというのに、欲深い神々よ。
『それらのプレゼント攻勢はもちろん聖者くんが軒並み却下していったからね。いや、彼が良識的でホントによかったよ』
『でもそれは、ジュニアくんがまだ物言わぬ赤ちゃんだったからこそできたんだな。幼いうちは、子どもの代わりに親が判断することも当然だな。でも今は違うんだな』
意味ありげに言うヘパイストス神。
それはつまり……。
『ジュニアくんは今や立派な大人、自分で考えられるし自分で判断できるんだな。自分へ贈られるプレゼントを受け取るか拒否するか、そんなのいちいち親に確認取る必要もないんだな』
『良識ある聖者くんの判断なら我々も安心できた。しかしこれからはジュニアくん、キミの判断にも注意していかなければならない。キミに父親の能力だけでなく、良識も受け継がれていると期待させてほしいのだよ』
僕の良識が問われる状況が早速、今ってことか。
さっきの神々の、僕への歓迎ぶり。
僕と親交を結ぶためにプレゼント攻勢に出ると容易に想像がつく。
僕が生まれたばかりの頃に巻き起こったという出生祝い合戦と同じように。
当時のラインナップは神話級の逸品ばかり。
それをすべて断ってくれたのは父さんだった、今度は僕がしなけばならない……?
断るかどうかを、いや受け取るかどうかの判断を?
『たとえばキミが神から不老不死を受け取ったら、「究極の担い手」であらゆる事物を自在に操る王者が、永遠に地上に君臨することになるんだな。それがこの世界にとって、健全な状態とは言い難いんだな』
そこで……。
と言ってヘパイストス神、僕の前のゴトリと何かを置いた。
これは何? 輪っか?
『腕輪なんだな。何の変哲もない、呪いも祝福も付加されていない何の力もない腕輪なんだな。ジュニアくん……』
「はい?」
『これをキミに上げるんだな』
言われて一瞬どういうことかわからなかったけれど、すぐに理解が追いついた。
そう言うことか。
『何であれヘパイストス兄さんから貰ったものは神の贈り物。神々のルールが適用される。これを受け取ったが最後、キミはあらゆる神々からの贈り物を一つたりとも受け取れなくなるだろう』
なるほど。
一人一度のプレゼント権を無駄撃ちするってことか。
この何の変哲もない腕輪を受け取ればそれだけで、少なくとも『不老不死+究極の担い手』などという凶悪コンボは誕生しなくなる。
『しかしヘパイストス兄さん、これホントに何の効果もないの?』
『造形神ヘパイストスが渾身の力を込めて作った無能力装備なんだな。何の力も込めずに作るの却って大変だったんだな』
僕がここで腕輪を受け取れば、ヘパイストス神も安心してくれるだろう。
僕自身もこの先変なものを神から押し付けられずに済む。リスクは回避できるのではないか。
『よく考えて決断した方がいいよジュニアくん』
ヘルメス神がアドバイスしてくる。
『なんか突然降りかかってくる災い扱いだけれど、神からの贈り物というのは本来有難いもののはずなんだ。神だって人への善意から施しをする……はず……だと思いたい……!』
自信がなくなってきてますよ。
『もしかしたらこの先、キミでも持て余すような災禍が現れることもあるかもしれない。全世界全人類を巻き込むような。そんなものと立ち向かう時、神からの助けがあれば一発逆転の切り札になるかもしれない』
「そのための権利を、残しておけと?」
『私はヘパイストス兄さんほど悲観的ではないよ。キミの良識も、神々の善意も、きっときちんとしている……たらいいなあと……祈りたい』
だから尻すぼみになるのやめてくれませんか。
ヘルメス神の言うことももっともだ。
僕だって自分自身が悪人であるつもりはない。私利私欲のために不老不死になったり世界征服する気もないし、他にそんなことをしようとするヤツが現れたら全力で阻止するだろう。
だったらヘパイストス神が示した安全策は突っぱねるべきか?
そして、予想だにしない危機的状況が起きた時のために、たった一度の権利を温存すべきか?
熟考ののち、答えは出た。
「……受け取ります」
僕は、ヘパイストス神の差し出した、何の変哲もない腕輪を手に取った。
『一応、決断に伴う考えを聞かせてもらおうかな?』
「ヘルメス神の言うことも間違いではないと思います。いつだって災難への備えは必要です。でも人の世界で起きた災いには、人の力で対処すべきです。自分たちで何もしないまま神を頼るのはなんか違うと思うんです」
いつでも真っ先に神を当てにするようでは、人間はいつまでたっても神の支配から抜け出せない。
人は、いかなる状況もまずみずからの力で対処しなくちゃダメなんだ。
自分たちが、誰からの支配されない自由な存在だと示すために。
「それに、もし世界そのものが滅んでしまうような状況になったら、それを防ぐことこそ神の責任でしょう? プレゼント権云々の話より以前に無条件で助けに入るべきです」
『た、たしかに……!?』
だから人間の手に余るような世界の危機なら神様は勝手に助けに来てくれる。
だったらリスク回避だけを念頭において、僕はヘパイストス神からの贈り物を受け取ればいいんだ。
『では、プレゼントフォーユーなんだな』
「有難く受け取ります」
この腕輪は常に身に着けて、大事にしておこう。
自分を戒めるためにも。
『……聖者くんは後継者にも恵まれたようなんだな。彼が「至高の担い手」を得たのもボクが与えたんじゃなくて、彼の縁が引き寄せただけなのかもしれないな』
「そうかもしれません」
父さんから日々教わったことがあるからこそ、僕は今日この決断をすることができた。
父さんから受け継いだのは能力だけじゃない。
そう胸を張って言える日が来るように頑張りたい。
『あ、あとジュニアくんの代になってもおむすびは備えてほしいんだな。ボクはおむすびが大好きです、終わり』
……。
やっぱり神って我欲第一なのかもしれない。